ガバナンスとは?働く個人が確認しておきたいポイント

「ガバナンス(コーポレートガバナンス)」という言葉はよく耳にするけれど、どういうものを指しているのか詳しくは理解していない…という人は多いのでは?「自分には関係のないこと」と捉えている人もいることでしょう。しかし、実は働く個人に大いに関わりがあることなのです。

ガバナンスとは何か、働く個人がチェックしておいたほうがいいこととは何か、東京都立大学教授でガバナンスに関する著書も多い、松田千恵子さんに伺いました。

ガバナンスのイメージカット
Photo by Adobe Stock

東京都立大学大学院経営学研究科 教授、東京都立大学 経済経営学部教授 松田千恵子さん松田 千恵子さん
東京都立大学 大学院 経営学研究科 教授、東京都立大学 経済経営学部 教授

株式会社日本長期信用銀行にて国際審査、海外営業等を担当後、ムーディーズジャパン株式会社格付けアナリストを経て、株式会社コーポレイトディレクション、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン株式会社でパートナーを務める。企業経営と資本市場にかかわる実務、研究および教育に注力している。『これならわかる コーポレートガバナンスの教科書()』『ESG経営を強くする コーポレートガバナンスの実践()』『サステナブル経営とコーポレートガバナンスの進化()』(すべて日経BP)など著書多数。

ガバナンスとは?

ガバナンス(governance)とは、関係者と当事者のお互いの関係の中で方向性などを決めていくことを表す言葉。企業経営に関連して使われることが多く、企業経営においてより良い将来に向けた判断・運営がなされるよう関係者間で考え、チェックする仕組みのことを「コーポレートガバナンス」と呼びます。

企業(経営者)をチェックするのは、企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者)。ステークホルダーは株主、顧客、従業員、取引先などが挙げられますが、まず大事なのは「株主」と「取締役会」。この2者と経営者との関係が重要です。

なぜ、この2者なのかは、企業を「船」に例えるとわかりやすいでしょう。

株主は、お金を出して船を建造した、あるいは購入した所有者。しかし、自分たちには船を操縦する力はないので、船長にかじ取りをしてもらう必要があります。その船長が、経営者です。
基本的には、プロである船長に操縦を任せますが、間違った方向に向かったりしないか、不正なことを行っていないかなどを確かめ、律するのは所有者の大切な役割です。

ただ、あくまで「所有者」であり、ずっと船内にいるわけではないので、四六時中、船長である経営者のそばにいてチェックし続けることはできません。そのため、代わりに船に乗り込み船長をチェックするのが「取締役会」です。

取締役会は、株主総会で選任された3名以上の取締役による意思決定機関。経営者は3カ月に1回以上、職務の状況を取締役会に報告する必要があると会社法で定められています。これにより、株主の目の届かない部分を、取締役会がチェックしています。

「内部統制」「コンプライアンス」「リスクマネジメント」とはどう違う?

ガバナンスと似たような言葉に「内部統制」「コンプライアンス」「リスクマネジメント」があります。混同している人が少なくありませんが、それぞれ違う意味を持っていますので、整理しておきましょう。

内部統制

内部統制とは、企業の不祥事を防ぎ、業務の適正を確保するための社内体制のこと。ガバナンスを強化するためには内部統制の構築・整備が重要ですが、ガバナンスと大きく異なるのは、経営者がチェックされるのではなく「経営者が従業員をチェックする」という点です。

企業が大きくなればなるほど、経営者が自分で実際の業務を行うのではなく、それらは従業員に任されることになります。任された従業員がきちんと業務を行っているのかを確かめるのが内部統制です。1人の従業員が起こした不祥事が、会社の屋台骨を揺るがすこともあります。このような事態を防ぐためにも、企業が正しく経営目標を達成するために必要なルール・仕組みを整備して、適切に運用できるようにするといった、内部統制システムを構築する必要があります。

内部統制の目的としては、以下の4つの要素があります。

  1. コンプライアンス
    法令、基準、行動規範等の遵守のための仕組みを構築し、遵守を促進すること
  2. 資産保全
    資産を正当な手続きと承認のもとで運用し、無駄な減少を防ぐこと
  3. 業務の効率性・有効性
    会社の業務をより無駄なく、より正確に実施すること
  4. 財務報告の信頼性
    財務諸表や関連する開示情報に虚偽記載が無いようにし、信頼性を確保すること

1のコンプライアンスも、ガバナンスと混同されるケースが多い言葉なので、次項で改めて紹介します。

コンプライアンス

コンプライアンスとは「法令遵守」のこと。しかし法令を守ることだけでなく、勤務先のルールである社内規範を守ることや、社会的に求められる基準や道徳を守ったりすることも、コンプライアンスに含まれます。

前項で触れたように、コンプライアンスは内部統制の一環であり、経営者が従業員をチェックするための項目の一つです。そして、内部統制はガバナンスによって規律付けられる経営者が、業務を任せている従業員を規律付けているのかを問うものですから、コンプライアンスは「ガバナンスの一部」ということもできます。

※コンプライアンスについての詳しい解説は、次の記事も参考にしてください。
関連記事:「コンプライアンス」とは?ビジネスパーソンこそ注意すべき理由

リスクマネジメント

リスクマネジメントとは、想定されるリスクを洗い出し、評価し、それに対応していくこと。
企業は利益を生み出すために戦略を練り、目標を立ててそれを追求しますが、利益を追求すれば必ずリスクもついて回ります。そのリスクを把握しマネジメントすることで、リスク発生時の損失を最小限に抑えることができます。

つまり、リスクマネジメントの概念は非常に大きく、企業経営におけるあらゆるリスクを管理する行為すべてがリスクマネジメントに当たります。したがって、内部統制も、その中に含まれるコンプライアンスも、いずれもリスクマネジメントの一環であると言えます。

※リスクマネジメントについての詳しい解説は、次の記事も参考にしてください。
関連記事:全然他人事じゃない…「リスクマネジメント」って何をすればいいの?

なぜコーポレートガバナンスが注目されているのか?

コーポレートガバナンスが今まで以上に注目されている理由としては、企業を取り巻く環境が急速に変化していて、経営者の意思決定が企業の命運を左右するようになったことが挙げられます。

再び、企業を船に例えてみましょう。
晴れ渡り見通しも良く、凪いでいる海であれば、船長(経営者)の意思決定が必要になることはそれほど多くありません。デッキを掃除したり、ロープを片づけたりといった日頃の現場におけるオペレーショナル・エクセレンス(業務オペレーションを磨き上げ競争上の優位性になっている状態)がその船のクオリティを決めます。日本経済が右肩上がりに成長していたときには、そのような例えが当てはまったかもしれません。

しかし現在は、変化が激しく先行きが不透明な「VUCA」の時代。先の見えない真っ暗闇の中、荒れ放題の海原を突き進んでいく必要があるため、船長である経営者の意思決定次第では利益だけでなく社会的な信用も失い、船=企業が沈没してしまう恐れもあります。

経営者の意思決定の重みが増している今、もしもその経営者が間違った判断をしたり、暴走してしまったりしたときに備え、チェックする力も強化しなければなりません。経営の健全性を確保し、変化の波に臨機応変に対応して成長し続けるためには、コーポレートガバナンスの強化が必須なのです。

ガバナンスが効いた会社で働くメリット

ガバナンスのイメージカット
Photo by Adobe Stock

一般的に、ガバナンスが効いている企業は、健全性、透明性の高い経営が行われることを通じて、企業価値が上がり業績も向上する、と期待されています。社会的に評価される好業績企業であれば、働く個人への利益還元も期待されますし、従業員というステークホルダー(利害関係者)に対する接し方についてもきちんと考える企業である可能性があります。そうした企業で働くほうが、仕事へのモチベーションも上がるでしょう。

そして、将来マネージャーになりたい若手ビジネスパーソンにとっては、特にメリットが大きいと言えます。

コーポレートガバナンスとは、マネジメントが適正に行われているかどうかをチェックすること。当然、マネジメント能力の高い人を抜擢、あるいは育成していくことが重要になります。したがってガバナンスが効いている企業では、次世代マネージャー候補を育成しようとする土壌が整っている可能性が高いでしょう。

若手にも早い段階から、経営人材としての知見を磨き、必要なスキルや知識をインプットし、さまざまな経験を詰めるよう道筋を整備していることが考えられます。「早くステップアップしたい」「VUCAの時代においても成果を出せるマネージャーになりたい」と考える若手ビジネスパーソンには、ガバナンスの整備を通じてマネジメント力の育成に熱心になっている会社はチャンスが多く、魅力的だと思われます。

本当にガバナンスが効いているのであれば、ステークホルダーとしての従業員にも十分に意を用いているはずですから、そうした会社であれば、働きやすいと感じることも多いでしょう。例えばハラスメント問題への対処などについてもきちんと考えているはず。若手が伸び伸び働き、力を発揮できる環境が整っている可能性を期待できます。

なお、「ガバナンスが効いていると保守的な経営になり、スピード感が失われる恐れがある」、あるいは「ステークホルダーに振り回され、経営者が正当な判断ができなくなる」などという指摘もありますが、それはそもそもガバナンスが効いている状態とは言えません。ガバナンスの参加者である株主や取締役会は脇役であり、ガバナンスの主役として経営を動かしているのはあくまで経営者だからです。

経営者が正当な判断ができなかったり、スピード感を失ったりしているのは、ガバナンスというよりもマネジメントそのものの問題です。ガバナンスがマネジメントにとって代わることはできませんので、ガバナンスが効いてさえいれば良いというものではなく、やはり最終的にはマネジメントの質の問題となってきます。ただ、ガバナンスが効くことによって質の低い経営者に退出を促す力がしっかり働いていれば、マネジメントの質の低さに振り回される懸念も少なくなると言えます。

したがって、働く個人の観点で言えば、ガバナンスが効いている会社で働くデメリットは極めて少ないと考えています。

ガバナンスが効いている会社の見極め方

ガバナンスが効いているかどうかを、社外から判断するのは難しいものです。外から見える部分を整えているだけで、実際にはガバナンスが機能していないというケースは残念ながら数多くあります。

ガバナンスが効いていそうだと期待して転職したら、実際は全く違っていた…などという事態を防ぐために、比較的簡単にできる見極め方を2つご紹介します。これが万能というわけではありませんが、参考にしてみてください。

執行役員の多様性をチェックする

ガバナンスのイメージカット
Photo by Adobe Stock

執行役員とは、業務を執行する役員のこと。ホームページなどに載っている執行役員の顔ぶれを見て、バックグラウンドに多様性があるかどうかを確認しましょう。

執行役員は、法的な役員ではありませんが、経営陣と現場との間に立ちパイプ役を務める存在なので、内部昇格で就任することも多く、執行役員の顔ぶれには、その会社が本当に持っている多様性の受容力などが反映されている可能性が高いのです。

取締役は、外部から著名な人材を招聘するケースが少なくありません。そのため、さまざまな経歴の人を呼んできて「当社はこんな多様な人材を揃えて意思決定しています」などとアピールするものの、実際は形だけというケースは少なくありません。実際、取締役の顔ぶれはバラエティーに富んでいるのに、執行役員は全員プロパーで同じような経歴の男性社員…なんていう企業はゴロゴロあります。

偏ったメンバーではなく、多様な人材が執行役員として参加している企業のほうがイノベーティブな意思決定をしている可能性が高く、経営の健全性や透明性も高いと判断できるでしょう。

従業員満足度や離職率などの人事系データを確認する

繰り返しになりますが、コーポレートガバナンスは、企業経営においてより良い将来に向けた判断・運営がなされるよう監視・チェックする仕組みのこと。従業員満足度や離職率などといったデータ類も、ガバナンスに関わる重要な項目としてチェックされます。

例えば従業員満足度が低いことが続けば、「従業員満足度が低い理由を追及せず放置している」と見なし、株主などが指摘しますし、就職しようとする若者も減るかもしれません。ステークホルダーとしての従業員を大切にしていないからです。したがって、ガバナンスが効いている企業であれば、すぐに策を講じ、数値改善に動くはずです。

つまり、他社に比べて従業員満足度が高い、離職率が低い企業(もしくはここ数年で大きく改善した企業、ただし離職率は業界などによってレベルは異なります)はきちんとガバナンスが成されている可能性が高いでしょう。なお、ある程度の企業規模なのにこれらの数値を公表さえしていない企業は、そもそも要注意と言えそうです。

ガバナンスを学ぶ=「経営を学ぶ」ということ

ガバナンスという言葉は耳にするけれど、自分と関連づけて考えたことがない…という人は多いと思います。

ただ、ガバナンスが求めているのは、健全な企業経営。すなわち、ガバナンスについて知ることは、イコール経営について学ぶということ。内部統制やコンプライアンスを含めたリスクマネジメントの方法、従業員の育成やエンゲージメント管理、経営戦略やファイナンスなど、経営に必須のスキルや知見を積むことができます。

経営に関する知識は、将来マネジメントサイドを目指す人はもちろん、企業を見る目が養われるため普段の業務にも役立ちます。ビジネスに必要な基礎知識として、ぜひガバナンスを学んでみてほしいですね。

\(無料)あなたの知らない自分を発見できる/
自己分析ツール「グッドポイント診断」はこちら 

EDIT&WRITING:伊藤理子
PC_goodpoint_banner2

Pagetop