世界的デザイナーがやさしく解説「誰でもつかめる、創造的なアイディアを生む進化思考」~太刀川英輔氏

コロナ禍で先行き不透明感が続く中、今後のキャリアの方向性に悩む人や、あるいはこんなときだからこそ新たな能力を見につけ、世の中の変化に適応していきたいと考える人たちがいます。

今回は、そのような人たちに「考え方のヒント」を知ってもらおうと、「進化思考(※)」を提唱するデザインストラテジストの太刀川英輔氏と、『リクナビNEXT』編集長・藤井薫が対談を実施。創造性、進化思考のプロセスから学ぶ、キャリアデザインのヒントについて語り合いました。

※生物の進化のように変異と適応を繰り返すことで、本来誰の中にもある創造性を発揮する思考法。本文中で詳しく解説します。

創造と進化の図

プロフィール

NOSIGNER代表/デザインストラテジスト/慶應義塾大学特別招聘准教授
太刀川英輔氏

NOSIGNER代表。デザインストラテジスト。慶應義塾大学特別招聘准教授。
デザインで美しい未来をつくること(デザインの社会実装)、発想の仕組みを解明し変革者を増やすこと(デザインの知の構造化)を実現するため、社会的視点でのデザイン活動を続ける。プロダクトデザイン・グラフィックデザイン・建築・空間デザイン・発明の領域を越境するデザイナーとして、グッドデザイン賞金賞(日本)やアジアデザイン賞大賞(香港)など100以上の国際賞を受賞。デザインや発明の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、変革者を育成するデザイン教育者として社会を進化させる活動を続けている。著書『進化思考』(海士の風)が4月に発売し、大ヒット中。

株式会社リクルートキャリア 『リクナビNEXT』編集長
藤井 薫

1988年リクルート入社。以来、人材事業に従事。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長を歴任。2008年からリクルート経営コンピタンス研究所、14年からリクルートワークス研究所兼務。変わる労働市場、変わる個人と企業の関係、変わる個人のキャリアについて、多様なテーマをメディア、講演で発信中。著書『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)。

創造性は、変異と適応の往復で磨かれる

NOSIGNER代表太刀川英輔氏

▲NOSIGNER代表・太刀川英輔氏

藤井薫編集長(以下、藤井)テレワーク、オンライン・ビジネス、副業、学び直し…。コロナ禍を受け、私たちは新しい働き方やビジネスの在り方、そして新しい生き方やキャリアについて、変化を迫られています。

これまでとは異なる環境の中で、これまでとは異なる方法に挑戦し、新たな価値や未だ見ぬ自分の可能性を創り出す。まさにいま、世界中の企業、そして働く個人が、自らの創造性を発揮することを求められる「創造の時代」とも言えます。

「創造」「クリエイト」の類義語は「エマージェンス」。困難からの脱出を意と共に、「創発」と言う意味もあります。つまり、今のような危機的状況にあるときこそ、創発・創造のチャンスであるといえます。

ただ、そんな中で「創造しろと言われても何をすればいいのかわからない」というビジネスパーソンの悩みも聞こえてきます。

そこで今回、生物の進化のプロセスを創造性のメソッドに応用する「進化思考」という考え方を提唱されている太刀川さんに、「創造のためのヒント」をいただければと思っています。

太刀川英輔氏(以下、太刀川)そもそも「創造性」というのは、コンプレックスを生みやすいテーマだと思っています。目に見えないものだし、その構造もよくわからないものだから、なんだか難しく感じてしまう。

僕自身も、デザインの仕事を始めたころは「創造とは何だろう」とピンと来ていなかったのですが、経験を積むにつれ明らかに構造らしきものが見えてきました。その構造を洗い出してみたところ、「生物の進化」と極めて似たような現象であることに気づかされたのです。

そして、創造を難しく捉えるのではなく、生物の進化のように考えればいいのだと気づいてからは、創造することがすごく楽になったんですね。

この気づきとプロセスを多くの人に共有できれば創造性についてコンプレックスを抱くことなく、誰もが創造性を発揮できる世の中になるのではないかと、自身で体系化したのが「進化思考」という考え方です。

藤井 前向きなあまり、「こういう時代だからこそ、何かを創造しなければ!自身をアップデートしなければ!」と焦りを覚えている人たちもいるでしょう。そのような人たちは、太刀川さんの「進化思考」を通して生物の姿から創造を学べば、「しなければ」という緊張感から解放されそうです。

そもそも僕たち人間も生物なのですから、生物の進化に創造性があるとわかれば、強いられていると思わず、ポジティブに創造に向き合えそうですね。

では改めて、この「進化思考」について詳しくご説明いただけますか?

太刀川 生物は「変異」と「適応」を繰り返し、進化してきました。変異とは「エラー」であり、適応は「エラーが状況にフィットしていくこと」を指します。

例えば、ウミガメなどがたくさん卵を産み、卵からはそれぞれ違う個体が生まれますが、外敵にすぐ食べられたらそこで終わりだし、海にたどりつけなくてもダメだし、餌が取れなくても生き残れない。つまり生まれながらにしてさまざまなふるいにかけられ数々のエラーに直面する中で、徐々に適応が進んでいきます。

このように変異と適応をひたすら繰り返す中で、人の手では発明できないような創造的な生物の形が生まれました。

例えば、コウモリのレントゲンを見ると、羽の部分は実は指で、ネズミの指が長くなって今の形になっていることがわかります。変異と適応を繰り返す中で、指が拡張され「飛ぶ」という機能が備わったんですね。

これってとてもすごいことで、まるで神が作ったかと思うような創造的な生物であっても、変異と適応を繰り返すプロセスを経ることで生み出せる。つまり、創造には「やり方」があるわけです。

神様は創造的なものをポンと作れるけれど、われわれ人間にはそんなものは作れない…と考える人もいるかもしれませんが、それって「天才だからできるけれど自分にはできない」の根底にある“才能を持つものと、持たざるもの”という発想と同じ。そして、生物の進化はその発想を否定しています。

われわれ人間も、変異と適応を繰り返せば必ず創造にたどり着く。どんなに険しい山に見えても、繰り返すことをあきらめさえしなければ、なだらかに上る道が存在するのです。

進化の螺旋
▲進化の螺旋図:「適応」と「変異」を繰り返すことでコンセプトの強度が増していくことを表す進化の螺旋

藤井 なるほど。私たちも変異=エラーを起こすことで、進化すなわち創造を起こせるということですね。エラーイ人よりエラーな人はチャンスですね(笑)。

太刀川 そうです(笑)。そして、進化はロジカルな思考プロセスだけで起こるわけではなく、変異につながる偶発をどれだけ自分の中で起こせるかが重要だったりします。

例えば、転職なんて偶発そのもの。やったことのない仕事に挑戦するとか、自分のスキルを別の領域で活用するのは勇気がいることです。その挑戦が今までにない偶然を生み、進化が起こり、成長できるのです。

転職までいかなくても、今置かれた環境の中で少しでも興味があること、やりたいと思っていたことを少しかじってみるなど、偶発を生み出すチャレンジをしてみれば必ず状況が変わってくるはずです。

9つの変異と4つの適応パターンで、創造性が発揮しやすくなる

藤井 創造には「やり方」がある、とのことですが、具体的にはどういうやり方が考えられるのでしょう?

太刀川 変異には9つのパターン、そして適応には4つのパターンがあると考えています。これらの変異の方法でエラーを起こし、それに適応することで創造性が生まれます。

変異HOW
▲9つの「変異」パターン:生物のDNAエラーから学ぶ、アイデアを生み出すための9つの「変異」のパターン

この「変異」のパターンは、挑戦のパターンと同じです。

例えば、仕事の一部を切り離してみたり(欠失)、誰かのやり方を真似てみたり(擬態)、副業を始めて今までとは違う新しい場所を探してみたり(転移)することで、創造性につながるエラーを起こすことができます。

そして肝心なのは、そのエラーを受け止め、いいアイディアを選び取る「適応」側です。

適応WHY
▲4つの「適応」パターン:あらゆる事象を「時間」と「空間」という2軸からとらえ、状況を考察し理解するための時空観学習

適応は好奇心と似ています。例えば、エラーの内部構造を分解し探求してみたり、「そのエラーはなぜ起きたのか」を探るために仕事の過去の系譜を調べたりすることで、適応の流れがわかるようになるんです。

この9つの変異、4つの適応パターンを活用できるようになれば、「わからない」と迷うことがほとんどなくなります。何が分かっていないのかがわかりやすくなるんですよね。

変異と適応が往復して創造性が生まれていると自覚すれば、「今は変異が足りないからこのパターンで挑戦してエラーを起こしてみよう」とか、「今まで解剖的な視点ばかりだったけれど、歴史的な探求が欠けていたな」などと行動に移せるようになるはずです。

藤井 この変異と適応のパターンは非常にわかりやすく、悩めるビジネスパーソンの行動指針になり得ると思います。

太刀川 適応的観点を身につければ、社内での協業もしやすくなると思います。

例えば、エンジニアリング部門は解剖的な観点で物事を見ていて、マーケティング部門は生態的な観点で見ているケースが多く、それが社内対立を生んだりすることがありますが、「互いの適応観点が違う」と理解すればわかり合えるようになり、役割分担が進んでさらなる価値を発揮できるようになるはず。

転職や異動などで新しい環境で仕事を始める際も、適応の4つのパターンで臨めば、その仕事の本質が見えてくるようになります。そうなれば現場に入ったばかりでも「やるべきこと」がわかるので、上司の指示を受けなくても仕事が進められるようになり、早期に「上司や同僚など、所属組織のメンバーと同じ目標を見ている」状態に近づけます。

創造は、極論を言えば生物の進化の模倣です。そしてある種、複雑怪奇な現象でもあり、人間以外の生物には扱えていないように見えます。

となると、創造性は私たち人間に与えられた武器であり、創造性をアップデートし続けたほうがより良い仕事をする、ひいてはより良い社会を築くのに有利だといえます。実際、世の中を変革してきたさまざまなチャレンジャーは、変異と適応の往復に挑戦することで、新しいものを生み出して、疑似的な進化を獲得してきたのです。

適応が備われば、キャリアの越境もたやすくなる

藤井 9つの変異、4つの適応を自覚的に知っておくと、創造に対してコンプレックスなく向き合えると感じました。そして、生き方や働き方に対する学びも得られやすくなると思います。

リクルートエージェントにおける転職決定者の約7割が、異業界もしくは異職種へ「越境転職」をしているというデータ(※)がありますが、業種、職種に捉われず軽々と越境できる人は、自分の能力を解剖的に見られたり、過去の系譜を見て何を価値提供すればいいのかつかめたりできているのだと思います。
※参考:【転職決定者データから見る】2020中途採用市場 中途採用においては「越境採用力」もカギに

太刀川 おっしゃる通りだと思います。どの会社、どの仕事でも通用するポータブルスキルが優れている人は、適応の4パターンが備わっている人なのだと思います。新しい仕事に出会ったときにそれを因数分解して系統や生態を理解し、その先にある未来をある程度予測できれば、そう道を踏み外すことはありませんから。

ただ、適応の探求方法は、学校の授業では教わらないんですよね。学校で教わる教科は、職業のフィールドのように「WHAT」(これは何か)のレイヤーでわけられていますが、変異のパターンは「HOW」(どんな方法で)であり、適応は「WHY」(どういう理由で、何のために)のレイヤーでわかれています

例えば、消防士と医者は全く違う職業に見えますが、WHYのレイヤーで見れば「人を助けたい」という目的でつながっています。適応の観点で生態的に解剖的に考えれば、消防士兼医者というキャリアがあってもいいはずなんです。

私たちは表層的なレイヤーで物事を考えるよう教育されてきたから、自分のイメージを「軽々と越境させられない」人が少なくありませんが、適応のパターンから考えれば物事はとてもシンプル。あらゆる仕事において、WHYの探求もHOWの挑戦もできるということを、ぜひ多くの人に理解してほしいですね。

藤井 今の話をうかがって、スタンフォード大学のクランボルツ教授の「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」というプランド・ハップンスタンス理論(計画された偶発性理論)を思い出しました。

自分の枠を決めてしまうことなく、変異による偶発を好奇心を持って必然的に計画することで、もっとイキイキと創造性を発揮できるようになり、キャリアの可能性も広がると期待できますね。

太刀川 ノーベル賞を受賞した世紀の発見も、多くが偶発によるものです。触媒を1000倍入れちゃったとか、うっかりシャーレがカビちゃったとか。自身の創造性や、自身のあり方を知るためには、変異による偶発は絶対に必要な軸。まずは難しく考えず、仕事においても「今まで食べたことのないアイスをコンビニで買ってみる」くらいのレベルで新しいことにチャレンジしてみるなど、人生における偶発性を少しずつ高めていけばいいんです。

変異と適応の繰り返しを身につければ、自然にステップアップできるようになると思います。

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ライター:伊藤理子

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