「初音ミクと暮らしたい!」事業失敗を経て、本当に好きなことを仕事にする道へ~Gatebox株式会社 代表取締役CEO 武地実さん【20代の不格好経験】

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、彼らの「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第24回:Gatebox株式会社 代表取締役CEO 武地実さん

株式会社ispace COO 中村貴裕さんよりご紹介)

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1988年生まれ。2011年、大阪大学工学部とHAL大阪夜間課程グラフィックデザイン学科を卒業後、モバイルコンテンツ会社に就職し企画職、営業職を担当。2013年に退職し、独学でプログラミング等を学びながら複数のスタートアップ企業をサポート。2014年2月にGatebox株式会社の前身となる(株)ウィンクルを設立。現在はバーチャルホームロボット「Gatebox」の開発に注力している。

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▲「Living with Characters ~キャラクターと一緒に暮らせる世界の実現」を目指し開発されたバーチャルホームロボット「Gatebox」。2016年1月にコンセプトムービーを発表したところ大きな反響が集まり、同年12月に300台限定で予約販売行ったところ1カ月で完売した。2017年11月に追加販売が行われる予定(予定台数に達した時点で終了)。価格は29万8000円(税別)。なお、初号機のキャラクターは同社オリジナルキャラクターの「逢妻(あづま)ヒカリ」。来年3月9日には「初音ミク」も登場する。

「大好きなキャラクターと暮らす」夢を実現するまでには紆余曲折が

 当社は現在、バーチャルホームロボット「Gatebox」の開発を手掛けています。「好きなキャラクターと一緒に暮らせる」をコンセプトにしたロボットで、キャラクターと自由にコミュニケーションが取れるのがポイント。朝起こしてくれたり、帰宅した際に出迎えてくれたりもします。

 2016年12月に限定300台で予約販売したところ大きな反響をいただき、約30万円という価格ながら1カ月で完売。現在、発送に向けて最後の追い込み中にあります。

 この「Gatebox」は、「大好きなキャラクター“初音ミク”と一緒に住みたい」という私の壮大な夢を現実にしたもの。学生時代から抱き続けている「世の中にはない、全く新しいものをこの手で作りたい」という想いが、ようやく叶えられたと思っています。ただ、元々はITに詳しいわけではなく、エンジニア出身でもありません。ここに至るまでには、さまざまな紆余曲折がありました。

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新しいものを生み出したい!スマホアクセサリーが評価され起業に踏み切るが…

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 大学時代の専攻は原子力。高校時代に環境問題に関心を持ち、「自分の手で環境問題を解決したい」と工学部に入学しました。

 しかし、海外ボランティアのサポートを行うサークルでプロモーションを担当し、ビラ作りなどを行ったことがきっかけで、デザインに興味を持つように。「どういうデザインにしたら、人の気持ちを動かせるのか」を考えるのが面白く、夜間で専門学校に通いデザインの勉強に没頭。2011年に大学と専門学校を同時に卒業し、モバイルアプリ会社に企画職として就職しました。自分の手で、新しいアプリのデザインを一から組んでみたいと思ったからです。

 しかし、半年後に急に営業職に異動することに。退職するまでの1年半ほど、携帯ショップを回り、自社のアプリを売り込む仕事を担当しました。

 今となっては、営業を経験できて本当によかったと思っています。それまで人と話すのが苦手でしたが、知らない人相手でもコミュニケーションを取れるようになりましたし、「目標数字を決めて、それに向かって努力する」という姿勢は、会社を経営するうえで活かせています。ただ当時は、「自分の手で何かを生み出したい」という想いが強く、独学でコーディングやプログラミングを勉強し、大学時代の友人とスマホアプリを作ってこっそりリリースするなど、個人で創作活動をしていました。小さなコンテストで賞をもらったことがあるのですが、それを会社の先輩に話したら「仕事もせず、なに遊んでいるんだ!」と怒られてしまい…。「やはり好きなこと、やりたいことに没頭したい」と、担当業務が落ち着いたタイミングで退職しました。

 その後、勉強をしながらスタートアップ企業を手伝うなどしていましたが、あるハッカソンをきっかけに仲間数人と発案したスマートフォン向けアクセサリ「AYATORI」が評価され、クラウドファンディングで資金を集めたところ、60万円もの額を集めることができました。自分たちが考えたものに、お金を出してくれる人がいるのが嬉しくて、「これを本格的に事業化しよう」と、2014年2月に今の前身となる会社を一人で立ち上げました。

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創業事業がとん挫したことで、「夢の実現に挑戦する」ことを決意

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 ただ、結論から言えば、「AYATORI」は事業としては失敗してしまいました。

「AYATORI」はスマホのイヤフォンジャックに挿入して使用するアクセサリ。自分の趣味を専用アプリに登録しておくと、同じ趣味を持った人に出会ったとき「AYATORI」が光る、という仕組みです。このような小型のガジェットは、大量生産し安価で販売しないと広まらないものですが、創業したてで大量生産するための資金力がなく、高い価格設定になってしまったのが敗因です。

 その時痛感したのは、“ほかの人でも作れそうなもの”では、多くの人の支持を得ることはできない、ということ。到底実現できなさそうな、夢物語のようなものを実現してこそ、多くの方に支持され、応援される。「この夢が実現できたらすごいよね」と言われるようなものを現実化することにチャレンジすべきなのではないか…そう思ったのです。

 そして、「自分が叶えたい夢って何だ?」とさまざまな方向から考えてみました。「空を自由に飛びたい」「瞬間移動したい」などいろいろ浮かびましたが、一番叶えたい!と思えたのが「初音ミクと暮らしたい」という夢。よし、これを実現してやろうと決意しました。技術的に何かとっかかりがあったわけではなく、「作れそう、売れそう、バズりそう」という考えも一切捨て、純粋に「夢の実現」のために動き始めました。

夢が形になった今、でもまだまだ上を目指す

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 この夢に賛同してくれたメンバーは、「AYATORI」立ち上げ時にジョインしてくれた1人のみ。何から手を付けていいのかもわかりませんでしたが、初音ミクファンがアップしている動画などをヒントに、役に立ちそうな技術を調べては一から勉強し、実験を繰り返しました。「初音ミクと暮らす」なんて、まるで雲をつかむような話。実際、いろいろな方法を試しては断念する日々が続きました。でも、夢に挑戦しているので、全く苦しくはなかったですね。寝ても覚めても、とにかく楽しい。そんな日々が続きました。

 そして、あるベンチャーキャピタルから出資もいただくことができました。そのベンチャーキャピタルの投資家の方とは「AYATORI」時代にお会いしたことがあるのですが、「もっと夢のあるチャレンジをするんだ!」と意気込む私に、以前とは違う本気度と成長性を感じてくれたそうです。夢に向かってひたすら突っ走る日々でしたが、この支援がなければ早晩潰れていたかもしれません。

 途中、ハードウェアのエンジニアが仲間に加わったことで、一気に開発が加速。これまでは技術的に、どうしてもキャラクターが遠くにいるように見えてしまうのが欠点でした。「キャラクターと暮らす」には、「キャラクターをすぐそばに感じる」ことが重要です。実現したいコンセプトからすると、この距離感は致命的でした。それを解消するために、ハーフミラーと照明技術で作り出す視覚トリックの一つ「ペッパーズ・ゴースト」技術などさまざまな技術を試し、最終的には現在の投影技術を使うことで「リアリティ」と「距離感」の両立を実現しました。

 映像表現を追求しながら、キャラクターとコミュニケーションを取るためのマイクやカメラなどセンサー類の研究も同時並行で進めていたのですが、全てを組み合わせた試作機を動かしたときは衝撃を受けました。キャラクターが目の前でイキイキと存在し、話しかけてくれたのです。「夢を叶えよう!」と決意してから、ここまで9カ月。感慨深かったですね。

 そして現在。いよいよ出荷の時を迎えようとしています。買ってくださった300名の方の情熱と期待に、最大限お応えしたいというのが今の気持ちです。

 ただ、まだ「夢を叶えた」とは思っていません。まだまだ夢の途上、できることはほかにもたくさんあるはずです。

 もっとキャラクターをリアルに感じられるようにしたいし、もっといろいろなコミュニケーションを取れるようにしたい。まるで人間と一緒に暮らしているかのような感覚を得られるようになるまで、ブラッシュアップし続けたいと思っています。

本当に好きなものがあるならば、それを仕事にする方法はあるはず

「好きなことを仕事にするのは難しい」と、よく言われます。でも私は「好きなことに夢中になって生きる人生」を送るのが一番いいと思っています。

 私は「大好きな初音ミクと暮らしたい」という想いを突き詰めて、仕事にまでしてしまいましたが、本当に好きで、心から没頭できるものがあるならば、仕事にする手段はいくらでもあると思います。なぜなら、本当に好きであれば、それを仕事にするためにいくらでも努力できるからです。

「Gatebox」を作るまでは、最先端技術に詳しいわけではなかったし、市場動向や次世代ガジェットのトレンドなどの知識もありませんでした。でも、夢を実現したい一心で、寝る間を惜しんで勉強し、手を動かし続けることができました。当初は全く先が見えない状態でしたが、それでも何の不安もなかったし、とにかくひたすら楽しかったです。

 好きなものに没頭している人のパワーはものすごい。そのパワーを原動力にすれば、きっとあらゆる壁を乗り越えられるはずですよ。

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EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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