「なぜ勝てなくなったのか…」NECが新組織を立ち上げ、“カルチャー変革”に挑んだ1年間――「越境」で新たな価値を生み出すNECの今 (後編)

変化のスピードが激しい昨今、多くの企業が「組織変革」に取り組んでいる。

今回フォーカスするのは日本電気株式会社(NEC)。現場の社員が主導する「ボトムアップ」型の活動と、新部署・カルチャー変革本部の稼働という「トップダウン」型の活動、両面から組織に新しい風を吹き込んでいる。前編では有志社員たちによる活動『CONNECT』を紹介した。後編となる今回は、「カルチャー変革本部」の取り組みを聴く。

▲カルチャー変革本部長 佐藤千佳さん(左)・カルチャー変革本部 シニアマネージャー 浅沼孝治さん(右)

カルチャー変革本部が各部署を巻き込んで立ち上げた「Project RISE

「なぜ勝てなくなってしまったのか」

NECは自社が直面している状況に対し、2つの課題に注目した。

「戦略はあるが、やり抜く力が弱い」

「一人ひとりの社員の力が最大限に発揮されていない」

この状況を打開するため、数年前から部署の枠を越えて連携するなどの「変革」へ動き始めた。

アクセルを踏んだのは2018年。4月に「カルチャー変革本部」が発足した。

以前は経営企画、現在はカルチャー変革本部のシニアマネージャーを務める浅沼孝治さんは、その経緯をこう振り返る。

浅沼「数年前から水面下で変革活動を進めてきましたが、その活動を一段と加速するために組織を発足させました。また既存の部門で取り組むと、どうしても変革できない部分が出てくる。部門間で折り合いがつかなかったり、判断が逡巡したり。だからあえて新しい部門をつくったんです」

カルチャー変革本部長として、外部から招かれたのが佐藤千佳さん。佐藤さんは複数の大手外資系企業で20年以上にわたり、「人事」の側面からマインドや企業カルチャーの変革を手がけてきた人物だ。

そのほか、「コミュニケーション」分野のスペシャリストが入社、さらにNEC内から経営企画、営業など多様な部署からメンバーが集まり、14名体制で「カルチャー変革本部」が始動した。

最初にフォーカスしたのは3つのテーマだった。

・人事評価・育成制度の変革
・スマートワーク(働き方改革)
・変革をドライブするための社内コミュニケーション

これらを推進するためには、さまざまな部署の連携が必要となる。カルチャー変革本部が間接的・直接的にリードし、会社全体を巻き込む「Project RISE」を立ち上げた。

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「行動基準」を策定し、「伝え方」を大きく変えた

人事評価・育成制度、働き方の変革にあたり、まず行ったこと。それは「NECグループとして、今後どんな行動にフォーカスしていくべきか」「どんなルールに従って採用・人事評価・育成を行うか」という基準の策定だ。

NECの歴史の中で培われてきたものを活かしつつ、これからの時代に即したものにアップデートし、5つの行動基準「Code of Values」を掲げた。

そして、これまでと変えたのは行動基準そのものだけでなく「伝え方」だという。

社員が「会社が変わり始めている」と実感できるような伝え方、コミュニケーションに力を入れた。

佐藤「以前はこのような行動基準を示す際、堅い、端的なワードだけで終わっていました。例えば『視線は外向き』の一言だけ。でも今回は、ソフトな表現で『なぜならば』を伝えるワード、具体的な行動を促すワードを盛り込むことを意識したんです。社員へのメッセージメールはテキスト形式からHTML形式に変え、社長や役員の顔写真を入れて『語りかける』雰囲気に。社内コミュニケーション用のWebサイトも、これまでは静的で堅いつくりでしたが、ムービーなどを取り入れました。受け取った社員が心を動かし、行動を起こしやすくなるような工夫をしています」

▲5つの行動基準「Code of Values」については、社員がいつでも目にできるようにポスターやカードを作成している。写真は社員全員に配布されるカード。

また、以前は人事部などで制度やルールを決めたら、中間マネージャークラスに運用のトレーニングをするところからスタートしていた。しかしこのプロジェクトは、まず考え方・行動のあり方について「経営トップが直接メッセージを伝える」ことから始めた。

そして、これまでのように文書で通達して終わるのではなく、考え方を浸透させるためのセッション「Code of Valuesロードショー」を開催した。

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ワークショップスタイルで、現場の本音を引き出す

「Code of Valuesロードショー」は、まず各部門のマネージャークラスを対象に行われた。1回あたり40~50名が参加し、時間は2時間。

最初に、佐藤さんや浅沼さんらカルチャー変革本部メンバーが登壇し、「国内およびグローバルでどんなことが起きていて、リーダーたちがどんな考えで組織をリードしているか」「フィックスト・マインドセット(人間の能力は固定的で変わらない、という心のあり方)とグロース・マインドセット(人間の基本的資質は努力次第で伸ばすことができる、という心のあり方)」「なぜ今、このCode of Valuesが必要なのか」「スマートワークのコンセプト」などを説く。

その後は5~6人のグループに分かれてのワークショップ。テーマに応じた各自の意見を付せんに書いて並べ、議論する。会話に集中できるよう、テーブルは使わず、イスを並べる形で行った。

しかし、こうした取り組みは初めてのこと。「意見を出して」と言われ、最初は戸惑った参加者も多かったという。そこで、最初は話しやすい軽いテーマからスタートし、終盤には本音が出てくるような仕立てで進めた。

浅沼「まずは、会社や組織の現状にとらわれず『どんな働き方が理想か』など答えが出やすい話題から始める。そこから、組織が抱える課題、Code of Valuesをどう活用していくかという議論へ発展させ、最終的には『組織はこうあるといいね』『個人としてこう動くといいね』というところに着地させます」

マネージャークラス向けのロードショーが一巡すると、事業部から「全メンバー向けに開催してほしい」という声が上がるようになった。現在は、事業部全員を集めたロードショーを順次開催している。

この場では、「本当はどんな働き方がしたいか」「本当に変えてほしいのはどんなところか」「組織をどう改善すればこの事業は伸びるか」というテーマを投げかけ、現場社員の声を集めている。

浅沼「この場には事業部長は参加しません。トップがいないフラットな雰囲気で、アシミレーション(=融和・同化の意。メンバー間の相互理解、関係構築を促進する)の目的も持たせています。誰が何を話したか特定されない、『安心・安全な場』にすることで、本音を引き出せるように工夫しています」

佐藤『人事部』が前面に出ないことが一つのポイントだと思います。『査定・評価』がちらついて身構えてしまい、言いたいことを言えない人もいるでしょうから。それが人事部門とカルチャー変革部門を切り離している意義の一つですね」

「現場の声」を吸い上げる施策には、「チェンジエージェント」の活動もある。

制度や働き方の改修を進めるにあたり、各事業部門から「チェンジエージェント」へ名乗りを上げてもらい、コーポレートの施策に対して「現場目線」で意見を出してもらうというものだ。賛同者が多く集まり、成果につながっている。

佐藤新たな課題に取り組むとき、完璧に作り上げてから通知するのではなく、生煮え状態で打ち出していき、フィードバックを受け、煮詰めて完成させていく――そんな形で進めてきました。これはCode of Valuesロードショーを行う中でも気付いたことですが、トップだけが頑張っても現場との乖離現象が起きてしまうので、『中間にいる人たち』――各事業部のリーダーやマネージャークラスに主導してもらう場を意識的につくっていくかが大事ですね。そのためにも、中間の人たちがトップと同じ目線で語れるようにする。それが組織活性に欠かせないと実感しました」

「つながる」ことで、課題の本質が見えた

大きな変化は、新たなコミュニケーション手法を取り入れたことで、組織間の「越境」が進み、「つながり」が生まれたこと。それが成果につながっていると、佐藤さん、浅沼さんは語る。

浅沼「これまで、コーポレートレベルのプロセスの課題、現場レベルのプロセスの課題は別々に存在していました。しかしその関連性が見える化されて、『本当の課題はここにあったのか』という気付きが生まれています」

佐藤カルチャー変革本部の活動では、新しいこともしているけれど、実は新しいことばかりでもない。これまで各事業部の施策がぶつ切り状態で存在していたのを、つなげただけで効率化が図れている部分もあります。例えば、人事においては『1年間の業績評価』と『次のアサイン・育成方針』が結びついていなかったところを、結びつけて新たな制度にしました。それにより、結果をクリアなレンズで見て、正しい評価をして、次のアクションへつなげていくという意識が浸透してきたかと思います」

カルチャー変革本部が次に「つなげる」のは、NECグループ全体だ。NEC本体・2万人からスタートし、2年目に入る今、海外を含めた関連会社へ深く入り込んでいく。

佐藤「グループの約11万人が共通言語・意識を持つことで『One NEC』となり、さらに強い組織へと変革していきます」

WRITING 青木典子 PHOTO 刑部友康
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