「リーダーシップを身につけたい」「今の職場でリーダーシップを評価してもらい」と、悩む方は少なくないようです。そこで今回は『リーダーシップで面白いほど結果が出る本』の著者であり、企業の組織マネジメントに詳しい川原慎也さんにリーダーシップを発揮するために必要なスキルやトレーニング方法について伺いました。

目次
リーダーシップとは、組織に「変化」をもたらすこと
リーダーとは、管理によって組織(チーム)を「維持」するのではなく、リーダーシップを発揮して組織に「変化」をもたらすことを常に考える必要があります。リーダーは組織をまとめる役割を担いますが、メンバーを管理(コントロール)するだけでは強いチームをつくることはできません。
つまり、「リーダーシップ」とは、「変革」の原動力となることなのです。リーダーシップがある人は高い目標を掲げ、そこにたどり着くために仕事のやり方をどう変えるか、どうスキルを磨いていくかを考え、実行します。
なぜ、リーダーシップスキルが求められるのか
近年、企業や組織に「変革」を起こすリーダーシップが強く求められるようになってきました。少子高齢化が進む日本では、国内マーケットにおける事業の大幅な成長が見込めず、伝統的な産業が衰退へ向かう中、時代に合わせて事業を変革していく必要があります。
さらには、労働人口の減少により、人材採用も難しくなっていきます。人材を確保できない状況で、限られた人数で事業を運営していく必要があるわけです。多様な人材が働けるように、政府主導の「働き方改革」も進められています。
また、生産性を高めるため、仕事のやり方を大きく変える転換期を迎えており、その手段としてDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みも活発化しています。
しかし、仕事のやり方やビジネスモデルを変革しようにも、大企業の経営陣は「現場の状況」を正確に把握できていないケースが少なくありません。そのため、現場を知るリーダーがリーダーシップを発揮し、変革を主導していくことが求められているのです。
リーダーシップとマネジメントの違い
私は、リーダーシップとマネジメントには、本質的な違いがあると考えます。
●リーダーシップの本質 → 針路の策定
ビジョンと戦略を作り上げ、メンバーを動機づける
●マネジメントの本質 → 計画の策定
目標達成のための課題を解決する
マネジャーの役職に就き、マネジメントの役割を果たしていても、リーダーシップを発揮できていない人は少なくありません。優れたリーダーは、リーダーシップの能力とマネジメント能力を兼ね備えています。
近年はビジネス環境の変化が激しくなっています。変化に応じて仕事のやり方を常に変革していく必要があるこれからの時代、単に「マネジメント」をこなす管理職よりも、リーダーシップを発揮できる人材がより求められているのです。
リーダーシップを発揮するために必要な3つの力
リーダーのポジションに就く人がリーダーシップを発揮するためには、次の3つの力を鍛えることをお勧めします。
構想力:戦略構想する力
前提として、リーダーシップを発揮できるかどうかは、本気で「結果」を出そうする気持ちがあるかどうかにかかっています。仕事で結果を出せない人にリーダーは務まりませんし、メンバーもついてきません。結果を出すための第一歩は、戦略を構想することです。
推進力:構想を行動に転換する力
戦略を構想しただけでは成果に結びつきません。ゴールに向かう道筋をメンバーに示し、「勝てるイメージ」を持たせ、奮い立たせる必要があります。そこまでして、「構想」を「行動」に転換できるのです。このときに最も重要なのは「コミュニケーション」です。
育成力:メンバーの成長を促す力
構想力と推進力で結果を出せるようになったら、その状態を持続させなければなりません。そのためには、メンバーの成長を促す育成力が求められます。「リーダーがいなくてもチームは動く」状態を作り上げるのです。このように「後任」が育てば、自身もキャリアの階段を一歩上がることができるでしょう。

リーダーシップ能力を高めるトレーニング方法
先に挙げた3つの力は、まだリーダーのポジションに就いていなくても鍛えることができます。日々の仕事や生活の中でできるトレーニング方法をお伝えします。
1.構想力を鍛える
戦略を構想するためのベースとなるのが「気づき」と「インプット」。構想力を鍛えるためには「考える」ことが不可欠ですが、考えるためにはインプットが必要です。情報を収集し、新たな知識を身につけなければ、アウトプット(成果)につながりません。
「インプット」と聞くと、ニュース・Webサイト・書籍などで情報・知識を得たり、セミナーや勉強会などで学んだりする行動をイメージするのではないでしょうか。それももちろん有効ですが、まずは自身の担当業務を通じて「気づいたこと」をヒントに、情報を集めることをお勧めします。
社会人は自分の会社・職場しか見ていないこと、視野が狭くなっていることがあります。意識的に業界全体に視野を広げ、自社の立ち位置を確認してみてください。そして、自社より業績好調な競合他社に注目し、戦略や仕組みなどを調べ、分析するのです。
「あの会社はなぜうまくいっているのか」「自社と何が違うのか」という疑問に対する答えを探せば、それはインプットにつながります。さらに、そのインプットをもとに、「自社のどこを変えればいいのか」「他社の優れた点を自社にどう取り入れればいいのか」まで考えてみましょう。
こうした「気づき」→「インプット」は、プライベートのシーンでも増やすことができます。例えば、飲食店に入ったとき、「この店の雰囲気がいいな」と感じたら、「何がいいのか」を考えてみるといいでしょう。
もう少し具体的に言うと、アパレルショップに入ると店員に声をかけられることがありますよね。わずらわしく感じてすぐに店を出てしまうこともあれば、会話が弾んで進められたものを買ってしまうこともあるのではないでしょうか。そんなとき、「店員の声のかけ方・接し方の何が違っていたのか」を考えてみるのです。
「エンターテインメント性がある」「ホスピタリティが高い」など、人気が高いお店やスポットなどの情報を耳にしたら、その「要素」を分解してみるだけでもインプットになります。
2.推進力を鍛える
チームが目標に向けて計画を実行するためには、メンバー一人ひとりがその内容を「理解」し、「納得」する必要があります。つまり、メンバーに「リーダーが何を言っているのかよくわからない」と思われたら、先に進めないということです。
ビジネスにおいて、物事を理解させるためには論理的な説明が必要です。よく言われる「論理的思考(ロジカルシンキング)」は、コンサルタントや企画などの職種に限らず、リーダーを務める人には欠かせないスキルと言えるでしょう。
論理的に考えるためには、フレームワーク(思考の枠組み)を活用する方法もあります。論理的思考の基本ともいえるフレームワーク「MECE(ミーシ―)」を学び、自身の仕事の中で実践してみるトレーニングも役立ちます。
フレームワークにはさまざまな種類があります。例えば「3C分析」「ファイブフォース分析」「SWOT分析」「4P分析」など。業務内容に合わせ、有効な手法を取り入れてみてはいかがでしょうか。フレームワークを活用することで、余計な議論を減らして効率化を図ることで、スピーディに推進できるようになります。メンバーの理解・納得も得られるでしょう。
先にも触れたとおり、これからの時代のリーダーには「変革」が求められます。ところが、これまでのやり方などを変えると、すぐには成果が表れず、「やりにくいから元に戻そう」という力が働きます。しかし、やり続けなければ成果にはつながりません。自身の業務のやり方を「変革」させ、最初は慣れずに苦労としたとしても「やり続ける」ことにチャレンジしていただきたいと思います。
3.育成力を鍛える
リーダーを務める育成力を鍛えたいが、今の自分には指導する相手(後輩など)がいないという人も、育成力のベースを磨くことはできます。それは「自分の心を整える方法を知っておく」ということです。
皆さんの周りにいる上司を思い浮かべてみてください。不機嫌そうな顔で出社してくる課長や部長はいないでしょうか。部下が「おはようございます」と挨拶しても、ぶっきらぼうに返事をするような上司がいる職場ではメンバーのパフォーマンスは上がりません。
快適な職場環境を保ってこそ、メンバーはモチベーション高く仕事に取り組むことができ、成長が促進されます。ですから、リーダーは自分の心を整える必要があるのです。「今、自分は不機嫌だな」と、自分の感情を認知し、自分の心の状態を客観視するだけでも、気持ちをほぐすことができます。
無理やり「プラス思考」にする必要はありません。心のベクトルが少しでもマイナスからプラスに転じるように、自分なりに心のスイッチを用意しておきましょう。それは気持ちを落ち着かせる言葉でも、思い浮かべると気分が晴れる情景でもかまいません。
また、笑顔をつくるだけでも、憂うつな気分が晴れることもあります。自分が心を平静に保つツボを知っておけば、自身の能力を十分に発揮できるでしょう。
「変わる」ことを意識しよう
これまでお伝えしたとおり、これからの時代のリーダーには「変革を推進する力」が求められます。
しかし、「変わろう」と思っていない人が多いのが現実です。今の組織にいて「変えたほうがいい」「変えるべきだ」という点に気づき、周囲に働きかけていくことを意識してみてはいかがでしょうか。
自ら「変革」に向けて動き出す。それによってリーダーシップが養われ、この先のキャリアを積んでいく中で「求められるリーダー人材」へと成長できるでしょう。
みなとみらいコンサルティング株式会社
代表取締役 川原 慎也(かわはら・しんや)氏
米国自動車メーカー日本法人、国内大手コンサルティングファームを経てみなとみらいコンサルティング株式会社を設立。中小企業に強みを持つ同社のコンサルティング領域を、戦略立案から実行支援まで一気通貫で落とし込む展開スキームを確立することで、中堅~大手企業にまで拡大させてきた第一人者。クライアント企業のスタッフと共に変革を推進していくコンサルティングスタイルは、「結果的に次世代リーダーの輩出に繋がった」と数多くの高い評価を獲得している。著書に、17万部のヒットとなった『これだけ!PDCA』(すばる舎リンケージ)、『リーダーシップで面白いほど結果が出る本』(あさ出版)など。▷ みなとみらいコンサルティング株式会社 公式サイト