13年前の大ヒットドラマ『ハケンの品格』に学ぶ──自分ブランドを確立する自立型の働き方

2007年に放送されたドラマ『ハケンの品格』で、篠原涼子さんが演じた大前春子の群れない・媚びない・依存しない自立した働き方。働き方改革が進む一方で、新型コロナウィルス感染拡大の影響など、社会情勢が不安定な今だからこそ、この働き方や考え方が参考となるかもしれません。
そこで、業務プロセスやオフィスコミュニケーションのプロである沢渡あまねさんに、自立した働き方とキャリア形成について語っていただきました。

ハケンの品格

あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

沢渡あまねさん業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『仕事は「徒然草」でうまくいく~【超訳】時を超える兼好さんの教え()』ほか多数。

【1】自立したキャリアを形成するために必要な備えとは?

Excel(エクセル)もPowerPoint(パワーポイント)も使えない新人の美雪(加藤あい)は、終わらなかった仕事を自宅に持ち帰ったあげく、業務データを保存した外付けドライブを紛失してしまいます。ところが、春子は持ち前の行動力と持ち前の技術とスキルで取り返します。(1話より)

ハケンの品格春子「不景気が100年続こうと、日本中の会社潰れようと、私は大丈夫。生きていく技術とスキルさえあれば、自分の生きたいように生きていける」

社会で生き抜くスキルを高めながら、自分の価値を発信しよう【評価】★★★☆☆沢渡あまねさん
いまの時代、働き方によらず組織に依存せず自分の力でキャリアを切り拓くことが必要になりました。確かな技術と、絶え間ないスキルアップが必要という春子の意見には共感します。ただし、これからの時代はそれに加えて自分の仕事を外に発信し、自らの価値を高めるアピールも必要です。

発信・受信を繰り返し、まだ見ぬ自分の価値を知ろう

会社の経営状況に左右されない強いキャリアを築くためには、発信と受信を繰り返して自分の価値を知ってもらうことが大切です。まず自分には何ができ、何をしたいのか「発信」すること。そして世の中の情報を敏感にキャッチすることで、世の中の動向やニーズをつかむ「受信」を欠かさないこと。この2つが重要です。

とはいえ大げさなPRをする必要はありません。日常業務の中でも、さりげなく相手に自分を知ってもらう「発信」の機会はあります。たとえば、リモートワーク中のチャットやビデオ電話、顧客との定例会など。このような、日常業務の中にある周囲とのタッチポイントをうまく活用しましょう。大げさなプレゼンは必要ありません。業務報告の中に自分の工夫した点や、改善点を盛り込みさりげなく入れ込む程度で良いでしょう。

「言われた作業だけして終わり」だけでは、次のステップへつなげることができません。自分の仕事を言語化する習慣をつけ、それがチームや会社にどのような価値をもたらしているかを説明できるようにしましょう。個が重要とされる時代、何ができ、何をやりたいかがわからない“顔ナシ”状態では、上司や社外の人も何を任せていいのかわからず、キャリアアップにつながりにくくなります。

自分の視野が狭いと感じたら、社外を見ることも大切です。社外を知ることで、自分の考え方や能力がどのようなジャンルで通用するかどうかが見えてきます。例えば、異業種が集まる勉強会に参加することによって、エンジニアから広報へのキャリアチェンジに成功した人もいます。あるいは業種のまったく違う取引先の話を真剣に耳を傾けたことによって、営業からライターへとキャリアチェンジ した人もいます。

自分の価値が社会のどこで通用するのかは、自分では気づきにくいものです。社外へ目を向けることも発信の一つ。積極的に発信することによって、自分の価値を見出しましょう。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

【2】「社員」であるメリットを最大限生かすには?

新商品を開発しようとするマーケティング部の里中(小泉孝太郎)。しかし、始めたばかりのプロジェクトを営業部の東海林(大泉洋)に取られてしまいます。自分の仕事をいつも横取りされても「会社にとってよければいい」とニコニコしている里中に、春子は次のように言い放ちます。(8話より)

ハケンの品格春子「社員には2種類しかいません。1つは出世のために働く社員。2つ目は人のために働いてしまう社員」

会社というインフラを使い倒して望むキャリアを手に入れよう【評価】★☆☆☆☆沢渡あまねさん
春子に変わり、2020年版「社員」を定義してみましょう。
①会社の看板や予算で、大きな仕事ややりたい仕事ができる
②社会保険なども含めて、安定した生活基盤を得られる
この2つに集約されます。会社員の方は、この2つが満たされているか確認してみましょう。

その会社でやりたいこと・欲しい生活は手に入るのか

フリーランスや業務委託、案件ごとの契約社員、副業、兼業など、新しい働き方が生まれ、雇用形態も多様化している昨今。これから先も「社員」として働くことのメリットは、会社というリソースを使って自分の望みを叶えること、これに尽きます。それは個人で扱えないような予算を任され、大きなプロジェクトを手掛けながら、安定的な給与や社会保障も確保することです。

逆に言えば、社員でなくてもこの2つをクリアできるのであれば雇用形態を変えるという選択肢もあります。一つの会社にこだわる必要はないと言えます。

働き方の多様化に伴い、春子のように専門的な技術があれば社員でなくても ①の実現は可能です。②についても、兼業などによって複数のキャッシュポイントを持てばある程度カバーできます。仮に将来、昨今議論されているベーシックインカムなどの制度が整えば、なお会社に所属する必要性は薄れるでしょう。

今は以前のように出世や会社のために働く時代ではなくなりました。果たして今の会社で、自分の仕事面・生活面における欲求がかなうかどうかを改めて考えてみてはいかがでしょうか。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

【3】「どうすればできる?」問題解決型人材になるには?

新商品を開発するため、1000人の女性にアンケートを取った里中(小泉孝太郎)。その結果を踏まえて新しい企画を提案したところ、「商品化するには、現実的ではない」と同僚にたしなめられてしまいます。里中は落ち込み、春子に「みんなが頑張ってくれたのに、形にできなくて申し訳ない」と謝まります。(8話より)

ハケンの品格春子「何もしてないのに、申し訳ないとうなだれているだけ。まだ何もやってないでしょう。現実的じゃないと言われてそれで諦めるんですか。現実にすればいいだけのことです」

「できない」ではなく、相手目線へ視点をシフトしよう【評価】★★★★★沢渡あまねさん
キャリアの浅いうちは、できないことがあっても笑顔で謝ったり、できない理由を並べてその場をやりすごせばいいと考える人がいるかもしれません。しかし「できない」「私なんて」と諦めては成長は望めません。「どうすればできる?」と考え、今あるリソースで目の前の難題を解決していく「問題解決型」ビジネスパーソンを目指しましょう。

周りの知恵を借り、解決ストーリーを組み立てよう

「問題解決型」のビジネスパーソンになるには4つのステップがあります。

①解決したい問題をオープンにする

そもそも解決したい問題があっても、解決方法が思いつかない場合はたくさんあるはずです。その場合は、一人でゼロからアイデアを出す必要はありません。まずは周囲に自分の抱えている問題をオープンにし、良い解決方法がないか助けを求めましょう。自分一人で抱え込まず、様々な人の知恵を借りることがスピーディーな問題解決への近道です。

②自分目線からいったん離れてみる

問題がなかなか解決できない時は、その問題を自分目線だけでしか考えていない場合があります。上司や顧客、ユーザーなど相手の関心ごとに関するキーワードは何かと想像をめぐらせることが大切です。

例えば会社に「テレワークをしたい」と提案したい時、「通勤が楽になる」「朝起きてすぐ仕事に取りかかれる」など自分のメリットだけを押しつけても経営陣の心は動かないでしょう。経営陣が何に関心があるのか想像し、相手のメリットになるストーリーを伝えることが大切です。

「交通費が削減でき、通勤の負担が軽くなります。社員が本来の仕事に集中できるようになり、生産性の向上にも繋がります。そうすれば社員のモチベーションが上がりプロとして成長するため、会社の業績アップに貢献できるはずです」といった相手の関心ごとへ繋がるストーリーを組み立てます。こうした説明ができれば、相手はきっと耳を傾けてくれるはずです。

③2人目のファンを見つける

解決したい問題に共感してくれる職場の同僚や先輩など協力者を見つけましょう。まずは自分以外の2人目のファンを見つけること。小さなことだと思うかもしれませんが、2人目の視点が入ることによって新たな解決方法や協力者を得られることに繋がるでしょう。

④小さな成功体験を作り、成功へのステップを重ねよう

いきなり大きな成果を上げようと無理をする必要はありません。まずはできることから取り組み、成功体験や変化のメリットを感じてもらいましょう。その小さな変化から新しいファンが生まれるはずです。

【まとめ】自分ブランドの価値を最大化しよう

プロフェッショナルとして生き抜く春子の覚悟は、いつの時代にも必要なものです。とはいえ、今は自分の技術さえ高めればいい時代ではありません。

自分のやりたいことや思いを叶えたい時には、ただ自分の意志を押し通すだけではなく、思いに共感してくれる仲間を増やす視点も持ちましょう。

組織に依存しない自立したキャリア形成は大切ですが、孤立して闘うのではなく、周りを味方につけて共生することも必要です。自分というブランドの価値は終わりなき自己研鑽と、周りの協力や推薦・評価によって最大化すると考えた方がいいでしょう。

自分の周りにたくさんの“ファン”ができれば、やりたいことや推し進めたいプロジェクトがあった時にそのファンがきっと助けてくれるはずです。6月17日(水)から放送が開始される『ハケンの品格』の新シリーズでは、春子の働き方がどのように変化しているのか、気になるところですね。

<番組情報>

『ハケンの品格()』※新シリーズは6/17(水)放送開始 日本テレビ 水曜 22時~(予定)

ハケンの品格2007年当時、日本全国に300万人いたとされる派遣社員。彼ら彼女らなくして現代の企業は成り立たないと言ってもいいかも知れない。そんな時代に現れた“スーパーハケン”大前春子が企業を舞台に縦横無尽に活躍する様子を描いたお仕事ドラマ。 2020年版は「働き方改革」「副業」「アウトソーシング」「AI導入」など現代のキーワードも取り入れ、「サラリーマンになれば一生安泰」という考え方が幻想になった今の職場について描く。脚本は中園ミホ、出演は篠原涼子、小泉孝太郎、勝地涼、杉野遥亮、吉谷彩子、山本舞香、中村海人、大泉洋、伊東四朗他

WRITING:石川香苗子
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。
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