一度も怒られずに仕事をしている人はまずいないでしょう。しかし、仕事で怒られてばかりの状況が続く場合は、気づかないうちに同じ失敗を何度も繰り返しているのかもしれません。怒られる原因を分析し、状況を改善するにはどうしたらいいのでしょうか。ビジネススキル研修を手がける株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ代表の高田貴久氏にアドバイスをいただきました。

仕事で怒られてばかりという人に共通する特徴
特に新人や若手社員の中には、仕事で上司や先輩に怒られてばかりで辛いという人も多いかもしれません。そこでまず伝えたいのは、「そもそもなぜ怒られるのか?」には次の2つの背景があることです。
- 頼りにされている
- 期待されている
多くの仕事は、上司以下全メンバーが担当領域に責任を持ち、力を合わせて遂行するものです。チームとして価値を提供するためには、どの仕事も穴を空けてはいけない大切な活動です。その中で上司は、一戦力としてあなたを頼りにしているのです。
また、これまでよりチャレンジングな仕事をあなたに任せるときは、「やり遂げてくれるだろう」と期待していることでしょう。
しかし若手社員の場合、まだチームで取り組む仕事の全体像が見えず、言われたことをやるだけで、「頼りにされている」「期待されている」という意識が希薄なことがあります。それが遠因となり、いろいろなパターンで怒られてしまうのかもしれません。
その前提に立った上で、仕事で怒られてばかりという人に共通する特徴と原因をご紹介しましょう。自分自身にも当てはまるものがないか、参考にしてみてください。
メモを取らない
上司や先輩から指導を受けたり、指示をされたりする際にメモを取らない人は、任された仕事のゴールをきちんと理解せずに「こういうことだよね」と自分の思い込みで行動しがちです。結果として求められた成果が出せていないのに「できたつもり」になってしまい、怒られてしまうことが増えているのでしょう。
また、仕事のプロセスにおいても重要なことをメモしないと、成果が出なかったときに、どこで間違えたかを振り返って改善することができません。そうなれば同じ失敗を繰り返しやすくなり、上司に「何も考えていないのでは」「改善意思がない」と見られてしまう可能性があります。
失敗を報告しない
仕事の進捗が思わしくないときや、ミスが発覚したときの報告を怠ることも、怒られやすい人の特徴です。時間が経過すればより被害が大きくなり、最終的に期待値とかけ離れた結果になるほど、上司の怒りを増幅させてしまうことになるでしょう。
「報連相」が疎かになって怒られてばかりいるという人には、そもそも仕事を頼まれた時点で、受けるかどうかの判断を間違えるケースも目立ちます。そのため、自分の手に余る仕事を安請け合いしてしまい、ギリギリになって「できません」と報告して上司の信用を失ってしまうのです。
ミスを認めず、素直に謝罪しない
目標が達成できなかったことや、ミスをしたことを、環境や運や周囲の人に責任転嫁したり、できなくても仕方がない理由を探したりして、言い訳をしてしまうのも怒られる原因になるでしょう。
また、「別に仕事ができなくてもいい」「早くこの会社を辞めたい」などと斜に構え、仕事に真剣に取り組む気持ちが欠けているケースでも同じことが言えます。表面的には謝罪しても、内心は失敗と向き合っていないことが相手に伝わってしまうからです。
受け身の姿勢で工夫がない
たとえ目標を達成できなくても、「成果を出そう」「何とかやり遂げよう」という工夫が見られれば、任せた上司にとってもある程度の納得感があります。しかし、常に仕事に対して受け身で、言われたことしかやらないタイプの人は、同じ結果でも「怒られ度」が上がってしまうことが多々あります。
同様に、確認が甘い・納期の見積もりが甘い・成果や品質へのこだわりが甘いなど、何かにつけて甘いタイプも、「このレベルで許されるだろう」という認識を指摘され、怒られることが多いようです。
過度に思い詰める
上司から指摘や注意を受けたことを必要以上に思い詰め、萎縮してしまうタイプも、実は怒られやすくなっている可能性があります。「すみません」と謝罪を繰り返すだけで、改善方法が見えないと「本当に理解しているのだろうか?」「その場しのぎをしたいだけでは?」と疑問を持たれ、余計に怒られてしまうことがあるでしょう。
仕事で怒られてばかりいる状況の改善法

ほとんどの上司は、何の理由もなく怒ることはありません。「仕事で怒られたくない!」と思うなら、まずは自分自身が考え方や行動を変える必要があります。ここでは「仕事で怒られてばかり」と感じているときの対処法をご紹介します。すぐに実行できそうなことから、ぜひ取り組んでみてください。
怒られたことは素直に受け止め、きちんと謝る
もし怒られることに納得できなかったり、理不尽さを感じたりしても、まずは「申し訳ありませんでした」と素直に謝ることが大切です。
上述したように、上司や先輩が怒る裏には「できるだろう」「やり遂げてほしい」というあなたへの信頼や期待感があるはずです。その気持ちを一旦受け止めて相手の感情を和らげることで、その後に取るべき対応などの、前向きな話し合いにつなげることができるでしょう。
怒っている相手の話を最後まで聞く
怒られれば誰でも動揺してしまうものですが、なるべく気持ちを落ち着かせて、相手の話を最後まで聞くようにしましょう。それによって「取引先に迷惑をかけたから」なのか、「損失を出したから」なのか、「期待を裏切ったから」なのか、「約束を破ったから」なのか…など、相手の怒りポイントを正しく理解することが大切です。
「上司は何を怒っているのか?」と一歩引いて冷静に考えることができれば、「契約が取れないことではなく、営業の工夫が足りないことに怒っているのだ」など、状況の見え方が変わることがあります。それを受けて「営業の方法を変える」「成績上位者に話を聞きに行く」など、目に見える形で改善行動を示していくと良いでしょう。
「怒られるに至った流れ」を理解して改善する
怒られるたびに毎回「すみません、次から頑張ります!」では、何の改善にもなりません。仕事の課題解決と同様に、自分が怒られるに至った流れを分解して「なぜなぜ分析」を行ってみましょう。
例えば「明日の報告会の資料ができていない」ことが理由で怒られた場合、以下のような流れの中でさまざまな要因が考えられます。同じ失敗を繰り返さないためには、いつ・どこでつまずいたかを、しっかり振り返ることがとても重要です。
- 最初に指示を受けた時、いつまでにどのレベルの資料が必要かを理解していなかった
- 情報を集めるときにミスをして、手戻りしてしまった
- 数字を分析しようとしたら、量が膨大すぎて間に合わなくなった
メモを取り成果を確認してから動く
若手社員は、仕事を頑張る方向性を間違えて「ゴールの読み違い」で怒られるケースが案外多いもの。それを避けるには、仕事を渡された入り口で、上司がどのようなアウトプットを期待しているのかを細部まで確認することです。そのためにも、ヒアリングの際はメモを活用することをおすすめします。
例えば、今回の仕事では「どんなレベルの成果物が」「いつまでに必要なのか」。さらに、「どの程度予算をかけて良いのか」「誰に向けて」「どのような背景や目的でこの仕事が必要なのか」といった情報をしっかり集めてから動くことで、求められた成果の達成に近づくことができるでしょう。
報連相を徹底する
上司とは報連相をできるだけ密に行いましょう。とりわけ「バッドニュース・ファースト(Bad News First/Fast)」と言われるように、悪いニュースほどいち早く伝えることが大切です。なぜかというと、仕事を頼んだ時点から時間が経てば経つほど、上司のあなたへの期待値は上昇するからです。
仕事が難航した時は「自力ではここが難しいのですが」「できれば納期を伸ばしたいのですが」と小まめに相談することで、方向修正と同時に期待値を適度に下げることもできます。しかし、問題が起きても寝かせたまま、しばらく経ってから「できません」では、怒られても仕方がありません。
仕事を頼まれる最初の段階で「受ける・受けない」をしっかり判断することも含めて、上司から無理な期待をかけられないように、コントロールする意識を持つことも1つの方法でしょう。
人の力を使ってでも達成する
報連相が足りずに後から怒られる人は、任された仕事を自力で頑張りすぎる傾向もあるようです。学校での勉強などとは違い、会社の仕事は人の手を借りてでも成果を出せばOKなのですが、若手の人たちはまだその意識が薄いことが多いようです。
仕事は「自分がやる」ことが重要なのではなく、「任されたことをやり切る」ことが重要です。自力と他力のバランスを考えつつ、難しい部分は周囲の人を巻き込み助けを求めましょう。必要な場合は上司の力も使って引き上げてもらい、最後までやり遂げることに注力しましょう。
人格を否定されたのではないと考える
仕事で怒られてメンタルが削られてしまったり、落ち込んでしまったりする人は、「怒られた」という事実と、自分自身を切り分けることを意識しましょう。
怒られるのはあくまでも、会社という枠組みの中で、特定のイベントや出来事に関する指摘を受けているだけのことであり、あなたの人間性や能力、人格を否定するものではありません。指摘は今後に活かせば良いので、それ以外の場で必要以上に引きずることはないのです。
それでも切り替えが難しいときは、「人生は長く、今の仕事はごく一部」と考えてはいかがでしょうか。今後リタイアするまで今の会社で仕事を続けるかと聞かれたら、ほとんどの人は「No」と答えるでしょう。辛くてもそれは一時のことかもしれませんし、若手時代の失敗などは、長い目で見れば些細なものです。広い視野を持ち、気持ちをしなやかに保っていきましょう。
仕事で怒られてばかりの人におすすめの「怒られ力」とは?
誰でも仕事で怒られるのは嫌なものですが、実は上手に怒られることは、ビジネスパーソンとして成長するチャンスでもあります。気持ちを素早く切り替えて自身の糧にする「怒られ力」を、ぜひ身につけましょう。
私は、怒られ力とは「可愛がられ力」だと考えています。冒頭で触れたように、怒られるのは信頼や期待の裏返しであり、それがなければ怒られることもないからです。そして多くの場合、上司はあなたに見つけて欲しい「正解」もある程度分かったうえで怒っています。
ですから、怒られ力をつけるためのシンプルな方法は、素直に「すみません」と謝罪し、「自分はどうすればいいですか?」と率直に質問することです。そうすれば上司も「仕方がないなあ」と思いつつも喜んで正解を教えてくれるでしょう。もし教えてもらえなくても、自分なりに考えて行動を変えれば、きっと認めてくれるはずです。
ただ、中には「怒るために怒る」上司がいることも事実です。例えば会社や関係者のためではなく、自分が気に食わないから怒ったり、怒る度に言うことが変わって一貫性がなかったり、機嫌が悪いときだけ怒ったりする人です。
怒り方を観察してそのタイプの上司だと分かったら、逆に怖さは薄れるかもしれません。一歩引いた目で、冷静に「こんな人もいるのだな」「これも世の中だ」という学びの機会と考えれば良いでしょう。
株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ
グローバルCEO・代表取締役社長 高田 貴久(たかだ・たかひさ)氏
東京大学理科Ⅰ類中退、京都大学法学部卒業、シンガポール国立大学Executive MBA修了。戦略コンサルティングファーム、アーサー・D・リトルでプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当に携わる。マブチモーターで社長付・事業基盤改革推進本部長補佐として、改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年にプレセナ・ストラテジック・パートナーズを設立。トヨタ自動車、イオン、パナソニックなど多くのリーディングカンパニーでの人材育成を手掛けている。著書に『ロジカル・プレゼンテーション』『問題解決―あらゆる課題を突破するビジネスパーソン必須の仕事術』がある。
▶プレセナ・ストラテジック・パートナーズ 公式サイト