仕事がつまらない、楽しくないモヤモヤはどう解決する?「自由すぎるサラリーマン」に聞く、仕事を楽しむ働き方のコツ

昨今、若手のビジネスパーソンの間で「仕事がつまらない」「楽しくない」という悩みを良く耳にします。「仕事なんてこんなもの」と割り切れれば楽になるのかもしれませんが、「本当は楽しく働きたい」と願っている人も多いのではないでしょうか。
そこでご登場いただいたのが、楽天大学学長の仲山進也さん。楽天の社員でありながら、出社の義務がない勤怠フリー&兼業フリーで、「仲山考材」という会社も経営するという、人呼んで「自由すぎるサラリーマン」です。ご自身の経験を元にした、現代のビジネスパーソンが仕事を楽しむ「働き方のヒント」を教えていただきました。

屋外を走る人
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「仕事がつまらない、楽しくない」モヤモヤの理由とは?

現代の働く人が「仕事がつまらない」と悩む原因は、大きく分けて「環境側」と「自分側」の2つがあると考えています。

環境側の原因は「仕事の価値が見えにくい」こと

藤野英人さん(レオス・キャピタルワークス会長兼社長)の表現をお借りすると、日本には2つのタイプの企業があります。ひとつは「令和5年型企業」、もうひとつは「昭和98年型企業」です。

令和5年型企業というのは、時代に即した価値を生み出しながら成長する会社。一方で昭和98年型企業とは、高度経済成長期の事業価値や組織形態が賞味期限切れになっているのに、それを引き延ばしながら令和の時代まで来てしまった会社です。今、特に辛そうに見えるのは、昭和98年型企業で働く人に多いと感じています。事業そのものが賞味期限切れでお客さんに価値提供ができていないことに加えて、社内では分業体制が確立し切っていて、見える範囲が狭いので、自分の仕事が何の役に立っているか全然わからない。仕事の本質が「他者に価値を提供して喜んでもらうこと」だとすると、そこから離れるほど仕事はつまらないし、楽しくなくなるのも無理はありません。

自分側の原因は「楽しくしようと考えていない」こと

とはいえ、「原因は環境にある」としか考えられないと、どんな会社に行っても「やっぱりつまらない」という状況になります。そもそも、何の工夫もすることなく、誰がやっても楽しい仕事なんてありません。そんな活動をしたいのであれば、お金を払ってエンタメサービスを受ける方がよいでしょう。

ここ最近、世の中がカオス化していることから「自分で考えて動ける自律型人材」の重要性が叫ばれるようになっていますが、「自分で考えて動く」とは何をどうすることなのかがあいまいです。

そこで「思考」という言葉について考えてみたいのですが、例えば、「仕事がつまらない」と思ったとします。「思う」こと自体は自然な心の動きなので、止めることはできません。ただ、そこで思ったことをそのまま「つまらない!」とアウトプットして終わるのでは成長につながりません。「思った」あとで「考える」ことが大切なのです。思ったことは受け入れた上で、「じゃあこう考えればもっと面白くなるかな?」と仮説を立て、試行し、検証する。「思ったあとで、考える」から「思考」なわけです。
ですから「アイデアを考える」ことができる人は、深刻になりません。うまくいかなかったら、まだやっていない別のアイデアを試せばよいだけなので、立ち止まって思い悩む暇がないのです。仕事がつまらないと思い悩むより前に、「自分の仕事を楽しくする工夫をしてきたか」を自問してみてほしいです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「つまらない、楽しくない」まま仕事を続けるとどうなる?

仕事がつまらない時は「面白くなる方法を考える」ことが重要だと言いました。だからやってはいけないのは、その逆で「思考停止」です。

具体的には、「仕事はつまらなくて当たり前」とか「給料=我慢料」と割り切ってしまうこと。そうなると、会社に言われたことだけやればお金がもらえる感覚に慣れていきます。そして、どんどん自分の頭で考えることをしなくなります。

「仕事はつまらないもの」と割り切って働き続けた結果、何が起こるかというと、定年してもなお「私は何をすれば良いのでしょうか?」という迷える60代が1人できあがるだけです。そうならないためにも、今から準備をしておきたいものです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「楽しい仕事」とはどんな仕事?

そもそも、「楽しい仕事」とはどのような仕事なのでしょうか?

楽しい仕事の基本は「好みの作業を増やすこと」

いきなり夢も希望もない話をするようですが、私は「あらゆる仕事は作業」だと考えています。モノを持ち上げる仕事は「筋肉細胞を動かす作業」ですし、企画を考えるのは「脳細胞を動かす作業」です。あとは、その作業にどのような「意味」を見出しているか。その「作業」と「意味」が仕事の要素です。それを次のように表現します。

仕事=作業×意味

人は「好みの作業」をしている時に楽しさを感じます。反対に「好みでない作業」をすると楽しくありません。そして1つの仕事は、「考える」「事務手続きをする」「人と話す」など、様々な作業が合わさってできています。ですから、目の前の仕事を楽しくするには、「好みでない作業を減らすこと」と「好みの作業を増やすこと」が重要です。その技を身につけるためのヒントは後述しましょう。

仕事とは「お客さんに喜んでもらうゲーム」と考える

「好みの作業」と並んで、楽しい仕事に重要なのが「意味」です。
色々な研究から、人は「楽しさ」「社会的意義」「成長可能性」の3つを動機に働けばハッピーになれるとされています。「社会的意義」というと大上段なイメージですが、これは「相手に価値を提供すること」くらいの理解でいいでしょう。

相手に価値を届ける仕事をしていると、感謝されるようになります。私は「お客さんからのありがとう」を「魂のごちそう」、略して「たまごち」と呼んでいます。
「たまごち」をもらえると、仕事が心底楽しくなり「もっと喜んでもらうには?」と工夫することで成長につながり、それによって「ハッピーに働ける3つの動機」が自然に揃ってしまいます。私は「たまごち」をゲットしたことで、仕事の夢中スイッチが入った人を何人も見てきました。自分自身も、あまりのおいしさに「たまごち」ジャンキーになりました。
その意味で、仕事を楽しむために重要なのは、「お客さんに喜んでもらうゲーム」をプレーすることだと言えるでしょう。

オフィスにて握手をする人たち
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「仕事を楽しむ働き方」を実現するためには

残念ながら「これですぐ仕事が楽しくなる!」という方法はありません。しかし、「足し算」と「引き算」という2つの働き方ステージで自身を進化・成長させていけば、きっと仕事を楽しむ働き方を実現することができるでしょう。

【足し算ステージ】えり好みせずにできることを増やす

まずは、苦手なことでも「できるまで」やってみるのが「足し算ステージ」です。時期は人によっても違いはありますが、ざっくり言うと20代の間くらいでしょうか。

●「量稽古」で経験の裾野を広げる

命じられた仕事にえり好みせず取り組むことで、できることを増やし、できないことを減らしていきます。「こんな仕事は向かない」と思っても、まずは言われたとおりやってみて、できるようになってから判断すればいいのです。いろいろな仕事を経験することで、「好みの作業」と「好みではない作業」がわかっていきます。特に「好みでない作業」をどんどんリストアップしていくことに意義があります。

目の前の「苦手な仕事」を深掘りすると「希少価値」につながることがあります。
私は「人前で話す」作業が苦手ですが、26歳の時に「楽天大学」を立ち上げ、講師業を務めることになりました。そこで、人前に出ることは受け入れつつ、なるべく話さなくて済む方法がないかと考え、数年かけて「参加者同士で話せるお題を提供する」という方法を編み出しました。その結果、自分が好きな「お題を考える」作業が増え、「人前で話す」作業を大幅に減らすことに成功し、しかも「話さない講師」+「参加者の学び合いが進みやすい講座」という独自スタイルを確立することができました。こうして自分の「好みの作業」に合わせたチューニングができるようになると、仕事は楽しくなってきます。

●お客さんに価値をお届けして直接「たまごち」をもらう

仕事をする中で、自分の「好みの作業」で価値をつくり、お客さんに「直接お届け」する経験をなるべく多く積みましょう。例えば営業なら「商品の価値」とは別に、「業界情報」だったり「商品活用のコツ」だったり、何でもよいので自分でつくった価値を提供するのです。どんなに小さくても、「自分でつくった価値を、自分で届けて、直接フィードバックをもらう」という「一気通貫」型の仕事を経験することに意味があります。それによって「全体像」がわかった上で工夫をこらし、徐々に強みが浮かび上がり、自分の仕事に責任を持つという姿勢が身についていくからです。

社外のお客さんと接する機会のない仕事をしている人は、会社の中で「自分の次の工程をする人」をお客さんとすることもできます。例えば人事の仕事は、社員がお客さんです(直属の上司のことではありません)。工場のライン担当者なら、自分の後工程の人がお客さんです。
それも難しい場合は副業を、副業が禁止ならボランティアでもいいので、一気通貫でお客さんに価値を提供することに取り組んでみましょう。それにより「たまごち」をもらう経験こそが、仕事の本質を知るための第一歩になります。

【引き算ステージ】得意ではない仕事を手放して強みに集中する

足し算ステージでたくさんの「たまごち」をもらい、自分の強みが浮かび上がってきたら、「引き算ステージ」に進むタイミング。培ったものを強みとして磨くために、今度はいらないものを手放していきます。

●「やりたくない作業」を周囲に振る

足し算ステージを進めると、色々な仕事を頼まれるようになり、どこかでキャパオーバーになる瞬間がきます。はみ出した部分を工夫して取り組むうちに、なんとかキャパの範囲でやりきることができるようになったとしましょう。そのときは、何らかの強みが発揮されたことで生産性が上がったと言えます。これが「強みが浮かび上がってきた瞬間」です。
そこで、この強みを磨きにかかります。つまり、強みとは関係のない「自分より他人がやったほうがよいこと」は手放したり、得意な人に引き取ってもらったり、そもそもその仕事が発生しないように工夫するなどして、引き算していきます。仕事量を減らすのではなく、強みを磨くことにつながる仕事を選び取っていくイメージです。

●「自己中心的利他」の状態をつくる

苦手な仕事を手放すのは、他人に押し付けたり放棄したりすることとは違います。自分が「やりたくて得意なこと」で価値を生み出し、お客さんや周囲の人に喜ばれる活動をし続けていれば、社内で「あいつにはあの得意なことをやっておいてもらうほうが周りもありがたい」と思われるようになります。さらに得意な仕事が増えてくると、周りの人が「苦手な仕事はこっちで引き取ってあげよう」ということが起こります。そうやって、自分の「やりたくて得意なこと」をやるほど、お客さんはますます喜んでくれる方向に物事が回り出します。この仕事のスタイルを、私は「自己中心的利他」と呼んでいます。

目安として、30代のうちにこの「自己中心的利他」を確立できれば、とりあえずどんな環境にいても、「楽しみながら食べていける人」「仕事を通じて学びながらお給料がもらえる人」になれるのではないかと思います。

「お客さんに喜んでもらうゲーム」が現職では難しいと感じたら

仕事を「お客さんに喜んでもらうゲーム」だとすると、最初にお話ししたような昭和98年型の企業でお客さんの顔が全く見えない部門に配属されている場合、「自分は最初から難易度の高いゲームに取り組んでいるのだな」と自覚することが肝要です。

もちろん、どのような環境でも「足し算ステージ」を実行すれば経験を積むことができます。また、工夫すれば「自分のお客さん」を持つこともできるでしょう。しかし、今の環境で得られるものがなくなった段階で、「やっぱりこのゲームは難しすぎる」と感じたら、もっとプレーしやすい環境を求めて転職してもいいかもしれません。

ただし、「面白い仕事をやらせてもらえないから他に行く」という受け身の姿勢だと、また同じ事の繰り返しになります。自ら働き方を変えながら進化し、軸となる強みを手に入れてこそ、「楽しく働く」を実現できるということを忘れないでいただければ幸いです。

プロフィール

仲山進也(なかやま・しんや)

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、創業期(社員20 名)の楽天に入社。「楽天大学」を設立し、出店者コミュニティの醸成を手がける。楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業・勤怠自由)となり、仲山考材を設立、考える材料を提供する。「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人」を増やすことがミッション。「仕事を遊ぼう」がモットー。著書に『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター)、『「組織のネコ」という働き方』(翔泳社)、『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』(講談社)など。

取材・文・編集:鈴木恵美子
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