「面白い」ことができるなら、“どう働くか”はどうでもいい――世界初、75グラム『ドローン』を実現・本郷飛行機

2015年に設立された本郷飛行機。2011年に東京大学発のベンチャーとして、まだドローンという言葉が一般化する前からドローン研究開発への挑戦し、『フェノックス』の開発に成功、ただの飛行ロボットではなく、自律した人工知能としての「空中アプリケーション」を目的として開発されたという。現在は『フェノックス2』に進化を遂げ、「世界で初めて全自動飛行を75グラムという小さな機体で実現」した代表取締役の金田賢哉さんに企業のあり方や働き方、今後の展望などについて話を聞きました。

プロフィール

金田賢哉(かねだ・けんや) 本郷飛行機株式会社 代表取締役

2012年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程(原動機研究室)を卒業。飛行機やロケットの、エンジンなどを研究。同(知能工学研究室)博士課程に在籍中。クラウドファンディングの「READYFOR」で開発兼マーケティング、家電の遠隔操作IoTサービス「Pluto」で代表取締役を経て、現在に至る。仕事と研究と趣味が近づき、現在はドローンの開発を行っている。

本郷飛行機株式会社 HP

社員の夢を叶えるために必要な環境作り

本郷飛行機で開発された「フェノックス」

子どものころから自由に空を飛んでみたいという夢がありました。その願いをかなえるべく大学に進学し、研究室でも小型無人飛行機の開発に取り組んでいました。今でこそ『ドローン(もともとは米国の軍用機の名称)』という名がつけられていますが、当時はそのような名前もなかったのです。大学内では企業との共同研究なども進めていましたが、この環境では自分たちの思い描く研究開発には限界があると悟り、仲間とともに起業することを決意しました。これまでの起業経験と、会社の性質を考慮して会社のルールを構築、試行錯誤を繰り返しながら、とにかく技術開発を最優先する会社にしようと決めました。

技術開発を最優先するために取り組んだこととして、まず会社ルールの範囲内であれば、すべての社員がいつでも自由に働けるシステムにしました。国内のみならず、広く海外の企業からも依頼を受け、ドローン開発などを行っていますから、オフィスの明かりが消えることはありません。

社内ではシフト制で交代しながら、さまざまな国籍の20~70歳代のスタッフが働いています。「働きたい人が働ける」私たちの夢を実現するために、可能な限り働きやすい環境づくりに努めてきました。もちろん、セキュリティを担保できるのであれば、在宅勤務も何の問題もありません。私自身も国内半分、海外半分という生活が続いていますので、オフィスに顔を出したとき、全く知らない人が働いていてと驚くこともあります(笑)


「75グラム」の機体の大きさは手のひらに乗る程度

社員には、お客様からのオーダーを受け、私たちがつくりたいものをつくる、そうして日々、自分自身の技術力を磨いていくように促しています。カッコいいことのように聞こえるかもしれませんが、開発過程では思いもよらない失敗の連続です。

完成したドローンを飛ばしてみると、墜落して壊れてしまうという経験を何度も繰り返し、どこに問題があったのか、徹底的に究明し、問題点を修正する作業の連続なのです。それが面白いし、失敗した分、社員も成長できる。

極論ですが面白ければ何でもいいという思いがあります。社員が申請すればさまざまなことに挑戦できる制度もつくりました。

もちろん、就職経験はないので他社のことはわかりませんが、技術力向上の一助として、新人の教育には惜しむことなく投資しています。半年間、1人に対して、2、3人の社員がつき徹底的に指導します。ソフトもハードも熟知していないとドローン開発はできません。社内には、電気や電子はもちろん、土木や建築などさまざまな分野を専攻していた社員が活躍しています。その社員たちの英知が結集してこそ、本当に誰からも評価される製品が生まれるのです。とは言え、教育体制が整っていても学ぶ姿勢は本人次第。社員一人ひとりが新たな知識や技術を習得していかないと、周りから取り残されるため、つねに能動的に学ぶ姿勢を求めています。

「技術」は本来人の役に立つべきもの、自分が面白いというものは、誰かがきっと面白いと思ってくれる。そこを上手にコントロールできれば多くの人が共感できる「技術」になるのかなと考えています。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

自分たちの技術で実現する。だから納得いくものができる

現在、機体はもちろん、搭載するAI、それを動かすアプリケーションなどをすべて社内でつくるようにしています。社内ですべてを行うことにより、私たちが目指すドローンをつくれると考えるからです。


「フェノックス」の部品。当時は『ドローン』という名前もなく、部品も乏しかったため、飛行専用のコンピュータからモータに至るまで、すべて自社の手作りだった

私たちは会社のコンセプトとして、「人と機械の共生を目指せる頭脳をつくること」を掲げています。
あらゆるものがサーバーやクラウドにつながっていると、通信の切断やシステムダウンにより、すべてが動かなくなるという事態をまねきます。その点、私たちの技術は、オフラインで自動飛行できるという、“自律性”が大きな特徴なのです。これは人間との“共生”を目指す中ではきわめて重要ですし、私たちにしかできない、私たちの思い描くドローンの開発と言えます。現在は、ドローン開発の技術が認められ、ドローン以外の開発依頼も増えてきました。

ITやAIという言葉が新聞にのらない日はもう来ないと思いますが、現状としてまだどうしてもAIが活躍するイメージできない方も多いはずです。しかし、実は皆さんの気がつかないところでたくさんの優れた技術が開発され、使われています。AIとさまざまなシステムを重ね合わせ安全性を確保し、設計の最適化を図る。誰にでも簡単に日常の中で使うことができる技術、そしてそれを応用した製品をつくることこそ、モノづくりに携わる私たちの使命だと考えています。

本郷飛行機が開発した「フェノックス」のプロモーションビデオ

今後、ドローンの可能性は、あらゆる分野に広がっていきます。物流や点検、倉庫、病院などの巡回監視…。実は、すでに物流に関しては実証事件を行い、サービス開始に向けてさらなる改良が進んでいます。海外拠点は、ヨーロッパ、東南アジアとアフリカにありますが、今後ますます増えていくでしょう。こういった需要の拡大に合わせた開発計画以外に、私自身の夢として、「いつか自ら飛行機をつくって空を飛びたい」と今でも考えています。このところ、忙殺され学業がおろそかになっていますが、会社とともに一研究者としてもっと成長していきたいと思います。

 

文:種村俊幸  撮影:平山 諭
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