金髪アフロの精神科医が教える「仕事の人間関係から自分の心を守る」ための対処法

誰もが悩みを抱える職場や仕事の人間関係。ストレスから体調を崩したり、メンタルの不調に陥ったりしないよう、私たちが自分の心を守るためにはどうすればいいのでしょうか?これまでに1万人超のメンタルを救ったという「金髪アフロと赤メガネ」がトレードマークの精神科医&メンタル産業医、井上智介先生に、仕事の人間関係の対処法やストレス解消のコツを伺いました。

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メンタル産業医・精神科医 井上 智介さん

兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話を重視した精神的なケアを行う。さらに、すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。著書には「職場のめんどくさい人から自分を守る心理学」「子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本」など多数。

みんなが仕事の人間関係で悩んでいる

誰しも社会に出れば、相性の合わない人とも一緒に仕事をすることが求められます。実はコロナ禍のリモートワークが拡大したことで、職場の人間関係に問題を抱えていた方たちの精神状態はかなり改善傾向にありました。

ところが、緊急事態宣言の解除により、途端に「出勤してください」ストレスやネガティブな気持ちを訴えてくる方が増えています。産業医として働く人に関わっていると、仕事の人間関係に悩む方が本当に多いことを実感します。

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仕事の人間関係の悩みでありがちなパターンとは?

私がこれまで相談を受けてきた人間関係の悩みから、典型的なケースをいくつかご紹介しましょう。

上司と一緒にいるのが苦痛でならない

最も多く受ける相談が、上司との人間関係です。例えば、「上司が常に高圧的な態度で怖い」「ネチネチと嫌みを言う」「容赦なくプレッシャーをかけてくる」「部署でミスが起きると、全責任を部下に押しつける」といったことから関係性が悪くなることがあります。

部下にどう接していいのか分からない

部下との距離感が掴めずに悩んでいる上司も多くいます。例えば、部下に対して必要なアドバイスや指導をしたら、驚くほど不機嫌になってしまい、困惑しているようなケースです。最近の若い人たちは、上から目線というものにとても敏感で、「どう接したらいいか分からない」という声も聞きます。

同僚にマウンティングされてイラッとする

同じ立ち位置のはずなのに、やたらマウンティングしてくる同僚が鬱陶しいという悩みもあります。自分の交友関係について自慢をしてきたり、仕事で成果をあげた時に否定的な発言をされたり。何かにつけて優位性を強調され、ストレスが溜まってしまいます。

クライアントに圧力をかけられてしんどい

仕事上の顧客や取引先とは、建前上は対等であったとしても、上下の力関係が生じやすいものです。運悪くパワハラ気質の担当者に当たってしまうと、無理な要求をされたり、理不尽な叱責を受けたりすることもあります。

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根本的な解決法は「相手との距離を取る」こと

こんな仕事の人間関係の悩みを解決するにはどうしたらいいのでしょうか?
大前提として言えるのは「相手を変えることはできない」ことです。相手の嫌なところを変えようとしても、私たちには他人をコントロールすることはできません。自分が少しでも楽になるように、考え方や関わり方を変えていくしかないのです。

ただ、自分自身が変わるのもの時間がかかりますし、「これ以上一緒にいたら耐えられない」というほど追い詰められていれば、現実的に間に合わないこともあります。

そこで、何より最初に考えてほしいのが「相手との距離を取る」こと。これが最も根本的で、即効性のある方法になります。完全に解決するには、部署異動や、転職によって相手との接触を一切なくすしかありません。

そこまでできない場合、例えば在宅勤務が可能なら会社に申請する、上司なら指示系統を変えて、誰かにクッションに入ってもらう。コミュニケーションの主な手段をメールとすることで、直接対面する時間を減らすといった方法もあります。会社と交渉が必要な場面もありますが、自分の心を守るためにも「距離を取る」ことを一番に考えて欲しいのです。

終わりの見える「期間限定思考」で改善する

相手との距離を置く方法がなければ、最終的に退職や転職を選ぶ方も多くいます。当然、心がボロボロになるまで我慢するよりも、今の状況から逃げることを優先するべきでしょう。ただ現実的には、すぐに逃げられない方がほとんどだと思います。

そんな方にお勧めしたいのが「○カ月辛抱しよう」「定期異動まで我慢して、希望が通らなければ辞めよう」「〇月まで状況が変わらなければ転職する」という「期間限定思考」です。実は、「どうせ辞める」と一旦開き直ってしまうと、心に余裕が出る方が多いのです。

その結果、あんなに嫌だった上司の違う一面が見えたり、良い距離感を保てるようになったりなど、状況が改善された例を数多く見てきました。辞める決心をしたけれど、すぐに動けないというのであれば、この期間限定思考はとても有効です。

人間関係の悩みを少しでも軽くする3つの方法

このように、人間関係の悩みは転職や異動で相手と完全に関係を断たない限り、根本的な解決にはなりません。誰もがそうはできない以上は、精神的なストレスがあることを前提に、少しでも辛さを軽くする視点を持つことが大切です。

相手に対して期待するのをやめる

私たちが対人ストレスを抱えるのは、相手に「こうあってほしい」という期待をしてしまい、その期待が裏切られる時です。ストレス軽減のために最初にしてほしいのは、相手に対する期待値を下げることです。

例えば、部下に失敗の責任転嫁をする上司への対策として、業務のプロセスをメールやチャットで残し、責任の所在を明らかにしておくことはできます。ただ、何をしても他人のスタンスを変えることは難しいので、「こういう人間なのだろうな」「気の毒な人だな」と割り切って付き合うことです。「分かってほしい」「変わってほしい」などという期待はしない方が、楽に生きられるでしょう。

自分の価値観を見直す

そもそも人に対する期待や欲求は、自分の価値観から生まれてくるものです。相手の言動にストレスを感じる時は、自分の価値観を疑ってみるのも一つの方法です。

例えば、「新人が電話に出るべきだ」というのはあなた自身の価値観です。当の新人は「電話は手が空いている人が出ればいい」という価値観の元に行動しているかもしれません。イライラを相手にぶつけるのではなく「自分の考え方は少し古いかもしれない」と一歩引いて俯瞰するだけで、ストレスは軽くなるでしょう。

心の中で「憂さ晴らし」をする

どうしてもイライラが収まらない時は、「あいつはどうせ地獄に落ちる」「絶対に隕石がぶつかる」などと想像して、心の中で思い切り憂さ晴らしをしましょう。これはカウンセリングの中でもお勧めしている方法です。

「そんなことを考えるのは良くない」とおっしゃる真面目な方もいますが、それで少しでもイライラが減り、気持ちが落ち着くのなら何の問題もありません。「想像の世界でなら、嫌な相手を煮ても焼いても一向に構わない」と割り切ってしまいましょう。

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「ストレス対処法リスト」で心の健康を守ろう

考え方や捉え方を変えることで、ストレスを軽減することはできますが、残念ながらゆっくりと溜まっていきます。ですから自分なりのストレスを解消する方法を知っておくことはとても重要です。そこで私がお勧めしたいのが、「自分の好きなこと」を最低50個ほどリストアップしておく方法です。

旅行のようなイベントから日常的なことまで何でも構いませんが、重要なのは、それを読んだ誰もが同じ行動をするくらい具体的に書くことです。例えば、単に「映画を観る」ではなく、「家のソファに座ってネットで好きな○○を観る」「駅前の○○館で今週公開になった新作を観る」と細かく設定し、それぞれを1個としてカウントしていきます。そうすれば、50個は案外すんなり埋まるでしょう。

なぜリストがお勧めかというと、ストレスが溜まっている時は大抵脳もオーバーヒート状態のため、「○○でストレスを解消しよう」と考えることすら辛くなってしまうからです。

そんな時、ストレス解消法を“考える”から、自分へのご褒美をリストから”選ぶ”だけの状態になっていれば、「じゃあ今日はコンビニスイーツを買って帰って好きな○○を観よう」と、気軽に実行できます。日々のストレス解消にとても効果的なので、ぜひ試してみてください。

こんな危険なサインが出ていたら、すぐに手を打とう

人間関係の悩みなどから来るストレスは、体調や行動など目に見えるところにも現れます。「我慢すれば大丈夫」と感情を押さえ込んでいても、サインが出てきた時には、心の健康を損なう一歩手前まで来ている可能性もあります。自分自身や周囲の人にも、次のような変化が見られたら、なるべく早く対処することが大切です。

自覚症状では「睡眠」「食事」「遊び」のサインに注意

メンタルが不調に陥っている時は、自覚症状として睡眠・食事・遊びの3つのカテゴリーで変化が見られることが多いです。特に、好きな趣味や遊びが楽しめなくなっている場合は、自分でも気づかないうちにかなりストレスが溜まっていることが考えられます。

●睡眠の変化

・最近寝付きが悪くなった
・夜中に何度も目が覚めるようになった
・眠りが浅くなった

●食事の変化

・食べる量が急に増えた(減った)
・味覚が変わり、甘い物や塩辛いものばかりを食べるようになった

●遊びの変化

・好きだった遊びや趣味が心から楽しめなくなった
・取り組むまでが億劫になった
・単なる時間つぶしになってきた

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同僚や家族は「体調」「行動」「感情」のサインに注意

自分自身よりも周囲の人が気づきやすいものには、体調、行動、精神状態の変化が挙げられます。例えば以下のような変化は、メンタルの不調から発信されるSOSかもしれません。

●体調の変化

・肌荒れが目立つ
・急に痩せた
・急に太った
・急な脱毛が目立ってきた

●行動の変化

・遅刻・早退・欠勤が目立つようになった
・今までしなかったミスをするようになった
・協調性がなくなった
・服装や化粧に気を使わなくなった

●精神状態の変化

・最近表情が暗くなった
・急に怒ったり泣いたりなど、情緒が不安定になった

最初は内科や、かかりつけ医に相談を

こうしたサインが出た場合、何よりも優先してほしいのは医師の診断を受けることです。ただ「ストレスが原因かな」と感じてはいても、いきなり心療内科や精神科に行くのは、ほとんどの方にとってハードルが高いでしょう。

まずは、近所にある内科やかかりつけ医に行っていただければOKです。ストレスが溜まっている人は倦怠感などの身体的不調もある場合が多いので、それを内科で相談しましょう。調べても原因が見つからなければ「精神的なものかもしれません」という説明の後に、心療内科を紹介してもらえることもあります。

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人生で自分の健康より大切なものはない

私たちが、自分でコントロールできないものの代表が「他人」です。つまり、他人に関わる以上は、どんな人でもストレスを抱えずにはいられないのです。それを前提に、自分の健康は自分で守るという意識を忘れないでください。本当に辛かったら、距離を置いたり、休んだりしましょう。それは決して逃げではなく「健康と幸福に近付く」ことです。

そして、あなたの会社で働く産業医の存在を知り、ぜひ利用してください。産業医はあなたの会社の業務のことをよく知り、病院の外来よりもじっくり時間を取って話を聞いてくれる、心強い存在です。ちょっとした体調不良が気になる時や、仕事の愚痴をこぼしたい時も、気軽にドアを叩いていただければ嬉しいです。

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取材・文:鈴木恵美子 EDIT:馬場美由紀
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