誰もが自分の利益を考えるのは当たり前。それでも、共に働いていくには?ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

 

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「結局、逆スパイに仕立て上げられてしまった」

(『マネーの拳』第8巻 Round.66より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

「目には目を、スパイにはスパイを」!?

Tシャツ専門店のチェーン化で大成功を収めた花岡。株式上場も果たして順風満帆と思いきや、行く手を遮る者が現れます。ライバル・一ツ橋商事の井川でした。かつて、花岡との出店競争に敗れたことを根に持っていた井川は、好機到来とばかりにほくそ笑みます。M&A(合併・買収)を仕掛けて花岡を窮地に追い込もうと考えた井川は、まずは幹部たちを味方に引き入れます。

会社が大きくなって、優秀な人材が次から次へと入ってくることに、幹部たちは焦りを募らせていました。内通者を得た井川は、手始めに業務提携を申し入れ、花岡の胸の内を探ります。一瞬、買収に同意するそぶりを見せた花岡ですが、「今の株価の100倍を出せ」と煙に巻きます。結局、井川は出直すしかありません。

一方、幹部たちの不穏な動きを察知した花岡も、対策を講じます。幹部の1人である大林を呼ぶと、「買収防衛対策室の責任者になってもらいたい」と告げます。大林が井川と通じていることを承知の上での任命です。こうして、大林は二重スパイに仕立て上げられてしまったのでした。

「人が自分の利益を考える」のは、想定の範囲内

花岡は、起業の際に出資者の塚原会長から、出資の条件としてホームレスを雇用するように言われて雇用した、という経緯があります。その元ホームレスの1人が大林でした。つまり大林からしたら、花岡は底辺の生活から自分を救ってくれた恩人とも言うべき人です。

これを聞いて、「恩人を裏切るなんて、何て恩知らずな」と思われる読者の方もいらっしゃるでしょう。しかし、良し悪しは別にして、常に自分のために行動することが、生物としての本能であるのもまた事実です。これは推測に過ぎませんが、花岡は大林を役員にした際に、もしかしたらこうなることも予想した上で、腹を括っていたのではないでしょうか。

人をマネジメントする立場にいる者は、「人間とは(自分自身も含め)弱い生き物である」ということを念頭に、部下が自分を活かせる方向に歩んでいけるよう、導いていかなくてはなりません。その際、部下が自分の能力を最大限に発揮できる仕事を与える、ということが、1つの防衛線になり得ます。そういう意味で、大林を買収対策チームのリーダーにする、というのは、これ以上ない最適の人事戦略なのではないかとさえ思うのです。

©三田紀房/コルク

部下に裏切られないためにはどうすべきか

マネジメントをしている方で、「ウチの部下は使えない」と文句を言っている人や、「部下に裏切られるのではないか」という不安を抱えている人をときどき、見かけます。少し厳しいことを言うようですが、こうした言葉を口にする方々は、自らのマネジメント能力の不足を吐露しているようなものではないでしょうか。

「どうしたら部下に裏切られずに済むか?」というのは、会社の理念に共鳴できる人なのかどうかを、まずは採用時に見分けることです。もちろん、採用した後で「こんなはずではなかった」ということは多々あるでしょう。けれども、採用したのは自分自身か、もしくは会社が「この人ならば」と思って採用した人材です。基本的には、最善を尽くして自らと組織が強くなっていくしかありません。

マネジメントのスタート地点は、部下の利と会社の利を合致させること

では、私自身がどういう心がけで採用や教育に臨んでいたのかと言えば、自ら採用を行っていた際には、「この人に裏切られるのであれば仕方がない」と思うようにしていました。裏切るかもしれないと信用できずにいれば、相手も同じように私を信用してはくれない…結局、マネジメントとは自分の鏡のようなもの。「もしかしたら裏切られるのではないか?」「辞められるかもしれないから遠慮しておこう」とか考えてマネジメントをしている時間が一番もったいないのです。

 

先にも言った通り、人が自分の利を追求すること自体は悪いことではありません。本人の利と会社の利を合致させること。これがマネジメントのスタート地点なのです。

逆に、雇われている立場からしてみると、そんな会社の思惑を無視しているようでは、その会社にはいられなくなります。『マネーの拳』で取り上げた大林のように、「こっちか?いや、あっちのほうが得だ」とフラフラしていては、誰も何も得をせずに長期的な関係が続かない可能性が高いからです。

俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン()』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?()』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」()』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト(

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