「感動体験を生む仕事だからこそ」社長が全社員に行う“20分の習慣”とは?―株式会社エアークローゼット

「今日は19時から取引先と会食の約束。18時10分には会社を出て向かわなければ」。
――そんなとき、天沼さんは会社を出る20分前・17時50分には席を立つ。
フロアにいる全メンバーと「握手」をするためだ。

株式会社エアークローゼット代表取締役社長 兼CEOの天沼聰さんは、創業時から「帰り際に全員と握手」を習慣にしている。会社が成長し、80人規模になった今では20分かかるが、「やめようと思ったことは一度もない」という。
社長だけではなく、社員全員が同様に、退社時に全メンバーと握手。はたから見ると時間効率が良いとは言い難い習慣だが、多くのプラス効果がもたらされているという。

▲株式会社エアークローゼット代表取締役社長兼CEO 天沼聰さん
オフィスのフリースペースには、イスが「ブランコ」になっているテーブルが。ミーティングが活性化するという

無意識で行っていた「別れ際の握手」を意識的に習慣化

エアークローゼットのメイン事業は、月額制のファッションレンタルサービス『airCloset(エアークローゼット)』。
ユーザーは20代~40代を中心とする女性。登録すると、プロのスタイリストが自分のために選んだ服が届く。「月1回・3着」のライトプランや「借り放題」のレギュラープランがあり、返却期限はない。着終わったら次のアイテムと交換でき、クリーニングの必要もない。気に入れば買い取りもOKだ。
急増するユーザーからは「普段の自分なら選ばないテイストの服にもチャレンジし、新しい自分を発見できる」「子どもが小さくてショッピングに行けないけれど、ファッションを楽しめる」などの声が聞こえてくる。

服を届けるというより、『感動体験』を届けることにこだわっています。ファッションによって気持ちが高揚したら、前向きにもなれるし、人と会うのも楽しくなりますから」

天沼さんは、大手コンサルティング会社でIT・戦略コンサルタント、楽天にて海外13拠点をサポートするグローバルマネージャーを務めた後、2014年にエアークローゼットの前身企業を立ち上げた。
同時の創業メンバーは3人。打ち合わせを終えて解散するときには、ごく自然に他の2人と握手をしていた。別れ際の握手は、イギリス留学時代から身についていた習慣だった。

「最初は無意識でした。でも新しいメンバーが入ってきて握手の輪に加わったとき、『これ、いいですね。仲間感があって』と。『この習慣、すごく好きです。できるかぎり続けましょう』と言われて、そこから意識的に行うようになったんです」

当初は「仲間意識」「一体感」を高めることに意義があったようだが、会社が右肩上がりに拡大を続け、80名規模となった今では、異なる意義が生まれているようだ。

「ほんの数秒・ほんの一言でも、1対1で向き合う機会を持つのはすごく大切だと思っています。例えば、遠目に姿を見かけて『あれ、元気ないみたいだな』と思っても、声をかけるタイミングがなくそのままになってしまうことって多いじゃないですか。でも1日の終わりに必ず握手するというルーティンを設ければ、それがコミュニケーションを取るチャンスになる。」


「僕は握手と同時に、『髪切った?』『疲れた顔しているけど大丈夫?』『何かいいことあった?』など、なるべく声をかけるようにします。些細な一言でも『自分のことを見てくれているんだな』と思えれば、それだけで安心できるんじゃないでしょうか。
また、プロジェクト進行中のメンバーであれば、わざわざミーティングを設けるまでもなく『調子はどう』と進捗を確認します。一人ひとりの活躍にちゃんと目を向けて、知っていたいですから」

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「自分を見てくれている」――その実感が「感動」を生む

1人ひとりを見て、状況を察し、声をかける――その大切さを天沼さんが実感したのは、テーマパークでアルバイトしていたときだった。
ロンドンの大学に通っていた天沼さんは、夏に卒業し、帰国。コンサルティング会社に就職が決まっていたが、4月の入社まで半年ある。「コンサルティングはサービス業」と捉え、質の高いサービスとはどういうものかを学ぶため、ホスピタリティの高さで定評のある某人気テーマパークでアルバイトを始めたのだ。

ゴーカートのアトラクションの係を務める中で、来園者の表情・行動・会話を常に意識して見ていた。
子どもが買ったばかりのポップコーンを落とすのを見たら、販売スタンドのスタッフに伝え、新しいポップコーンを渡した。泣きそうだった子どもの顔にも母親の顔にも笑顔が戻った。
「〇〇が美味しいらしいね。どこで売ってるのかな」という来園者の会話を耳にしたら、「この近くではここで売ってますよ」と声をかけた。プラスアルファで「最近発売された△△も人気ですよ。僕のおススメは××味です」と伝えると、相手の表情がワクワク感で明るく変わった。

「自分を見てくれていて、自分を想って、働きかけてくれる。そんなパーソナルなコミュニケーションが『感動』を生むことを知りました。そのスタンスは忘れず大切にしたい。だから、スタイリストがユーザーさん一人ひとりを想いながらコーディネートを見立てる『airCloset』というサービスが生まれましたし、『感動体験を届ける』という事業理念を体現するためには、僕と社員、社員同士のパーソナルなコミュニケーションが欠かせないと思っています」

「帰り際の握手」というコミュニケーションは、天沼さんとメンバーの間だけでなく、メンバー間でも行われている。そこでは、感情のやりとりだけでなく、業務改善にもつながるコミュニケーションが実現できているようだ。

「スタイリストとエンジニアなど、通常業務では接点がない他部門のメンバーと、握手の瞬間、話す機会が生まれるんです。そこでは例えば『画面にこういうお知らせを表示した方が、お客様はわかりやすくなると思うんだけど』といった会話も交わされる。
つまり、他部署の担当領域について気付いたり感じたりしたことを伝えるきっかけになるんです。『気付いているけれど、業務に追われて伝えそびれている』『他部署の人には話しかけづらい』という状態は、改善のチャンスを逃すということ。
小さな課題を顕在化・共有するという面についても、握手の習慣は功を奏していると思います」

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さまざまな仕掛けで、「共有」の文化を育む

このほかにも、エアークローゼットには「コミュニケーション」「課題や感動の共有」を促進する仕組みや慣習が多くある。
気軽にコミュニケーションを取れるよう、社員同士は「ニックネーム」で呼び合う。
オフィスには『シェアリング』と呼ばれる鐘が備えられ、何かいいことがあったとき、みんなに共有していことがあるときに鳴らす。鐘が鳴り響くのは平均すると1日1回、「目標達成した」「新しいメンバーを迎えた」などのほか「結婚します!」など、内容は様々。鐘が鳴ると全員が立ち上がって注目し、発表を受け拍手を送る。

「All Hands On Deck(オール・ハンズ・オン・デック)」という習慣もある。これは「全員で甲板に上がって戦いの準備をする」という意味の海賊用語。毎月、新しいテーマが提示され、全員がそれを意識して行動する。テーマは「生産性3倍」「劇的変化」「時間的改善提案」など、同社の行動指針「9 Hearts」に沿うもの。月の終わりに、もっとも実現できた人を「他薦」で選び、表彰する。
また、年に2回行われる全社合宿でのコンテンツの一つとして、運動会や冬場の「カーリング」「雪合戦」など、チームビルディングにつながるアクティビティも盛んだ。

「メンバー全員が感動体験を共有する。それは組織の成長にもつながりますし、何よりお客様の感動体験を生むことにつながると思っています。お客様にワクワクする感動体験を届けることができなくなれば、エアークローゼットは存在価値を失いますから。自分1人でできる感動体験には限りがあるけれど、メンバー全員の体験を組織全体で共有すれば何倍にもなる。組織全体で、感動体験の引き出しをどんどん増やしていきたいと思います」

株式会社エアークローゼット

月額制ファッションレンタルサービス airCloset

EDIT&WRITING:青木 典子 撮影:平山 諭
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