コロナ禍を機に事業・働き方を変革した企業とは?──「ニューノーマル時代」に適応するための条件

新型コロナ拡大により、企業の事業・組織運営や働き方が大きく変化している。コロナ対策を機に働き方改革を一気に進めたり、マーケットを拡大した企業がある。いち早く取り組んで成功している企業の事例を集め、6月に『ニューノーマル時代の適者生存』を上梓した、株式会社スパイスアップ・ジャパン 代表取締役 豊田圭一氏に、「ニューノーマル時代に勝ち抜くために必要なこと」を語っていただいた。
インタビュアーは人事戦略コンサルティング会社を国内外で展開するゼスト株式会社CEOで、日本最大級の経営層・人事勉強会『一般社団法人グローバル人事塾』を主宰する樫村周磨氏。これからの働き方を考える上で、ヒントになりそうだ。

株式会社スパイスアップ・ジャパン 代表取締役/CEO 豊田 圭一氏

上智大学経済学部卒業後、建設会社で約3年間勤務し、留学コンサルティング事業で起業。約17年間、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に従事するほか、SNS開発事業や国際通信事業でも起業。2011年に株式会社スパイスアップ・ジャパンを起業し、グローバル人材育成を行う。2018年、スペインの大学院IEで世界最先端と呼ばれる “リーダーシップ” のエグゼクティブ修士号を取得。2019年、スペイン語の投稿型漫画アプリ『Manga VAMOS』の運営開始。
新著『ニューノーマル時代の適者生存()』の他、『とにかくすぐやる人の考え方・仕事のやり方』など全16冊の著書がある。

先が見通せなくても、思考・行動を止めてはいけない

樫村:『ニューノーマル時代の適者生存()』を執筆しようと思い立ったのは、どんなきっかけ・理由からなのですか?

豊田:「多くの人が思考停止に陥っている」という危機感を抱いたからです。私は日本企業の社員の海外研修を支援する事業を手がけていて、今年1月から3月半ばにかけて世界3周分くらい飛び回って仕事をしていました。

海外各国でロックダウンや出入国規制といった緊急事態を目の当たりにしながら対策に追われ、3月22日に帰国したら、日本国内は意外とのんびりした雰囲気だったんですよね。

観光関連業界などは危機感を強めていましたが、それ以外は「困ったもんだね」「早く元に戻るといいね」と、そこで終わってしまっている。けれど、直前まで世界の状況を見ていた私としては「すぐに収まるものではない、収まるかどうかもわからない」と思っていました。

だから、「思考を止めちゃいけない、行動し続けるべき」というメッセージを伝えなければ、と。仲間内で話したりオンラインセミナーを開いたりしたんですが、もっと多くの人たちが早急に意識を変えていかなければいけないのではないかと思って、この本を書いたんです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

【事例①】オフィスをすべて解約。100%テレワークに移行

樫村:そこで、実際に「思考・行動を止めていない」企業を探して取材をされたんですね。本書には、ニューノーマル時代に適応する企業として6社の事例を紹介していますが、特に印象に残ったのはどの事例ですか?

豊田:まず「大胆で潔い」という点で衝撃を受けたのが、人材・組織コンサルティング会社・株式会社ワークハピネスの変革です 。東京・大阪に拠点を持つ約50名規模の会社なんですが、4月時点でオフィスをすべて解約。100%テレワークに移行したんです。登記用のバーチャルオフィスは借りたものの、社員が集まる場所はないそうです。

コロナ騒動の収束は最短1年、最長で永遠と判断した同社社長は、「ワークハピネス解散宣言」した上で「テレワークハピネス、スタートアップ宣言」をしました。社員も最初は戸惑ったものの、短期間で新しいスタイルに順応し、生産性が以前より500%アップしたとか。

その経験・ノウハウを外部に提供する「テレワーク支援プログラム」を作ったところ、多くの問い合わせを受けているそうです。

樫村:リモートワーク移行に伴うオフィスの縮小・移転の話はよく聞きますが、ゼロにするとは思い切りがいいですね。ちなみに弊社も、これまで使っていた本社オフィスを解約して東京駅前のオフィスに本社を移転。結果、賃貸料を大幅削減できた分、本当に必要な投資をしていくことを真剣に考え始めたので、いいきっかけになったな、と思っています。

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【事例②】疲労回復プログラムをオンライン化

豊田:実際、コロナ禍のピンチをチャンスに変えている企業もあります。どの企業も、最初は「リアルでの事業活動が封じられたので仕方なく」オンラインに移行していきましたよね。

それから何カ月も経った今でも、「本当はリアルがいいんだけど」「早くリアルに戻らないかな」と思いながらオンラインを使い続けている、つまりオンラインを「代替手段」と捉えたままで思考停止しているケースが多く見られます。

しかし、意識を変えた企業は、オンラインを「攻め」に使っています。オンラインでできることは山ほどある。特に、「距離」を飛び越えられるので、商圏を広げられるんです。例えば、これまでは「お客様に会いに行ける範囲」ということで商圏を会社から1時間内のエリアに絞っていたのが、日本全国、ひいては世界に広げていくことも可能です。

著書にも書いていますが、疲労回復ジム『ゼロジム』を運営する株式会社ビジネスライフがその成功例です。同社は東京とブラジルで3店舗を運営していましたが、コロナ発生後、疲労回復プログラムをオンライン化したところ、さまざまな国やエリアから受講生が集まっているそうです。

社長いわく「次はどの場所に店舗を出そうかと考えていたが、リアル店舗を出さなくてもグローバル展開ができるという発想になった」と。

【事例③】海外プロジェクト比率を拡大

豊田:また、テレワーカー人材を活用してコールセンター事業を行っている株式会社イマクリエは、コロナショックによって観光関連の大型案件を次々と失いました。しかし、同社はただ案件の復活を待つのではなく、これを機に国内依存体質からの脱却を図りました。

これまで一部を請け負っていた海外プロジェクトはあまり影響を受けていないことに着目し、海外プロジェクトの比率拡大へと舵を切り、新しい体制を構築したのです。

社長は「世界を見渡してみたことで、世界各国に自社サービスの需要があることに気づいた」と言っています。

樫村:確かに「距離」というビジネス上の障害を越えられるオンラインの特性は、「リアルの代替」だけにしておくのはもったいないですね。弊社は人材採用支援を行っていますが、社員やインターンの採用に関して、応募から面接までオンラインで完結させるケースが増えています。うまく活用すれば、遠いエリアに住んでいる優秀な人材と接点を持つこともできるでしょう。

意識を変えることで、新たな価値を生み出せる

豊田:要は「意識変革」なんです。最近はDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく聞きますよね。既存の事業モデルや業務オペレーションなどにデジタルを導入して変革することを指しますが、テクノロジーをどう使うかを考える以前に、意識を変えることが大事なんです。今、自分たちの行動を制限しているのは、コロナだけじゃない。自分たちの意識なんです。

私自身、コロナ禍によって主力の海外研修事業が成り立たなくなり、大きなダメージを受けています。グループ会社で運営していたインドの英語学校も、廃業する決断をしました。

けれど、思考を止めず、さまざまな事業の可能性を模索し続けています。例えば、1年前から始めた漫画アプリ事業があるんです。スペイン語圏の人が漫画作品をアップロードし、世界中の人が閲覧できるサービスです。

世界でステイホームが広がったのを機に広告を打ち、「漫画の力で世界の人たちをよりハッピーにしよう」とメッセージを送ったら、アクセスが跳ね上がりました。まだ収益化には至っていませんが、続々と投稿がされています。何だか楽しくなってきましたね。「こんな状況でも、考えればいろんなことができるな」と。

樫村:弊社が採用戦略のご支援をしている中では、採用を積極的に行っている会社もあれば、一方コロナの影響で採用活動を止めている企業もあり、毎月開催する人事勉強会では空いた時間を利用して人事制度の見直しに取り組んでいる企業の声もよく耳にしてます。

確かに、意識を変えることで、今までにない手法や事業形態などが生まれてくる気がしますね。それによって起死回生のヒットや逆転ホームランが打てるかもしれない。

豊田:もう一つ、本には書いていない、パラダイムシフトに適応している事例をお話ししましょう。私が2年前に卒業したスペインの大学院『IE』の話です。MBAプログラムでは世界トップクラス、オンラインMBAプログラムなら3年連続世界一のスクールです。

教育分野では、近年、「ブレンデッドラーニング」が世界の主流になりつつあります。オンライン学習とオフライン学習(集合学習)を組み合わせた教育手法で、ハイブリッドラーニングとも呼ばれます。

そして、最近になってIEが打ち出しているのが「リキッドラーニング」。つまり、受講生一人ひとりの事情に応じて「液体のように」変化する教育環境を提供する、というものです。同校では全プログラムについて、自宅・自宅以外の場所・通学など、自由に受講方法を選べる方式を構築しているそうです。

もともと起業家マインドが強いスクールですが、思考を止めずに進化を追求することで、新しい価値を生み出している典型例だと思います。

「変革マインドセット」を身に付け、新たな時代に適応する

樫村:これから訪れるニューノーマル時代に適応できるのは、「思考を止めない」「行動を止めない」企業・人、ということですね。そのほかにも必要な要素はありますか?

豊田:コロナ発生前から、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の白木三秀教授と共同で、「変革」に向き合うマインドセットの研究を進めてきました。

数年前から、「VUCA(ブーカ)」=Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、 Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の時代到来が叫ばれていましたから、それに適応できるのはどんな人材なのだろう、と。

私たちは「変革マインドセット」と名付け、次の要素を挙げています。

1. あくなき探究心(Continuous Learning)
2. 折れない心(Resilience)
3. やる気(Drive)
4. 適応力と創造性(Adaptability and Creativity)
5. 周囲を巻き込む人間関係力(Human Relations and Teamwork)

では、これらの要素をどう鍛えるかといえば、キーワードは次のようなものだと考えています。

越境学習
アウェイな環境
コンフォートゾーンを飛び出す
経験学習サイクル
やるしかない環境

コロナショックによって、皆さんは今、コンフォートゾーンを飛び出さざるを得ず、「アウェイな環境」「やるしかない環境」に置かれていますよね。これは成長のチャンス以外のなにものでもありません。今の状況を嘆いているだけなんてもったいない。ぜひ、この機会をチャンスと捉え、成長のために活かしてほしいと思います。

インタビューを終えて── 樫村周磨氏

10数年来の友人でもある豊田さんの話を聞いて、あらためて「他責にせず自分自身の行いで世の中はかわる」と痛感しました。周囲に左右されず自分でチャンスを作っていかなければ、会社も人も生き残れない。

アウェイの環境や逆境の中で危機にどう立ち向かうか。自分なりに考えて答えを出していくことが大切な時代。自身も肝に銘じると同時に、次世代に生きていく人たちにリアルな声を積極的に発信していきたいです。

ゼスト株式会社 代表取締役CEO 樫村 周磨氏
一般社団法人グローバル人事塾/代表理事 一般社団法人デジタル・イノベーション/理事 米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー

大手人材系企業で営業・人事職で活躍後、2008年4月ゼスト創業。2009年1月に竹内・ケンパーと共に法人化し代表取締役に就任。現在は日系/外資/グローバル企業の中途/新卒採用の人事戦略や求人広告等採用支援サービスを中心にWebマーケティング事業、研修事業を推進する。HR勉強会『一般社団法人グローバル人事塾』を30名の仲間と主宰。
現在は300社以上にわたる企業の採用戦略を実施する傍ら、グローバル人財研究会副代表、人事リーダーズ発起人、人事の未来共同代表、GCDF会代表、TEAMSIXTHSENSEの共同代表等を務める。1年で50回以上のHRイベントの主催。過去30年で10万人の人事と向き合い多くの人事/採用課題を解決に導いてきた。

INTERVIEW&WRITING:青木典子
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