『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。
『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「欲しいんならくれてやる。その代わり、さっさと値段を言えよ」
(『マネーの拳』第8巻 Round.64より)
地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。
その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。
「オレの会社の価値は、オレが決める」
格闘技のグッズ製造から身を起こした花岡は、Tシャツ専門店に勝機を見出します。店舗の全国展開に成功し、海外も視野に入れ、株式上場も果たした花岡。しかし、その様子を快く思っていない者がいました。大手商社に勤めるライバル・井川です。かつて、出店競争に敗れたことを根に持っていた井川は、密かに花岡の会社の幹部に目をつけます。
幹部にして創業メンバーである大林・菅原・八重子たちは、会社が大きくなるに従い、自分たちの影響力が低下していることに危機感を抱いていました。花岡への復讐を企む井川は、彼らと接触。とうとう、メンバーは井川の買収計画に手を貸すことを約束してしまいます。手始めに、井川は業務提携の申し入れをし、花岡の会社を訪問します。
相当、抵抗されるかと思いきや、花岡はあっさり買収に同意。「オレの持っている株式が37%で、約9.3億円。これをそっちの会社に売れば、友好的買収は成立する。いくら出す?」と井川を煽ります。堪えきれなくなった井川は、相場の金額に8億円を上乗せした27億円を提示。しかし、花岡は「オレの会社の価値はオレが決める。最低100倍出せ。嫌なら帰れ」とバッサリ。井川は、出直すしかありませんでした。
事前準備が交渉時に活きてくる
今回は、交渉術の話です。実は、M&A(合併・買収)の前に業務提携の申し入れをするのは、よくあることです。相手のリアクションによっては、ムリに買収するよりも、友好的に安く会社の支配権を得られる可能性があります。
相手をイライラさせることによって、こちらの意のままに操るのも、交渉のテクニックの1つです。花岡がここまで強気に出られるのは、それなりの勝算があったからに他なりません。その勝算とは、メーカーと共同で進めている新商品の開発であったり、あらかじめ株主の構成を自分に有利なようにしておいたり、といったことです。
「上場すれば、創業メンバーがほぼ離反することになる」と、事前にコンサルタントから聞かされていた花岡。けれど「何があっても1人の離脱者も出さない」と決意した上での上場でした。このように事前に予測し、そのための準備をしていたことが、後々になって活きたわけです。
©三田紀房/コルク
自分のリソースを熟知していれば、打つべき手も見えてくる
花岡が優れているのは、自分のリソース(資源)を熟知し、それを使いこなしている点です。リソースというのは、会社が事業を行うために用意しているものすべてを指します。例えば商品、ブランド、建物や設備、取引先等々。それ以外に、教育、ノウハウ、上司、従業員といった、無形資産や人もリソースに入ります。
ビジネスを進めるに当たっては、こうした自分の持っているリソースを点検し、使えるものは何でも使うことが、交渉を有利に進めるコツです。例えば、役員の決裁を得るのに、自分から交渉しに行くよりは、上司が話をしたほうが決裁を得やすいでしょう。これが「上司もリソースの1つである」ということの意味です。
私は以前、「プロ野球の公式戦で友人が始球式を行う」というイベント企画を仕掛けたことがあります。始球式自体は、わずか数十秒で終わるイベントですが、始球式は一度に数万人が集うイベント。野球場全体の広告を1日ジャックする権利ですから、それなりに費用がかかります。私の知人に球団関係者がいたことがきっかけで実現した企画ですが、この時、最初に行ったのがリソースの確認作業でした。
リソースを組み合わせて最大の効果を狙う
当時、始球式をした友人はビジネス書を出版し、ベストセラーになっていました。そこで、私たちが提供できるリソースを棚卸し、まずは始球式とセットになっていたVIP観戦ルームを使って、出版を目指す読者向けに出版交流会を企画しました。そして、プロ野球の観戦のみならず、気鋭の編集者に企画書のフィードバックを受けられる権利も提供できたのです。
また、出版社にもスポンサーになってもらえないかと交渉しました。当日は書籍を販売するブースも設け、球場の要所に広告の旗を立てたり、球場のオーロラヴィジョンで書籍の動画広告を流したりしました。また、球場に付属する施設の一部が昼間なら空いていることを察知し、そこを会場にしてビジネスセミナーを開催して、お越しいただいた方に内野席の観戦チケットを贈呈しました。(ほかにも仕掛けましたがこの辺で)
こうして、セミナーは盛況のうちに終了し、ほぼ代金をペイすることができたのです。
“交渉術”と言うと、どうしても話術などに注目が集まりがちです。けれど、交渉するためには、そのための切り札を用意しなければなりません。「自分の欲しいものを手に入れるために、相手に何を与えるか?」ということを考える際に、必ず自分たちが持つリソースの確認作業から入るべきことを、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。
俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。
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