『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。
目次
『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「手を抜いて結果が出ないのならまだしも、一生懸命やってダメなやつは才能がない」
(『マネーの拳』第7巻 Round.57より)
地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。
その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。
日に日に大きくなる会社と、押し寄せる変化
Tシャツ専門店のチェーン展開に成功した花岡は、勢いに乗って上場を目指します。小さな町工場から始めたビジネスは今、飛躍の時を迎えていました。証券アドバイザーの牧は、花岡に「事前に株主対策をしておくように」と伝えます。株式を公開すれば、誰が株主になるのかわかりません。万一、株を大量保有されてしまえば、経営権まで握られてしまう恐れがあります。
「だから、応援してくれる株主に株を分散保有してもらうことが大切だ」と言う牧。それは暗に、「出資者である塚原会長に株式を保有してもらってはどうか」という勧めでした。牧は、もともと会長の紹介でやってきた男。花岡は、会長に経営権を握られることは避けたいと思いながらも、ほかに選択肢がありません。そこで会長に対して、自社の株と会長の会社の株との交換を申し出ます。
会長は「万一、花岡の会社が買収の危機にさらされても助けない」という条件をつけます。これで交渉は成立し、それから1年半後、花岡の会社はついに上場を果たすのでした。会社はますます大きくなり、従業員もドッと増えました。花岡は、新しく立ち上げたカタログ通販部を一刻も早く軌道に乗せようと、古参社員を降格させ、新しく入ってきた経験者をトップに据えると言い出します。その言動は、これまでの花岡には見られなかったものでした。
上場企業になれば、結果至上主義にならざるを得ない
いよいよ株式市場に上場した花岡。作品内では、そこに至るまでの社内のゴタゴタや、社長と社員の関係の変化などが描写されています。パブリック企業になるということは、これまでの自分の中の基準ではなく、世間の基準に合わせなければいけない、ということです。
特に最近はコンプライアンスなども厳しくなってきていますから、なかなか一筋縄ではいきません。それまで仲間内であれば許されてきたことが、以後は許されない状況になってくるわけです。こうしたことが重なって、当然ながら花岡の言動にも変化が表れます。その1例が、「本日の一言」で取り上げた「一生懸命やってもダメなやつは才能がない」です。
かつての花岡は、出資者の要望に従ってホームレスを雇用し、彼らを鼓舞しながら事業に当たらせてきました。それがこのように結果至上主義へと変化したのは、まずはそれが株主からの要請であることと、花岡の時間がなくなってきていることが考えられます。
©三田紀房/コルク
現場の生産性を上げるには
一見、花岡が冷たくなったようにも感じられますが、要は、社長が以前のように1人1人に構っていられなくなった、ということでしょう。これもやはり、小さくてアットホームだった企業から上場企業に至るプロセスで起こる典型的な事象です。
花岡の言う、「実力のある人間が入ってきたのだから、その者に任せればいい」というのはもっともな考え方です。とはいえ、サラリーマンの方の場合、ここまでの人事権は持ち合わせていないでしょう。ですから、この話を現場で応用するには、もっと別の角度からのアプローチが必要となります。
通常、限りある人員の中で、生産性を上げていくためには「本人の能力に応じたポジショニング」が不可欠です。万一、自分の部下や後輩に、余計な仕事をやらせてしまえば、それだけ彼らのキャパシティが埋まってしまいます。生産性を向上させるには、極力、本人が苦手としていることをやらせることのないよう、注意しなくてはいけません。
大きくなった組織の濃度が薄まっていくのは、世の常
基本的に、マネジメントとは、それを行っている側の責任になります。つまり、部下が苦手な仕事をやっていたとしたら、そんな仕事を振ってしまった方の判断ミス、ということです。ですから私の会社では、一生懸命やっているのにできない者がいれば、そのときは周りにフォローさせたり、別の仕事を与えたりします。反対に、本当はできるのに手を抜いている者がいれば、そこは詰めていきます。できる者に能力以上の活躍をさせてこそ、生産性が上がります。煎じ詰めると「生産性とは、稼働率を有効に上げること」にほかならないのですから。
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俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。
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