35歳転職限界説は本当?「やりたいこと」の叶え方――藤本あゆみ(at Will Work代表理事)

一般社団法人at Will Workの代表理事として、働き方に関するカンファレンスなどを主催しつつ、アクセラレーター/ベンチャーキャピタルのPR・マーケティング担当として日々多忙を極める藤本あゆみさん。

グーグルの営業マネージャーを務めた彼女は、「35歳転職限界説」を覆し、36歳のときに未経験でPR職への転職を果たした。今回はそんな藤本さんの仕事の哲学や、やりたいことの見つけ方について、ざっくばらんに語っていただいた。

プロフィール

藤本あゆみ

2002年キャリアデザインセンター入社。入社3年目に当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。2007年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て営業マネージャー、人材業界担当統括部長を歴任。「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。その後株式会社お金のデザインを経てPlug and Play Japan株式会社にてマーケティング/PRを担当。

「企む」仕事に楽しみを感じる

人材業界の営業からグーグルへの転職は、藤本さんにとって1つ目の大きな転機になった。カルチャーも商材も前職とは全く異なる中で、最も大変だったのは「営業の定義が変わったこと」だという。

藤本さん「キャリアデザインセンターでは、数値目標と顧客は個人が持っており、その積み重ねでチームの実績が決まります。
でも、グーグルでは『営業』と呼ばれる組織内にもいろんなタイプの人がいるんです。私はアカウントマネージャー(広告運用プラン策定担当)として入社しましたが、他にもストラテジスト(戦略策定担当)、アナリスト(分析担当)、プランナー(企画担当)、エグゼクティブ(顧客窓口担当)がいて、はじめて1つのチーム。自分1人が頑張れば何とかなるわけではありませんでした」

目標数値も個人ではなくチームに付く。「クライアントのビジネスを成長させる」という目的は共通しているものの、アプローチ方法も違えば、貢献度も違う。
チームメンバーや自分に対する期待値がわからず、最初のうちは戸惑いが大きかった。チーム内でお互いの期待値を明らかにする必要があるなど、仕事のスタイルはキャリアデザインセンター時代と大きく変わったという。

藤本さんの感じる営業の面白さは「企んでいる瞬間」なのだそうだ。

藤本さん「相手の要望に対して、期待値をちょっと超えて返したときの反応が面白いんです。「グーグルの営業は機会を創っている」とよく上司が言っていましたが、何か仕掛けられるのは営業だからこそ。私が入社した頃は、デジタル広告が日本に広まり始めた初期の頃だったので、『企む』機会がたくさんあったのは楽しかったですね」

マネジメントを担うようになった後は、メンバーの得意・不得意を把握して、それをどう組み合わせるのかを考えていた。
メンバーの不得意な部分を伸ばそうとしても、労力がかかる割に本人も自分も楽しくないし、結果的に平均点程度にしかならない。「だったら、メンバーの得意な部分を組み合わせたほうがいいし、何を作るかのほうが大事だった」と藤本さんは語る。

「やりたいこと」の探し方は、トライ&エラーの繰り返し

グーグルでマネジメントを経験して2年くらい経ったころ、何か違うことにチャレンジしてみたいと考えた藤本さんは、社内で新しいポジションを探し始める。
しかし、なかなかしっくりくるポジションが見つからず、そもそも「新しい何か」が何なのか、自分でも言語化できずにモヤモヤしていた。

そんなときに出会ったのが「Womenwillプロジェクト(※)」だった。
※Womenwill は、テクノロジーにより女性が直面する問題の解決を目指す Google のアジア太平洋地域全体の取り組み。


藤本さん「Womenwillの話を聞いて、そういえば自分のテーマの1つが『働き方』だったなと思って。1日のうち働く時間は長いので、その時間が良いものであればいいと思って、もともと新卒で人材業界に入社したんですよ。その頃の気持ちを思い出しました」

Womenwillの仕事は非常に面白かったが、プロジェクトだったため異動はできない。改めて社内で別のポジションを探していたとき、Womenwillのとあるパートナー企業の代表を務める人から「会社とは別に、社団法人か協会を作ったらどうか」と言われた。
そしてグーグルを辞めて立ち上げたのが、現在も代表理事を務める一般社団法人at Will Workだ。

藤本さんにとって、本当にやりたいこととの出会いは「事故みたいな感じ」だという。
「やりたいこと」の探し方にはいろいろなタイプがある。考えて結論を出すタイプもいるが、藤本さんはとにかく自分で動いて、トライ&エラーを繰り返しながら「これは違う」と見極めていくタイプ。

藤本さん「自分で見つけたいと思っているときは、たいがい『説明できるもの』を選びがち。確かに説明はしやすいけれど、あまり心が踊らないんですよね。
『こうしなければ』『周りから見たときに、何となく良さそう』みたいなことを一旦全部外してみると、全然予想していなかったところから、ポコッとキッカケが現れるのではと感じています」

自分の仕事上の人格は「他人の印象」で決まる

少し前まで、転職市場では「35歳転職限界説」が語られていたが、藤本さんは「実績をしっかり出せば、その説は関係ない」という。
いわゆるリファラル採用では、スキルより「人」が重視されるが、そのチャンスを得るためには何が必要なのだろうか。

藤本さん「大事なのは『実行』したかどうか。機会に対するアンテナを立てておくのも大事ですが、何かしらをやり遂げた結果を出すこと。
私が声をかけてもらえたのは、『。』が付く仕事を何度か重ねてきたからだと思います」

「。」が付く、つまり完了させた仕事を見せていくことが重要だ。ここでいう「結果」とは、すごいプロジェクトを回すことではない。そのプロジェクトの中で、どのような役割を担い、どう貢献したかを語れるようになっておく必要がある。藤本さんは今でも、何らかのプロジェクトが終わった後で「自分は何に貢献したか?」をしっかり分析しているという。

とはいえ、「内省するのが得意ではない」と笑う藤本さんは、キャリアの棚卸しや分析を定期的にやっているわけではない。

藤本さん「結局『他人の印象』で自分の仕事上の人格は決まります。だから、周りに自分がどう見られているのかを聞くんです。もし自分の認識とギャップがあるなら、その理由を考えます」

自分では真面目に考え事をしつつ、いつでもメンバーが話しかけてもOKと思って仕事していても、周りからは「眉間にシワが寄っていて、すごく怖い」と評価されたこともあったという藤本さん。認識のギャップがあって初めて、理由を考える=内省をするのだ。

お金のデザイン社に転職した際は、初めてのPR職だったため、入社当初はいろいろな企業のPRに「PRの仕事って何ですか?」と聴きに行った。

藤本さん「本を読めばテクニック的なことは書いてあるんですが、PRのミッションは何ですか? って聞くと、全員違う答えだったんですよ。セオリーは無いと分かったので、すごく気持ちが楽になりました」

大事なのは、仕事の「型」ではなく「目的」――そう気づいた藤本さんは、会社として何を発表しなければならないのか、どんなトーンで、どんな言葉を使って、どう伝わる必要があるのか、1つずつ書き出し、上長の確認を取りながら着々とPR業務をこなしていった。

一歩踏み出せないなら、プロボノとして半歩踏み出してみる

営業職としてのキャリアから、未経験でPR職に飛び込み、かつ一般社団法人の代表理事としても飛び回る日々を送っている藤本さん。
さらに2018年3月からは、シリコンバレーに本社を置くアクセラレーターでありベンチャーキャピタルでもある、Plug and Playに転職し、半数以上が平成生まれの若いメンバーの中で、PR・マーケティング担当として力を発揮している。

しかし、誰もが彼女のようにフットワーク軽く、新しい環境に踏み出せるわけではない。そんなモヤっとしている人が目の前にいたら、何とアドバイスするか尋ねてみた。

藤本さん「私もグーグルを辞める前は1〜2年モヤモヤしたままでしたし、毎回すぐ決断しているわけではないですよ(笑)。
なかなか一歩踏み出せない人には、プロボノをお勧めします。プロボノはプロフェッショナルなスキルを活かしたボランティアなので、お金のことは二の次で、やってみたいこと・自分の能力や適性を試してみたいことに挑戦しやすいんです。
転職しなくても、今のポジションのままで出来ることはたくさんあるはず」

例えば、営業職から未経験でマーケティングをやってみたい場合、プロボノとして営業を手伝いながら、一緒にマーケティングをやらせてほしいと交渉してもいいはずだ。

現状を維持したままで出来ることを全部やってみてからでも、キャリアチェンジを考えるのは遅くない。プロボノとしてやってみた結果、「ちょっと違うかも」と思うことも多いはずだ。

副業として報酬を受け取ると、自社に所得の報告をする必要があるなど、面倒なことも多い。プロボノであれば、心理的な抵抗も低くチャレンジできるのではないだろうか。

今後も藤本さんは、at Will WorkとPlug and Playで働きながら、新卒時代からのテーマ「働く」を軸に、軽やかに活動していくに違いない。

内省が苦手なら、人に聞く。一歩踏み出せないなら、できる範囲で小さく挑戦してみる。1つひとつに「。」を付けるような仕事をしていけば、思わぬところからキャリアを変える・飛躍させるキッカケが見つかるかもしれない。

文・筒井智子 写真・壽福 憲太

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