「職場がゆるい」と感じたらどうする?若手社員はキャリアをどう考えればいい?

先ごろリクルートワークス研究所が発表した調査によると、大手企業の新入社員のうち実に36%が「職場がゆるい」と感じていることがわかりました。大手勤務に限らず、「職場がゆるいから成長できないのではないか」と不安に感じている若手ビジネスパーソンは決して少なくないようです。

「職場がゆるい」と感じる理由は何か、ゆるい職場で働き続けるメリット・デメリット、どうアクションを起こすべきかなどについて、この調査に携わった古屋星斗さんに詳しく伺いました。

ゆるい職場イメージカット

大手新入社員の36.4%が「職場がゆるい」と回答

1000人以上の企業で大卒以上の新卒1~3年目正社員に対して行った「大手企業における若手育成状況検証調査」(2022年3月実施)によると、「現在の職場を『ゆるい』と感じるか?」という質問に対し、実に36.4%の人が「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答していることがわかりました。

「現在の職場をゆるいと感じるか」円グラフ
出典:職場が「ゆる」くて、辞めたくなる

この調査を実施したのは、昨年末に別のテーマで大手企業の若手社員にグループインタビューを行った際、何人かの社員から「職場がゆるい」との意見が出たことがきっかけ。「職場が学生時代に近しい雰囲気で肩透かし」「上司に詰められないし怒られもしない」などの声が上がり、驚かされたのです。
私は2011年に社会人になりましたが、当時職場に対して「ゆるい」なんて感じたことはありませんでしたし、そもそも職場に対して「ゆるい」という表現が当てはまるとも思っていませんでした。

そこで、実際のところはどうなのか確認するために本調査を実施したところ、先のような結果が明らかになりました。若手ビジネスパーソンを取り巻く職場環境に、構造的な変化が起こっているのではないかという仮説を立て研究を進めたところ、さまざまなことがわかってきました。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

若手社員が「職場がゆるい」と感じる理由とは?

「職場がゆるい」と感じる若手が増えている背景には、ここ数年で労働に関する法整備が一気に進んだことがあります。

2013年に「ブラック企業」という言葉が新語・流行語大賞のトップ10に選出されましたが、それを機に政府が法整備に動き、2015年に「若者雇用促進法」が施行されました。これにより、平均勤続年数や平均残業時間、有給取得率など、労働条件に関するデータの積極的な開示が義務付けられました。

2018年には「働き方改革関連法」が成立し、日本のはじめて時間外労働に上限が設けられました。そして2020年には大企業にパワーハラスメントの防止措置が義務付けられ、2022年4月からは中小企業にも適用。そして今秋からは産後パパ育休が施行予定で、男性でも段階的な育休が取得できるようになります。

変化の渦中にいるとなかなか気づけませんが、ターニングポイントとなるような大きな法改正が立て続けに行われたことで、労働環境が急速に改善。労働時間が短くなったり、パワハラにつながるような「しごいて鍛える」育成が許されなくなったり、若手に対して必要以上にサポーティブになったりと、数年前に比べて職場環境が激変しています。

職場環境が改善されたこと自体は、ビジネスパーソンにとって間違いなく良いことです。なのに「職場がゆるい」と感じる若手が多いのは、現代の若手は過去と比較して入社前の社会的活動経験が豊富であり、それらの体験と今とを比較しているからだと考えられます。

2021年11月に実施した「大手企業新入社会人の就労状況定量調査」(※1)によると、調査対象である2019~2021年卒の若手社員のうち、46.2%の人が複数の企業・職場を見学していて、20.8%の人が複数の企業や社会人が参加するイベントの主催・運営を経験しています。期間が1カ月以上にわたる長期インターンシップを経験した人も10.5%に上っています。

入社前の社会的活動の実施率

(※1)サンプルサイズ 2680。対象:大学・大学院卒、就業年数3年未満、初職・現職が正規雇用者であり従業員数1000人以上の就業者(サンプルサイズ967)。
出典:新入社員の多様化を象徴する「入社前の社会的活動」

このような入社前の社会的経験が比較の視座を生み、「想像よりも職場がゆるすぎる」という感想につながっていると考えられます。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

ゆるいと感じる職場にい続けると、どうなる?

「大手企業における若手育成状況検証調査」において、「ゆるいと感じる」職場に何も行動を起こさずい続けると、あまりいい状況にはならない…という検証結果(※2)があります。

「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できないと感じる」という項目に対し、「強くそう思う」「そう思う」と回答した人の合計は、職場がゆるいと感じている人ほど高いという結果になり、「ゆるいと感じる」と答えた人においては62.6%に達しました。

つまり、ゆるいと感じる職場にそのまま居続けると、多くの場合「成長できないのではないか」という不安感も続く、ということ。そのような不安を抱きながら長く居続けるのはそもそも難しく、持続可能ではないと判断できます。

また実際、職場がゆるいと感じている人は、現在の会社との関係性を2~3年程度の短期的なものと捉えていることがわかっています。「すぐにでも退職したい」が16.0%、「2~3年は働き続けたい」に至っては41.2%に達しており、合わせて57.2%もの人がごく短い期間の在職イメージしか持っていないことがわかります。

(※2)出典:職場が「ゆる」くて、辞めたくなる

なお、社員のワーク・エンゲージメントにプラスの影響を与える2つの要素、「職場の心理的安全性」と「職場のキャリア安全性」からアプローチした分析結果もあります。これによると、職場環境と若手の就労・仕事状況には密接な関係があり、ゆるい職場に居続けると仕事から得られるものが少なくなるという結果が出ています。詳しくは以下のレポートをご覧ください。

リクルートワークス研究所「心理的安全性が高いだけの職場では、若手は活躍できない」

職場がゆるいと感じたら…どんなアクションを取るべき?

職場で雑談するビジネスパーソンのイメージカット

「職場がゆるくて成長できそうにない」と悶々としていても、環境は変わらないので何も解決しません。自分から何らかのアクションを起こす必要があります。

幸い、今はとてもアクションを起こしやすい環境があります。残業削減で業務時間は減り、リモートワーク拡大の影響もあり飲み会やイベントなど会社の人間関係に費やす時間も減り、自由になる時間が増えています。

言い方を変えれば、「会社が若手を丸抱えして育ててくれなくなっている」とも言えます。会社と若手との接点が減り、コミュニケーションスタイルも急速に変わり、厳しい指導や?責もしにくいので、若手の育成・指導自体に半ばあきらめの気持ちを持っている管理職の方も少なくありません。

このような状況下では、職場だけに頼らず自ら成長機会を取りに行く姿勢が一層重要になります。そして社内・社外の両方でアクションを起こすことが大切です。

社外の勉強会に参加したり副業にチャレンジしたりして視野を広げる

「社外のアクション」としては、例えば社外で開催されている勉強会やセミナーに参加したり、副業・兼業を始めたり、プロボノにチャレンジしたりする、などが考えられます。社外の人との接点を増やすことで学びの機会を増やし、視野を広げるきっかけになります。

社外との接点を増やす過程で、どんな職場や仕事が向いているのか、自分を成長させてくれそうかを判断する軸が明確になっていきます。自分にフィットする職場に必要な要素とはなにか。「ゆるい」「ゆるくない」から掘り下げて本当に自分にとって大切なことを見定めることは、転職をする際にも役立つでしょう。

社内のリソースを活用し倒して自ら成長機会を得る

たとえ職場がゆるかったとしても、実は社内でできることはたくさんあります。
実際の事例ですが、社内横断で若手を集め、ビジネスコンテストを主宰したり、外部講師を招いた講演会を行ったり、自社の会長や社長を招いて若手との意見交換を催したりしている大手企業の職場横断の有志団体があります。このように、アイディア次第で会社のリソースを使った取り組みはいくらでも可能です。

別の会社のある若手社員は、別の部署で成長している同期社員に「今の職場でどんな仕事を任され、どんな育成をされているのか」ヒアリングを行い、それを書き出して自分の上司に提出し「こんなふうに鍛え、育ててほしい」と直訴したそうです。ゆるい職場にいることへのすさまじい危機感が伝わりますが、このように声を上げることはとても重要。実際、この人の場合は上司から「よく伝えてくれた」と感謝されたそうです。

自分に助言をくれ、鍛えてくれそうな人を社内で探し、その人たちに毎週「今週どんな仕事をしたか」業務報告書を送っているという若手もいました。今の時代のキャリア構築には「会社を使い倒して自ら成長する」という視点も大切です。上司側も若手との距離感を掴みかねています。直接伝えることで、上司側も若手と向き合うスタンスをつかむきっかけになるのですから、それは感謝しますよね。

キャリアの選択権は完全に個人に。自分が成長できる環境を探す姿勢が大切

「ゆるいと感じる」職場は今後も減ることはないでしょう。前述のように、ゆるい職場の増加は法整備が大きく影響しているため、今後は中小企業などすべての企業への適用が進むことで、ゆるい職場は相対的に増えると考えられます。不可逆な変化なのです。

そんな時代においては、従来の「会社に育ててもらうスタンス」は通用しません。会社を使って自ら成長するのはもちろん、「自分が成長できる環境を探して、働く場所を自ら作っていく」というフットワークの良さも必要になるでしょう。

その際、「自分が使いこなせそうな会社=キャリア支援の選択肢が多そうな会社」を選ぶのは一つのポイント。例えば、社内のポスト公募制度や他社留学制度(交換留職制度)がある企業や、グループ企業への出向制度がある企業などは、自分の希望次第、アクション次第でさまざまな経験を積めそうです。

「自分で選択しアクションを起こさなければ、思うような成長ができない」現状について、ハードと感じるかもしれません。しかし、会社に命じられることを唯々諾々とこなすのではなく、自分の可能性を広げながら成長できるようになったと捉えることもできます。いま若い世代に与えられ始めた「キャリアの選択権」を活かして、どんどん職業人生を楽しく広げていってほしいと思います。

 

古屋星斗さん リクルートワークス研究所 主任研究員

古屋星斗さんプロフィール写真2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、「未来投資戦略」策定などに携わる。2017年4月より現職。労働市場について分析するとともに、学生・若手社会人の就業や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究する。「ゆるい職場」論の提唱者。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。

EDIT&WRITING:伊藤理子

 

 

PC_goodpoint_banner2

Pagetop