『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。
『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「誰に売りたいか、誰に買ってもらいたいか…商品とはその強い意志を表現したものなんだ」
(『マネーの拳』第5巻 Round.38より)
地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。
その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。
ついにやってきた転機
渋谷にTシャツ専門の直営店をオープンした花岡。しかし、夏物シーズンに入っても気温が上がらず、経営の足を引っ張ります。新宿駅ビルに2号店を出店するには、渋谷店の売り上げ増が必須条件です。花岡は資金繰りが苦しい中、じっとチャンスを待ちます。
そこへ、思わぬ話が舞い込みます。生地卸問屋の田島から「医療用に開発した生地で、企画が合わずにボツになったものがある。これでTシャツを作ったらどうか」という提案があったのです。これを商機と見た花岡は、技術者の八重子と相談し、商品化を決定します。ただし、医療用の布を一般向けに転用するには高い技術力が必要です。
「だったら作りやすいように、年齢層や客層をうんと限定しよう」と言い、ハッとする花岡。「今までTシャツ単品でいくと決めながら、一通りの品揃えをしようとしていた。そうじゃなくて、必要なのは『この人に着てもらいたい』という顧客に向けて商品をつくることだ」。ついに、突破口を見つけたのでした。
弱者が採るべき商品戦略とは?
今回は、花岡が「対象顧客を絞り込むことの重要性」について気づいた場面です。企業が商品戦略を検討する際、「幅広い品揃えを行う」という方法を選択するのは、通常は資本力のある大企業です。では、経営基盤が盤石でない“弱者”が採るべき商品戦略がどんなものかというと、「勝てるまで商品の範囲を狭めること」です。
それまで、花岡は「Tシャツに絞った商売をする」というところまではたどり着いていたものの、顧客を絞るまでには至っていませんでした。そのため「Tシャツと名のつくものだったら、すべて店に並べる」というスタンスでした。これが品揃えの豊富なライバル・井川の店と競合する要因となり、顧客が奪われる元凶になっていたのです。
この状況を打開する策として、花岡が考えついたのが「ペルソナを設定する」ことでした。ペルソナとは、自分たちのサービスの対象者とするべき「モデル顧客」のことを言います。このモデルを社内で共有しておかないと、商品のコンセプトがズレてしまったり、誰に向けた商品なのかがぼやけてしまったりしがちです。顧客を絞るからこそ、顔の見えない相手にも響く商品となるのです。
アマゾンも「最初は1品目から始めていた」
一方、多くの人を対象に、品揃えの豊富さを商品戦略にしているのがECサイトのアマゾンです。同社のCEO、ジェフ・ベゾス氏は、設立当初から「顧客にとって抜群に便利なエブリシング・ストアをつくる」という構想を持っていました。しかしそのアマゾンも、最初から何でも取り扱っていたわけではありません。
同社がインターネット書店からスタートしたことはご存じの通りです。それは「今すぐエブリシング・ストアは実現できなくても、とりあえず1種類の商品についてであれば、抜群の品揃えが実現できるのではないか」という考えからきています。同社は1995年にスタートし、1998年頃より徐々に取扱品目を増やしていきました。あのアマゾンでさえも、最初は1品目から始めた、というのは興味深いことではないでしょうか。
©三田紀房/コルク
商売に携わっている人が必ず自問するべき質問とは
『マネーの拳』の中で、今回取り上げた場面は重要なターニングポイントとなっています。それほど、「顧客を絞る」という概念は革命的なものでした。ここから、花岡の巻き返しが始まります。
「誰に、どうなってもらいたいのか」。これは小売業に限らず、サラリーマンを含めた商売に携わっている人すべてに共通する問いかけだと言えるのです。
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俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。
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