生理前になるとイライラしたり、落ち込んだり、頭痛がするなど、身体的・心理的に不安定となり、生活に支障が出るような状態になるPMS(月経前症候群)。その不調がPMSであることを自覚していないために不安になったり、職場の同僚やパートナーに言いにくいと悩む女性も少なくないようです。そこで、『PMSの悩みがスッキリ楽になる本』の著者、東峰ラウンジクリニックの医師・池下育子先生に、PMSに対する正しい理解、上手な付き合い方を教えていただきました。
東峯ラウンジクリニック 医師 池下 育子氏
池下レディースクリニック銀座院長。帝京大学医学部卒業後、国立小児病院麻酔科勤務。その後、東京都立築地産院に勤務し、同産院医長就任。「女性が美容院に行くような華やいだ気持ちで来院できるように」という思いから、1992年銀座に池下レディースクリニック銀座を開業。産科、婦人科のみならず、心と身体のトラブルに悩む女性のための女性科、心療婦人内科医として診療にあたる。2020年にクリニック移転、東峯ラウンジクリニックと改称。より多くの女性の心とカラダを応援している。
目次
PMS(月経前症候群)とは
月経(生理)から女性のカラダのリズムを分類すると、月経開始日から次の月経がくる前日までを「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」という4つの周期に分けられます。卵胞期から排卵期には卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が多くなり、排卵後から次の月経までの「黄体期」は黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が多くなります。この月経前の約1週間にホルモンの大きなアップダウンが起こります。
こうしたホルモンバランスの変化に伴い、胸が痛い、頭痛がする、吐き気がするといった身体な不調、あるいは、気持ちが落ち込む、感情の起伏が激しくなる、イライラする、決断力が鈍るといった精神面での不調を抱えることをPMS(月経前症候群)といいます。
PMSの重症例のなかには、過食、買い物、ギャンブルなどに走ってしまったり、イライラや体調不調を周囲にうまく伝えることができず、家庭や職場で「ヒステリーでは?」と思われてしまうケースなどもあります。
人によって異なるPMSの症状
PMSの代表的な症状としては、頭痛、胃痛、倦怠感、吐き気、むくみ、吹き出物、あるいはデリケートゾーンのかゆみ等が挙げられます。PMSをわかりにくくしているのは、そうした症状が人それぞれ千差万別であるという点です。月ごとに症状が異なるという人もいます。
また、初潮の訪れがはやくなるにつれ、PMSの症状が現れ始める年齢も若年化しています。以前は30代後半以降に多く見られましたが、いまでは20代半ばでも重いPMSの症状を訴える人が増えています。
コロナ禍のストレスでPMSの症状が悪化する人も
新型コロナウイルスの影響で、2020年から在宅勤務が増えました。在宅勤務は仕事とプライベートのオン・オフがつけにくい面があり、人によってはストレスが溜まりやすい状況となります。
オフィスに出社する場合は、通勤時間やお昼休みなど、仕事のオン・オフ切り替えがありました。通勤や外出が減ったことで運動不足に陥るなど、生活リズムが不安定になったことで、生理が来なくなった、生理周期が不規則になったと来院される女性も増えています。
さらに、PMSの中でも精神的な不調が続くPMDD(月経前不快気分障害:Premenstrual Dysphoric Disorder)もリモート環境下で増えています。コロナ禍でストレスの発散が難しくなり、以前より症状がひどくなっている人が少なくありません。
PMDDによる抑うつ症状が続いたり、イライラして突然怒りだしたり、あるいは涙もろくなったりと感情の起伏が激しくなり、感情がコントロールできなくてつらいという声をよく聞くようになりました。
PMSという言葉はいつ頃から認知された?
PMSという言葉が広まってきたのは、この10年ほどのことです。1986年に男女雇用機会均等法が制定され、性別に関係なく一定以上のパフォーマンスを出して働くことが定められました。女性の社会進出が進み、体力面や結婚・出産などのライフイベントなどを理由に、これまで女性には不向きと言われてきた仕事に就くようになってきたのもこの頃です。
月経前や月経中の身体や心の不調に悩む女性が多いにも関わらず、当時はPMSやPMDDに対する認知は進んでいませんでした。私たち産婦人科医の間でもPMSの概念が認知されていなかったため、「どうして生理前の女性たちが仕事で大きなミスをしたり、メンタルバランスをコントロールできなかったりするんだろう」と不思議に思われていました。
その後、90年代後半から、アメリカからピルや避妊とともにPMSという概念が持ち込まれ、産婦人科医の間にも納得感が広がっていきました。そして、心療内科医や産婦人科医を中心に、「社会でハードに働く女性たちの中には、PMSで苦しんでいる人たちがいる」ということを雑誌や書籍などを通じて伝えていくようになったのです。
しかし最近では、SNS等でPMSの症状について伝える医師や、インターネット上のマンガでわかりやすく伝えるメディアも増えてきました。月経カップや吸水ショーツなど、生理の悩みや問題を解決する商品も増え、百貨店などで展示会が開かれたり、それらを使うための正しい知識や情報を得るワークショップやイベントも開催されています。日増しに、月経や女性の心身のつらさに対する認知は高まっているように感じます。
PMSのつらい症状をやわらげるには
忙しいからと我慢せず、まずは日記などにつらい気持ちを吐き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。どこかに書き出してみることで自分の状態を整理でき、客観的になれることが多いようです。
また、PMSチェックシートを使って自身の症状を観察してみるのもおすすめです。下腹部痛、腰痛、乳房の張り、イライラ、怒りっぽい、抑うつ、周りに当たり散らしてしまうといった症状をチェックします。まずは1カ月続けてみてはいかがでしょうか。
※参考:カラダとココロの状況を記録する「PMS症状日記」(⇒)
出典:生理のミカタ(バイエル薬品株式会社)
自身の症状の傾向が分かれば、メンタルバランスを崩してうまくいかないことがあったり、体調不良が続いたりしても、「PMSだから仕方がない」「生理がくれば落ち着くはず」などと気持ちが軽くなるのではないでしょうか。
ただし、生理前だからといって極端な言動や行動をとってしまったり、自分の感情をコントロールできない場合は専門医に相談することをおすすめします。自身の症状を理解し、緩和する対処法を試すことで、今後の付き合い方も見えてくるはずです。
PMSに効く薬はあるのか
PMSの際に処方することが多いのは、漢方薬やピルなどです。メンタルバランスを整えたり、吹き出物を抑えたりする漢方薬がまず処方されるケースが多いですね。それから、月経周期を規則正しくするピルを処方することも多いです。
最近では、月経周期を必ずしも30日周期ではなく、60日周期、120日周期など、長期間にすることでPMSがくる機会を減らし、安定させることもあります。というのも、月経を30日周期にする場合はピルを3週間飲み続けて1週間お休みするのですが、この1週間の間にホルモン量が低下してPMSが起こるケースがあるからです。
30日周期にこだわらず、医師と相談しながら、周期を変えることを検討してみてもよいのではないでしょうか。
周囲にPMSの人がいたら、どう対処する?
PMSは表面化しづらく、言いだしにくい悩みです。社会全体で伝え合える環境作りのためにも、同僚や家族、パートナーだけではなく、周りにPMSに悩む女性がいたら、できる限り気遣っていただきたいと思います。
PMSで仕事のパフォーマンスが落ちたり、感情の起伏が激しくなったりすることはサボったり怠けたりしているわけでも、ヒステリーでもありません。自らコントロールすることが難しい心理的、身体的症状ですので、復調するまで見守ってあげましょう。
最近では、同性同士でも「私はPMSに耐えて、頑張ってきたんだから……」と他者のつらさに寄り添ってもらえないケースがあります。しかし、身体の不調は誰にもあるもの。「しばらくしたら、いつも通りのパフォーマンスに戻るはず」と気長に構えてほしいですね。
20代・30代女性の多くが悩まされるPMS。正しい知識と自分なりの付き合い方、そしてPMSに悩む身近な女性への理解を持つことが、最大の解決策になるのではないでしょうか。
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