リスキリングとは?富士通の事例に見るリスキリング推進の理由とビジネスパーソンのメリット

「リスキリング」という言葉を目にする機会が増えていますが、何を指すのかご存じですか?「新しい仕事に必要なスキルの修得」を意味する言葉で、多くの大手企業が社内人材のリスキリングに注力するという方針を打ち出しています。例えば富士通では、DX企業への変革を打ち出すとともに、グループ企業を含めた社員約12万人のリスキリングに力を入れています。

この記事では、リスキリングの解説やメリットをご紹介するとともに、リスキリングが今なぜ必要とされているのか、具体的なリスキリング戦略などについて、富士通のEmployee Success本部長である阿萬野 晋氏に詳しく伺いました。

富士通株式会社 Employee Success本部長 阿萬野 晋氏富士通株式会社 Employee Success本部長
阿萬野 晋氏

リスキリングとは何を指す?

リスキリングとは、今の仕事、もしくはこれからの仕事で必要となるスキルの変化に対応するために、新たな考え方や技術などを身につけることを指します。一般的には企業が主体となり、社員のスキル習得を支援するケースが多いです。

事業環境が目まぐるしく変化する中、どの職種においても仕事の進め方や価値を発揮する方法などが大きく変化しています。ビジネスパーソンとしてこれからも価値を創造し続けるために、自らが必要なスキルを新たに習得する姿勢が求められています。

「リカレント教育」「アンラーニング」との違い

同じような場面で使われる言葉に、「リカレント教育」「アンラーニング」がありますが、いずれもリスキリングとは意味合いが異なります。

「リカレント教育」は、自身が必要なタイミングで、仕事で求められる知識を学び直すこと。リカレント(recurrent)とは、「繰り返す」「循環する」という意味の言葉で、本来は仕事からいったん離れて学習し、再び仕事に従事する…を繰り返すことが前提となっています。ただ日本では、仕事を休まず学び直すこともリカレント教育に含まれ、仕事を持つ社会人でも通える社会人大学院や通信制大学なども増えています。
一方、企業が行うリスキリングは、企業が主体となり戦略的に社員に学ぶ機会を提供するものなので、仕事もしながら学ぶのが基本です。

「アンラーニング」は、仕事を通して身につけてきた知識やスキルなどをいったん捨て、新しい知識やスキルを身につけることを指します。
変化が激しく先行き不透明な環境下では、変化に柔軟に対応するためには、アンラーニングで固定観念を捨て、自ら変革していくことも必要とされています。
アンラーニングは「捨てること」が主な目的ですが、リスキリングは新しい知識やスキルを「獲得」するのが目的。ここが両者の大きな違いです。

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ビジネスパーソンがリスキリングを行うメリット

「ビジネスパーソンとしての価値が上がる」ことが最大のメリットです。
時代に即した新しいスキルを学ぶことで、自身の価値が上がり、活躍できる範囲も広がると予想されます。新しいスキルを身につけることで視野が広がり、キャリアの選択肢も増えるでしょう。

リスキリングにおいては、DX(デジタルトランスフォーメーション)やITがテーマになるケースが多いですが、これらの技術、知識を身につけることで業務生産性が向上し、新たなスキル習得に時間を割くことができるでしょう。知識を活かして新しいアイディアが生まれイノベーションが創出できたり、DX人材としてステップアップできたりする可能性もあります。成長実感が得られ、仕事へのモチベーションが高まるという効果もあります。

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【事例紹介】富士通のリスキリング戦略とは?

なぜ富士通は今、リスキリングに注力しているのか、どのような方法でリスキリングを行い、どんな効果が出始めているのか、Employee Success本部長の阿萬野 晋氏に詳しく伺いました。

富士通株式会社 Employee Success本部長 阿萬野 晋氏

富士通はなぜ、今リスキリングに注力しているのか

2019年に時田(隆仁氏)が社長に就任した際に、「IT企業からDX企業へ」というメッセージを社内外に発信し、企業変革を行うことを明言しました。同時に、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」というパーパス(企業の存在意義)を定義しました。

当社は、このパーパスの実現に向け、グローバルに社会課題の解決に挑むソリューション「Fujitsu Uvance」において7つの重点注力分野を決めましたが、ビジネスモデルを大きく変えた中で、これらの担い手は人であり、一人ひとりのマインドセットや行動、スキルが変わらなければ実践できないことになります。全従業員が、常に新しい時代に合った新たな発想や技術、スキルを身につけることは、必須であると言えます。

そのための一つの方策が、リスキリング。仕事に対する姿勢や考え方、そして持っているスキルを再実装、もしくはアップデートしていくことが、企業変革、パーパス実現のために何より重要だと考えています。
当社においてはリスキリングと同様に、今あるスキルをより高度化する「アップスキリング」にも注力しています。

リスキリングの土台となる「個人のパーパス」を支援

まずは、具体的なリスキリングの前提となる「個人のパーパス設定」に注力しています。

効果的なリスキリングを行うためには、富士通の中での自分自身のパーパス(存在価値・存在意義)について、こんなことを大切にしているという価値観や今後こんな業務にチャレンジしてみたいという成長ビジョンとともに、社員一人ひとりが自分で認識することが重要。そのために、仲間と対話しながら自身のパーパスを彫り起こし形にしていく「Purpose Carving」という独自のプログラムを実行しています。4~5人で1つのチームを組み、これまでの人生における実体験や仕事に対する考え、大切にしていることなどを語り合うことで、本来やりたかったこと、これから目指したいことなどが潜在意識の中から掘り起こされて(=Carving)いきます。2年半前から海外を含めたグローバル全社員がこの「Purpose Carving」に取り組み、現在ではほとんどの社員が「マイパーパス」を持っている状態にあります。

パーパスを明らかにする過程では、何のために富士通で働いているのか、富士通で何を実現したいと思っているのか、とことん考えることになります。それが土台となり、「自分の手でこんなキャリアを築いていきたい」というキャリアオーナーシップが一人ひとりに芽生え、リスキリングへの意欲が高まります。このようなマインドセットも、リスキリングの一環だと捉えています。

また、DX企業への変革のために特に修得・実践することを推奨しているテーマは、お客様や社会の課題解決に必要な「デザインシンキング」と、素早く考えを切り替えながら価値を高めていく「アジャイルプロセス」、そしてデータに基づいて予測・判断しアクションする「データドリブン」。この3つが、ベーシックなDXリテラシーとしてリスキリングのテーマの基礎となります。これらを習得すればそれが土台となり、お客様とのビジネスにおいて必要とされるより高度なITスキルの修得へとつながります。
ただ、座学で学ぶだけでは全く不十分なので、社内はもちろん、お客様や関連会社、パートナー企業様など外部にも協力を仰ぎながら、さまざまな実践の機会を設けています。

学びのプラットフォーム「Fujitsu Learning Experience」導入

富士通株式会社 Employee Success本部長 阿萬野 晋氏

富士通では、リスキリング・アップスキリングのためのオンデマンド型教育を拡充していて、学びのプラットフォーム「Fujitsu Learning Experience(FLX)」上でいつでもだれでもどこでも、自分が必要だと思うコンテンツを学ぶことができます。FLXのコンテンツのバリエーションは豊富で、最先端のDXテクノロジーからAI、コンピューティング、クラウドなど関心領域に合わせて選択し、受講することができます。

全社員向けに展開をしているのですが、昨年度の自律的な学習時間の統計を取ってみたところ、もちろん、若手社員はFLXを使いこなし、貪欲に学びに取り組んでくれていますが、実はFLXでの学習時間の伸びが最も大きかったのが、45歳以上の経験豊富な社員層でした。前述した一連の取り組みを受けて、若手には負けていられない、自分たちもリスキリング・アップスキリングして可能性を広げたいと奮起してくれている人が多いことが、とても嬉しいデータとして見えてきました。例えば、老朽化したITシステムがブラックボックス化しDX推進を阻む「2025年の崖」に対応するためのシステムのモダナイゼーション、最新DX技術の修得や、コンサルティングスキルの修得を目指している人がいるという印象です。

自律的に動き続けるためのサポート体制も整備

自分のパーパスが言語化できて、キャリアオーナーシップが芽生えても、意識を高く維持しながら学びを継続し続けるのは簡単ではありません。そこで富士通では、「自分で考え、自分を動かす」ための支援プログラムも多数用意しています。

例えば、キャリアオーナーシップをどれだけ実践できているのかを測る診断プログラムを導入したり、社員同士が自身のキャリアについて語り合うキャリアカフェというワークショップを開催したりしています。特に、身近な人と語り合うことは、自身の行動を省みて新たなヒントも得られる機会だと考えています。

また、昨年度からはキャリアコーディネーターという役割を導入しました。現場を長く経験してきたベテラン幹部社員に、カウンセリングスキルを学んでもらい、老若男女を問わず、社員のキャリア相談に乗ってもらうというものです。2022年からスタートしましたが、すでに1000人以上の社員から申し込みがあり、相談に対応していますが、多くの反響に正直少し驚かされました。これまでキャリアについて考える時間が取れなかった社員も相談しやすく、将来を考えるうえで役立っています。

リスキリングで「人を活かし、人に活かされている会社」を目指す

リスキリングのメリットは、「人材としての価値が上がること」に尽きると思います。
人生100年時代と言われる今、既存の技術・スキルをブラッシュアップして付加価値をつけないと、やりがいをもって働き続けられない…と皆さん気づき始めていると思います。自身の価値を上げて可能性を広げて、自身のパーパスを実現するためにも、リスキリング、アップスキリングは必要不可欠だと考えます。

そして企業としては、リスキリングとビジネスや業務での実践を通して「社員が相互に人材の力を最大限に引き出して活かしあい、同時に人材に活かされている企業」と広く認めてもらうのが目標です。多彩な人材がいて、一人ひとりが自律的に考え行動し、社内外の人と協働しながら互いの力を引き出し合う。このような状態を維持し続けることで、新しい価値が生み出されると考えています。

世界は変わり続けるので、企業も止まることなく変革していく必要がありますが、一人ひとりのキャリアオーナーシップとリスキリング無くしては、変革は不可能。社員全員が自らのパーパスをよりどころに、自分自身の価値を高めるために自主的に行動し続け、お客様の課題にも向き合い続ける――富士通がそんな会社になることを、私は願っています。

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富士通株式会社 Employee Success本部長
阿萬野 晋氏

1992年富士通入社。事業部門担当人事を経て、09年から4年間、Fujitsu Asia Regional HR Directorとしてシンガポールに駐在。2012年国際人事部ASEAN分室長、2014年人事本部シニアディレクター、2019年度総務・人事本部労政部長に就任し、2021年より現職。主に日本におけるジョブ型人材マネジメントをベースとした、採用から、キャリアオーナーシップやポスティング、教育などの成長支援、評価・報酬制度企画、ならびに事業部門のHRビジネスパートナーと人事オペレーション機能を統括。

EDIT&WRITING:伊藤理子 監修:粟野友樹(リスキリングとは/リカレント教育・アンラーニングとの違い/リスキリングを行うメリット)

 

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