鉄道一筋40年てっぱく館長が、新たな「体験ゾーン」に‘特別な思い入れ’を抱くワケ|鉄道博物館 館長 宮城利久さん

埼玉県さいたま市にある「鉄道博物館」(愛称:てっぱく)。
東日本旅客鉄道(JR東日本)の創立20周年記念事業として2007年に開館し、累計来館者数は1000万人以上。
そして2018年7月、南館がオープンした。
現在、館長を務めるのが宮城利久さん。前編では、宮城さんが国鉄~JR東日本勤務時代、鉄道マンとしてどんなことを大切に働いてきたかを紹介した。(→)
後編となる今回は、鉄道博物館を運営するにあたっての理念やこだわりをお伝えする。

エンターテインメント性を高め、楽しみながら学習できる施設に

鉄道博物館には大きく3つのコンセプトがある。

・「鉄道」博物館として、鉄道に関する資料や遺産を収集して保管、公開。またそれらをもとに調査・研究を行う

・「歴史」博物館として、鉄道システムの変遷、歴代の車両を時代背景も含めて公開する

・「教育」博物館として、鉄道の原理や仕組み、最新の技術、将来の技術など科学的知識を子どもたちに教える

「鉄道をさまざまな側面から知っていただきたい。けれど、まずはご来館いただかなければお伝えできないので、訪れたくなるようなエンターテインメント性を持たせています。例えば、体験型ミュージアムや運転シミュレータなど、遊ぶ感覚で学習できる展示が多数あります。学術性とエンターテインメント性を両立させることを念頭に運営しています」

鉄道博物館最大の展示室は、旧来からある本館の「車両ステーション」。日本で初めて運行され、新橋~横浜間を結んだ蒸気機関車から、大正・昭和期に生まれた通勤形電車、特急形電車、世界で初めて時速200kmを超えた新幹線まで、歴代の実物車両が36両展示されている。

リニューアル前は、古い車両が眠っているような静かな空間だったが、「現役時代の躍動感を表現したい」と、新たな演出を加えた。

▲写真:東日本鉄道文化財団

壁面を大画面のパノラマシアターにして昔の車両の走行風景を流したり、ローカル線の車両内で車窓の景色が流れていく映像を見せたり。また、AR(拡張現実)技術を使い、目の前に展示されている新幹線が動き出して雪の中を走る姿を見られるようにした。旅客車両にプロジェクションマッピングを施し、昔の通勤風景を映し出す仕掛けもある。

「それぞれの車両が持っているストーリーを知ってもらい、活躍していた当時の迫力や躍動感を感じていただきたいですね」

さらに歴史への理解を深められるのが、南館3Fに設けた「歴史ステーション」。
鉄道博物館の収蔵品は67万点に及び、展示されているのは約4000点。そのうち1500点が歴史ステーションに集結している。
約150年に及ぶ日本の鉄道の歴史を大きく6つの時代に区分。その時代ごとに、鉄道に寄せられた期待、その期待に応えようとした鉄道マンたちの努力、その結果としての技術の進化を辿る空間となっている。

「私が館長を引き受けた理由の一つに、もともと歴史が好きだったから、ということがあります。子どものころから歴史上の偉人の伝記を読むのが好きで。歴史を辿り始めると、根本までいかないと気が済まないタイプ(笑)。そんな私も、自信を持ってお勧めできる展示となっています」

鉄道のスペシャリストたちの「チームワーク」を見せる展示も

「以前の鉄道博物館では、車両の展示を通じて歴史を紹介していました。けれどそこには『人』が存在していなかったのです。そこで、『鉄道で働く人々を紹介しよう』と、南館オープン時には『仕事ステーション』を新設しました」

「仕事ステーション」では、運転士や車掌、駅係員をはじめ、列車の運行を裏で支える指令員、車両の設計・製作・保守、線路やトンネルなどの保守、発電所、電気設備・信号の保守、鉄道の建設工事など、鉄道を取り巻くさまざまなプロフェッショナルの仕事を紹介。列車のドア開閉、安全確認、車内放送などの仕事が体験できる「車掌シミュレータ」、車両や線路の検査体験など、鉄道にまつわる仕事を疑似体験しながら理解を深める展示ゾーンだ

宮城さんは、この仕事ステーションに特別な思い入れを抱き、「ぜひ観ていただきい」と力を込める。
国鉄~JR東日本で働いてきた数十年、大切にし続けてきたことが形になったコーナーだからだ。

宮城さんが鉄道マンとして常に心がけてきたのは「チームワーク」。スポーツも好きで、試合を観戦する中でもチームワークの重要性を感じていた。鉄道の運営にはさまざまな部署が関わっており、お互いが適切に連携しないと成り立たない。ラグビーでは「One for All ,All for One」のチームプレー精神が取り上げられるが、宮城さんもそうした考えにもとづいて組織マネジメントを行ってきたという。
「チームワークこそが、組織を動かす原動力だ」――部署を異動するたびに、部下たちに繰り返しそう伝えた。

「それぞれが自分のテリトリーを守っていれば、組織は一応動きます。しかしそれだけでは、組織と組織の間にスキマができてしまうことがあるんです。そのスキマからトラブルやアクシデントが発生する。だから、スキマを埋めること、言い換えれば壁を取り払うことが大事なんです。組織の壁を超えるには、お互い、隣の部署や人の仕事に関心を持つべき。そうすればおのずと、自分がやっている仕事で、相手に関わってくる部分に目が行き届くようになる。するとスキマができなくなる。むしろかぶっているくらいの方がいいんです。それが『連携する』ということであり、トラブルを防ぐために欠かせないチームワークなんです

それぞれの仕事がどのように連携しているか、まさにこの仕事ステーションで再現されている。そしてチームワークによって安全が守られていることをご来館されたみなさまに知ってほしい、と宮城さんは言う。

「未来」へつながる博物館でありたい

鉄道博物館の南館には、「歴史」、そして「働く人々の現在」のほか、「未来」をテーマにした展示ゾーンもある。2Fに設置された「未来ステーション」は、「未来の鉄道をみんなで考える」という創造型の展示室。
自分のアバター(分身)を作ってアニメーションの中に入り込み、未来の鉄道の姿を疑似体験することができる。「駅のまわり」「駅の中」「ホーム」「車内」「鉄道システム」の5場面が設定されており、各5本、計25本のショートストーリーが展開されるというものだ。

「未来の鉄道がどうあってほしいか。お客さまのアイデアも投稿していただきます。そこから新しい鉄道の創造につながっていけばうれしいですね」

宮城さんはすでに、今後の鉄道博物館のあり方に目を向けている。これから登場する新型車両も含め、鉄道にまつわる資産は今後も増え続けていく。それらをどのように保存し、どのように見せていくかが今後の課題だ。

「私がおよそ40年近くにわたってそうしてきたように、今も多くの鉄道員たちが鉄道の安全を守り、さらに新たな価値を生むように日夜働いています。それを多くの人に伝えながら、大切な歴史として保存していきたいと思います」

鉄道博物館HP

前編はこちら

EDIT&WRITING:青木典子 インタビューPHOTO:平山 諭
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