ピエゾ素子／微細制御、加工に不可欠の新技術

マイクロマシンに欠かせない微細動作を、メカニズムによらないで実現させる先端技術、ピエゾ素子。
かつては電子顕微鏡などの光学系が主な用途だったが、現在ではMEMS、微小アクチュエーター、
インクジェットノズルなど、さまざまな分野への利用が拡大中である。

（取材・文／伊藤憲二　総研スタッフ／高橋マサシ）　作成日:04.11.03

　アクチュエーター、センサー、微細加工など、制御技術の世界で今、ピエゾ素子が注目されている。ピエゾとはギリシャ語で「圧力を加える」という意味で、別名「圧電素子」とも呼ばれる。
　ピエゾ素子の原理をひと口で表現すると、物質に電気を流すと形が変化する特性をもつ物質を使用し、スイッチやアクチュエーターなどに使用するというもの。例えばチタン酸バリウムなどの強誘電体材料の結晶に1000000V/mの電界を与えると、全長に対して、0.001程度の歪みが生じる。その変位を利用して弁の開閉、スイッチのオン・オフ、微細加工NCの動力などに使用するのである。

　この原理を利用して、機械的な手法で正確に作動させるのが難しいようなマイクロマシン、ナノマシンなどの作動機構、リアルタイム作動が求められる制御機器、微小質量を検出するためのセンサーなど、ピエゾ素子の応用範囲は想像以上に幅広い。
　既に高品位インクジェットプリンターのバルブ、ディーゼルの低公害化の切り札とされるピエゾ・コモンレールインジェクター、電子顕微鏡、医療光学機器、荷重計などの高精度計測装置など、応用商品も数多く登場している。

　日本は戦後、電子顕微鏡の研究をはじめ、多くの分野でピエゾ素子に関する研究が進められてきており、技術水準は世界トップ。日本の制御技術が世界で注目される、技術的基盤にもなっている。
　ピエゾ素子は今後さらに高度化し、幅広い製品に利用されていくとみられており、将来性も抜群である。ぜひ注目しておきたい分野だ。

　ピエゾ素子は既にコンベンショナルな技術となっているが、一方で精度の向上が常に求められているため、エンジニアのニーズも恒常的にある。ピエゾという言葉は専門的なので、リクナビＮＥＸＴでは圧電、半導体素子、アクチュエーターなどのキーワードで検索すると求人情報を得られる。

　ピエゾそのものの研究開発では、電磁気学、材料系のエンジニアがもっぱら。現在、圧電素子の世界では、性能向上のための新材料の開発が進められており、性能の高さを表す電気機械結合係数（電気と機械との変換能力を示す値）で51％以上が目標となっている。合成による単一素材のほか、コンポジット材料も数多く試され、特許出願合戦も発生している。それだけ将来性が見込まれているのだ。

　材料以外のエンジニアでは、回路設計、振動子など、電界を与えるためのペリフェラルデバイスの知識があると、ピエゾの開発に移行しやすい。薄膜形成など半導体製造技術はピエゾ素子本体の成形技術と共通性があり、同分野の経験者も歓迎されるだろう。
　また、ピエゾ以外のアクチュエーター、センサーなどの開発、MEMS開発の経験者も、機構設計という形でピエゾ開発に携われる可能性は十分にある。その場合は、システム開発経験をアピールすることが採用の近道となるだろう。

　ピエゾ素子の需要は今後さらに高まっていくことが確実視されている。特に3D-CCDカメラなどデジタル光学機器の高速シャッター、微細加工NCなどの工作機器、高解像度プリンターのインクジェットノズル制御、インジェクターやサスペンションのバルブ制御をはじめとする自動車部品分野などだ。
　エンジニアニーズの拡大が予想されるので、業界研究を十分に行いたい。