「お金を貯めたい・投資したい」若手ビジネスパーソンが、最初にやるべきことは?

年功序列で給与が上がっていく時代ではないし、年金がどうなるかもわからない。景気の先行きに不安を感じる人もいるでしょう。そんな時代だからこそ将来のお金の不安をなくしたい、お金を賢く増やしたいと思っている若手ビジネスパーソンが増えています。「お金が増える」本や情報は溢れていますが、まずやるべきことはなんでしょう。

『経済ってこうなってるんだ教室 ―小学校の算数と国語の力があればわかる、経済・金融の超入門書』などの著書がある雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは、「お金を増やしたいなら、まずは経済を知ること」と話します。経済は政治にもキャリア形成にも密接な関係があります。もっというとキャリアは景気に大きく左右されます。景気に影響するのは経済・政治まで幅広くカバーしながら株や投資にも詳しい海老原嗣生さんに、お金を貯めたい若手ビジネスパーソンが、まず押さえておくべきお金と経済にまつわる「根っこの話」を聞きました。

考えごとをしているビジネスウーマン

プロフィール

海老原嗣生さんプロフィール写真海老原嗣生(えびはら・つぐお)

雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員、人材・経営誌『HRmics』編集長、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(リクルートエージェント→リクルートキャリアに社名変更)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。リクルートワークス研究所にて人材マネジメント雑誌『Works』編集長。2008年、人事コンサルティング会社ニッチモを設立。近著『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』(イースト・プレス)のほか著書多数。

ビットコイン?新興国株?僕ならしません。その理由は

最近、若いうちから「お金を貯めたい、投資したい」という人が増えてきています。これはいいことだと個人的には考えています。若いうちから、お金を貯めたい、増やしたいと考えることや資産形成を考えることは大切なことです。でも、だからこそ話題だというだけで、安易に金融商品に飛びつくのは待ってほしい。

例えば、ビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)がいくら話題になっても、僕なら絶対に買いません。円やドルなど各国の法定通貨なら国家やその中央銀行が発行・管理をしますが、仮想通貨にはそれに当たる組織がない。裏付け資産がないから既存通貨との交換レートはいろいろな要因で大きく上下動する。そこにドカンと賭けるのは、僕から見たら博打です。
新興国株式投信もそうです。政治不安や対外債務の多さなどで通貨の信頼度が低いから、投資家からお金を集めるために、ものすごい高金利がついてますが、もともと不安定なのだから、あっという間に乱高下する。その国の経済状態はおろか、地図上の位置すら正確には言えない国に投資するのはどうかと思うのです。

近道ばっかり考えて、自分なりに裏付けをとって腹落ちしていない「投資」は、少なくとも若い人が最初にやることではありません。僕はそう思います。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

投資のことを考えるのは博打じゃない。経済に興味をもとう

繰り返します。投資をすることは博打ではありません。

利回りがいいからという理由で、よく知らない会社の株を買ったり、関心をもったことがない国の投信を買う人がいますが、金儲けに興味を持つのではなく、まず、その会社や国がやっていることに興味をもってください。経済や企業の動きに興味をもって、「A社のあの技術はすごい」とわかっているならその会社に投資すればいいし、「この国の教育制度は進んでいるから、経済成長していくはず」と思うなら投資をすればいい。

経済と政治はとても密接にからんでいます。投資をするために、一番大切なことは、経済と政策の2つにアンテナを立てておくことなのです。

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基本をきちんと知っておこう(PERとPBRを知っていますか?)

企業の経済状況を測る指標はいろいろありますが、ビジネスマンの基本として覚えておいてほしいのは、PERとPBRです。

これは2つとも、株価を理解するために欠かせない指標です。

PER(株価収益率)は、株価の時価総額と利益の関係を表し、割安性を測ることができます。標準的には利益に対して13~16倍が目安。PERが13(倍)より低ければ、会社が稼ぐ利益に対して株価が割安と見ることができます。

PBR(株価純資産倍率)は、会社の純資産と株価の関係を表します。もし1より低い場合は、その会社の価値より株価のほうが安いということになり、株価は割安(お買い得)ということになります。PBRが低いほど割安度が増します。

PERやPBRは、国の経済状況に対する1つの判断材料にもなります。世界の株のPERを見てみると、日本やヨーロッパ、中国も13~16の範囲に入っています。対して、アメリカの株式市場は、ときに暴落が報じられますが、実は2020年2月時点で22。まだ、かなり高い水準だったのです。このような世界の経済を大きな流れでつかんでおくことは、大切な基本姿勢です。

世界の大きな経済の流れをまず理解しよう(1)アメリカ経済

アメリカのPERがなぜこれほど高い水準だったのかを見てみましょう。アメリカの中央銀行に当たる連邦準備理事会(FRB)が昨年8月に、10年半ぶりに利下げを行いました。金利を下げると株式投資にお金が流れ株価が上がります。

仕組みはこうです。

  1. 企業は、安い金利で資金調達をして株式投資をする(=良い株価の上がり方)
  2. 市民は、貯蓄をしても利子がつかないので、株式投資に金を回す(=普通の株価の上がり方)
  3. 経営者は、安い金利で借り入れた資金で自社株を買う(=あまり良くない株価の上がり方)

問題なのは、昨今のアメリカで起きていたのは3番目の要因による株高です。
株の買い手が増えれば株価は上がります。自社株を買うことで市中に出回る株式数は減りさらに株価は上がる。
経営者はストックオプションによって、通常市場価格より安価に自社株を購入できます。アメリカの経営者にとって在任中に株価をいかに上げ、ストックオプションによる値上がり益を増やすかが一番の楽しみ。財務体質を低下させてでも、借金をして自社株買いをさせて生まれた、いわゆるバブル。いずれ崩壊します。

上場株が上がりすぎたせいで、台頭したのがユニコーン企業です。設立10年以内、時価総額1000億円以上の非上場企業のこと。かつてはフェイスブック社やツイッター社もユニコーン企業でした。2015年当時は80社ほどとされたユニコーン企業ですが、19年の初めで世界に330くらいに上っています。しかし、その実態を見るとほとんどが赤字企業。残るのはせいぜい50、60ではないかと言われています。これがアメリカ経済のコロナウイルス禍前の風景です。

コロナ禍で世界中が経済破綻を避けるために、経済政策などさまざまな手を尽くしていることでリスケジュールされ、本来ならとっくに経営破綻しているはずのゾンビ企業が延命されるのではないかと僕は考えています。膿が出されずに残ったことで、影響は長く尾を引くと見ています。

世界の大きな経済の流れをまず理解しよう(2)中国経済

もう1つの大国が中国です。

中国は2010年代、経済のスーパースターでした。毎年のように2桁成長を続け、14億人もいる人たちが毎年のように給与が1割以上伸びたのですからら、当然消費も増えます。世界中の景気を牽引するパワーを持っていたのです。

通常は高成長が続くと、賃金が上昇して海外からの投資が減り、産業の空洞化が起きます。しかし、中国は世界の工場として魅力を維持し続けました。2013年ころには、中国一極化した生産体制ではリスクが高いというので、「Chaina+1」(中国以外にもう1拠点)体制の必要性が説かれましたが、掛け声倒れにおわりました。

理由の1つが、14億人を1つの政府が統治していることです。母語または第2言語として広範囲な地域で中国語が通じ、少ない手間で効率的に拠点網を置くことができます。もう1つは、巨大な労働市場であるとともに巨大消費市場でもあることです。中国内で生産し販売する分には、為替リスクもありません。そして、3つめは、教育水準が高いことです。一人っ子政策で大学進学率も高く、技術系の大学もあり、海外留学する人も多い。エンジニアもいる生産拠点としての魅力があったのです。

中国の成長カーブが緩むと僕が考える理由

それでも、僕は、今後中国の成長率は、緩やかになっていくと考えます。それを示す現象がいくつも起きています。

  • 生産年齢人口の減少。15~65歳の生産年齢人口が2014年をピークに減ってきています。
  • ルイスの転換点。これはノーベル経済学賞を受賞したルイスが提唱した理論です。工業化する過程で、農村の安い労働力が都市部へ移動しつくしたタイミングのことで、農村からの供給が止まると、新たな労働力が確保しづらくなり賃金上昇や労働力不足によって経済成長は鈍化します。その先行指標のひとつなのですが、中国はすでに、この転換点をむかえています。
  • 中進国の罠。経済発展によって一人当たりGDPが中程度の水準(一般的には1万ドルとされる)に達した後、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを指します。なぜなら、もっと安い地域に、企業が生産拠点を移すからです。

中国はこうした段階のいずれにも当てはまり、成長率が3~4%に落ちていてしかるべきとき。しかしいまだに6%も成長している。奇跡の国でした。しかしトランプ関税によって風向きが変わりました。
トランプ関税15%上乗せされることで人件費が約1.5倍になったのと同じこと。その結果、中国以外に生産拠点を移す企業がどんどん増えています。中国のGDPに対する製造業の比率は2016年の40%から、昨年は36.8%まで下がり、今後数年で30%まで落ちると見られています。成長率は、毎年0.5%ぐらいまで落ちて、4%程度に落ち着くでしょう。中国が普通の国になる、その過程にいるのです。

2010年代は実はバブルだった。世界は次の局面へ。「その後」を見る目を持とう

中国の高成長期でもあった2010年代は実は、世界はある種の“バブル”だったとも言えます。少なくとも僕はそう捉えています。

世界で一番大きい国が急成長して、バンバン消費をして世界中が潤った。そして08年に発売されたスマートフォンが、2010年代に浸透し、世界で20億人ぐらいが持つようになり、e-コマースやスマート決済が身近なものになりました。

ユニコーン企業など、ちょっとしたアイデアとITを結びつければ簡単に出資が募れて、一挙に名を馳せ大金を手にする事例が続出しました。それが当たり前だと思ってしまっている。バブルに近い状態だと気づいていないのです。

しかし、2017年からスマホの売上も車の売上も頭打ち。トップランナーの中国が行き着くところまで行き着いています。コロナショックが明けたとしても、中国経済のご機嫌斜めは続くと僕は思っています。毎年のように経済成長率が下がる段階にいるということです。インドが、世界の経済を引っ張る次なるスーパースターになるには、もうしばらく時間がかかるでしょう。

バブルの後には5年、10年は暗い時代が続くものです。そういった時期を乗り切るためにも「〇〇さんがこう言っていた」「〇○債が儲かるらしい」などの言葉に踊らされず、本質的なことはきちんと自分で勉強する、経済や政策を大きな局面で理解し、世界経済の主役の動きをしっかり知っておくことが大切です。

将来の経済の見通しについては、いろんな人が、いろんなことをいいます。僕も予言者ではありません。けれど、政策と金融は、密接に関わりあっています。雇用と景気の関係もいうまでもなく、非常に密接です。これからは、ひとりひとりが、政治と金融を調べて、自分の判断と知力を尽くして、お金を貯める、増やす、備えることために勉強していくことが大切な時代だと思います。

EDIT:中城邦子 撮影:平山諭
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