『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『マネーの拳』をご紹介します。
目次
『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「相手との取引の始めは理屈じゃない。気分や感情だ」
(『マネーの拳』第2巻 Round.17より)
地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。
その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。
「金のなる木“豪腕”に食い込め!」
塚原会長から出資を受けた1億円を元手に、アパレルビジネスに乗り出す花岡。縫製工場とプリント工場を買い上げ、一貫生産を行うことによって頂点を目指します。花岡が目をつけたのは、格闘技“豪腕”のグッズ販売に食い込むこと。このイベントで自社のTシャツを販売できれば、安定した売り上げを見込め、注目度も上がります。
花岡は「元・ボクシング世界チャンピオン」という肩書きを活かし、豪腕・最高会議議長の大田原とコンタクトを取ります。大田原はグッズ関連事業を大手商社・一ツ橋商事の井川に一任していました。紹介を受けた花岡は、井川に自社の品質をアピールしますが、「グッズの衣料品はすべて中国産のため、国産を取り扱う予定はない」と取りつく島もありません。実のところ、会社の評価が上がらない豪腕の仕事を、井川は最初から真面目にやる気などないのでした。
後日、開催された豪腕プロジェクトの内覧会に潜り込んだ花岡。技術者の八重子を連れて行き、井川に紹介します。すると2人は花岡の目論見通り、お互い険悪の仲に。展示されているTシャツを見た八重子は「価格だけで、着る人のことを全く考えていない代物だ」と言い放ちます。
その言葉にプライドを傷つけられた井川は、花岡に対して「そこまで言うのであれば、取引の話し合いに応じよう」と言い出します。しかしそこには、ある魂胆が潜んでいるのでした。
©三田紀房/コルク
最終的に、相手と組むか組まないかは感情で決まる
今回、花岡の行く手を遮る強力なライバル・井川が登場しました。これで、役者が一通り揃ったことになります。花岡は、自分との取引に応じさせるために、井川に八重子をぶつけるという、思い切った手を打ち成功しました。ことの顛末を出資者の塚原会長に報告すると、会長はこう言います。「誰かと商売を始めようと思うきっかけとは、結局のところ、自分の感情が動いた時だ」と。
実際、私の経験から言っても、「どの相手とパートナーシップを組むか?」というのは、多分に運や偶然、もしくはお互いのその時の気分が大きく左右しているように思います。
私自身も起業家としていくつものビジネスを立ち上げてきましたが、これまでビジネスパートナーになった方々との接点は、すべて偶然の出会いによるものです。例えば、たまたま旧知の仲の会社に遊びに行った際、その会社が開業したばかりのフランチャイズ店の話になり、その足で視察に行って半年後には自分も1号店をオープンさせました。またある時は、海外視察ツアーで一緒になった金融シンクタンクの創業者と意気投合。お互いの強みを活かしたプロジェクト構想を描き、数カ月後にはスクールビジネスを起業しました。
ビジネスパートナーとは「与え合う関係にある」こと
大事なことは、「始まりは感情であっても、それを継続させるのは理詰めだ」ということです。ビジネスをするからには、「選んだ商材にどれくらいの需要が見込めるのか?」「想定顧客は?」「どのような商品設計にすれば、顧客を満足させられるのか?」といったことをきちんと詰めていかなければ、商売として成立しません。
しかし世の中を見てみるに、多くの人が逆を行っている気がしてなりません。つまり最初に「この業界に影響力のあるこの人と組めば、ビジネスが上手くいくのではないか」とか「今、世間ではこのビジネスが流行っているから、これをやろう」といった理屈や打算から入り、後で「こんなはずじゃなかった」「思ったように上手くいかない」と、感情に振り回されるようになるのです。
私から一つ、ヒントを差し上げるとすれば、私がビジネスをする際に、いつも考えているのは「相手に対して、自分が提供できるものは何か?」ということです。なぜならビジネスの本質とは「与え合うこと」だからです。与えもせずに、もらうことばかりを考えていたとしたら、それはビジネスの関係とは言えないのではないでしょうか。
自分のビジネスは、自分一人のものではない
これはパートナーシップを組む時だけでなく、相手が自分の顧客となる場合であっても同様です。自分が役に立てない相手に対して、自社のサービスを押し売りするようなことがあってはいけません。
ビジネスは、一度スタートすると多くのステークホルダーが生まれます。そうなったら、自分の一存で勝手にビジネスを止めることはできなくなります。ですから「継続」に関しては理詰めで行い、感情で進退を決めることのないようにするべきなのです。
マンガ『マネーの拳』に学ぶビジネス 第11回
俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。
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