仕事において、プレッシャーを感じる場面は多いものです。なかなかプレッシャーをはねのけられず、悩んだことのある人もいるのではないでしょうか。
プレッシャーを感じたら、どのように乗り越えればいいのでしょう?
もしも押し潰されそうになったらどう対処するのがよいのでしょうか?
これまでに1万人超のメンタルを救ったという「金髪アフロと赤メガネ」がトレードマークの精神科医&メンタル産業医、井上智介先生に伺いました。
そもそも「プレッシャー」とは?仕事ではどんなときに感じる?
「プレッシャー」とは、自分だけではコントロールできない、周囲の状況などから生まれる精神的な重圧や緊張感のことです。
仕事においては、クリアするのが難しい課題や目標を抱えているときに、プレッシャーを感じる人が多いです。例えば、自身のスキルよりも高いレベルの業務や役割を任されたときや、仕事のボリュームが多く自身のキャパを超えている場合などが挙げられます。
また、周りから実力以上の過大な要求や期待をかけられているときにも、強いプレッシャーを感じがちです。例えば、まだ経験が浅く自分に自信もないのに、リーダーに抜擢されたりビッグクライアントを任されたりしたときに、強いプレッシャーを感じるケースがあります。
もちろん、プレッシャーをばねに、より高い成果を上げられるという人もいます。周囲からの期待がモチベーションになり、実力以上の力を発揮できたという人も少なくありません。
ただ、「自分の実力や自信」と、「与えられる業務レベルや期待の大きさ」との間にあるギャップが大きいほど、負担感も大きくなり、ストレスへとつながります。真面目で責任感が強い人ほど、周りに頼ることができずプレッシャーばかりが大きくなり、押し潰されそうになるケースが多いです。
プレッシャーを乗り越える方法
プレッシャーの多くは、「実力以上の役割を任された」「キャパ以上の業務量を割り当てられた」など、自分でコントロールできないところから生まれるものです。
したがって、プレッシャーに対応するには、「自分でコントロールできる部分」に注目してそこにリソースを集中させるのが大前提。コントロールできないことばかりを思い悩んでも、事態は変わらないからです。
その前提のうえで、次の方法を試してみてください。今の自分に合った方法、やりやすい方法から着手してもらえればと思います。
緊張を緩和する方法を試してみる
心理的にプレッシャーを感じるとき、人は身体の緊張感が高まりストレスを覚えます。したがって、次のような方法で緊張感を緩和すれば、プレッシャーも軽減され、平常心で業務に臨めるようになるでしょう。
● 周りに話を聞いてもらう
同僚でも家族でも友人でもいいので、信頼できる人に「プレッシャーを感じてしんどい」という今の状況を聞いてもらいましょう。つらい状況を理解し、共感してもらうだけで気が楽になり、緊張感が和らぎます。
● うまくいくイメトレをする
プレッシャーが強すぎると、「失敗したらどうしよう」「達成できなかったらどうしよう」と悪い方向にばかりに考えがちになります。
スポーツ選手が本番前にイメトレするように、「自分が着実に仕事をこなしていく様子」をイメージしてみてください。具体的にイメージすればするほど、心が落ち着き、思い描いた行動を取れるようになります。
● 短くても自分の時間を作る
どんなに忙しくても、自分のためだけの時間を確保しましょう。好きな音楽を聴く、好きな動画を見るなど、気分転換の時間を1日15分持つだけでも、心が安らぎ緊張がほぐれるはずです。
プレッシャーに押し潰されそうなときは、切れ目なく1日中、仕事のことばかり考えがちになり、ますます心身に負担を与えます。意識的に仕事から解放される時間を確保して、自分自身を緊張から解放しましょう。
仕事への姿勢を見直してみる
仕事への向き合い方や仕事に対する姿勢そのものを見直してみるのも有効です。立ち位置を少し変えてみるだけで、視野が変わりプレッシャーが緩和できる可能性があります。
● TODOリストを作る
業務量が多く「あれもやらねば、これもやらねば」と焦ってしまい、プレッシャーに押し潰されそうになるという人は少なくありません。この場合、業務内容を整理してTODOリストを作ることで、やるべきことの交通整理ができ、プレッシャーも軽減されます。
まずはやるべきことをリストアップして「見える化」し、優先順位をつけてTODOリストを作りましょう。それを一つひとつこなしていくことで、焦らず慌てず、目の前の業務に向き合うことができるようになります。「仕事が着実に進んでいる」と実感できるので、不安や焦りも軽減するはずです。
● できること・できないことの間に境界線を引く
業務を見える化すると、「これはできる」「これは一人ではできそうにない」という判断もしやすくなります。上記のTODOリストを作る際、業務を細分化し、できることとできないことに分けておくと、できることに力を集中しやすくなります。
プレッシャーを感じがちな人は、「全て自分がやらねば」と業務を抱え込んでしまう場合が多いのですが、見える化することで「この部分は〇〇さんに任せたほうが効率がいい」と頼ることができたり、「これ以上の業務はキャパオーバーになる」と断れたりするなど、冷静に判断できるようにもなります。
● 「完璧主義」は捨てる
プレッシャーを強く感じる人の中には、完璧を求めすぎているケースが多く見受けられます。例えば、商談資料を作る際に、細部の言いまわしが気になったり、レイアウトのちょっとしたズレが気になったりして、何度も見直してしまう…という人がいますが、自己満足を追求しても意味がありません。
プレッシャーが大きな仕事ほど不安になる気持ちはわかりますが、例えば商談資料であれば、最も大事なのは「提案が相手にわかりやすく伝わること」であるはず。仕事の本質を見直し、肩の力を抜いて「相手が納得すればOK」「言いたいことが伝わればOK」と完璧主義は横に置いて臨みましょう。
それでもプレッシャーに押し潰されそうになったら…
前述の方法を取ってもプレッシャーが強く、押し潰されそうになる場合は、強い緊張にさらされ心身ともに疲れ切っているということ。上司に相談して、業務を変えてもらったり業務量を減らしてもらったりするなどの対応が必要です。
もしも、朝起きられない、食欲が湧かない、出社しようとすると頭痛や腹痛が出たり勝手に涙が出たりする…などの症状がある場合は、ただちに専門家に相談しましょう。「まだ仕事をやれているし、自分は大丈夫」と言う人もいますが、すでに限界を超えているのに無理に自分を奮い立たせている可能性が大。心身からのSOSを軽視せず、早めに産業医などに相談してほしいですね。
どれだけ相談しても、あまりにキャパ以上の業務を振られ続けてつらい、スキルや実力に見合わない仕事ばかり任されてしんどいという場合は、転職も検討したほうがいいかもしれません。
実際に転職しなくても、転職サイトなどを見て「こんな道もあり得るんだ」と頭の片隅に置いておくだけでも、プレッシャーが軽減できます。「いざとなったら辞めてもいい」という選択肢を持っておくことが、心の支えにもなるでしょう。
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メンタル産業医・精神科医 井上 智介さん
兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話を重視した精神的なケアを行う。さらに、すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)など著書多数。