かつての成功体験がもたらす「障壁」とは?ーーマンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー(→)。今回は、三田紀房先生の『インベスターZ』です。

『インベスターZ』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「要するに太平洋戦争とは、官僚とビジネスマンの戦いだった」

(『インベスターZ』第8巻credit.65より)

大人気マンガの『インベスターZ』より。創立130年の超進学校・道塾学園にトップで入学した主人公・財前孝史は、各学年の成績トップで構成される秘密の部活「投資部」に入部します。そこでは学校の資産3000億円を6名で運用し、年8%以上の利回りを上げることによって学費を無料にする、という極秘の任務が課されているのでした。

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物量以上に戦争の勝敗を分けたものとは

夏休みに入り、投資部の6名は恒例の“地獄の特訓”に参加するために軽井沢を訪れます。それは毎年、歴代OBも参加する伝統行事であり、現役生を心身ともに鍛えることを目的としています。予告通り、OBたちによって心身ともに限界までしごかれる部員たち。しかしその様子を、そっと見守る1人のOBがいました。それは80余歳にして“戦時中の投資部を守り抜いた功労者”の1人と言われる加藤さんでした。

加藤さんから戦時中の貴重な体験談を聞き、興味を持った部員たち。そこで、自分たちも太平洋戦争について調べることにしました。太平洋戦争では当初、日本軍が真珠湾攻撃によって米軍に先制します。勢いに乗った日本軍は戦線を拡大。しかしミッドウェーの海戦で敗北後、形勢は一気に逆転します。投資部のキャプテン・神代(かみしろ)がこの時、注目したのは米軍空母ヨークタウンでした。実はヨークタウンは、ミッドウェー海戦前に日本軍の攻撃で損傷していました。

本来、その修理には90日かかるはずでした。ところが米軍は3日の応急処置だけで済ませます。ミッドウェー海戦を察知した米軍は、戦線に間に合わせるために作業を徹底的に合理化し、現場に裁量権を与えました。こうして海戦に間に合ったヨークタウンは日本海軍の空母を撃沈し、米軍を大勝利に導きます。神代は「米軍は現場の判断を優先するビジネスマン型だが、日本は常に命令を待つ官僚型だった。この行動基準の違いが、戦争の勝敗を分けた」と分析したのでした。

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名門企業が弱体化した理由

真珠湾攻撃を大勝利で飾り、最初は連戦連勝だった日本軍ですが、ミッドウェー海戦を境に米軍と立場が逆転した後は、ついに形勢を立て直すことができませんでした。人間は1度、成功を経験すると、その方法を採り続けようとする力が働きます。かつての自分の成功体験に対して、現状は絶えず変化を続け、目的を遂げようとする際に障壁となって立ちはだかります。

これはビジネスでもまったく同じです。話を現代に戻すと、たとえば先日、米GE(ゼネラル・エレクトリック)社が初めて社外出身者をCEOに据えるトップ人事を行い、世間を驚かせました。同社はもともと適応能力の高さで知られていましたが、ついに今回、ダウ工業30種平均株価の対象銘柄から外されました。

GEはこの1年ほど、社内で金融事業の巨額評価損や年金の積み立て不足などが矢継ぎ早に判明し、それによって株価も半分以下に下落。これまでは、生え抜きの中から次世代のリーダーとなるべき人材をトップに据えることを慣例としてきた同社ですが、前任のジョン・フラナリー氏は、わずか1年余りでの退任を余儀なくされました。

©三田紀房/コルク

変化を続ける世の中で、勝利を手にするには

実はフラナリー氏と、その前のCEOだったジェフ・イメルト氏の両名の退任には、株主らステークホルダーからの強い圧力があったものと見られています。GEの後退は、CEOの力不足というよりは、同社の過去の成功体験に基づいた戦略が、時代に合わなくなってきたものと考えられます。

巨大な企業であればあるほど、利害関係が複雑になるのはやむを得ません。人間はもともと、自分にとって最善だと思われる道を選択していますが、人が社会という枠組みの中で生きている以上、お互いの行動は必ず影響し合い、それが予想外の結果を招きます。

刻々と変化する現実の中で、上手くいくための方法とは「上手くいくまで行動し続けること」です。これこそ、まさに米軍が採った方法に他なりません。当時の米軍が革新的だった点は他にもあり、それは「現場に裁量権を与えたこと」でした。ビジネスで言うところの「事後報告も是とする」ほどに現場を信じ、任せる大胆さがスピードを加速させ、戦局を一気に挽回する力となったのです。

企業の闘いに終わりはない

これまでGEを手放しで称賛してきた人たちにとって、GE後退のニュースは少々バツが悪いかも知れません。今回のお話から言えることは、「永遠に成功し続けられる方法などない」ということです。

特に市場からしてみれば、その企業がかつての王者だったのかどうかは関係ありません。単にユーザーに支持されれば生き残ることを許され、不要だと判断されれば退場を余儀なくされるのみです。経営を放棄するその日まで、企業の闘いに終わりはないのです。

マンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス 第49回

俣野成敏(またの・なるとし)
30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』および『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は42万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト

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