承認欲求の正体を知って、良い方向にコントロールする

よく耳にする「承認欲求」という言葉。実際にはどういう欲求なのか、どうコントロールすればいいのか、SNS時代の今こそ知っておきたい承認欲求について、アドラー心理学を提唱する心理カウンセラー、企業研修講師の小倉広氏に話を伺いました。

スマホを操作する女性二人の手元
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小倉広氏小倉 広(おぐら・ひろし)
株式会社小倉広事務所代表。1988年、青山学院大学経済学部卒業後、株式会社リクルートに入社。11年間勤務後、ソースネクスト株式会社常務取締役、コンサルティング会社代表取締役などを経て現職。国家資格公認心理師、心理カウンセラー、企業研修講師。著書に『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『任せる技術』(日本経済新聞出版社)など多数。

承認欲求ってどんな欲?

承認欲求というのは、心理学者マズローの言葉をもとに語られることが多いです。マズローの概念における承認欲求とは、「人から認められたい」「ほめられたい」「尊敬されたい」という誰もが持っている欲求のことです。

私はアドラー心理学を提唱しているので、アドラーの視点から解説していきますが、アドラーの理論とマズローの理論は全く異なるということをご説明しておきます。

マズローには、「人間は自己実現に向けて成長していく動物である」という理論があります。その成長の段階は、下から生理的欲求、安全欲求、社会的欲求があり、4つめに承認欲求、頂点に自己実現がある『マズローの欲求5段階説』で示されています。

マズローは、「人間は、本質的に持っている無意識的な“欲求”に背中を押され、突き動かされていく」と考えているのです。

一方、アドラーの理論は、「人間は“思考”に基づいている」というもので、マズローの欲求5段階説承認欲求説を否定しています。アドラーは、「人間は、誰もが持っている無自覚的な“目的・目標”に、未来から引っ張られる」と考えています。

アドラーの言う“目的・目標”へ向かう動き=ムーブメントがマズローの“欲”にあたるわけですが、アドラーの理論における目的・目標はかなり汎用的です。

「人から認められたい」「ほめられたい」「尊敬されたい」はもちろん、「目立ちたい」も「目立ちたくない」も目的・目標であり、「みんなと同じような人になりたい」「病弱で可哀そうな人だと思われたい(疾病利得)」なども目的・目標と捉えています。

人はなぜ承認欲求を持つの?

人間というのは、社会的(社交的)動物です。社会的動物とは、社会の中でしか自分の“生”や生きがいを実感できない動物という意味です。

人間は、社会の中で人からどう見られるのか、人はどう反応するのかを見ながらでしか、自分自身の気持ちを感じることができないのです。

社会の中でしか自分を実感できない人間が、より良い感覚になれるのが、「ほめられる」「認められる」「尊敬される」こと。それがマズローの言葉で一般的に言われるところの承認欲求です。

人が承認欲求を持つのは、社会の中で生きていることを実感したいからなのです。

現代社会は承認欲求が強まっている

現代社会において、人々の承認欲求は強まっていると言えるでしょう。その理由として考えられるのは、情報量が多すぎること。

現代の1日の情報量は、江戸時代の1年分とも平安時代の一生分とも言われています。SNSやインターネットの普及で、見なくてもいいものまで見えてしまう今の世の中では、他者との比較が生まれ、劣等感が過剰に生まれます。

それによって、良くない承認欲求も生まれやすくなっているのでしょう。

建設的な承認欲求と非建設的な承認欲求

アドラーの承認欲求という言葉を使ってわかりやすく分類すると、承認欲求には「建設的な使い方(良い承認欲求)」と「非建設的な使い方(良くない承認欲求)」があります。

建設的というのは、より良い結果につながる使い方です。非建設的とは、より悲惨な方向に向かう使い方です。

人間関係で言うなら、対人関係がより良くなっていく使い方と、対人関係が壊れていく使い方に分けることができます。

<建設的な(良い)承認欲求の使い方>

  • 勉強を頑張る(社会に貢献する可能性が増す)
  • スポーツを頑張る(人々が感動する。「自分もスポーツを頑張ろう」と思う人が出てくる)
  • チームのために貢献する
  • 誰かの手伝いをする
  • 家族のために頑張る など

自分一人だけでなく、自分とみんな、あるいは社会全体が良くなる方向にエネルギーを使うことが、建設的な(良い)承認欲求の使い方です。

<非建設的な(良くない)承認欲求の使い方>

  • スタンドプレーで自分だけ目立とうとする
  • 誰かの足を引っ張る
  • マウントをとる
  • 暴走族や不良になって暴力や窃盗を行う
  • 入れ墨を入れて相手を怖がらせようとする
  • 営業成績を上げるために、仕事の締め切りを破る など

自分だけが良くて周りには迷惑となってしまうのが、非建設的な(良くない)承認欲求の使い方です。このような承認欲求が生まれるのは、自分のことしか考えていないことが原因です。

ある承認欲求に対して建設的・非建設的かどうかを判断する一例として、SNSで「いいね」をもらおうとする行為を挙げてみましょう。

「いいね」をもらおうとする承認欲求自体は、何の問題もないので建設的な使い方です。ところが、「いいね」をもらうために迷惑行為に及ぶのは、非建設的な良くない承認欲求の使い方となります。

過剰な劣等感が良くない承認欲求を生む

承認欲求につながっているのが、アドラー心理学における“優越への力”という考え方です。

優越への力は、ビジネス・学問・スポーツ・芸術などいろんなジャンルで見られますが、そこには犯罪(行為)といった良くないものも含まれます。

アドラーは、「人間には、より優越した人間に向かっていく力(=ムーブメント)がある」と考えています。その源となっているのは、劣等からの回避です。人間には常に、劣等感から逃げて優越にいく、マイナスからプラスに向かうといった、劣等から優越へのムーブメントが見られる、というのです。

そこに非行に走るなどと間違った目標を設定しない限り、人間は常にマイナスからプラスに向かっていきます。それは、「プラスのほうがいいから」「より良い人生を送りたいから」というだけでなく、「マイナスがつらいから」でもあります。

この「マイナスがつらい」という感情が、劣等感です。劣等感は、単に能力が低いというのではなく、あまり良いポジションではない状態で社会に所属していることで生まれます。

例えば、成績がいつも最下位というポジションで社会に所属していると、誰でもつらくて嫌な気持ちになりますよね。

承認欲求はこの劣等感の裏返しとも言えます。劣等感は誰もが持っている感情なので、多少であれば問題ありません。ですが、過剰に持つようになると、良くない承認欲求が暴走し、非建設的な方向へ向かってしまうのです。

非建設的な承認欲求を抑えるには

非建設的な承認欲求を抑える方法として有効なのが、セルフチェックです。いわゆるメタ認知(客観的に自分を見ること※)で、イメージとしてはモニターに映る自分の様子を自ら先入観無しで見ている感覚です。

【※参考】天職が見つかる「3つの要素」とは?|Forbes JAPAN 谷本有香のメタ認知キャリア論

アドラー心理学では、前項で触れた劣等感が強い人は“鎧”を着て自分を強く見せると考えられています。

地位や身分を自慢する、ブランドモノや高級車を見せびらかす、有名人との交流などをひけらかす、などがその代表例です。

強さが度を越すと、暴力で攻撃するということにもつながります。

ほかにも、病気などの話題を不必要な形で利用して同情を買おうとしたり、無闇に不幸自慢をしたり、オカルト的な発言をして注目を集めようとすることなども含まれます。

お金があって高級品を持つこと自体は悪くありません。ところが、そのことをひけらかした瞬間に周りの人が嫌な気持ちになるので、非建設的な承認欲求となります。

そうならないために、「自分は何かをひけらかしていないか」「周囲を嫌な気持ちにさせていないか」と常にセルフチェックをするといいでしょう。

いま紹介したセルフチェックは、非建設的な承認欲求に対する予防策と対処療法です。根本から治療する方法としては、自己肯定感を高めていく、というトレーニング方法があります。

「お金や地位がなくてもいい。会社で評価されなくてもいい。私は大丈夫。周りには友達がいるし、私は自分のことが好き」と思えるぐらいに、自己肯定感を高めていくのです。

自己肯定感が高まれば、鎧を着る必要はなくなります。非建設的な承認欲求を持たないためには、シンプルですがこのトレーニングを重ねていくことです。

自己肯定感が低い人は、親から条件的に承認されて育った傾向があります。つまり「親の言うことを聞いた時にだけ」「成績が良かった時にだけ」承認され、そうでないときには否定されて育った傾向があるのです。

例えば「これができないなんて、ダメな子だ」「○○ちゃんはできるのに、なんでできないの?」などといった言葉を、大人になるまでに幾度も刷り込まれてきた人は、ネガティブな感情を抱えやすい、ということです。

それをポジティブな自己肯定感に上書きしていくわけですから、気長に中長期的に取り組んでいく必要があります。

非建設的な承認欲求を抑えられない人に、どう対応する?

職場の上司や同僚、学生時代の友人やママ友、家族など、身の回りに非建設的な承認欲求を抑えられない人がいるとしたら…。その対策は、ズバリ「近寄らない」「付き合わない」ことです。

厄介なのは、親やきょうだいなどのごく身近な人たちが対象の場合です。その場合は、相手の自己肯定感が高まるよう勇気づけてあげましょう。彼らを勇気づけることで劣等感が軽減されて自己肯定感が高まり、非建設的な承認欲求も収まりやすいでしょう。

職場の上司が対象の場合も、付き合わないわけにはいきません。とはいえ、上司を勇気づけることは難しいので、そのような場合は仕事だけの付き合いにすることです。

頭を低くして、仕事上でだけ淡々と付き合っていく。そのようにして、近寄る場面を極力減らしましょう。

適度な劣等感はビジネスに活用できる!

文明社会は劣等感が生み出したとも言われています。先述の通り、劣等感が過剰にあると、非建設的な承認欲求の使い方に走ってしまいますが、適度な劣等感は悪くはありません

2012年にグーグルが開始した調査によって、「心理的安全性が高い企業は業績が高い」ということが判明し、それ以降は世界中の企業が心理的安全性に注目しています。

心理的安全性とは、職場において誰もが否定される不安を感じることなく、自分らしい意見や気持ちを出せる状態であること。弱い劣等感を抱いて働いている人が勇気づけられ、業績アップに貢献するということは、適度な劣等感はビジネスに有効であると言えるのではないでしょうか。

マネジメントの面においても、この「適度な劣等感」をうまく活用することができます。ですから、部下が何か失敗をするとつい責めてしまいがちな人は、それを改めましょう。特に、部下が良かれと思ってしたことに対して叱ったり責めたりするのは、部下の劣等感を強め、暴走させてしまいかねず、逆効果です。

このような場合の正しいコミュニケーションは、失敗に焦点を当てるのではなく、解決策を一緒に考えること。「よく頑張ったけど、うまくいかなかったね。次はどうすれば目的が達成できるのか考えよう」と促すのです。

「ナイスチャレンジだったよ」と勇気づけることも忘れないでください。そうすれば、部下の自己肯定感とチャレンジ意欲はアップし、良い方向に向かっていくでしょう。

承認欲求を建設的な(良い)方向にコントールする方法

人間は比較を行う動物なので、意識していないと非建設的な承認欲求の根源となる劣等感が強くなりがちです。自分がそうならないためには、“I’m OK(私は大丈夫)”(※)と思える工夫をすること。

(※)フランクリン・アーンストが提唱した対人関係における理想的な姿勢で、エリック・バーンにより、自己肯定と他者肯定を両立する考え方として示されている。

しかも、そのOKは無条件のOKであることが大切です。「これだけお金があるからOK」「車があるからOK」ではなく、何もない素の自分にOKを出せるようになりましょう。

たとえ失敗しても、「よく頑張った」と真っ先に自分を勇気づける。

誰かに対してマウントをとってしまっても「悪いことをしてしまった。あのときは寂しかったから、ついやってしまったんだな」と自分にOKを出す。

そうすれば、自己肯定感が高まって自分を好きでいられるようになり、建設的な承認欲求へとつながっていくでしょう。

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取材・文:笠井貞子
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