社内ベンチャーとは?新規事業を支援する制度の活用や成功事例を紹介

「社内ベンチャーという言葉をよく聞くが、どんな制度なのだろう」「新規事業を立ち上げたいが、どう活用すればいいのか」など、社内ベンチャーに興味を持ち、詳しく知りたいと考える人に向けて、企業の新規事業開発支援を手がける株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO麻生要一氏に、「社内ベンチャー制度の傾向や活用方法」を教えていただきました。

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社内ベンチャーとは?

「社内ベンチャー」とは、企業に勤務する人が、その企業に在籍し続けている状態で新規事業を立ち上げることを指します。これを「制度」として運用する企業では、多くの場合、社員から新規事業のアイデアを募集し、審査を経てプロジェクト化し、事業として育てていきます。

制度の呼び方は、「社内ベンチャー制度」「社内起業制度」「新規事業提案制度」など、企業によってさまざま。企業独自の名称があるケースも多く見られます。長く制度を運用して実績を挙げている企業の例としては、次のようなものがあります。

  • リクルート ── 「Ring」(旧New RING)
  • ソフトバンク ── 「ソフトバンクイノベンチャー」
  • 博報堂DYグループ ── 「AD+VENTURE(アドベンチャー)」
  • ソニー ── 「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」

このように、一見すると何の制度かわからない名称もよくあります。皆さんの会社にも、社員にあまり知られていなくても、実は社内ベンチャー制度が存在するかもしれません。

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企業が社内ベンチャー制度を導入する理由

企業はなぜ社内ベンチャー制度を導入するのでしょうか。その背景には次のような目的があります。

新規事業を推進できる人材を育成する

特に大手企業の場合、新規事業を生み出そうとするならさまざまな手法をとることができます。例えば、「他社と提携・協業する」「有望なスタートアップに出資する」「M&Aにより有望な事業・企業を買収する」など。これらはすべて企業の成長のために必要な施策ですが、そのすべての基盤になるのが「社内ベンチャー」「社内起業」の活動だといえます。

他社との協業、スタートアップへの出資、M&A、いずれの手法を使うにしても、それらを実行する人材が必要です。その人材には、ビジネスの成長性に対する目利き、プロジェクトを推進する力など、新規事業を形にしていくノウハウやスキルが求められます。つまり、社内ベンチャー・社内起業を経験することで、そうした力が培われることが期待されているのです。

その力は、どのような新規事業開発の手法にも活用できるほか、既存事業の変革にも活かせる。総じて企業力の強化につながるというわけです。

「エンゲージメント向上」「採用」にも効果

社内ベンチャー制度の導入には、企業にとって副次的効果ももたらします。社員はやりたい事業に取り組めるチャンスが与えられることで、自社へのエンゲージメントが高まり、離職率低下につながります

また、外部からは「新たなビジネスにチャレンジしている企業」と映るため、入社希望者が増え、採用競争力も高まります。結果、活発な組織風土が醸成されていくのです。

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社内ベンチャーの立ち上げ方

社内ベンチャーの起点はさまざまです。経営トップが特定の事業部や社員に指示するケースもあれば、いずれかの部署で出てきたアイデアがプロジェクト化されるケースもあります。しかし、制度として運用している場合は「応募型」が主流です。年1回・年2回・四半期に1回・毎月・随時など、ペースは各社異なりますが、社員からアイデアを募ります。

一次審査・二次審査・三次審査とステージを進める中で件数を絞り込んでいき、選考通過したアイデアには段階的に予算や人員が割り当てられていきます。そして、社長・役員クラスの最終審査によって事業化の判断が下され、新規事業部門として組織編成がなされます。

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社内ベンチャーの成功例を紹介

社内ベンチャーから事業化に成功した事例は数多くあります。先ほどリクルートの新規事業提案コンテスト「Ring」(旧New RING)に触れましたが、『ゼクシィ』『HOT PEPPER』『カーセンサー』『スタディサプリ』なども、ここから生まれました。

最近盛り上がっていると感じる企業例をご紹介しましょう。

東急不動産ホールディングス「STEP」

東急不動産ホールディングスでは、2019年、グループ従業員を対象とした社内ベンチャー制度「STEP」を開始しました。同社は、長期ビジョン「GROUP VISION 2030」において、「デジタル活用による新しい体験価値の創出(DX)」 「新領域ビジネスの創造」を掲げています。10 年後のグループを支える事業の創出のため、制度が発足しました。

応募総数 106 件から、社外審査員を含む審査を経て選ばれた案件が事業化。2021年に設立されたのが「TQ コネクト株式会社」です。「すべての人がインターネットにつながる社会を実現する。」を理念に掲げ、高齢者などインターネットを使い慣れない人でも簡単に、安心してインターネットサービスを利用できることを目指しています。

操作が簡単でボタン一つでサポート窓口につながる「TQタブレット」を送り出しています。これは、起案者でありTQコネクトの代表を務める五木氏が、自身の母親が訪問詐欺の被害に遭った経験から、「高齢者を守りたい」という思いを実らせた事業です。将来的には、高齢者と企業・行政をつなげるプラットフォームに進化させることを視野に入れているそうです。

トヨタ自動車「B-project 社会課題DeepDiveコース」

トヨタ自動車では2018年度から新規事業創出プログラム「B-project(Breakthrough-project)」を運営してきました。しかし「顧客不在のアイデアが多い」と感じた社員が、課題の現場に出向き、自ら課題の本質を体感・理解することを重視。2020年に「社会課題DeepDiveコース」を立ち上げました。

さまざまな社会課題テーマが候補に挙がる中、初年度のテーマとして選ばれたのが「食」と「災害」です。公募を行ったところ、多様なバックグラウンドから応募があり、面談を経て選ばれたメンバーがチームに分かれて活動しています。

社会課題の構造をリサーチした上で、「原体験化プログラム」として社会課題の現場へ。「食」チームは新規就農者教育を行っている地域へ、「災害」チームは台風の被災地域に足を運んだそうです。

その後、「ウェルネス」のテーマでは「介護施設」、「資源循環」のテーマでは「リサイクル率日本一の町」、「カーボンニュートラル」のテーマでは「林業・バイオマス発電」を行う地域でフィールドリサーチを行うなど、現場へのヒアリングを徹底する方針で社会課題解決プロジェクトの種を探索しています。

社内ベンチャーが成功する企業・しない企業の差は?

社内ベンチャー制度が運用されていても、成功するかどうか。つまり事業化まで到達するかどうかは、企業によって異なります。成功のポイントはいろいろありますが、第一に、アイデアを具現化させていくプロセスで「期間」「予算」などのルールが適切に設定されているかどうかが重要です。

例えば、アイデアが評価されて次の審査ステージに進むことになり、「顧客への課題のヒアリング」が必要になったとする。本来なら3~4カ月かけて顧客の課題を掘り下げるべきところ、2~3週間以内に完了するように期限が設定されていたら、十分な成果は得られないでしょう。

また、試作品を作って顧客に使ってもらう実証実験をしたくても、試作のための予算がつかないとなれば、前に進められません。あるいは、見込み顧客を訪問して協議をしたくても、業務時間内の活動が制限・禁止されているケースもあります。

各ステージにおいて「これくらいの期間・予算を使い、こんな活動をしてOK」というルールが適切に設計されているかどうかが成否を左右するといえるでしょう。

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社内ベンチャー制度を活用し、「一生活かせるスキル」を得よう

私は世の中のすべてのビジネスパーソンに「新規事業」に取り組んでほしいと考えています。人生100年時代と言われ、かつ変化が激しい昨今、働く人の多くは次のような現実を突きつけられます。

「定年後に20年程度は働かなければならない。しかし、そのとき、現役時代に培ったスキルが陳腐化している可能性が高い」

そんな未来に、「新規事業開発」の経験は必ず役に立ちます。「自分の頭で考え、自分で顧客を見つけ、商売にする」スキルが身に付でしょう。そのスキルは、時代がどんなに変化しても、人間の仕事がAIに代替されても、活き続けます。

「大企業に入社すれば安心」とよく言われます。会社が用意してくれたキャリアを歩んでいくかぎり、一生守ってくれる、依存できる存在でした。しかし、そのメリットはもはやありません。世の中が激変していく中、今、会社が求めるスキルを身に付けても、数十年後にはそのスキルは使えなくなっているかもしれません。

大手企業にいるメリットは、別の形で活用しましょう。それが新規事業開発の経験を得ることです。独立して起業するのも素晴らしいことですが、大手企業にいれば「資金」「特許」「人材」「ネットワーク」「ブランド力」など、さまざまな資源を活用できます。

社内ベンチャー制度がある企業に在籍しているのであれば、参加しない手はありません。制度を使って自分のアイデアを実現し、生涯使えるスキルを獲得してはいかがでしょうか。

株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO
株式会社NewsPicks for Business 代表取締役 麻生 要一氏

麻生要一氏

東京大学経済学部卒業。株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社後、ファウンダー兼社長としてIT事業子会社を立ち上げ、経営者としてゼロから150人規模まで事業を拡大。社内事業開発プログラム「Recruit Ventures」及び、スタートアップ企業支援プログラム「TECH LAB PAAK」を立ち上げ、新規事業統括エグゼクティブとして約1500の社内プロジェクト及び約300社のベンチャー企業・スタートアップ企業のインキュベーションを支援した経験を経て、自らフルリスクを取る起業家へと転身。同時多発的に創業。2018年2月に企業内インキュベーションプラットフォームを手がける株式会社アルファドライブを創業し、2019年11月にユーザベースグループ入り(発行済全株式を売却)。2018年4月に医療レベルのゲノム・DNA解析の提供を行う株式会社ゲノムクリニックを共同創業。2018年6月より「UB VENTURES」ベンチャー・パートナーへ就任、ベンチャーキャピタリスト業を開始。2018年9月に株式会社ニューズピックスにて非常勤執行役員に就任し、企業内起業家としてNewsPicks for Businessの事業開発を管掌。著書に『新規事業の実践論(NewsPicks Publishing)』。

取材・文:青木典子 編集:馬場美由紀
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