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次々と新規事業を打ち出す寺田倉庫に学ぶ、レガシー業界で飛躍するためのチャレンジ力とは?

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寺田倉庫は創業66年の歴史ある企業ながら、新しい試みで次々と世間を驚かせている注目の企業。ひと箱毎月250円で倉庫に預けた荷物をクラウド管理できる「minikura(ミニクラ)」のサービスは画期的だ。また、同システムをAPIとして他社に提供することによって実現した「airCloset(エアークローゼット)」や「Sumally(サマリー)」といった、人気サービスを支えている。

レガシー産業である保存保管業を続ける傍らで、ワインをクラウド管理する「CLOUD WINE CELLER」(クラウドワインセラー)、希少性の高い画材を取り揃えた画材ラボ「PIGMENT(ピグモン)」など、新規事業にも果敢にチャレンジする土壌は、どのように作り出されるのだろうか。人事・総務担当執行役員である畑敬子氏に話を聞いた。

ニッチなマーケットでトップシェアを目指す

――歴史ある企業でありながら、ユニークな新規事業でも注目される社風は、どのように培われてきたのでしょうか。

畑:私はまだジョインして1年ほどなので、実際にその場に居たわけではないのですが、現在の社風が醸成されたのは、7年前の変革がきっかけです。当時倉庫業界の中では中堅に位置し、事業を広げながらも踏みとどまっていましたが、大手企業のようなスケールメリットは出せない状況でした。そこで、本来持っているベンチャー精神を取り戻そうと、まずは事業の選択と集中を進めました。

――事業の選択と集中とは、どのような形で進められたのでしょうか。

畑:寺田倉庫は1950年の創業当時は、食糧庁の指定倉庫として米の保管事業に携わっていました。財閥系の企業のように広大な土地を持っていたわけではありませんでしたから、その時その時のニーズに対応し、他企業との差別化を図ってきたんです。1975年にトランクルーム事業をはじめ、1983年にはアナログテープやフィルムなどのメディア保管を開始。ヴィンテージワインが資産としても重要視されるようになればワインセラーを、データ管理の重要性が注目されれば、セキュリティ性の高い専用保管庫での機密文書管理をはじめるなど、常に「工夫」と「挑戦」というものを大事にしてきました。事業としては多岐にわたっているように感じられるかもしれませんが、あくまでその根幹には「保存保管業」があります。その基本に立ち返り、リブランディングすることで、本来あるべき姿に戻ったのです。

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執行役員 人事・総務担当 人事グループ グループリーダー 兼  総務グループ グループリーダー 人財開発室 室長 畑敬子氏

目的からブレなければ、失敗してもいい

――とはいえ、「保存保管業」という基幹事業にとどまらず、新たな事業に次々とチャレンジされているように感じます。なにか共通するものがあるのでしょうか。

畑:「いかに付加価値を創造するか」というのが大きな目的なんです。そこからブレなければ、極端な話「失敗してもいい」と思って始めます。新規事業を始める理由はそれぞれで、ロジックを綿密に組んでやるというよりは、社員がやりたいことが形となり、プロジェクトベースで実行する。スタンスとしては「挑戦」というのが前提です。創業66年を迎えてもベンチャースピリットにあふれ、毎日新しいことに挑戦しつづけているというのが我が社の社風です。

――一度は選択と集中に立ち返りながらも、チャレンジ精神を失わないところに、寺田倉庫のタフさを感じます。

畑:会社の変革を行いながらも、根底にあるものは失われなかったのだと思います。目的を明確にし、身軽さを取り戻したぶん、よりタフになったかもしれません。たとえば2012年からスタートした「minikura」は、倉庫業界の常識からすれば「顧客から預かっている荷物を開封し、一つひとつを撮影して、単品管理できるようにする」なんて、とんでもないアイデアですよね。

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「minikura」は預けたものを単品管理できる「クラウドストレージ」サービス。預けたものを販売したり、ヤフオク!に出品したりできる

スタート当初からその目新しさに注目を浴びたのは確かでしたが、爆発的に顧客が増えるわけではありませんでした。それでAPIの提供に踏み切り、他社とのコラボレーションで新たなサービスの可能性を追求することにしました。今では30社以上もの企業と提携して、他にないサービスを構築中です。その他の企業とも方向性を探っています。「minikura」は現在、当社の事業として行っていますが、過去にはプロジェクトベースで立ち上げた新規事業が軌道に乗り、子会社や関連会社として独立した企業もあります。そうやって寺田倉庫本体のスピード感を失わないようにしているのです。

指標を使わずに行う100点の人事とは?

――普通は無謀と思えるようなプロジェクトに取り組むときに、どういった指標で実行を決めるのでしょうか。

畑:特に指標はありません。その都度、適切にジャッジを行うということです。だって、パートナーと結婚したり離婚したりするときに、指標なんて設けませんよね(笑)。事業も同じで、その目的や成果は、一律の指標では測れません。どんなに研究を尽くして作られた指標だって、人間を測るのに100点だといえるものはひとつもないと思うのです。

――では、人事として個々の社員を評価する際にも、KPI(業績評価指標)に頼らない方法を取っているということでしょうか。

畑:はい。その代わりに、対話するということを心がけています。社員一人ひとりと向き合うために寺田倉庫は今、100名規模の組織を構築しているとも言えます。人事グループは私を含めて6名ですが、それぞれ頭から湯気を出さんばかりに考えに考えてますよ(笑)。考えるためにはやはりコミュニケーションが重要なのです。現在、新たな人事制度を構築中なのですが、今まで世の中になかったような制度にしようと考えています。指標に頼りすぎることなく、社員一人ひとりをしっかり評価できるのが、プロフェッショナルの人事だと思います。

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人事グループは前職で畑氏とともに仕事してきた人事のプロをはじめ、海外経験豊富な帰国子女、ビーチテニス日本ランキング第1位の現役プロ選手など、個性豊かな社員が顔をそろえる

――現在のトレンドでは、企業は社員のモチベーションをあげるために、KPIを用いることが多いのも事実。そういった指標がないなかで、新規事業に社員自ら手を上げていくような、前向きなアクションを起こさせるための秘訣を教えてください。

畑:福利厚生などを含め、かなり恵まれた環境ではありますが、何かこれといった秘訣はないんですよね。そもそも、会社から社員に働きかけて上がるほどのモチベーションで、パフォーマンスが変わるというのは、プロフェッショナルとは言えないのではないでしょうか。一人ひとりに「これを成し遂げたい」という意思があり、それが会社の方向性と合致していれば、会社の仲間としてともに尽力していけるはず。社員によっては「この会社で新規事業のチャンスをつかんで、いつか独立してやろう」という人もいると思いますよ。一方で「旗艦事業を着実に支えよう」という人もいる。二律背反する価値観が共存しているのが、当社の面白さだと思います。

――KPIが使えないとなると、何をもって「成果がある」と評価しているのでしょうか。

畑:それはケースバイケースですね。たとえば私たちは「T.Y.FARM(ティー・ワイ・ファーム)」という農業をやっているのですが、収益面ではまだ課題もあります。けれども東京都内において、有機農法で野菜を栽培する意義は大きいです。また、品質は各方面で評価されていて、多数のマルシェや、デパートからお声がかかる。これもある意味成功ですよね。ですから、成果の捉え方は事業によって違うかもしれません。

目指すは付加価値。文化的企業として、未来に投資する

畑:ただ、社長の中野(善壽氏)がよく言うのは「寺田倉庫は文化的企業だ」ということ。つまり、保存保管業を根幹としながらも、そこに安住せず、文化的に意義があると思えば、新規事業に投資します。同じ理由で、私たちは人にも投資しているのです。たとえば「T.Y.タレント」という制度は、あらゆる分野における才能を発掘することを目的にしています。また「TERRADA ART AWARD(テラダ アート アワード)」という若き芸術家のためのアワードを開催し、受賞者をバックアップしています。それらの事業は、今のところ会社に大きな金銭的利益をもたらすものではありません。しかし寺田倉庫の付加価値となり、寺田倉庫の未来へとつながっていくでしょう。基幹事業があるからこそ、リスクを取ることもできるし、リスクなくしては成功なんてありえません。ただ基幹事業にあぐらをかいているようでは、会社は存続しないと思うんです。

――お話をうかがっていると、未来に投資する企業の体質、新規事業による人材の流動化、個々の社員の自立が、三位一体となっているように思いました。このサイクルがうまく回れば、人材にも企業ブランドにも、常に新陳代謝が起こる状態になります。拡大ではなく、変化を志向する企業。とても新鮮なあり方です。

畑:10年後は、こういう企業が増えていると思いますよ。グローバル化の波が押し寄せて、日本人はもっとシビアなビジネス環境で勝負しなければならなくなります。機動力のある企業でなければ、生き残れないのではないでしょうか。

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TEXT 蜂谷智子+プレスラボ PHOTO 安井信介(人物)