都市と田舎の二拠点で暮らす「デュアラー」の働き方とは? | 谷益美(ビジネスコーチ)

都市部で暮らしながら、田舎の良さも満喫する「二拠点生活」に興味をもつ人が増えている。地方には住居を格安で貸し出すなど、受け入れに積極的な自治体も多い。

休日だけ田舎暮らしする生活との違いは、両方とも仕事や活動の拠点であること。完全に移住するのではなく、都市部にも仕事を持つスタイルなので、よりライトな感覚で始めやすい。

二拠点生活のメリットは、どんなところにあるのだろうか? また二拠点生活に適した職種やライフスタイルとはどのようなものなのだろうか? 今回は香川をベースに東京にも拠点を構えるビジネスコーチの谷益美さんにお話を伺った。

プロフィール

谷益美さん

香川県生まれ。香川大学卒。Office123代表。建材商社営業職、IT企業営業職を経て2005年独立。早稲田大学ビジネススクール、岡山大学等で非常勤講師。NPO法人日本コーチ協会四国チャプター代表。NPO法人国際コーチ連盟日本支部顧問。専門はビジネスコーチング及びファシリテーション。企業、大学、官公庁などで年間200本超のファシリテーティブな場作りを行う。『リーダーのための!ファシリテーションスキル』など著書多数。

 

二拠点生活のメリットは、「つながりが濃くなる」こと

谷さんが東京に拠点を構えて約4年。具体的にどんな変化やメリットがあるのだろうか。

谷さん「一番大きなメリットは『つながりが濃くなった』こと。拠点を持つことで、気軽に滞在予定を1日伸ばすことができるようになり、東京の友人との交流が増えました。フットワークは明らかに軽くなりましたね」

そもそも二拠点生活といっても、谷さんのように地方をベースにしている人が東京のような都市部に拠点を持つ場合と、都市部をベースにする人が地方に拠点を作るのでは、大きく意味が異なる。

谷さんは地方をベースにしている人が都市部に拠点を持つメリットと、都市部の人が地方に拠点を持ちたいと考える理由について語ってくれた。

まず、地方にいる人が都市部に拠点を持つメリットは「ネットワークと販路」を得られること。特にメディアとの接点は地方で作りにくいが、都市部に拠点を持ち、ネットワークを拡げることで、つながりやすくなる。
逆に都市部をベースにしている人は、地方では培いにくいネットワークや販路を持っていれば、地方に拠点を構える際に歓迎されやすいといえる。

一方、都市部の人が二拠点生活を持ちたいと考える理由は2つあるという。
1つは「自分のペースで仕事ができる」ことへの憧れ。拠点を2つ持って働く=自分でコントロールできる領域で稼ぎ生活できる……ということ。その状態に憧れるのではないかと谷さんは語る。もう1つは「スピード感」。忙しない都会に比べ、のどかな田舎でのんびり暮らしたいという憧れだ。

さらに最近は若手ビジネスパーソンに地元志向の人が増えている気がすると谷さんは言う。

谷さん「都市部では学生時代から、学外活動でビジネスパーソンと触れ合う機会があり、『カッコいい大人は、世界でバリバリ活躍している』と憧れます。
一方、地方で学外活動をしようと思った学生が出会うのは、街づくりに関わるような大人が多いのだと思います。地元のために活動する大人たちに触れ、『キラキラしていてカッコいい』と憧れを抱く。どんな大人に憧れを持つか、高校・大学時代に出会った大人の影響は、かなり大きいと思います」

一旦都市部で就職した後、身につけたビジネススキルを地元を元気にするために役立てたいと考える地元志向の人も増えてきたのだ。

二拠点生活の大前提は「仕事があるかどうか」

Uターン志向の若手が増えたとはいえ、給与レベルが異なるため年収が下がってしまうケースが多いのも懸念点の1つだ。

谷さん「親の介護などでUターンせざるを得ない人や、のんびりした田舎で子育てしたいというニーズはありますが、高校や大学への進学で我が子を都市部に送り出した親世代は、わざわざ地元に戻ってこなくていいと考えている人も少なくありません」

二拠点生活を検討するのであれば、現地に自分のやりたい・できる仕事があるか否かを確かめるのが先決だ。現地に拠点を作ってから何らかの仕事を探すのは現実的ではない。そもそも都心で生業にしてきた職種・業種が、地方にはない場合があるので、それまで培ったキャリアを活かせないというパターンも非常に多いという。

そこで、地方で仕事を探す際におさえておきたい2ステップをご紹介しよう。
まず求人情報サイトで情報収集をし、興味関心のある仕事・企業をピックアップしていく。ただ、求人広告には基本的にポジティブな情報ばかり書かれているため、本当に自分に合うかどうかの判断がしにくい。
そこで重要になるのが2ステップ目の「人づて検索」だ。

谷さん「条件は悪くないけど、自分に合うか不安になったとき、その近隣に住む友人に『この企業、知ってる?』と連絡を取るんです。これが人づて検索です。
その地方に知っている人がいるかどうかで、行きやすさは全く変わってくるはずです」

都会で生まれ・育った人も、地方に信頼できる友人がいれば足がかりができる。実際に訪れることでさらに知り合いが増え、2回目以降も行きやすくなるのだ。

二拠点生活のステップを知ることで、生き方の選択肢が増える

谷さんが考える二拠点生活を始めるステップは3つある。

ステップ1

地元を含め、全国のいろいろな場所に足を運び「ここが良いかも」と感じる場所を見つける。

ステップ2

単なる旅行ではなく、地元で開催している体験型の観光イベントなどに参加し、町おこしなど地元活性化の活動をしている人とつながりを作る。

ステップ3

ステップ1で見つけた場所に、自分のしたい仕事やキャリアを活かせる仕事があるか調べる。求人広告を調べるだけでなく、ステップ2でつながった地元の人にどんな会社か聞いてみる。

二拠点生活をするための仕事に、向き不向きはそれほどない。それより「人間性の違い」が大きいと谷さんは語る。

谷さん「私は基本的に『受け身』の人間。誘われたら出かけるけど、自分で何かをしたいと企画することはほとんどありません。周りに流されないと今以上に成長できないんですよ。だから二拠点生活を始めることで、意識的に“人に流される環境”を作ろうと考えました。拠点を作ることで濃いつながりが増え、さまざまな出会いや誘いも増えます。つまり、強制的に人に流されやすくなる。そうすれば、受け身の人間でも自動的に成長できるんじゃないかと思ったんです(笑)」

とはいえ、町おこしなどの活動をしている「尖った人」とはどのように知り合えば良いのだろうか。
谷さん曰く、町おこしを手がける側は地元の「普通の人」に働きかけたいというニーズを持っているため、まずは彼らの企画するイベントなどに参加することがオススメとのこと。そのコミュニティのハブになっているキーパーソンと知り合いになることで、地域の「尖った人」と接点が出来やすくなる。

谷さんも地元の香川では、瀬戸内国際芸術祭の立ち上げに関わるような「尖った」人と、地元の普通の人のハブになっている。
例えば仕事で知り合いになった地元企業の若手を、尖った人との飲み会に誘って混ぜてみる。そういった接点を持つことで「一気に世界が広がったり、面白いことが起きたりする」と谷さん。

また、谷さんは今年度、高松の新しい働き方を考える「高松仕事PJ(主催:任意団体up TAKAMATSU)」にサポーターとして関わった。
これは東京をはじめとした都市部に本業を持ちつつ、副業で地方の仕事に関わることはできないかを探るもの。東京で働いている香川出身のメンバーが、香川のメンバーと連携しながら「プロジェクト型の副業」のような形を検討しているのだ。


写真:坂口祐(物語を届けるしごと)

谷さん「私の強みの1つは、香川にアイデンティティがあること。地元の尖った人と普通の人をつなげるだけではなく、香川から東京出張に来た友人を、東京の友人とつなげることもよくあります」

もちろん、誰もが二拠点生活に向いているわけではない。安定的に同じ仕事を続けたい人には明らかに向かない。逆に、向いているのは「新しいことにチャレンジし続けたい人」ではないかと谷さんは言う。

人生100年時代、将来的に今の仕事をずっと続けられるか不安に思うビジネスパーソンは少なくない。今すぐでなくても、いずれ新しいことにチャレンジしたいと考えているのであれば、実現性を高めるノウハウを知っておくこと、そして谷さんのようなコミュニティのハブになるキーパーソンとのつながりを大事にしておくことは、きっと役に立つはずだ。

文:筒井智子 撮影:八木英里奈 編集:鈴木健介

 

 

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