『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。
『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「Tシャツ1枚の製作原価が800円、粗利率1200円、粗利益60%…」
(『マネーの拳』第5巻 Round.36より)
地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。
その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。
「最後に頼れるのは自分たちだけ」
渋谷にTシャツ専門店の1号店をオープンした花岡。資金繰りに苦しみながらも、次の新宿駅ビル店のオープンに向けて、着々と準備を整えます。花岡たちは新宿店の原価率を計算した結果、「月の営業維持費が102万円、商品原価80万円で計182万円。営業利益が18万円」になると予測します。
不安材料である資金不足について、「ある銀行と交渉し、来月1カ月の渋谷店の売り上げが20%増になれば、融資をしてもらえるように段取りをつけた」と言う花岡。渋谷店の販促を強化するために、マスコミを利用しようと考えます。
元・プロボクサーの花岡は、知名度を使って『元チャンピオン、社長に転身』という企画をテレビ局に持ち込み、撮影が決まります。しかし収録日当日になって、企画がお流れになったことを知らされます。ライバル・井川の妨害工作だと知り、花岡は「もう誰の力も借りない。自分の運と才覚を信じてやるまでだ」と一人つぶやくのでした。
副業を始める際に必要な考え方
今回は、新規出店に際して花岡が部下たちと原価計算をしている様子が描かれています。私はこれまで16年以上にわたって店舗経営をしてきましたが、この場面は真に迫っていると感じます。前回お話した通り、作者の三田紀房(のりふさ)先生がマンガ家になられる以前、実家の洋品店の立て直しに尽力された経験が、作品に活きているのでしょう。
この文章をお読みの多くのビジネスパーソンにとっては、こうした原価計算を行う様子を見ても、ピンとこないかもしれません。しかし事前の予測とそれに基づく計算は、会社を興したり、お店をオープンしたりすれば必ずついて回ります。最近は、副業を始める人が増えていますので、興味がある方にとっては、ここで取り上げた内容がお役に立つのではないでしょうか。
少し、副業について触れておきますと、もし、あなたが「副業を始めたい」と思った場合、手がける業務は以下の2つのどちらかになります。
(1)自分の技術を売る
(2)商品やサービスを販売する
(1)の場合は、基本的に仕入れがありませんので、自分の労働をお金に換えるだけです。ただし、売るためにかけた時間や経費などについても忘れずに考慮しなくてはなりません。(2)に該当される方には何らかの形で初期費用が発生する場合がほとんどですから、企業が出店するときと同じ考え方が必要になってくる、ということになります。
出店を成功させるのに検討しなくてはいけないことは?
出店の話に戻りますが、お店を出す際に重要なのが立地です。例えば私が最近、フランチャイジーとして新たに加盟したのが女性専用のキックボクシングスタジオ「ミットネス」です。場所は渋谷にしましたが、この場所に決めるまでに、それこそ何軒のテナントを見て回ったかわかりません。決めるまでの間は、常に「どんな場所であれば、お客様が通いたくなるか?」と自問し続けたものです。
ところで、場所さえ良ければ商売がうまくいくのか?といえば、もちろんそうではありません。他にも「このビジネスや立地でどれくらいの新規客が見込めるのか?」「それによる売り上げは?」「粗利は?」などなど、考えることは山ほどあります。自分のポリシーやお店のコンセプトなども考慮しつつ、物販の場合は店舗の大きさから並べる商品点数を決め、必要な資金と費用を計算し…といった具合に、採算が合うのかどうかを判断します。
それでもうまくいかなくなる店が出るのは、開業前にこれらを十分に検討しなかったことが一因になっているのは間違いありません。実際には、検討しても予想外のことが起きるのが経営という舞台ですから。
©三田紀房/コルク
「今、それがそこにある」のにはわけがある
今回、お伝えしたかったのは「Tシャツ1枚をつくって販売するにしても、これだけのことを考える必要がある」ということです。
もともと、あなたが会社で使っているものですら、無料のものは一つもありません。すべて、名も知らない多くの人の手を経て、在るべくして今、ここに在るのです。商品を手に取った際に、「誰が」「誰に」「何のために」と考えられる人が、経営者の発想に近づいていける人なのではないでしょうか。
俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。
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