将来への漠然とした不安を抱えている20代へ…仕事・キャリアへの向き合い方のヒント

仕事、キャリア、お金…などなど、明確な不満があるわけでなないけれど、何となく将来に不安を感じる人がいるようです。この「漠然とした不安」の原因は何か、不安を軽減するにはどうすればいいのか、人事歴20年超で心理学にも明るい曽和利光さんに詳しく伺いました。

漠然とした不安を抱える会社員イメージカット

曽和利光さん顔写真曽和利光さん

株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。

20代が将来に対して「漠然とした不安」を抱く理由

一般的に「日本人は保守的」とよく言われますが、日本人のルーツは農耕民族であり、遺伝的に見ても保守的な性格の人が多いとされています。そのため、目先の状況が見えていて、次に何をすればいいのかが明確な状態に、安心感を抱く人が多いようです。

一方で、20年ほど前から、企業による従業員マネジメントは「干渉せず突き放す」方向へとシフトしています。それまでは終身雇用を前提に、「定年まで面倒見るから言うことを聞いてバリバリ働け」というマネジメントだったものが、「自分のキャリアは自分で作れ」という流れに変化しています。

その結果、将来に対して漠然とした不安を抱える20代の若手ビジネスパーソンが増えています。経験がまだ浅いがゆえに、どのように動けばいいのかわからず、先々もうまく見通せず何となく不安…というケースが多いようです。

そして、この傾向は今に始まったことではなく、以前から同じような状況が続いています。

私はバブル崩壊後の1995年に就職したのですが、当時はまだ上司が高度経済成長期やバブル期を経験している人たちばかりで、「あれをやれ」「これをやれ」「言うことを聞け」と指示や命令でがんじがらめにされました。ただ、やることが常に目の前に提示されている状態なので、型にはめられることへの反発はあったものの「漠然とした不安」を感じることはありませんでした。世の流れが「型にはめる」から「干渉せず自由にさせる」方向に変わった以上、保守的な人が「漠然とした不安」を感じるのはいわば当たり前。まずはあまり深刻に捉えすぎないことです。

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「漠然とした不安」を軽減するには?

何とかこのモヤモヤを解消したい…という場合は、以下のような方法が考えられます。いずれも、多くの若手ビジネスパーソンに知っておいてほしい心構えでもあります。

ロールモデルとなる人を見つけ、完コピする

ロールモデルである先輩と話す会社員

一般的に、人は不安を軽減したいときにカリスマ的な指導者を求める傾向にあります。不安で迷っているときに、「これが正しい!」とズバリ言い切ってくれる心地よさを感じたいからです。

とはいえ、そういう人にハマりすぎるのは若干リスクがあるので、社内や同じ業界内などで、目標にできそうなロールモデルを探すことをお勧めします。そして、その人の仕事のやり方を一から十まで完コピしましょう。つまり、「会社が型にはめてくれないのだから、自分からはまりに行く」という方法。これで少なくとも、目先の不安は軽減できるでしょう。

スキルを身につけるうえで重要とされる言葉に「守破離」というものがあります。師匠から教えられた型を「守」り、それを自分のものにする過程で少しずつ改善を加えて師匠の型を「破」り、自分のスタイルが確立できたら師匠の型から「離」れて自由になる…この段階を踏んでこそ、一人前になれるという考え方です。

完コピ後に、「守破離」の要領で工夫を重ね、自分なりのやり方を確立していけば、仕事に自信が生まれ先々が見通せるようになり、不安も解消できるでしょう。

ポータブルスキルを磨き、将来に備える

ポータブルスキルとは、例えばコミュニケーション能力やロジカルシンキング、問題解決力など、業界や職種が変わっても活かせる持ち運び可能なスキルのこと。これらのスキルを意識して磨くといいでしょう。

「先が見えず不安なときは、与えられた目の前の仕事にひたすら打ち込めば、そのうち視界が開ける」というアドバイスをよく目にしますが、これからの時代においてはこのやり方はややリスクがあります。
自分の意志でやるべきことを選び、それを磨き続けることで、能力が自分自身に装着されます。従って、やるべきことが見えているならば、目の前の仕事にひたすら打ち込む時期も必要なのですが、「与えられたことをただこなしている」だけの場合は、スキルが身に付かないどころか、勤務先からいいように使われてしまう可能性があるからです。

そんな憂き目に遭わないためにも、どんな領域でも通用するスキルを磨くことを意識するといいでしょう。先が見えず、自身の方向性がなかなか見つからない間でも磨くことができ、かつどの道に進んでも活かせるので無駄がありません。

持ち運びできるスキルであれば、どんなものでも構いません。例えば、文章力や交渉力、WordやExcelなども立派なポータブルスキル。特にExcelはデータ分析の際に必須であり、Excelを使いこなせればどの部署でも重宝がられるはず。生産性向上にもつながるので、Excelの達人を目指してみるのは一つの方法です。

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20代が抱きがちな「不安」別アドバイス

漠然とした不安を抱える会社員イメージカット

若手ビジネスパーソンが抱きがちな「漠然とした不安」別に、その不安を軽減するためのアドバイスをいくつかご紹介します。

「転職するなら20代のうちにしたほうがいいのだろうか」

明確な目標があるならば別ですが、漠然と「20代のうちにしたほうがいいのでは…」と考えているならば、現在の仕事においてまだ能力が身についている状態にないと思われます。
確固たる能力を身につけるには、努力を積み重ねて一定の「閾値」(能力が変化・変動する値の境目)に達することが必要。閾値を超える前に転職などで別の仕事に移ってしまったりすると、それまで培ってきた能力も衰えてしまいます。

今の仕事にそれなりにやりがいを感じているのであれば、全力投球してそのやりがいを突き詰める、どんな能力を磨けばいいのかわからなければ、ロールモデルを見つけて完コピしたり、ポータブルスキルを究める努力をすることをお勧めします。

「自分にはもっと、別の可能性があるのではないか」

おっしゃる通り、どんな人にもさまざまな可能性があります。ただ、その可能性を「開花させる」のは自分一人では難しく、誰かに認められ、引っ張り上げてもらう必要があります。
誰もが知る著名な画家であるゴッホやルソー、ゴーギャンは、実はいずれも生前はあまり評価されず、死後に高く評価されました。すばらしい芸術家であっても、引っ張り上げてくれる人がいないことには「開花」できないのです。

従って、まずは社内で自分を引っ張り上げてくれる人を探すのが先決。全社横断のプロジェクトに手を挙げてみたり、勉強会など有志の集まりに積極的に参加してみたり、社内SNSで発信してみたりと、さまざまな方法で自己開示を行うといいでしょう。あらゆる方法を駆使してどんどん発信して自分をさらけ出し、誰かから声を掛けられるのを待ちましょう。

「今の仕事にやりがいを感じられないが、このままでいいのだろうか」

多くの場合、「やりがいがない」状態は、「承認欲求が満たされていない」ことに起因しています。頑張っているのにやりがいを感じられないのであれば、自分はどのように評価されているのか、自ら上司や先輩にフィードバックをもらいに行きましょう。

定期的なフィードバック面談の場で掘り下げて聞く方法でもいいですし、「この前の私のプレゼンはどうでしたか?」など、こまめに聞いてみるのもいいでしょう。「要点がわかりやすくてよかったよ」と言われればやりがいを覚えるでしょうし、「あの部分をちょっと工夫してみては?」とアドバイスをもらえたら「もっと頑張ろう」と奮起でき、仕事がぐんと面白くなるかもしれません。

「今の仕事のままで、60歳70歳まで働けるだろうか」

どんな会社のどんな仕事に就いていようとも、60歳70歳まで働き口はあります。そもそも社会が放っておかないので、この不安は完全に杞憂です。

超・少子高齢化の日本においては、労働力不足が深刻であり、「2030年には644万人の人手不足になる」という試算もあるほど(出典:パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2030」)。労働力不足を少しでも埋めるために、すでに働き方改革や定年延長など様々な打ち手が実行されていますが、今の20代が60歳70歳になるころには今以上にすべての人が「希少資源」になっているはず。逆に「早期リタイヤしたい」と思っても、社会が許してくれないかもしれません。

「不安なのに何もしない」はNG。何らかの方法で一歩踏み出そう

「漠然とした不安」を感じているにもかかわらず、何も対策を講じない人は実は少なくありません。しかし、それでは何の解決にもならず、ずっとモヤモヤを抱えるだけであり非生産的です。

ここまでに、いくつかの「漠然とした不安」の軽減方法を挙げてきましたが、その中から、「これならできそうだ」と思ったものにまずは挑戦してみましょう。周囲にいる人を見回してみてロールモデルを見つけに行くでもいいし、ポータブルスキルを磨くのに特化するでもいいし、フィードバックをもらいにいって自分を鼓舞するのもいいし、徹底的に自己開示してチャンスを待つのでもいい。一時的であれば、SNSなどで尊敬できそうなキャリアの「教祖」を見つけて敢えてハマりにいくのもアリかもしれません。
どんな方法であってもまず「一歩踏み出す」ことで、少しずつ霧が晴れ、不安の軽減につながるでしょう。

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EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭
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