タクシードライバーは「おじさんの“終の仕事”」ではない。人を助けられる誇りある仕事なんです――国際自動車株式会社・西川洋志氏

国際自動車株式会社は、タクシー・ハイヤー・バスをはじめ、リース、自動車保険、自動車整備、自動車運行管理サービス、駐車場事業に至るまで、自動車運行に関わるあらゆるサービス部門を有する旅客運送事業の総合企業です。創業1920年(大正9年)。2020年で100周年を迎えます。

これまでのタクシーのイメージをくつがえす斬新なサービスを次々と実行。業界で先駆けて 実施した新卒採用においては、3年以内に30%以上が離職する現代の就職事情において、5%~15%と低い離職率を保っています。有名私大や国立大からの新卒入社の応募も多く、その取組みは他業界からも注目されるようになりました。

今回は、代表取締役社長の西川洋志氏に「業界に新しい風を吹き込んだ取り組みと今後」についてお話をうかがいます。

先を見据えて新卒採用を導入したものの、業界のイメージに苦悩した

みなさんは、タクシー業界にどのようなイメージを持っているのでしょうか。当社も今でこそ、他業界からも注目されるような低離職率を保っていますが、最初から順風満帆だったわけではありません。むしろ、新卒がまず選ばないタクシー業界。業界にいるわれわれでさえ、男性の中途採用が当たり前だと思っていたところに、新卒や女性の採用を取り入れるためには、さまざまな工夫や、私たち自身が変わる必要がありました。

とは言っても「なぜ新卒がタクシー業界に入るのか?」疑問に思う方が多いと思います。以前のタクシー業界のイメージが強いからですね。
特にバブルのころ…接待目的の法人利用も多く、タクシー業界は買い手市場だったんです。危険な運転も多く、いかに売り上げを上げるかを最優先にしていたので、ドライバーがお客様を選ぶような時代でした。そういったこともあり、お客様へのサービスの教育はされていなかったですね。ドライバーも顧客も男性。タクシー業界は、完全な男性社会でした。

しかし時代の変化と共に、女性や親子連れのお客様も増えてきました。「男性社会」のイメージが強い中で、女性も安心して乗れる環境を整えるには、女性のドライバーが必要でした。また、当時社員の大半を占めていた中高年世代が、いずれ一気に退職することを考えると、若い人材確保も急務でした。

そこで、9年前にタクシー業界で先駆けて、新卒採用を始めました。それまでは中途採用が常識だった業界です。最初は社内でも色々反対がありましたが、「このままだとドライバーの高齢化が進み、業界の構造がおかしくなってしまう。改革しよう!」と飛び込んだのです。

採用は初年度1名、2年目4名、3年目10名と順調に増えていきました。ところが、内定を断る学生が現れたのです。中途採用にはないことなので、そんなこともあるのかと驚きでした。理由は、大学の採用担当者から「若い人がやる仕事じゃないから断ってきなさい」と指導されたり、親に入社を反対されたり…というもの。驚きを超えて、ショックでしたね。そんなに悪いイメージなのかと、現実を見せつけられた。と同時に、ここが転機になりました。

当時は、総合職の若い女性社員一人が大学をまわって採用活動をしていたのですが、私たち役員も大学に足を運び、キャリア担当者に直接話をしに行きました。その際、タクシー業界に対する印象についてヒアリングを行ったんです。

タクシーは「おじさんの“終の仕事”」ではない。困っている人を助けることができる誇りある仕事である…ことを伝えるのが一番の目的でした。

150校ほど回るうちに、徐々に相互理解が深まり、大学説明会にも呼んでいただけるようになり、現在はほとんどの大学で迎え入れていただけるようになっています。地道な活動でしたが、ひとつずつハードルを乗り越えて今があるんです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「輸送」が仕事じゃない。車内は「ホスピタリティの空間」であると気がついた

若い人や女性スタッフが増えてきたことで、長年業界にいた私たちには「当然」となっていて気づけなかった業界の旧態依然とした体制に、気づかせてもらう機会が圧倒的に増えました。新しい視点は、古い体質のタクシー業界へ、確実に新しい風を吹き込んでいます。当社の取組みは、他社にも広がっていき、今やタクシー業界全体が生まれ変わろうとしています。

これにより、来たるべきグローバル化・AI化の中で生き残っていくための道筋も見えてきました。それは、お客様の声をよく聴き、多様なニーズにこたえていくこと。車内にはカメラをつけるタクシーも増えたことで、ドライバーがお客様にどんな対応をしていたかピンポイントで指導することができるようにしました。もちろん、車内でのトラブル回避にもつながり、社員の安全も守ることができます。

また、業界では初めて個社の「お客さま相談室」を設置しました。
実は、以前からタクシー業界共通の「エコーカード」というお客様カードがありました。しかし、どの会社でも、あえてお客様の目に届かないような場所に置いていることが多かったのです。 長い間、お客様のニーズを聞く姿勢すらなかったわけですね。
そこで、そのカードを積極的にお客様の見える場所に置いたところ、実に大量の苦情や要望をいただきました。

それからさまざまな改革や新サービスが始まったわけです。

その一つが、会員10万人を突破した、妊婦さん向けのサービス「マタニティ・マイタクシー(陣痛タクシー)」通称「ママタク」です。破水に備えた防水シートの常備や、日本助産師協会での研修受講など、妊婦さんの心配ごとを全て解決できる工夫をこらし、ご好評をいただいています。出産後も使ってくれる方が多いですね。
また、救急車の代わりにも使える「サポートキャブ(救急タクシー)」は、ドライバー全員が救命救急講習を受け、人工呼吸に必要なマウスピースなど、応急処置に必要な装備を備えています。

みなさんに気軽にタクシーを使ってもらえるよう、新しい技術も導入しました。スマホを振るだけで空車タクシーが集まってくるアプリ「フルクル」です。昨年末にスタートしたばかりですが、登録者は6万人を超えています。こういったサービスの多様化や技術革新によって「困っている人を助けることができる誇りある仕事である」ということが体言できている実感があります。

今後、一番の課題としているは「自動運転」です。海外ではすでに、自動運転を取り入れているケースもあります。将来、地方で人手不足のところでは、自動運転を採用すべきエリアも出てくるでしょう。

一方都心では、急にシステム導入は難しい。仮にそうなったとしても、当社では「人が運転すること」にこだわり続けようと思っています。自動運転でも人を目的地まで運ぶことはできます。しかし、それでは単なる「輸送」。タクシーの仕事の本質は、ホスピタリティにあるはずなんです。

ホスピタリティとは、一人ひとりの感性。どういう感性を持ち合わせて、相手のお客様と対応できるのか。相手により接客は変えていくものだし、マニュアルや機械のプログラムだけでは対応できません。当社では、ホスピタリティ教育にとても力を入れていますが、そのスキルはほかの分野でも必ず役立ちますし、何より人として成長できると信じています。これからも従業員を大切にし、どこでも通用する人として育てていけるような環境を整えて行きたいですね。

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どんなことにも「感謝」する

最後に、私の大切にしている言葉に「感謝」があります。人生とは、何度も壁にぶつかるもの。一人では乗り越えられないことも多いものです。私も68年の人生の中で色々なことがありましたが、ありがたかったのは、周りに相談できる人がたくさんいたことです。

「壁は迂回しちゃダメだよ、乗り越えようよ。そのためには、一人では難しいから、仲間が大切」。そんな話を、採用面談ではよくしています。一人で頑張ろうとせずに、仲間をたくさん作り、どんどん相談しながら前に進んでいって欲しいですね。

インタビュー・文:倉島 麻帆 撮影:山中 研吾

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