「安売り」からの脱却!グルメ缶詰「缶つま」が成功したワケ

おいしくお酒が飲めるおつまみ、をコンセプトに「缶つま」シリーズが生まれたのは2010年。牡蠣や牛肉など高級食材を使って味付けされたシリーズは注目を集め、それまでなかった「高付加価値の缶詰」というジャンルを確立しました。

新しい切り口の商品を生み出し、新たな市場を開拓した会社には、いったいどんな風土や雰囲気があったのでしょうか? 当時の大胆な戦略を支えた社内の様子について、国分グループ本社株式会社 マーケティング統括部 マーケティング開発部 開発一課長 織田啓介さんに詳しくお聞きしました。

織田 啓介(おだ けいすけ)

1996年に国分株式会社入社したものの、急遽、国分フーズ株式会社に出向。缶詰の開発製造部門で厳しいコスト競争を体験する。2010年に高級缶詰「缶つま」シリーズをヒットさせ、2012年より現部署配属。今も開発責任者として主力商品である缶詰「K&K」ブランドと「tabete」ブランドの開発全般に携わっている。

値下げ競争から脱したい、という共通目標

「缶つま」は2010年に誕生しました。14種類から始まったアイテム数は現在90種類以上に増え、牡蠣・ホタテなどの水産系、牛肉・豚肉などの畜肉系を中心にさまざまな味を提供しています。価格は1缶500円前後のものが多く、他の缶詰に比べて高価。それにもかかわらず、そのままで立派なおつまみの一品になるという手軽さ、素材の良さを引き立たせるおいしさで、今や市場にしっかりと定着したブランドとなっています。しかし織田さんが入社した1996年、缶詰市場の状況はずいぶん違ったといいます。

「当時の缶詰は1缶100円前後の安売り競争にさらされていました。社内でも安物扱いで、あまり良い気分ではなかったのを覚えています。自社ブランドであるにもかかわらずどうしてなんだろうと」

織田さんの最初の仕事は、入社前に作られた缶詰の過剰在庫の消化でした。

「その仕事が終わった入社3年目くらいのころ、上司も若手も含めて『もう安売りはやめよう』という共通認識が生まれていました。100円で売ってもらうために10円安くしてほしいという社内交渉はつらいし、安く売っても誰も得をしない。この状況を打ち破るために私も高付加価値の商品を開発したいと思いました」

そこで織田さんが最初に手がけたのは高級ジャムです。

「実は、これは大失敗でした。味は良かったんですよ。でも社内に向けて新しいジャムを作るというアナウンスをしなかったので、急に誰も知らない商品、それも1瓶460円という高価格ジャムがポッと生まれてしまったんです」

本来は、大手取引先である量販店との年2回の商談に向けて商品開発を進めます。そのタイミングで売ってもらえるようにコンセプトを決め、スケジュールを逆算して開発するのが常識。しかし織田さんはそのスケジュールを全く知らずにジャム製造に着手してしまいました。全国の営業からは「なぜこの時期に作った」「こんな高い商品が売れるか」と叱られます。

「今思えば不思議なんですが、この提案をしたとき全然上司に反対されなかったんです。若手の提案に反対しない雰囲気は昔からあって、私の上司も同じように、まずやってみる。そしてそれがダメだったら怒られる経験をしています。でもある意味、若手のうちは怒られてすむところがあって、必ず新しいチャレンジの機会が来る。私もこの失敗を踏まえて次を試すことができました」

開発スケジュールを踏まえて、織田さんが次に手がけたのはフルーツ缶の改革です。当時は容量約450gの大きな4号缶が主流でしたが、一回り小さいM2号缶で販売してみたところ売れ行きは好調でした。

「これは半分成功、半分失敗です。成功だったのは国産果物に絞って展開したこと。ちょうど海外産食品の安全性が問題になっていたので、国産なら多少高くても買っていただけました。失敗だったのは小缶なのに大ぶりの果物を入れてしまったこと。工場では入るのですが、消費者がいざ食べようとすると、口径が狭い開け口からは果物が出にくかったという初歩的なミスです。クレームがずいぶん来ましたが、その代わり小さくスライスしたフルーツは好評だとわかりました」

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すべて終売し、新しい商品群に一新させた

失敗に対して寛大な社風に見えますが、どんな企画でもOKが出ていたのでしょうか。

「あのころに反対されていたのは『安くいっぱい売れる』というコンセプトで企画したものですね。誰も儲からず、みんなが苦しむだけだからやめようという認識が非常に強かった。だから逆に付加価値をつけて売る企画は挑戦させてもらえました」

このとき織田さんは「国産」と「フルーツ缶詰の小型化」という切り口に手応えを感じ、後のヒット商品である「K&Kにっぽんの果実」シリーズを開発。納得のいく高付加価値商品として広く展開できるようになると、新たな目標はさらなる高級路線へシフトします。

「本音は、安売りではなく適正な価格帯の缶詰をたくさん店舗に導入してほしい。でも過去から販売条件が決まっていると、商品が存在する間は約束した厳しい条件で出荷し続けなければいけません。そこで考えたのが、今の商品をすべて終売にして、高品質・高価格を軸にした新商品に全て入れ替える方法でした。値上げ交渉より『新商品に入れ替えたい』という交渉のほうが現場はやりやすいんです。それに、この方針を実行することは大変でしたが、安売り競争から脱したい会社の方針に合っていたので反対はありませんでした」

国産素材を軸に多種アイテムを一気に出すことで、「K&Kにっぽんの果実」「K&K国産素材缶」シリーズは高級路線として軌道に乗りました。

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営業が効率的に横展開を行える環境に

高価格帯の商品開発が進むのと同じころ、営業部門でも変化がありました。1つは営業社員が価格だけで交渉しなくなったことです。特に「K&Kにっぽんの果実」シリーズはコンセプトと高価格の理由が明確なため、現場でもスムーズに導入につながったといいます。

もう1つは組織改革です。これまでは開発部門の社員が販売先まで商品説明をしていましたが、営業社員を同一部内に置くことで開発と営業の専業化ができました。この役割分担が後の「缶つま」シリーズのヒットを呼び込みます。

「2010年の『缶つま』ヒットの発端は、ある量販店の売場の工夫です。それまで缶詰は缶詰売場にしか置かれなかったのですが、その店では『缶つま』フェアと銘打って『缶つま』と一緒にレシピ本や調味料を並べて訴求した。この売れ行きが好調だというニュースを担当の営業社員が聞きつけてきたんです」

自然発生的に広がるブームを活用し、さらに後押ししたのは営業の横展開でした。一斉にこの成功事例を商談に乗せて、高確率の導入を実現させたのです。

「お酒売場に置いたら売れると考えて、リカー担当者とも新たな販路を作ったのも営業の力です。缶詰売場だけに置かれていると缶詰としてしか扱われない。しかし「おつまみ」としたことで扱いが変わりました。さらに弊社の卸ネットワークから新しい人脈をつなぎ、今までにない売場で展開できるようにしたんです。この成功事例もすぐ共有して全国に広げていきました」

缶詰売場を飛び出した「缶つま」は大ヒット。開発部門は実績を受けてアイテム数を意識的に増やす施策をとり、新商品は投入するたびに話題になりました。競争して何かを落とすのではなく、プラスにプラスを重ねるように売上が伸びていったといいます。

今では「缶つま」と酒類が一緒に並ぶ光景は当たり前ですが、定着させるまでには明快な商品コンセプトのほか、高付加価値商品にチャレンジしたい会社と情報を積極的に活用する営業の力がありました。

「開発と営業が同一部門になったとき、高価格商品を売っていく戦略を理解した社員を会社があえて集めたと感じました。今は営業のプロがそれぞれ自分の得意先を熟知し、商品について『うちの得意先で重点的に売れる』『顧客層に合わないので売るべきではない』と判断して迅速に動いてくれています」

同じフロアで直に意見を言い合える関係。開発が考えたコンセプトやストーリーは、営業担当の彼らが納得したものであれば100%に近い状態で流通の先まで届けてくれる。その信頼感は今も続いているといいます。

食材と環境は密接に関係、ヒットの先の目標

国分グループでは良い素材を高品質の缶詰として販売するだけでなく、原材料を生み出す自然環境への貢献も始めました。

「2018年春からイギリスのキャラクター『ピーターラビット』とのコラボレーション缶詰を展開します。イラスト付きの「K&Kにっぽんの果実」「K&K国産素材缶」を購入いただくと、売上の一部が環境活動関連機関に寄付されるキャンペーン(8月頃から展開予定)です。『ピーターラビット』とのコラボレーションは弊社の缶詰ブランドK&K商標登録110周年を記念したものですが、環境活動は一時的な取り組みではなく今後も継続する予定です」

商品開発のために原材料の産地を回っている織田さんは、常に農産物と自然環境の問題を肌で感じてきました。

「農産物から恵みをもらう代わりに自然環境に還元したい。高品質食材を提供するのと同時に、原材料を生む自然を守っていく。以前に比べてブランドが認知されてきた今こそ力を入れたいですね」

国分グループ本社株式会社

インタビュー・文:丘村 奈央子  撮影:是枝 右恭
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