「祭りで日本を盛り上げる!」というコンセプトを掲げる、日本で唯一の祭り支援会社 オマツリジャパン。
創業者の加藤優子さんは、元々趣味として全国各地の祭りを巡っていた。そうして全国のお祭りを巡るうちに、日本の祭りが抱える「共通の課題」が見えてきたのだという。彼女の見つけた「共通の課題」とは一体何なのか?
その課題に向き合い、仲間と共に、さまざまな祭りをサポートしながら構築したビジネスモデルについて紹介する。
プロフィール
【写真中央】加藤優子(かとう・ゆうこ)
株式会社オマツリジャパン 代表取締役
1987年生まれ。武蔵野美術大学油絵科卒業後、漬物メーカーにて商品開発とパッケージデザインを担当。2011年、震災直後の青森ねぶた祭りに刺激を受け、オマツリジャパンの活動を開始。祭りの熱気を求めて全国各地を巡っている。
【写真左】山本陽平(やまもと・ようへい)
株式会社オマツリジャパン 共同代表・取締役
1986年生まれ。立命館大学国際関係学部卒業後、NTT東日本株式会社を経て、オマツリジャパンへ。バックパッカーとして世界約80カ国の祭りを巡った経験を持つ。
【写真右】橋本淳央(はしもと・あつお)
株式会社オマツリジャパン 取締役
1984年生まれ。京都大学経済学部経営学科卒業。ケーブルテレビ運営会社にて事業計画策定等に携わりつつ、ボランティアとしてオマツリジャパンの活動に参加。2017年よりオマツリジャパンに経営参画。
やめたくてもやめられない「祭り」の現状に課題を感じた
―「祭りで日本を盛り上げる」がコンセプトの会社とうかがっていますが、オマツリジャパンとは一体どんな会社なのでしょうか。
加藤 もともと、各地で開催される祭りを支援する会社としてスタートしました。日本には、把握できている限りでおよそ1300件近くの祭りが開催されているのですが、実は、誰もが知っている大規模な祭りから商店街が実施している小規模な祭りまで、“人手不足”“資金不足”“アイディアのマンネリ化”といった共通した課題を抱えているんです。
神輿(みこし)の担ぎ手がいなかったり、地元企業の協賛が集まらなかったり、時代の変化に乗り切れず、企画のマンネリ化から参加者が減ってしまったり…。それぞれの祭りが抱えている課題を解決しやすくなるためのスキームを作りたかったんです。
―その「祭りの支援」スタートの原体験はありますか?
加藤 東日本大震災の起きた2011年夏のねぶた祭りの活気を見たことでした。祖母の家が青森にあるので毎年行っていたのですが、全国的に祭りの自粛ムードが広がる中、震災の影響を受けた地域だったにも関わらず、祭りが始まるやいなや、地元の人たちがとても楽しそうにはしゃいでいて、元気を取り戻す様子に驚きました。未曽有の災害の後だからこそ、祭りが人のパワーの源になっているんじゃないかと。それが、祭りに興味を持った一番のきっかけですね。
その後、全国の祭りに足を運ぶようになりました。大学卒業後は、会社員をしながら今の「オマツリジャパン」の基盤となるSNSグループを立ち上げ、情報発信をしながら、友人のつてで祭りの手伝いにも参加するようになりました。
ボランディアでオマツリジャパンに参画するサポーターの皆さん。今は300人を超える
―さまざまな祭りを見たり、参加したりするうちに、共通する課題が見えてきたのですね?
加藤 そうです。どこの祭りも同じようなお悩みがあり、とりわけ深刻なお悩みの一つが「資金不足」だということがわかってきました。時代の流れで、地元の企業が「協賛金を払って企業名入りのちょうちんを飾る」といった慣習は少なくなっています。とはいえ、毎年赤字を出しながらも、簡単に「今年は中止にしよう」とできないのが祭りなんです。
祭りは伝統文化であるとともに地域コミュニティを形成していますし、そこに集う人が多ければ経済効果もあります。そして何よりも地域の人々にとって、一年を通しての生きがいとなっていますから。―そこで感じた課題が、事業化につながるのですか?
加藤 運営をお手伝いする中で、商店街などと連携して地域の困りごとを若者の力やITなどを活用して解決しようという、今のビジネスモデルの原型となるものは作り始めていたんです。
山本 ただ、祭りの多くは地元の人が運営をボランティアでするものであって、「ビジネス」ではなかった。だから、「お金もうけをしに来ました!」という姿勢では、運営の皆さまに怒られてしまう(笑)。「自分たちならこんなサポートができます」という姿勢は崩さない必要がありました。
まずは、主催者にとって面倒な資材・警備・保険の手配を代行、イベントの企画や運営のサポートなどを行うサービスを提供し、その中で一番の課題である“資金不足”という課題に対し、どのようにアプローチしたらよいのかと考え始めました。
加藤 最初のころは、資金不足を補うために主催者の代理で自治体の補助金を取りにいったり、私たちが直接金融機関に頭を下げて寄付をお願いしたりしていました。でも、そのやり方では持続性がないですよね。
ただ、赤字ながらも、もっと参加者を増やしたいと考える主催者に寄り添っているうちに、イベントとして私たちが祭りを下支えしつつ、地元企業だけでなく、大手企業に向けても祭りの価値や広告宣伝の場としての魅力を伝えることで、出店や出資を提案するという現在のビジネスモデルに至ったんです。
―ということは、オマツリジャパンの収益の中心は民間企業の出店料やPR費が収益の中心ということでしょうか。
加藤 そうでもないですね。現在は、収益の約40%が民間企業の祭りでの協賛支援です。大部分となる収益の約50%は、各省庁や自治体などの公共団体向けのコンサルティングなどによるものになります。前述のとおり、資金調達や集客の方法について、一緒に考えている事業です。今後は企業協賛の収益を上げていきたいと思っているので、これからも収益構造は変化していくと思います。
オマツリジャパンのビジネスは主催者・参加者・企業のプラットフォームとなることで生み出される
地域とより密な関係を築く一方でインバウンドによる集客も目指す
─実際に、自治体と協力した事例などはあるのでしょうか。
山本 今年の初めに、笠間市とオマツリジャパンと、地図やガイドブックを手がける大手出版社の三社で包括連携協定というのを組むことに。全国で初の祭りに関する包括連携協定が結ばれたんです(笑)。この地域はもともと祭りやイベントの多い地域ですが、国内だけではなく世界に向けて祭りをアピールしたい、という想いもありました。そこで自治体と組んで海外からの旅行客へ日本の祭りを紹介するツアーを実施していたところ、このような連携となったのです。今後も年間を通して祭り・イベントを活性化させ、地域を盛り上げていこうとしています。
笠間市でのねぶた祭り。祭りを盛り上げることで地域コミュニティの活性を図っている
─日本唯一のお祭り専門会社として、地域との密な関係を築いてきたことが起爆剤となったのですね。ほかにも地域外の人を呼び込むための施策などはあるのですか?
山本 外国人の文化体験などの「ことニーズ」というのがすごく盛り上がっており、そこでのインバウンドを狙った施策を考えています。
加えて、地方創生への注目、さらにオリンピック・パラリンピックを控えていることもあり、今年(0018年)観光庁のインバウンド向け観光資源活性化事業の一つに「お祭り」が選定され、お祭り活性化の波が起きているんです。
祭りの体験枠を外国人向けに作り、神輿の担ぎ方や歴史などを有料でレクチャーをする。この「ことニーズ」の提供で、2018年9月からは、大手旅行会社と「祭り」を軸としたツアー商品開発に関する業務提携をしています。
─新たなクライアント(祭りを主催する団体など)は、どのように開拓されているのでしょうか?
加藤 祭りの主催者というのはアナログな人たちが多いので、開拓がけっこう大変なんです(笑)。今でもアルバイトを雇い、一件ずつ御用聞きのような電話をしていますよ。
―人海戦術なのですね。
加藤 だからこそ貴重になります。祭りの会社は、現状日本に私たち一社しかないですから、自治体や主催団体の方から、まずここに連絡が来るんですよ(笑)。「急に祭りの担当になったけどどうすればいいんだろう?」と。海外の祭りのリサーチを観光庁などから依頼されることもあります。足で稼ぐことでまねされないビジネスになっていると思います。中目黒の桜まつりにて。インバウンド需要に伴い、国内外の祭りを調査する観光庁とのプロジェクトも進んでいる
ビジネスチャンスを作った「発想の転換」とは?
―このビジネスモデルが、コンテストで受賞されたのですよね?
加藤 そうですね。いくつかのビジネスコンテストに出してみたら新規性や地方創生の視点からどれも評価いただき、ビジネスとしての手ごたえを感じました。特に、「KIRINアクセラレーター(キリンホールディングス株式会社が事業のノウハウを活用しながら共に革新的な世界を創造するスタートアップ企業に支援をするためのビジネスプランコンテスト)」を受賞したことは事業が加速する一つの転機となりましたね。
─受賞後も、ビジネスモデルは進化しているようですね。
加藤 起業当初は、自治体への協力要請や、企業PR支援などはできなかったんですよ。人手不足で(笑) 収益の大半は、商店街などの小さな祭り主催者の運営の手伝いや集客支援で得ていました。しかし、先ほど山本が申し上げたように、それぞれの祭り自体はもうけのために運営しているわけではないので、収益の柱とするには限界があるなと感じていました。
山本 お金は、その地域の自治体や周辺の企業などの、祭りというイベントを利用して稼ぎたい人たちから集める。この発想の転換が今のビジネスモデルを確立する第一歩だったと思います。主催者も企業も、そして参加者にも、みんなに喜んでもらえるモデルに3、4年かけてようやく現状にたどり着いた感じですね。加藤 現在は、祭りへの企業協賛に力を入れていきたいと思っています。
祭りってタダで見れますし、子どもからお年寄りまで、だれでも気軽に行けるものですよね。毎年行われている地元の祭りってだけで、行く人も多いはず。そういったイベントって実はなかなかないんです。本来、確実に人が集まっているなら、そこはPRの場として大きなチャンスのはず。しかし、調査したところ、協賛する企業も地元でない限り、いつどこでどんな祭りが実施されて、どのような属性の人が集まるのか、把握していないということがわかってきました。
一方で、祭りのポータルサイトも運営している私たちには、祭りの開催予定、実施規模もわかります。それだけでなく、独自の調査データの提供が可能です。祭りの集客率の高さを活かし、民間企業と「協賛金」を集めたいと思っている祭り主催者、双方のニーズをマッチングさせる。これができるのは、オマツリジャパンだけだと思います。
例えば、地元の商店街にプロモーションをしたい企業は、祭りをPRの場として捉えて、オマツリジャパンに問い合わせをしてくれます。逆にこちらから提案をしに行く場合はターゲッティングのしやすさ、リーチのしやすさ(イベントとの距離が近いため)、滞在時間の長さ、情報拡散のしやすさ(イベントがSNSに映えるため)、CSR的な企業イメージの向上などの観点をお伝えして、PRの効果をお伝えしています。
また、PRの方法は、祭りの規模や注目度などで調整することも可能です。数万人規模でテレビ局の取材が入る祭りなら高いPR効果が期待できますから、「コスト(協賛金)をかけてでもPRをしたい企業」とマッチングします。「消費者の声を直接集めたい企業」には、エリア・時期・来場者数を相談した上で、コストを抑えられる現地でのアンケートをマッチングするなど提案しています。
さらに、企業からの協賛金の調達は、祭り参加者にもメリットがあります。企業は、協賛した祭りで、サンプルの配布やアンケートなどのPR活動を行いますから、製菓や飲料のメーカーが新商品などのサンプリングをすると、来場者にとってはサンプル品がもらえてうれしいですし、場も盛り上がるんです。もちろん企業はお客さんに商品を試してもらえます。ほかにも喫煙所のそばで電子タバコのタッチアンドトライを開催するなどの試みも好評なんです。今後は、この事業を収益の主軸にしたいと思っています。
もちろん企業はお客さんに商品を試してもらえますから、PR効果も期待できるんです。ほかにも喫煙所のそばで電子タバコのタッチアンドトライを開催するなどの試みも好評ですよ。今後は、この事業を収益の主軸にしたいと思っています。
橋本 青森のねぶた祭りなど、もともと有名な祭りは、会期中だけで波及効果は300億円近くになります。規模が小さいものも合わせると、日本の祭り市場は、年間で1.4兆円の規模にもなるのです。
日本で唯一の「祭り」専門の会社である私たちが、主催者の運営支援や、自治体へのイベント立案のみならず、祭りの魅力をしっかり発信していくことで、人が集まる状態を作ること。そうして祭りの活性化につながれば、市場はもっと大きくなっていきますし、協賛いただける企業にとってもメリットは増えていく。これまで見過ごしてきた「祭りが持つビジネス性」をきっちり押さえていくことができると思っています。─最後に、今後の展望をお聞かせください。
山本 「祭りを通じた新しい地方創生」を作りたいと思っています。主催者も地域も盛り上げて、最終的に地域外からもどんどん人を招致するというような新しいモデルを作り、祭りのインフラとしての役割を担っていく。その中に、自分たちの意義が感じられるんじゃないかと思います。
橋本 僕はWebやITといった部分を担当しているので、物販でのQRコード決済や、アプリなどを活用した予約など、祭りをテクノロジーで支え、より行きやすく、より楽しみやすくなる状態を作りたいですね。さらに祭りの市場全体が拡大できる仕組みをわれわれで作っていきたいなと思います。
加藤 オマツリジャパンが運営するサイトを見て、祭りに興味を持ってもらい、参加するだけでなく、開催地域の魅力に触れてもらえたらいいなと思っています。無名でクレイジーな祭りも含めてそれぞれの祭りの魅力を伝えられるよう、これからも使命感を持ってやっていきます!
われわれ日本人の日常生活に伝統文化として溶け込んでいるモノを、新たなコンテンツとして意識する人は少ない。
あえて「祭り」に着目し、当事者性を持って寄り添うようにビジネスの形を考えたこと。それがオマツリジャパンの成長ポイントかもしれない。
「好き」を「好き」だけでは終わらせないエネルギーや発想と、期待にこたえるためのたゆみない努力が、容易にまねできないビジネスを作り始めている。