「過去」にこだわって「今」を逃してはいけないーー『マネーの拳』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

マンガ『マネーの拳』のワンシーン

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「ちょっと、企画を出してやらせてみるか」

(『マネーの拳』第3巻 Round.21より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「大手企業から主導権を取り戻せ!」

格闘技“豪腕”のグッズビジネスに食い込んだ花岡。しかし、参加してみてわかったのは、一見「マスコミも注目する華やかな業界」でありながら、現実には毎年同じパターンを繰り返しているだけの、保守的な業者の集まりにすぎない、ということでした。

結局、このビジネスは利益の大部分がイベントを牛耳っている大企業に持っていかれ、生産側はただの下請け先として、新しいことに挑戦する気概もなく、上から言われるまま受注生産に甘んじているのが現状なのでした。

しかし花岡は、グッズの女性担当者・井川の嫌がらせをものともせず、豪腕チャンピオンシリーズ開幕の記者会見上で、まんまと自社の商品をトップアイドルに着させることに成功します。これによって花岡はただの下請けから脱し、豪腕Tシャツでの主導権を握ったのでした。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

保守的な人々も変わる瞬間がある

ひょっとして、あなたも会社で保守的な社員を相手に、辟易した経験があるのではないでしょうか。どこの会社にも、新しいことをやろうとする度に反対し、ルーティンワークしかしないような人が、1人や2人はいるでしょう。ところが、そういう人たちであっても変わることがあります。

人は「景気の良い話」「上手くいっている会社や業界」「著名人や成功者」等を目にすると、「自分もそれにあやかりたい」と思うのが人情です。しかも意外なことに、そういう時は「徐々に変化する」というよりは、まるでオセロで角を取った時のように、形勢が一気に逆転するのです。

今回、取り上げた場面は、その「オセロの石(駒)が黒から白に変わった」瞬間をピックアップしたものです。それまで、花岡の話に全く耳を貸そうとしなかった人々が、マスコミに取り上げられた途端に「この波に乗ってみようか」という気になりました。なぜ、冷たかった人々の態度が急に変わったのかというと、誰もが「勝ち馬には乗りたいから」です。

マンガ『マネーの拳』のワンシーン

©三田紀房/コルク

周りを味方にするための「草の根活動」とは?

私はサラリーマンだった時に、会社がリストラ政策の対案として提示してきた社内ベンチャー制度に応募したのですが、当初、人々の反応は冷たいものでした。「『上手くいけば役員にしてやる』という言葉に踊らされて社内ベンチャーに応募するとは、可哀想なやつだ」というように白い目で見られたものです。

それに対して私が取った方法とは、社内ベンチャーの事業を軌道に乗せることはもちろんですが、それ以外に“草の根活動”も展開しました。要は、事業が勝ち馬に見えるように関係各所で振る舞いました。そのために、

  1. どんなに苦しくても、周りの人間に弱音をはかない
  2. 影響力のある人に対して、ことあるごとに事業が上手くいっていることをアピールする

この2点を徹底して行いました。

やがて周りの目が変わり始めたのは、事業の1号店をオープンしてから半年〜1年後くらいのことでしょうか。ちょうど半年後に2号店を出し、1年後には一挙に4店舗に拡大した時でした。

実のところ、人々の態度が変わった直接的な原因はわかりません。ですが、あちこちで事業の成功が口コミとして広がったおかげで、そのころから急に関係者による社内視察が増加しました。今、考えるとそれが“雪解け”を告げるサインだったように思います。

大きな目標のために、小さなことにこだわらない

もし、あなたが何か新しい事業などを立ち上げた際に、今まで冷めていた人たちが急に自分に話しかけてくるようになったとしたら、それは他人から見て「自分は勝ち馬に見えている」という、1つのシグナルだと考えて良いでしょう。

この時に大事なのが、「寄ってきた人たちを自分の味方に引き入れる」ということです。多くの人は、ここで「今まで冷たかったくせに」という態度を取りがちです。しかし大きなことを成し遂げたいのであれば、過去のことは忘れて「ぜひ協力してください」と迎え入れることが大切です。近づいてきた人たちというのは「あなたと関わりになりたい」と思ってきているのですから、その気持ちを汲んであげることが、彼らを味方にする一番の方法なのです。

マンガ『マネーの拳』に学ぶビジネス 第13回

俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。

俣野成敏 公式サイト

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