会社をやめたいと思うほど「仕事に疲れた」と感じたときの対処法

「もう会社をやめたい…」と思うほど仕事に疲れてしまったとき、本当にやめてしまってもいいのか、それとも何か対策を講じたほうがいいのか、悩む人が多いと思います。そこで、「やめたいと思うほど疲れた」ときの対処法について、人事・採用コンサルタントとして多くのビジネスパーソンと向き合ってきた曽和利光さんに詳しく伺いました。

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曽和利光さん顔写真曽和利光さん

株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。

仕事に疲れてやめたいと思う主な原因

「やめたいと思うほど、仕事に疲れてしまった」という状態にある場合、多くはワーカーホリック(仕事中毒)に陥っていると思われます。この状態のまま何も手を打たずにいたら、遅かれ早かれバーンアウト(燃え尽き症候群)してしまい、やる気を失い心身に不調をきたしてしまう恐れがあります。

ワーカーホリックに陥っているかどうかは、端から見るとわかりにくいものです。やりがいを持って一生懸命仕事に打ち込んでいる状態に見えても、実は責任感と使命感だけで無理をしているケースがある一方で、仕事が楽しくて多少無理をしても全く疲れを感じない「フロー状態」に入っているケースもあります。

いずれのケースも表面的には非常に似ているので周囲からは見分けづらく、「イキイキ働いていると思っていたのに、突然バーンアウトしてしまった」と驚かれることもあるようです。

このように、同じように見えて「忙しさに潰れてしまう」人と「忙しくてもイキイキ働ける」人の差は、なぜ生じるのか。大きく分けて、次の3つの要因が考えられます。

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仕事の成果に対するフィードバックがない

いくら仕事で成果を上げても、それに対するフィードバックがないと自分の仕事に意味を見い出せず、やりがいを感じにくいものです。営業職などの場合は、顧客から感謝されるなど、比較的反応が得られやすいかもしれません。

しかし、事務系職種やエンジニアなど自然にフィードバックを得にくい業務の場合は、社内にフィードバックの体制がないとやりがいを見失う可能性があります。承認欲求も満たされにくく、徒労感を覚えてしまうケースもあるようです。

周りからのサポートが得られにくい状態にある

ドライな職場で助け合うような環境がない、難易度の高い仕事でも上司や先輩がフォローしてくれない、研修や勉強会などの機会がない…など、周囲からのサポートが得られにくい環境では、人は孤独感、孤立感を覚えやすくなり、仕事の負荷を感じやすくなります

誰にも相談できず、一人で悩みを抱え続けた結果、心身に不調を覚えてしまう人も少なくありません。

自分で仕事をコントロールできない状態にある

「自分で仕事をコントロールできる」状態は、自信や自己効力感につながり、やりがいを感じやすくなります。言われたとおりにやるのではなく、自分で自分を管理しながら仕事に臨むことで、疲れも感じにくくなります。

逆に、裁量権が与えられず、一から十までやり方が決まっているような状況下では、自己効力感を覚えることができず、ストレスばかりが溜まってしまう恐れがあります。

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やめたいほど疲れたときの対処法

「会社をやめたいほど疲れている」状態は、小手先のリフレッシュ方法でどうにかなるものではありません。根本原因の軽減・解消に動くことが、現状改善につながります。

フィードバックを自らもらいに行く

仕事の成果に対するフィードバックがないならば、自分でもらいにいきましょう。例えば、上司に1on1をお願いするなどして、「この前の〇〇の反響はどうでしたか?」「この仕事をこう工夫してみたのですが、どうでしたか?」と、こちらからズバリと聞いてみるのです。

ここまで聞かれて、フィードバックをしない上司はいないはず。自身の仕事の評価を得ることで、日々の業務に意味を感じられ、「ワーク・エンゲージメント(仕事に対する愛着心)」を高められる可能性があります。

自らサポートを求める、SOSを出す

サポートが得られにくい環境で孤独感・孤立感を覚えているならば、自らサポートを求めるしかありません。

先ほどもお伝えしましたが、ワーカーホリックか、フロー状態かを、周囲が見分けるのは難しいもの。コロナ禍によるテレワークで、物理的に距離が離れた環境にあればなおさら、自らSOSを出さないと気付いてもらえるはずはありません。

大事に至る前に「この仕事のここで困っているので誰か教えてほしい」「業務量が多くてパンクしそうなので、誰かサポートしてほしい」と申し出ましょう。

「自らサポートを求めるなんて、評価が下がるのではないか」と気にする人もいますが、決してそんなことはありません。逆に、一人で抱え込み仕事を滞らせてしまうほうが大きな問題。弱さを見せる勇気をもって、自ら発信しましょう。

自律性のある部署への異動や転職を検討する

前述した3つの要因のうち、自分の働きかけや努力だけでは太刀打ちしにくいのが、この「仕事のコントロール」です。頑張ってコントロールしようとしたところで、会社の体制が変わらなければ限界があります。また、例えば生産管理や品質管理など、ある程度ルールに則って行う必要がある業務、自由度を高めにくい業務もあるでしょう。

自分で仕事がコントロールできない状況にあり、それが疲れやストレスにつながっているならば、「もっと裁量権を与えてほしい」と上司に願い出たり、効率のいい仕事の進め方を提案してみたりするのは一つの方法です。

ただ、会社の体制や事業方針にも影響することであり、すぐには状況を変えられないかもしれません。社内でも比較的自律性が高そうな部署に異動願いを出すか、もしくは裁量権が得られそうな会社への転職も検討してみましょう。

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実は「根本原因は仕事ではない」可能性もあり得る

実は「仕事が原因でやめたい」と思っていても、根本原因はプライベートやフィジカル面にある…というケースもあり得ます。

例えば、肉親が病気になった、恋人と別れたなどの精神的ストレスや、ケガや病気、寝不足などの体調の悪さでパフォーマンスが下がっているのに、それを目の前の仕事や上司などのせいにしてしまっている人は決して少なくないのです。

この場合、上記のような対処法を行っても、原因を見誤っているため根本解決にはならず、また同じように悩む…を繰り返すことになります。

身に覚えがある人は、まずは「やめたい原因が仕事以外にある可能性はないか?」を考えてから、対処法を考えたほうがいいかもしれません。

例えば、プライベートの問題に真剣に向き合ってみる、入浴やアロマテラピーなどのストレスを軽減する方法を試す、体調不良の原因を突き止め治療を行う(寝不足や二日酔いによる体調不良であれば、規則正しい生活を心がける)などを行ってみましょう。

実際、プライベートの問題が解決したり、体調が戻ったりしたら、仕事が楽しくなって状況が改善した…という例は少なからずあります。

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それでも「会社をやめたい」場合は、いったん休んでみる

ここまでの方法を試してみて、それでもまだ「会社をやめたい」という気持ちが変わらないのであれば、事はかなり深刻です。やめることを考える前に、まずは一旦休みましょう。一定期間休職して、しっかり心身を休めるべきです。

こういう状況で、多くの人が選択しがちなのが「休むのではなく仕事量を減らす」ですが、あまりいい策とは言えません。深刻な心身の不調は、休養に専念することで回復します。中途半端に仕事を減らすだけでは、治ったと思ってもまたぶり返す恐れがあります。

それに、仕事量を減らして「60%の力でできること」をやり続けるのは、能力開発にもキャリア開発にもいいとは言えません。100%以上の力を出せる状態になって初めて、人は成長し、さらに上を目指せるようになるからです。

能力開発・キャリア開発の考え方の一つに「Shrink to grow(シュリンク・トゥ・グロー)」(成長のための縮小)があります。成長するためには、いったん立ち止まり、しっかり休んで100%の力が出せるようになってから復帰したほうが賢明です。

責任感が強く真面目な人ほど、休むことに抵抗感を覚えるでしょうし、「休んでしまったら戻ってくる場所がなくなるのではないか」と不安に思うでしょうが、世の中には1回休んで復帰し、大活躍している人は山ほどいます。

最近、芸能人やアーティストが休養を発表する例がいくつか見受けられましたが、経営者などビジネス界でも決して珍しくありませんし、表立って見えないだけで社内にも実はたくさんいるはずです。私自身、人事担当者としてそういう人を数多く見てきました。

どうしても不安な人は、上司や人事部門に相談し、「休んで復帰し、活躍している例」を教えてもらうのもいいかもしれません。事例があれば、休む勇気が出るはず。無理をして頑張ってしまいバーストしたり、仕事を減らして下手にアイドリングしたりするよりも、後で振り返ればいい結果につながるでしょう。

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取材・文:伊藤理子 編集:馬場美由紀 撮影:平山諭
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