「いい会社の見分け方」は「中古物件の賢い買い方」と同じだーーマンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー(→)。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものもあります。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「ほめ言葉の常套句が並んでいる商品の価値は疑ってかかれ」

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第5巻 キャリア39より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

一見、褒め言葉が並んでいるように見えても…

「自分は転職代理人に相応しいのかどうか?」と悩んだ井野は、この仕事に就くきっかけをつくった桜木のもとを訪ねます。桜木が「まずは100人を転職させろ。その際に、関わった会社をよく観察するんだ」とアドバイスすると、井野は「会社なんて、業種以外にそんなに違いはないはず」と反論します。ところが桜木は、「それは思い込みだ」と言います。

桜木から「いい会社の見分け方とは、中古物件の賢い買い方と同じだ」と聞かされ、驚く井野。試しに井野に「今、自分が住んでいる賃貸物件の売り文句を書き出してみろ」とお題を出します。半信半疑ながら、井野が書き出した宣伝文句とは、「築浅で綺麗な部屋、コンビニが近くて便利、静かな住宅街」といったものでした。これを読んだ桜木は、「コンビニが近いということは、近くにスーパーがない、ということを表している」と指摘します。

「静かというのは、同時に駅から遠いことを伝えてもいる」のだ、とズバリ言われた井野は、返す言葉がありません。桜木は「本当にいい物件なら、こんな抽象的な言葉ではなく、もっと具体的な表現が思い浮かぶはず。これは、いい会社を探す時もまったく同じだ。自分たちの強みを理解している会社は、求人広告の言葉にも熱がこもる。このように、表の情報から裏に潜む本質を見抜けるようにならない限り、ニセモノをつかまされる。これが世の中の真理だ」と語るのでした。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

顧客の胸に響く言葉を手に入れる

今回は「美辞麗句に踊らされない」というお話です。販売者側からすると、「表面的な言葉に終始せず、他社と違う表現が言えるようになるまで“商品をよく知る”」という意味になります。事例として、私がまだサラリーマン経営者で、時計のアウトレットチェーン店を経営していた時の話をしましょう。

もともと、アウトレットとは一般流通で売れ残った商品を再販するいわば敗者復活戦のビジネスです。簡単に言ってしまうと、あまり人気がない商品、ということです。とはいえ、何が原因でその商品が売れなかったのか、というのはわかりません。言わば、市場で認められなかった商品に、再度商品価値を見出すのが私たちの仕事でした。

当時、私は新しい商品が届く度に、スタッフたちに「その商品のいいところを10個ずつピックアップする」よう、指導していました。実際、10個挙げるのはなかなか大変ですが、これを行うことで、来店客の質問にもスムーズに答えられるようになり、セールスも上達します。お互いに商品のメリットを言い合うことで、他人の新しい視点を得られる、というメリットもありました。

逆に、いざ接客の際は「悪いところを真っ先に顧客にお伝えする」というのも大変有効です。アウトレット商品は型落ちや傷物が中心となりますが、アウトレット流通に回ってきている理由をハッキリとお伝えすることで、ネガティブ要因を先に潰した状態で接客ができます。これを後回しにした場合、他は気に入っていただいたにも関わらず、最後にドンデン返しの可能性が残ってしまいます。このリスクがなくなるだけでも、お互いにムダな時間を減らすことができます。

©三田紀房/コルク

他の人が書いていないことを書く

次に、これらの事例をどう求人活動に活かすか?についてですが、私のオススメは「求人活動に携わっている方は、まずは求人情報を読むことから始める」ということです。「自分は募集する側なのに、なぜ求人情報を読む必要があるのか?」というと、そうすることによって、どのような言葉が求人情報の中に多用されているのかがわかるからです。

この事例も、私がまだサラリーマンだった頃の話ですが、ある時「スピード仕事術」というお題で、雑誌の取材を受けることになりました。取材を申し込まれた際に、私がしたことというのが、まずは「スピード 仕事」で検索し、ベストセラーになっている本を10冊買って読むことでした。

10冊読むと、だいたいどの本にも似たようなことが書いてあります。ノウハウには、ある程度の共通性があるのは致し方ないとして、私は、あえてその10冊の中には書いていないことを話すようにしました。すでに出ている本と同じことを話していては、読者に「またこの話か」と思われてしまうからです。

すべては「選ばれる」ために

書籍にせよ、求人にせよ、大事なのは「選ばれること」です。選ばれることで、書籍は購入につながり、求人は応募につながります。求人とは会社側が選ぶことだと思っている方もいるようですが、応募者側も選んでいるということを忘れてはいけません。

特に自分が「こういう人にきてもらいたい」「こういう人に読んでもらいたい」と思っているのであれば、そういう人の心に響く言葉で訴えかける必要があります。その前段階として、どういう常套句が使われているのかを知っておくのは、大切なことです。

マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス 第42回

俣野成敏(またの・なるとし)
ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。
2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。

俣野成敏 公式サイト

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