政府の副業推進の流れを受けて、副業を始めるビジネスパーソンが増えていますが、中でも「在宅でできる副業」が注目されています。どのような視点で副業を選べばいいのか、在宅でできる副業にはどんなものがあるのか、そして副業を始める際の注意点などについて、社会人のインターンシップ参加や地方企業との副業マッチングなどを行うサービス「サンカク」の藤井里江さんに伺いました。

副業を始めるビジネスパーソンが増えている
「副業」とは、本業以外の仕事で収入を得ることです。2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表し、モデル就業規則から副業禁止の規定を削除され、新たに第14章副業・兼業において「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と追加されました。この変更により、副業は原則禁止から原則容認の方向となり、従業員の副業を解禁する企業が増えています。
一方のビジネスパーソン側も、働き方改革により時間に余裕が生まれたことで、副業に興味を持つ人が増えています。特に、コロナ禍で在宅勤務の機会が増えたことで、「在宅でもできる副業」が注目されているようです。
ビジネスパーソンが副業を行う理由として最も多いのは、生計維持や貯蓄など「収入目的」ですが、転職や独立準備、新しい知識や経験を得るためなど「スキル動機」の人も増えつつあります。そして社会貢献などを目的とする人も一定数います。
なお「サンカク」では、地方企業と、企業で働くビジネスパーソンをリモートワーク×副業でつなぐ「ふるさと副業」を運営していますが、発注主は地方企業なので在宅ワークで実施できる副業案件が多い状況です。「全国に拡販したいが知識がある人がいない」「新たな商品を開発したいが社員だけだといいアイデアが浮かばない」といった深刻な人手不足に悩んでいる地方企業は多く、「リモートでも知識や熱意のあるビジネスパーソンの力を借りたい」とサンカクでの副業人材募集に踏み切る企業が増えています。
それらに応募するビジネスパーソンの年齢層は20代後半から60代までと幅広く、「スキル動機」の人が多いのが特徴。ビジネスパーソンとしてレベルアップするために新しい経験がしたい、副業で新たなキャリアの可能性を探りたい、などの目的で副業に取り組まれています。
※リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2022」
調査手法:インターネットモニター調査
調査時期:2022年1月6日~1月31日
有効回収数:56,695サンプル(本グラフの質問への回答数は5,440サンプル、複数回答)
在宅でできる副業にはどんなものがある?

「副業」とひと言で言っても、いろいろなフェーズの仕事があります。例えば、新たな事業の柱をつくるための事業企画を支援してほしいという案件もあれば、事業の方向性は決まっているので営業戦略やマーケティング戦略を立案してほしいという案件もありますし、すでにテーマも戦略も決まっているので、現場で実行・運用してほしいというケースもあります。
「在宅でできる副業」というと、データ入力やプログラミング、Webデザイン、SNS運用などといった、実行・運用フェーズの案件が多いと思われるかもしれません。実際、そういう副業案件は多く、本業での知見を活かして活躍している人も多いです。
その一方で、事業企画や戦術の立案などの業務を副業人材に任せたいという案件も、実は少なくありません。特にサンカクにおいては、事業拡大や事業変革を目指す地方の中堅・中小企業の案件を扱っているため、事業開発、商品企画、DX・IT施策支援、マーケティング(戦略、計画、運用)、販路拡大(営業戦略、営業)など、戦略・戦術系の募集が多いのが特徴です。
例えば、とあるメーカーでは、「自社で商品開発をするとどうしてもコストや成形しやすさに引っ張られてしまうため、外部の人の自由で柔軟な発想がほしい」との思いから、オリジナル商品の企画開発を行ってくれる副業人材を募集。
食品製造販売を行う企業では、「これまでの強みを再定義し、何をコアに事業展開すればいいか戦略策定を支援してほしい」と事業企画、マーケティング戦略の副業人材を求めています。
地方企業の中には、いい商品やサービス、技術などを保有しているにもかかわらず、「拡販方法がわからない」「いい活用方法がわからない」などの理由で事業拡大できないケースが少なくありません。事業企画や商品企画、事業戦略立案などの経験がある人、もしくは興味を持っている人に、今後の可能性についてともに考えてほしいと願っている企業が多いのです。
企業に勤めるビジネスパーソンの中には、「大きなビジネスには携われるが、全体像が見えず、自分は歯車であると感じる」という人もいるようです。その点、地方企業の副業案件では、社長と一緒に本気になって成長戦略を考えたり、自身のスキルを活かして事業全体を動かしたりする経験を通して、自身の介在価値をリアルに感じることができるでしょう。
なお、サンカクの「ふるさと副業」では前述の事例のほか、次のような企画立案、戦術策定系の副業人材の募集が行われています。このような業務も在宅で副業が可能でしょう。
・売上拡大のための販路開拓、営業戦略
・売上ポートフォリオを変革させるためのEC強化
・全国拡販のためのデジタルマーケティング戦略、施策実行
・物流の業務改善、効率化
・会社の基盤となる組織開発、人材育成、採用支援
など
副業をキャリアに活かす方法

本業の経験を活かしながら、副業で経験スキルを高めている方もいます。同じ役割であっても、業界やプロジェクトの規模、チームにより、仕事のやり方も変わり、得られる知識や経験も変わります。例えば、本業では経営コンサルにお勤めの方は、副業先の社長と濃い密度でビジョンについて語り合い、経営者がどのような思考でリスクを取り、意思決定するのかを間近で見る経験を得たことが、本業での「大手企業の経営者向けの事業課題解決コンサルティング」にも活かせる経験となりました。このように副業で視野も広がり、結果的に本業での仕事の質が向上するといったメリットが期待できます。
一方で、副業は「興味はあるけれど未経験」の仕事にチャレンジする機会にもなっています。
新たにチャレンジしてみたい仕事があっても、自分に合う仕事かどうか分からないと一歩踏み出す事に躊躇される方もいらっしゃいます。副業であれば本業を持ちながらチャレンジできるので、自分に合う仕事なのか実践を通じて自信をつけていくこともできます。
企業側も、副業人材には経験だけでなく、どれだけの思いを持ってコミットしてくれるのかを重視する企業もあります。職種未経験であっても、熱意や意欲を買って仕事を任せてくれるケースもあるので、興味があるテーマや職種があればまず副業で着手してみるのはキャリア開発の一つの方法です。
人生100年時代においては、勤務先に頼らず自律的にキャリアを設計する必要がありますが、いろいろな副業を経験する中で、自身の新たな「キャリアの種」が見つかるかもしれません。未経験職種への転職を目指す際にも、副業で経験を積んでみてはいかがでしょうか。
副業を始める前に注意しておきたいこと

ビジネスパーソンとして視野が広がり、キャリアアップにもつながる副業ですが、注意点もあります。以下の点に注意して、副業を検討しましょう。
副業の所得が20万円を超えると、確定申告の必要がある
税法上は「副業」という言葉はありません。アルバイトや派遣社員として働いた場合は「給与所得」、個人事業主として副業を行った場合は「事業所得」、国が定めている9種類の所得に当てはまらないものを「雑所得」といいます。
副業を行い、確定申告をするかどうかの境目は、年間の所得が20万円を超えたかどうかです。売上などの「収入」から、仕入れなどの「経費」を差し引いた金額が20万円を超えた場合は、事業所得、雑所得を問わず、確定申告の必要があります。
副業が給与所得の場合でも、本業での給与以外の給与収入が20円万超の場合は確定申告が必要※です。
※給与の収入金額の合計額から、雑損控除、医療費控除、寄附金控除、基礎控除以外の各所得控除の合計額を差し引いた金額が150万円以下で、かつ、給与所得および退職所得以外の所得金額が20万円以下の人は、申告の必要はない。
業務委託内容に無理がないか、あらかじめ確認を
副業の多くは、副業先に雇用されるのではなく、個人事業主として副業を行う「事業所得」か「雑所得」のケースが多いと思われます。その場合、副業先と業務委託契約を結ぶことになりますが、その際、委託内容に無理がないかどうか、必ず確認しておきましょう。
企業側が求める業務範囲や責任範囲と、ビジネスパーソン側がイメージしている業務範囲・責任範囲に乖離があると、トラブルの素になります。初めに「これぐらいの時間で、これぐらいの範囲ならばできます」など、事前に明確に提示し話し合ったうえで契約内容を詰めることが大切です。
労働時間の超過に注意
本業以外に副業を持つことで、過重労働となり本業に支障をきたす可能性があります。本業と副業のバランスがうまく取れず、生活リズムを崩して健康を害してしまう人もいます。副業を選択する際には、無理なく続けられるか、本業に支障が出ないかを必ず確認するべきです。そのためにも、前述の業務委託内容については十分確認し、企業側と話し合っておきましょう。
そもそも勤務先が副業OKかどうか確認しよう
中には勤務先が副業を解禁していないのに、「大丈夫」と思い込み副業に踏み切ってしまい、後々問題になるケースがあります。副業が許可されているかどうか、就業規則などで確認しましょう。場合によっては申請が必要なケースもあるので、ルールを確認してから行動することが重要です。
ここまでご説明してきた通り、副業は収入を増やすだけでなく、本業を持ちながらビジネスパーソンとしての知見を増やしたり、キャリアの可能性を広げたりするのに役立ちます。「本業を持ちながら、本業では得られない体験をしたい」、「これまでのキャリアを大事にしたいが、どうしてもチャレンジしてみたい仕事がある」という人は、副業を通じて納得できるキャリアを見つけてみてはいかがでしょうか?
株式会社リクルート
HR領域プロダクトマネジメント室 HRエージェントプロダクトマネジメントグループ
藤井里江さん
新卒で通信教育系企業に入社し、プロジェクトマネージャーとして小学生向けの学習サイトや業務システムの刷新などのシステム開発に従事。その後、株式会社リクルートキャリア(現:株式会社リクルート)に入社し、転職準顕在層向けのキャアリア支援サービスであるサンカクでプロダクトマネージメント、マーケティングに従事。現在は、副業の事業開発、プロダクトマネージメントを担当。
監修:タクシア会計事務所代表税理士 木村三恵氏