変革期を「乗り越えられる人」と「乗り越えられない人」の差とは? | プログラマー・若宮正子


ひな祭りをテーマにしたアプリ「hinadan」の開発を機に、アップル社ティム・クックCEOをはじめ世界中から注目を浴び続けているプログラマー・若宮正子さん。高齢者に寄り添ったアプリ開発の第一人者として、今なお世界中を飛び回っています。2017年9月からは、政府の「人生100年時代構想会議」の有識者議員も務めることに。そこで議論された教育問題について、いま若宮さんが考えること、そして将来を担う若者が意識すべき仕事との向き合い方についてお話を伺いました。

若宮正子(わかみや まさこ)
1935年生。ゲームアプリ開発者。シニア向け交流サイト「メロウ倶楽部」副会長。「人生100年時代構想会議」の有識者議員。60歳で銀行を定年退職後、パソコンの使い方を独自に習得。2017年からプログラミングの勉強をはじめ、開発したアプリ「hinadan」が大きな反響を呼ぶ。

82歳で人生が大きく変わった

——2017年は、お忙しい一年だったのではないでしょうか?

私の人生が大きく変わった年でした。もともと「高齢者が遊べるアプリがあまりないから、作って欲しい」と知人に依頼したところ「お年寄りがどんなものを楽しめるか分からないから、自分で作ればいいじゃない?」と言われたんです。全く経験がないことでしたので、SkypeやFacebookを利用して遠隔で教えてもらいながら「hinadan」を作りました。


すると、風変わりなおばあさんがいると(苦笑)新聞に取材され、さらにアメリカのCNNに取り上げられて、当初は国内よりも海外で話題になったんです。そしてアップル社から「CEOが会いたがっているので、ぜひ来て欲しい」と招かれ、アメリカに行きました。その後「人生100年時代構想会議」の有識者議員にも呼ばれましたが、それも内閣官房から突然連絡があって驚きましたね。有識者議員って大学の名誉教授なんかが務めるものだと思っていたのですが、いま時代が変わって「有識者」の定義も変わったのかなと(笑)

 

——「人生100年時代構想会議」では「リカレント教育(生涯学習)」について議論されていますが、若宮さんはどのような考えをお持ちですか?

私は40〜50代の中年層、そして60代以上の高齢者への再教育が必要だと考えています。「人生100年」と言われ、時代の変化もどんどん早くなっていますので、小中学校で学んだ義務教育の知識はアップデートが必要です。そこで、大人の再教育をどのよう実施するかを議論しています。

私は高齢者が持っている知恵は貴重だと思いますが、時代とずれてしまっている点もあると感じています。知恵や経験を生かしつつ、時代に適応するための教育を――特に理系の知識は昔とは全く違いますので、理科教育を充実させるべきと提案しています。そしてもうひとつは、社会科です。いま騒がれている「セクハラ問題」は、そもそも加害者が悪いことをしている自覚がない点が問題なんですよね。「男女平等」や「共働き」などいまの時代背景を啓蒙し理解してもらうことで、意識改革ができるのではと思います。

これからは「人間力」が求められる時代になる

――有識者会議では教育問題や「AI導入」についても議論されていたかと思うのですが、若宮さんのお考えはいかがでしょうか?

「働き方改革」については、いま過渡期に来ていると思います。例えば、工場でサラダを作る仕事をしていた人が「これからはロボットがサラダを作るので、今後は商品企画に回ってください」と言われたとします。すると手作業と違って、考える仕事は時間で区切れないですよね。昼も夜も新商品のアイデアを考えるとなると、24時間勤務と同じではないかと。つまり、これからは仕事を「質」で捉える時代になっているのだと思います。いまは過渡期ですからすぐに切り替えは難しいと思いますが、いずれは「量」と「質」で仕事を考える時代になってくるのかなと……。1日中会社にいることにあまり意味がなくなり、「労働力」ではなく「人間力」が求められる時代になるのではと思います。

――若宮さんが考える「人間力」とは、どのようなものでしょうか?

私は「人間力」を鍛えるためには“リアル”と“バーチャル”両方の体験が必要だと考えます。特に中高年の男性は、リアルな体験をなさったほうがいいのではないでしょうか。AI、IoT、VRとは何か?……という時に、彼らはまず本を読んで知識を得ようとします。しかし、それより孫や子どもと一緒に『ポケモンGO』をやったほうがよっぽど拡張現実とは何かが理解できますよね。また、私はよく「シニアのニーズを教えてください」と聞かれるのですが、もし本当にシニアのニーズが知りたかったらデイサービス施設などに行って見学したほうがずっと良いと思います。そうしたリアルな体験をせず「AIは脅威だ」なんて否定しちゃうんですよね。

自動走行のクルマも、広大な農地でまず活用してみれば事故のリスクを少なくして実用化できますよね。ドローンを農作業で活用し、とても助かっていると話す友人もいます。まずは新しい技術をリアルに体験し、「何に活用できるか」と想像力を働かせることが重要。こうした体験をせずにすぐ否定するオジサンがいるから、日本の企業は動きが遅くなってしまうのでは……。先日中国に行きお話を伺ってきましたが、あちらは上層部の決定がとても早く、スピード感が違うと実感しました。

若い人には、さまざまな選択肢をもった生き方をしてほしい

——若い世代の働く方々に、アドバイスをいただけますか?

今の日本は大きな変革期にあり、これまでとは全く違う時代を歩んでいかなくてはいけません。仕事ひとつ決めるにも、人からのアドバイスも判断材料にはなりますが、その仕事が2030年に残っているかは誰にも分かりません。

昔は無理やりエサを与える詰め込み教育でしたが、これからは自分でエサを探しに行く時代になっていくのだと思います。若い頃から自分で冷静に判断し、考える力を身につけるべきです。今は分からないことはすぐに調べられますし、そのうえでリアルな体験もしてみましょう。そして、失敗の経験もおおいに大事だと思います。

失敗をしても「ああよかった、またひとつデータが増えた」と考えればいいんです。日本は失敗を禁じる風潮がありますが、申し上げたように今は時代が大きく変わるとき。これまでのやり方は通用しなくなってきますから、どんどん失敗してデータを集めるんです。プログラミングも人生も、エラーを繰り返して得られたデータは次の開発に活かすことができます。ですから同時に、「失敗をさせてあげる環境」も必要ですね。


もしかすると、将来は勉強を「教えてもらう」学校という場もなくなり、自分で「学んでいく」スタイルになっていくんじゃないかと思います。私が参加したアップルのイベント(※2017年6月開催のWWDC)には10歳の男の子が最年少開発者として呼ばれていて、彼はアメリカの大学の講座を見て自由に学び、アプリを開発したそうです。そう考えると学び方ひとつとっても、大学には一年だけ通って、海外にも行ってみて、通信教育もやってみて……といろんな選択肢を持てる時代になっていくと思います。

私はもともと新しいものや面白いものが好きな性分で、銀行に務めていたときには企画開発部門で新商品の開発に関わり、上司の理解もあって面白そうなことはなんでもやっていました。プログラミングも私にとっては大げさなものではなく、「まずやってみて、もしできなかったら別の人にやってもらえばいい」と始めただけ。それで、こんなにも大きく人生が変わりましたね。

取材・文:伊藤七ゑ 撮影:向山裕太

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