【若新雄純×編集長対談】「イスに座らず、立っていたい人」の幸福な働き方とは

慶應義塾大学特任准教授でありプロデューサーとしても活躍し、自ら多様な働き方を実践・研究している若新雄純さん。「社員全員がニートで取締役」というNEET株式会社の代表も務めています。
固定的で単一的なキャリアではなく、ユニークで多様性のあるキャリア形成の重要性を訴えている若新さんと、『リクナビNEXT』編集長・藤井薫の対談が実現。これからの日本に必要な「キャリアの多様性」について話し合いました。

若新純雄さんと藤井薫編集長
若新純雄さんと藤井薫編集長

 

プロフィール

慶應義塾大学特任准教授、株式会社NEWYOUTH代表 若新雄純さん(写真左)

人・組織・社会における、創造的なコミュニケーションのあり方を研究・模索。日本全国の企業・団体・学校等において実験的な政策や新規事業を多数企画・実施し、ビジネス、人材育成・組織開発、就職・キャリア、生涯学習、学校教育、地域・コミュニティ開発などさまざまな現場でフィールドワークを行う。テレビ・ラジオ番組等でのコメンテーター出演や講演実績多数。

株式会社リクルートキャリア 『リクナビNEXT』編集長 藤井 薫(写真右)

1988年にリクルート入社後、人材事業の企画とメディアプロデュースに従事し、TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長などを歴任する。2007年からリクルート経営コンピタンス研究所に携わり、14年からリクルートワークス研究所Works兼務。2016年4月、リクナビNEXT編集長就任。リクルート経営コンピタンス研究所兼務。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)。

「働くのが好きで得意」ならば、雇用という枠に収まらないほうがいいかも

笑顔の若新さん

藤井薫編集長(以下、藤井)若新さんには2014年から「GOOD ACTION」の審査員を務めていただいていますが、「GOODというのは1つではないから、『この会社のこの事例がGOOD』と表彰することで固定化してしまうのはおかしい。GOOD ACTIONではなく変なアクションとか、ユニークなアクションとしたほうがいいんじゃないか」と言われていたんですよね。
※「GOOD ACTION」:一人ひとりが生き生きと働くための職場の取り組みに光を当てるプロジェクト。リクルートキャリアが2014年から毎年アワードを開催し、ユニークな取り組みをしている事例を表出・審査・表彰することで、社会にアピールする活動。GOOD ACTION アワード

若新雄純さん(以下、若新)長らくフリーランス的な働き方をしてきた自分の経験から言えば、画一的なキャリア観よりも、変で不確定なキャリア観で生きるほうが、人生楽しくなるという人は多いと思うんですよ。
僕はこれまで、一つの企業に雇用されて働いたことが一度もありません。大学教員の仕事も基本的には1年更新で、長期に保証されてはいません。そんな僕の働き方を見て、「将来は大丈夫なの?」と心配する人がいますが、そういう人はみんな、企業に雇用されているんですよね。つまり「長期的な雇用を約束されないという立場を経験したことがない人」ほど、「長期的な雇用が約束されていないことは不安なもの」と思い込んでいる気がします。

藤井:なるほど。就活して、企業に雇用されて…というのが親の代から当たり前だから、そこに疑問を抱くことなく「こういうものなのだ」と思いそれを踏襲している人が多いのでしょうね。一人だけ違う方向に行くのではなく、みんなと同じの方が安全という意識も強い気がします。

若新:でも、別に雇用に守られなくても「働ける」んですよね。そのほうがさまざまな仕事に関われて、可能性がぐんと広がる人だっている。それなのに、誰もが「長期的に保障されていないと怖い」と思い込んでしまっているのはもったいないことだと思います。
その思い込みを逆手にとっている企業も、少なからずあります。「働き方改革」は本来、働く個人が主体でなければならないのに、企業が実践している働き方改革のほとんどは企業が主体となっています。働き方改革ではなく「働かせ方改革」になっているという指摘があるように、働く個人の問題だとしていないから、根本が変わらない。

藤井:考えてみれば、「雇用」という字は人を雇って用いる、「採用」は人を採って用いると、いずれも企業が主体の言葉になっていますよね。「従業員」という言葉も、業に従う人と書く。いつのまにか働く個人も企業中心の構造に慣れてしまっている気がしますね。

若新:ただ、「雇用」というシステムを否定するつもりは全くないんです。世の中には雇用されることに向いている人、雇用に向いていない人がいて、雇用は「雇用が必要な人」のために存在すべきだと思っています。
そういう人にとっては、長期的な雇用を約束されている環境のほうが安心して働けるし、働くことが好きでなくても真面目にコツコツやっていれば収入も保証されます。
一方で、一つの会社に縛られないで働くことに自信がある人は、雇用という枠に収まらないほうが健全な社会になるかもしれないと思っています。フリーランスとしてさまざまな企業の仕事をこなし、その働きに見合う報酬を受け取る…このように働く個人と企業の関係が対等になれば、経済の流れも変わると思うんです。…藤井さんも、そろそろ会社を辞めてもいいんじゃないですか?(笑)。

藤井:私自身は、確かに社歴は長いのですが、本を書いたり社外で講師をしたりさまざまなことをしているので、会社というよりはコミュニティに属しているという感覚ですね。今はヤフーのように週休3日制を取り入れている企業も増えていますが、多くの企業が副業を容認すれば、1つの会社に軸足を置きつつも複数の仕事を持つことができるようになる。そうなれば、「退職」とか「転職」という言葉も徐々になくなるかもしれません。

笑顔の藤井編集長

若新:働くことに人生の面白さを見出している人であれば、社外でも必ず声をかけてくれる人がいるし、何かしら活躍の場を与えてもらえるものです。そうなれば、収入もある程度は後からついてくる。それに気づいていない人が多いのは、日本社会の損失かもと僕は思っています。

変化を好む人が、変化に乏しい環境で働き続けてはいけない

若新:僕は今の仕事やこれまでの職業人生について、自分自身すごく納得しているし面白いと思っているのですが、そう思える理由はたったひとつで、「ずっと変化があるから」なんです。

藤井:それはどういうことですか?

若新:変化があれば学びも多いし、新しい人と出会う機会も増えるし、自身の領域もどんどん広がっていきます。それがとても刺激的で飽きないんですよね。遠い将来を心配するよりも、目先のことにしっかり向き合い考え続けていれば、どんどん面白い変化が起こり新しいものが生み出されていく…という感覚があります。
もちろん、この考えはすべての人には当てはまらないと思います。変化を好まない人もいるしそれはそれでいいと思いますが、僕のように本来「変化を好む人」までもが変化に乏しい固定的な働き方を続けているのが、何とももったいないし気がかりです。

藤井:おっしゃるとおりですね。みんな洋服や食事は毎日選んで変えていくのに、「働く」においては1つのフォーム、Uni-formに縛られている感があります。人は木々や草花と違って、自分の意志で居場所を変えることができるのですから、もしも今の環境に閉塞感を覚えているならば違う環境を試してみてほしいですね。きっと「自分はこの環境でも咲くことができるんだ」など、新たな気づきが得られるのでは?

若新:一方で、毎日服を選ぶのは面倒くさい、決まったもののほうが楽ちんという人もいます。そういう人は仕事においても決まった時間に決まった場所に行って、決まった仕事をやって…という働き方のほうがストレスも少なく、価値を発揮できると思います。そして、そういう人が組織を回し、会社を運営するんです。彼らは社会において必要不可欠な存在です。
企業も、そういう人のことをもっと考えて、個人が安心して働ける組織づくりを追求したほうがいいと思うんですよね。変化を求めていない個人に対して、「個の充実」とか「可能性の発揮」などということまで組織が踏み込むから、現場との間にひずみが生じているのだと思います。

「仕事に見通しを立てたいタイプかどうか」は自己判断できる

若新:先ほど来、「雇用に向いている人、向いていない人がいる」という話をしてきましたが、これは「今後の仕事に見通しを立てたい人、見通しが立たなくてもいい人」と言い換えることもできます
僕は、短期の見通しは立てたいタイプですが、人生全体で見れば見通しなんて全然立ってなくていいと思っています。たまに「10年後、20年後はどうなっていたいですか?」なんて聞かれることがありますが、そんなもの、特にない(笑)。ただ、日々の変化とどう向き合っていきたいか、その変化にどう対応し、どう取り組んでいきたいかという思いはあります。以前からそういうタイプだったから、大学卒業後も企業に属さず、フリーランスな立場でずっと働き続けて来られました。

藤井自分が仕事に見通しを立てたいタイプか、見通しが立たなくてもいいタイプか…これは早いうちから、自分自身で判断できそうですね。

若新大学生ぐらいになったら、自分がどちらのタイプか見えてくるんじゃないでしょうか。自分がどの業界、どの職種に向いているのかなんてわからなくても、見通しを立てたいかどうかは大学時代に勉強やサークル活動、バイトなどに向き合う中でわかってくるのでは。
そのうえで「見通しが立っていないと嫌だな」という人は就活を頑張って、いい意味で最強の従業員を目指せばいい。雇用されていることを存分に活かし、会社員という立場を攻略すればいいと思います。企業側も、新卒採用する際にはそういう人かどうかを見極めて採用すべき。本当は変化が好きで、別に先々に見通しを立てなくてもいい人が就活し、そういう人を企業が採用してしまうのは、お互いにとって不幸ですよ。

藤井:これまでの日本の歴史においては、「一人前になるためには師匠の仕事ぶりを見て暗黙知を理解する」という長期習熟の教育が主流でした。また日本の産業も、1つの品種をマスプロダクション(大量生産)して大量販売するという仕組みで成り立つものが多かったから、企業に雇用され、会社員を全うするほうが幸せでした。しかし、今は産業構造や情報インフラが変わり、個人が法人と対等に関係を結べる時代になりつつあります。長期習熟しなくても、会社員にならなくても、スターダムにのし上がれる人はいくらでもいると思います。

「自分のタイプを見極めよう」と話す若新さん

 

自分の持ち味を知りたかったら、他人と関わり続けること

藤井:以前、若新さんがインタビューで「安定とは実は不安定で、不安定なほうが安定している」という話をされていたのを覚えています。その話をこれまでのお話に当てはめると、「会社員にとってフリーな働き方は不安定に見えるだろうが、安定した側面もある」ということになりますか?

若新:おっしゃる通りです。もう少しわかりやすくするために比喩的な表現で言い換えると、「イスにずっと座っていられるか、それとも立ちたいか。「あなたの席はここですよ」と言われたほうが心地いい人、イスにずっと座っているほうが楽な人もいれば、「ここに座っていなさい」と言われると窮屈さを感じて、立ってうろうろしたい人もいます。
ここで言うイスとは、雇用のこと。同じところにずっと座っていられる人は、イスが固定している方が安定して安心感を得られる。一方で、立っていたい人は変化が好きで、違うものを見たいしいろいろな話を聞きたいから、座っていたら逆に落ち着かない。つまり、「立っていたい人にとっての安定」はイスに座ることではなく、立ち上がりうろうろすること。そうするうちに体感が鍛えられ、自分でバランスを取れるようになる。それが「不安定の安定」です。無理にイスに座り続けていては、いざ立ちたいと思ったときに立てなくなり、逆に不安定になる恐れがある。

藤井:確かに。「自分は立っていたいタイプだ」とうすうす気づきながらも、立つのは不安だからと座り続けていたら、本来持ち合わせていたはずの「立つための筋力」が衰え、自分の持ち味が思うように発揮できなくなる…ということですね。

若新:自分の持ち味は、人との関わり合い、相互作用でしか見えてこないと思っています。なぜかというと、「持ち味」とは社会から評価されるものであり、社会の中で「君は(他の人に比べて)こういう人だね」と相対的に言われるものだから。従って、その人の「持ち味」は当然、場所によっても変化します。
「自分の持ち味が知りたい、そしてそれを最大限発揮したい」と思うならば、ひとつのイスに座り続けるのではなく常に動き続けたり立ち続けたりしながらいろいろな仕事や人と関わり続け、一番しっくりくる場所を探究するしかないと思います。
僕もそうやって、自分の持ち味をつかんできました。もちろん、迷ったこともありますし周りと衝突したこともありますが、それでも関わり続ける中で「自分らしい持ち味」が見えてきて、それをさらに磨くことで持ち味を発揮できるようになりました。

藤井:教育心理学者のクランクボルツは「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的な事象によって決定される」と唱えていますが、「持ち味」も決まったものがあるわけではなく、さまざまな仕事や人に関わる中でじわじわ変わっていくものなのですね。

若新:このクランクボルツの理論は、「イスに座らず、立っていたい人」のほうがより当てはまるかもしれませんね。
繰り返しになりますが、自分らしさを探究して自分の持ち味を発揮したい人は、安定した雇用ではなく、変化を求めてイスから立ち上がったほうがいい。そうして、より自分に向いている仕事ができるようになれば、日本の生産性も創造性も、そして働く人の幸福度ももっと向上するんじゃないかと思います。

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WRITING 伊藤理子
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