弱者が勝ち抜くための「2つの戦略」とは?ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「人は一番のものにしか惹かれない」

(『マネーの拳』第3巻 Round.26より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

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もっとも1位を獲りやすい方法とは「先駆者になること」

新しい事業として、Tシャツ専門店をオープンすることにした花岡。出資者である塚原会長にこのアイディアを話すと、「顧客と販売店がダイレクトにつながる商売ならうまくいく」とお墨付きをもらいます。

会長は花岡に向かって、「君のように誰も手をつけていない分野を見つけて、最初に始めた者は、過度な競争に巻き込まれずに済むだろう」と伝えます。花岡がその理由を問うと、会長は「1位のほうが圧倒的に有利だからだ」と言います。

「たいていの競争は、2位以下で争われている場合が多い。そこから1位になるのは容易なことではない。それよりは、自分で新しい市場をつくることだ。独自のアイディアで独自のマーケットを切り開き、認知されればその分野での先駆者になれる」と語るのでした。

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なぜ、2位以下は1位を追い抜くのが難しいのか?

「世の中の競争の多くが、実は2位以下で争われている」と聞いて、驚いた方もいたかもしれません。これについて、『マネーの拳』では「ボート競技」の事例を挙げて説明しています。ボート競技とは、縦長の手漕ぎボートの中に数名の選手が縦一列に座り、息を合わせてオールを漕いで順位を競う競技のことです。

選手は通常、進行方向に向かって背中を向けています。つまり選手にとっては後ろに進んでいくイメージですが、勝敗の80%はスタートダッシュで決まると言います。ここで首位に立つと、1位の選手からは2位以下のボートの様子がはっきりと捉えられますが、ほかのボートからは1位のボートが見えません。

先頭に立った後は、万一、ほかのボートが速度を上げてきても、自分もそれに合わせればよく、ゴールまで間隔を詰められないようにすればいいだけです。これが「先駆者になる」利点であり、この法則はビジネスにも当てはまります。例えば一昔前に航空業界であったLCC(格安航空)競争がそうでしょう。

「強者の戦略」と「弱者の戦略」の違いは?

今でこそ飛行機はLCCが一般化し、大手企業ですらLCCの子会社を抱えるようになっています。しかし、最初にLCCが登場した際には、既存勢力から集中砲火を浴びました。1996年、日本に初めて登場したLCCに対して、業界大手が採った戦略とは「LCCに運賃を合わせる」ことでした。

同じ価格であれば、ユーザーにとっては大手のほうが安心ですから、結局、顧客の多くは既存路線へと流れます。この、大手航空会社が採った戦略こそが“強者の戦略”です。

もともと、1位の地位を2位以下が容易に覆せないのは、それまでの蓄積があるからです。蓄積とは、それまで培ってきたノウハウや認知度、取引先との関係性や固定客などのことを指し、経営的にも1位のほうが体力があります。けれど、2位以下が1位と同じことをしていても、その差が縮まることはありません。

だったら、2位以下はどうしたらいいのかと言うと、“弱者の戦略”を採ることです。弱者の戦略とは主に2つあります。順番に説明しましょう。

弱者の戦略その1 新しいマーケットを切り開く

弱者の戦略のひとつめは、塚原会長の言う「独自のアイディアで新しいマーケットを切り開くこと」です。

この事例としては、近年のアメリカに始まるシェール革命がそうでしょう。かつて世界の石油市場は、完全に中東を中心とするOPEC(石油輸出国機構)によって牛耳られていました。アメリカはこれに対抗するために、自国の原油輸出を禁止して石油の確保を図る一方、国内に大量に眠るシェールガスの開発を始めます。

それに気づいたOPECは、増産や価格の引き下げ等で対抗。これに耐え切れず、一時期、シェールガスを開発しているアメリカの会社が大量破産を起こします。けれどついに開発は軌道に乗り、2014年、アメリカは世界一の産油国となりました。これが弱者の戦略です。

弱者の戦略その2 戦う範囲を狭める

先駆者がいる業界で1位を取るのは、かなり難しいでしょう。そこで、もう1つの弱者の戦略とは「戦う範囲を狭めること」です。「日本一」はムリでも「都道府県一」「市内一」などなど。範囲とは、必ずしも場所のこととは限りません。「商品の範囲を絞る」「時間帯を絞る」など、「比較対象となる条件を絞る」ということも考えることができるでしょう。こちらに関しては「真の賢者は1位を目指すのではなく、1位になれる分野で勝負をする!ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言」をご覧ください。

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俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン()』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?()』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」()』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト(

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