【プロゲーマー・板橋ザンギエフ選手に聞く】天職ってなんだろう?

広辞苑によれば、天職とは「その人の天性に最も合った職業」とのこと。そうはいっても、自分にとっての天職を考え始めると、何が正解なのかが見えなくてモヤモヤします。

日本のeスポーツを黎明期からけん引し、最前線で活躍しているプロゲーマー・板橋ザンギエフ選手は、天職をどう捉えているのでしょう?

プロゲーマー・板橋ザンギエフ選手
プロゲーマー・板橋ザンギエフ選手

プロフィール

板橋ザンギエフ(いたばし・ざんぎえふ)

プロゲーマー。1981年、東京都板橋区生まれ。2006年、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。2012年、アメリカのゲーム周辺機器メーカーRazer社と契約し、プロの格闘ゲーマーとなる。2016年、DetonatioN Gamingに移籍し、国内外の格闘ゲーム大会に参戦。2018年、Street Fighter V世界大会『Capcom Cup 2018』準優勝。2020年、『EVO JAPAN 2020』第5位。
ツイッター:板橋ザンギエフ @Itazan_Kuma

アスリートであり、仕事人でもある

はじめに、まだ「eスポーツ」や「プロゲーマー」という言葉に馴染みのない方も多いかと思いますので、簡単に紹介しましょう。

eスポーツとは、エレクトロニック・スポーツ(Electronic Sports)の省略形で、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技と捉えてこう呼ばれるようになりました。eスポーツには、Street Fighter V(※1)に代表される格闘ゲーム以外にも、FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)と呼ばれるものや、スポーツをゲーム化したものなど、さまざまなジャンルがあります。
(※1 カプコンの対戦型格闘ゲーム)

私がStreet Fighter Vを始めたのは5年前。このゲームが、eスポーツの認知度アップに貢献しました。当時、世界規模で行われる大会が注目を集め、スポンサーが増え、賞金額も格段にアップし、ゲームを観戦する人やゲームに興味を持つ人が大幅に増えるなど、かつてない経済効果をもたらしたんです。

現在、私が所属しているDetonatioN Gamingのようなプロeスポーツチームの発足も相次ぎ、eスポーツは一気に盛り上がっていきました。

プロゲーマーの定義は人によってまちまちですが、私は「長いスパンで競技者として食べていける人」と認識しています。

基本的には「アスリート(競技者)である」という意識を持って活動していますが、一方で、食べていけなければプロとは言えません。収入を得て生活している姿を後輩たちに見せることが、プロゲーマーの未来につながるので、「仕事である」ことも忘れないようにしています。

収入源は人によって異なりますが、私の場合は、所属チームからの給料がメインです。所属チームは、主にスポンサーから得た収入をメンバーの給料に充てています。

給料に加えて、テレビやラジオ・WEBなどのメディア出演費、人によっては動画配信サイトでのストリーミング(※2)を通じて、広告収入やユーザーからの投げ銭(※3)で収入を得ています。

不安定な大会賞金を当てにして食べてていくのは現実的ではないので、賞金はボーナスという感覚ですね。
(※2 ゲーム実況配信)
(※3 配信中、システムを通じて視聴者から贈られる金銭やアイテムの総称)

好きなことを仕事に。プロゲーマーは私の天職

プロゲーマー・板橋ザンギエフ選手
プロゲーマーは自分の天職/写真提供:大須晶(@ohsuAK)

今回“天職”について考えてみて、あらためて感じているのは「プロゲーマーは私の天職だな」ということ。なぜなら、好きなことを仕事にしているからです。

私はいわゆるファミコン世代で、子どものころからファミコンにのめり込んでいました。その熱量たるやすごいもので、“没頭する”という表現がピッタリ。これは、プロゲーマーとなった今も変わりません。

当時、多くの家庭がそうだったと思うのですが、わが家でも「ゲームは1日30分まで」というルールがありました。だから、どうすればもっとゲームができるか子どもながらに知恵を働かせ、友だちの家に行ったり、持ち運びのできる携帯ゲーム機をこっそり自分の部屋に持ち込んで遊んだりしていました。

その後ゲーセン(ゲームセンター)に通うようになると最先端のゲームで遊べるのが楽しくて、ますますゲームの魅力に取りつかれていきました。

思い返してみると、ゲームを離れたのは高3の1年間、大学受験のときだけです。さすがに「このままではマズい」と思い、自分で決断しました。大学に入ってからは再びゲーセンに通い出し没頭、就職してシステムエンジニアとして働き始めてからも、仕事を終えて帰宅したら真っ先にゲーム機のスイッチを入れる日々でした。

転機となったのは、先ほども触れたStreet Fighter Vというタイトルの格闘ゲームです。会社勤めをしながら大会に参加し、競技者としても活動し始めたんです。

しばらくすると格闘ゲームのコミュニティ内で注目されるようになり、DetonatioN Gamingに誘われてチームに加わることにしました。それを機に、「これからはゲーム1本でやっていこう」と決心し、会社を辞めてプロゲーマーとなりました。

こうして振り返ってみて、これほどゲームの文字が並べば、「根っからのゲーム好きで、それを仕事にしたんだな」と思っていただいけるのではないでしょうか。

天職の考え方は人それぞれでしょうが、私は“好きなことを仕事にしたほうがいい派”です。「これをやりたい」とか「こうなりたい」という理想があったら、それに向かって全力で突き進んでいくべきだと思います。

モチベーションを管理して“好き”を維持

考えてみれば、私に限らず、プロゲーマーたちはみんな“好き”を仕事にしている人たちの筆頭です。むしろ、好きの度合いで勝負しているようなものです。

好きだから全力を傾けることができ、それが実力アップや高いモチベーションの維持につながっていく。芸術性が高い職業なども、好きの度合いがクオリティに反映されているのではないでしょうか。

好きの熱量を高く保つために、日頃から取り組んでいるのがモチベーション管理です。競技がうまくいってないときや周囲の環境次第で、「気づいたらモチベーションが下がっていた」ということが少なくないので、モチベーション管理はかなり重視しています。

たとえば、仲間とオンラインで集まって、積極的に楽しむ時間をつくること。

これは「一人で楽しむよりみんなで楽しむこと」が目的で、私の場合だと、対戦する姿をストリーミング配信して人々と共有するなど、楽しみ方の幅を広げていくんです。そうすると、共感の輪が広がってハッピーな気分になり、モチベーションを維持することができます。

この、オンライン環境を積極的に使っていくという動きは、コロナ禍で物理的な交流が減った影響でより活発になったといえますね。

そもそも私の主戦場は海外の大会なので、(コロナ禍の影響により)一つの会場に数万人単位で集まるようなオフラインでの海外大会に参加できなくなっているのは残念です。一方で、ステイホームの推奨によって人々の在宅時間が増え、eスポーツを観戦する人が増えたというポジティブな影響もありました。

eスポーツはオンラインと相性がいいので、現状は日本人プレイヤーを相手にオンラインでの国内大会に参加しています。それと並行して、海外の大会がいつ再開してもいいように、ベストな状態で戦えるよう準備を整えています。

こんな風に、高いモチベーションを維持することが「好き」の熱量を持続させ、天職であるプロゲーマーの原動力となっているので、これからもさまざまな工夫を凝らしてモチベーション管理をしていくつもりです。

ちなみに、モチベーションダウンにならないよう自制していることもあります。それは、格闘ゲーム以外のゲームにはまり過ぎないこと。

新しいゲームは新鮮で興奮しますし、自分も適応力があるので、ついつい夢中になってしまいます。そうすると、本業である格闘ゲームのパフォーマンスが落ちたり、モチベーションが下がったりすることも。これには、気をつけています。

とはいえ、別ジャンルのゲームを試すことで違う戦術がひらめくこともあるので、バランス感覚を持ってほどほどに楽しんでいます。

“幸せ”に重きを置いて天職を考える

プロゲーマー・板橋ザンギエフ選手
海外大会でも多くのファンを魅了し続ける/写真提供:大須晶(@ohsuAK)

なにを天職と思うかは千差万別です。住めば都と言いますが、今の仕事が板についてきて天職だと思える人もいるでしょうし、今はこの仕事でこの生き方を選択しているけれど、別の仕事に就いて別の生き方をする選択肢もあるのでは…と満たされない人もいるでしょう。

現状を幸せだと思ってその状態の維持に努めるのか、幸せそのものを探すのか。要は、天職を考えるとき何に重きを置くかの違いなのだと思います。

一人でカップ麺を食べているとき、「一人で食べていて寂しいな」と思うのか、「このカップ麺、旨いな」と思うのか。私は「旨いな」以外に出てこないので、幸せ現状維持が得意なんだと思います。これからも、ゲームに携わっていける幸せを、維持していくつもりです。

ただし、現状維持といっても、プレーヤーとしての活動だけを続ける、という意味ではありません。

私が“プロゲーマー第一世代”として目指しているのは、ゲーマーの価値を上げていくこと。世間では、まだ「ゲーム=悪」というイメージが根強いので、そのイメージを払拭したい。

その一環として、ゲーミングスキルをほかの何かに応用して活動の幅を広げ、ゲーマーの価値を上げていけないかと考えています。

例えば、教育です。ゲームと教育は、私の経験から相性がいいと思っているので、そこにアプローチできたら素晴らしいし、ゲームにはそのポテンシャルがあると確信しています。

天職に就いたからこそできることを、活動の場を限定することなく、やっていきます。

満足度を上げることを先に考えて

…と、ここまで天職について私の考えを述べましたが、この記事を読んでいる中には、私より若い世代の人たちも多いと想定します。その皆さんにとって、天職というのは、実に曖昧なものでしょう。

そのような曖昧なものを探し続けるというのは非常に難しいことなので、今の自分の仕事や状況に対する満足度を上げていく方法を考えてみることが健全だと思います。

自分なりのより高い満足感、より高いモチベーションを得る方法はきっとあるでしょうし、もしかしたら、私のように、その先に天職だと思える瞬間がくるかもしれません

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WRITING:笠井貞子 PHOTO(本文中):大須晶(@ohsuAK)
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