音楽家のキャリアを築いたファミコンサウンド|サカモト教授(作曲家・演奏家)

さまざまなシーンで活躍しているビジネスパーソンや著名人に、ファミコンにまつわる思い出から今につながる仕事の哲学や人生観についてうかがっていく本連載「思い出のファミコン – The Human Side –」。

今回ご登場いただくのは、頭にファミコンを乗せた独特の衣装で8bitミュージックを奏で、動画サイトやライブ活動を中心に人気を博している音楽家のサカモト教授。他に類を見ない独自のスタイルによる音楽活動で現在の確固たるポジションを築いた同氏に、そのキャリアを紐解くべく、ファミコンに親しんだ幼少期からのお話を伺った――

プロフィール

サカモト教授

1980年大阪府生まれ。4歳の頃からピアノを習い、絶対音感を身につける。高校時代からバンド活動を始め、その後進学した京都大学では軽音サークルに入り、本格的にライブ活動を始めるようになる。就職後は一旦音楽活動を休止するも、たまたま友人の誘いで参加したステージで即興でゲーム音楽を鍵盤でコピーしたところ、その投稿動画が閲覧数上位となり一躍注目を集めたことをきっかけに、サカモト教授としてのソロ活動をスタート。代表作品として、J-POPのカバーメドレー『サカモト教授の8bitジュークボックス』(ラストラム・ミュージックエンタテインメント)がある。Twitter:pskmt

教室でファミコンのゲーム音楽を弾いてクラスの人気者に

―― サカモト教授がファミコンでとくに思い出深いゲームについてきかせていただけますか?

じつはファミコンは私が欲しがったわけではなく、父親が唐突に買ってきたことが始まりなんです。たしかカセットは『スーパーマリオブラザーズ』と『ディグダグII』でした。テレビゲームじゃない玩具で遊ぶような幼い年頃だったのですが、父親がテレビの前でごそごそと配線をして、砂嵐のテレビ画面がパッとゲームの映像に切り替わった瞬間の感動は今でも衝撃です。それからは近所の友だちがうちに遊びに来たり、カセットを貸し借りしたり、がっつりファミコンにハマりましたね。

当時、毎週木曜の夕方6時から、渡辺徹さんが司会をやってた『スーパーマリオクラブ』というテレビ番組があって、そこで『ドクターマリオ』対決をやっていたのを見て、それを真似して友だち同士で対戦してたことはとくに思い出深いですね。やっぱり対戦ゲームが楽しくて、『ファミスタ』なんかもそうですけど、よく遊びよく喧嘩もしてました(笑)

―― 小さい頃からピアノを習われていたそうですが、その頃から即興でファミコンのサウンドを弾いていたのですか?

ピアノを習い始めたのが4歳で、ちょうどファミコンに触れたのと同じくらいの頃。二人の姉も習っていて、小さい時からときからピアノの音に親しんでいたおかげだと思うんですけど、「絶対音感」が自然と身につきました。絶対音感って、要は日常の生活音だったりテレビから流れる音楽とか、もちろんテレビゲームのサウンドだったりを耳で聞いて、すぐにコピーしてそのまま弾くっていうことなんですが、それが当たり前のように子どもの頃からできたんです。

そしてもう小学校低学年の頃から、教室にあった足こぎオルガンを使って、同級生の子に足をこがせて、自分は鍵盤だけでファミコンのゲーム音楽を弾くっていうのをよくやったんです。音楽の授業なんかでは前後の休み時間から早めに音楽室に行って、同級生から「『グラディウス』弾いてー」とか言われて、弾いてあげたりして、それはもうクラスの人気者でした(笑) 結局今やってることの原点はそこからなんです。

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頭にファミコンを乗せて演奏する「サカモト教授」が誕生

―― 「サカモト教授」が誕生するまでの経緯についてきかせていただけますか?

小中高とずっと音楽をやり続けてきて、高校からはバンド活動を始めて、最初はコピーバンドでビジュアル系をはじめとして色々やってました。その後大学で軽音サークルに入ってからは、色々な音楽を聞く先輩と出会って、今まで自分が知らなかった音楽を「あれ聞けこれ聞け」って教えてもらって。そんな先輩たちと組んだオリジナルのバンドは、全国ツアーができるくらいのレベルになりました。

そんなある時、京都でフェスがあってそのバンドメンバーとして出たんですけど、そのステージの余興で、「ゲーム音楽何でも弾けるんで、何かリクエストあったら弾きますよー」っていうのをやってみたんです。その後ふと気がついたら、ステージのまわりに1,000人ぐらいの人だかりができてて……、自分がちっちゃい頃から教室でやってたパフォーマンスにこんな集客力があるんだということをその時初めて自覚しました。これはもう自分のパフォーマンスとして昇華しないとな、と。

さらに根が関西人なこともあって、お客さんからただリクエストをもらって弾くだけだと単調だし、何かもっと良い仕掛けが欲しいなと思っていたところ、「お前これやってみたらいいんじゃない?」って友人にプレゼントされたのが、ファミコンマスクでした。その友人が自分のために作ってくれた初代のマスクは、ボロボロの黄ばんだファミコンでしたが、「お前は明日からこれを頭に乗せるんだ!」って告げられて(笑)
ファミコンを頭に乗せて、お客さんがカセットを挿す、もちろん挿す前にはふーふーしてもらう、っていうパフォーマンスがそこから誕生したんです。

―― その後、ネット動画の拡散力で一躍人気者に。

サカモト教授として活動し始めたのが2005年頃でしたが、大学を卒業した後は、バンドをしながらサカモト教授のパフォーマンスもしたりと、わりとフラフラしてた時期でした。でもやっぱり「就職しないとなー」というのと、「音楽で食って行きたいなー」っていう葛藤がありました。その後たまたま学生時代の先輩から、「お前プラプラしてるんだったらうちの会社で働けよ」と誘われて、結局東京の会社に就職しました。東京に出たらサカモト教授も含め、一旦しばらく音楽活動はお休みかな、と思っていたんです。

ところがたまたま東京に出ていた音楽仲間から、「今度ワンマンライブやるから、ゲストに出てよ、サカモト教授やってよ!」って言われて。そのライブで、たまたま最前列にいたお客さんがサカモト教授のパフォーマンスを動画で撮っていて、それをニコニコ動画に投稿してくれたんです。ちょうどその頃、自分もただの一視聴者としてニコニコ動画を見ていたんですが、いつものように動画再生ランキングをチェックしてたら、「見覚えのあるやつがなんか総合1位になってるなー、あれっ?」と思って見たら、それが自分のライブパフォーマンスでした。コメントがうわぁーって流れてて。それで、「そうか、サカモト教授はネット上でもウケるんだな」って気づいて、それからは自分でネット動画をひたすら上げ始めて……そして今に至るって感じですね。

やってることの本質は小学校のクラスの人気者だったときから変わってなくて、でもゲーム音楽を演奏する人って世界中にごまんといると思うんですけど、ただ唯一、頭にファミコンを乗せてゲーム音楽を弾くっていうスタイルは世界中に私一人でした。

チップチューンという新たな音楽ジャンルで若い世代にも浸透

―― 最近はファミコンを知らない若い世代にも8bitミュージックが受け入れられているそうですね。

サカモト教授のパフォーマンスがウケるのは基本的にはファミコン世代、今では30代後半から40代になってるんですけど、最近は私のライブでも10代の子たちを見かけるようになりました。自分としては若い世代をもっとどんどん取り込んでいかないといけないかな、と思っていて、ファミコン以外の最近のゲームもピアノで弾いたりしています。

ニンテンドークラシックミニが出たり、バーチャルコンソールでネット対戦ができるようになったり、レトロゲームシーンも盛り上がっていますので、ファミコンサウンドが好きっていう層がさらに広がるといいな、と思っています。

一方でチップチューンの界隈で最近は若いクリエイター、たとえばTORIENAちゃんとかがいますが、彼女自身はもちろん、彼女のファンもそうだと思うんですけど、ゲームの思い出があるからファミコンの音が好きとかじゃなくて、単純に音がピコピコして面白いしポップで可愛いっていう感じ方をする層が広がっています。
最近ではアイドルソングやアニソンの曲でもチップチューンのピコピコ音はよく使われているんで、単純に音色的な心地よさが好まれているのかもしれません。

―― 今後の創作活動においての抱負があればおしえてください。

サカモト教授としての活動はもう10年あまりになるんですけど、ファミコンあるいはゲーム音楽というコンテキストで、ピコピコ音で再現したりチップチューンで音楽を作ってみたりしてきたんですけど、もともと大学時代にはサカモト教授以外の音楽活動をいっぱいやっていて、ジャズピアノもやったしメタルもドラムもやってきたし色々やってるんですけど、音楽家としてのゴールは、やはりグラミー賞であったり、映画音楽を手がけてみたいです。それこそ、坂本龍一さんみたいに……。

ありがたいことにここ数年はオーケストラの編曲の仕事も増えてきました。今年の5月には「ゲームタクト」というゲーム音楽の祭典でオーケストラの編曲も手がけました。ですから、ピコピコ音の枠を出て、映画音楽の壮大な世界で、管弦楽で勝負したいなっていうのは夢ですね。もちろんオーケストラの世界は総合的な音楽能力が必要で、楽器の特性も知らないといけないし、大変な道ではあるんですけど、やはり夢は大きく持っていたいですから。

~サカモト教授からのお知らせ~
7月21日(土)「REATMO Presents Re:FADER Vol.2」
会場:青山月見ル君思フ
出演:REATMO, ヤなことそっとミュート, サカモト教授, ギャル電
時間:OPEN 18:00 / START 18:30
料金:Adv ¥3,000 / Door ¥3,500(共に+1D 600円)
ホームページ:http://www.moonromantic.com/?p=38005

9月8日(土)「 CHIP UNION FESTIVAL 」
会場:渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:近日発表
時間:LOUNGE OPEN 17:00/ LIVE START 18:00
料金:ADV ¥3,000 (tax in) *all + 1drink order ※入場時に配られるカード「復活の呪文」で入退場自由
ホームページ:http://chip-union.net/cuf/

取材・文:深田洋介
1975年生まれ、編集者。2003年に開設した投稿型サイト『思い出のファミコン』は、1600本を超える思い出コラムが寄せられる。2012年には同サイトを元にした書籍『ファミコンの思い出』(ナナロク社)を刊行。
http://famicom.memorial/

写真:鈴木健介

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