「LINE DEVELOPER DAY 2017」は、LINEのさまざまなサービスにおける技術領域でのチャレンジや、社内の開発体制などを紹介する、エンジニア向け技術カンファレンス。今回注目を集めたのが、クラウドAIプラットフォーム「Clova」と、そこにアクセスするスピーカー型デバイス「Clova WAVE」だ。その開発ストーリーを中心に、CTOの朴イビン氏にLINEの開発体制を聞いた。
LINE株式会社 上級執行役員 CTO 朴 イビン(パク イビン)氏
韓国のゲームポータル会社NeoWizでソーシャルネットワークのサービスを開発。その後、インターネット検索ポータルのNAVERで検索エンジンや検索サービスの開発に携わり、Webキュレーションサービス「NAVERまとめ」の開発も担当。ネイバージャパン、NHN Japanを経て、2013年からLINEへ。2014年4月より現職。
目次
LINEとNAVERの技術を集大成である「Clova」と「WAVE」
LINEは2017年9月28日、渋谷のヒカリエホールで「LINE DEVELOPER DAY 2017」を開催した。
コミュニケーションアプリ「LINE」をはじめ、LINEのさまざまなサービスにおける技術領域でのチャレンジや社内の開発体制などを紹介する、エンジニア向け技術カンファレンス。2015年以来毎年開催され、今回が3回目になる。
今回は前回よりも規模を拡大してヒカリエの3つのホールを使い、同時進行で39のセッションが行われた。
LINEの技術ロードマップやAPI展開の紹介、Gatebox社・日本マイクロソフト社のゲストセッション、LINEの新卒採用試験問題を解説しながらのカジュアルトークなど盛りだくさんの内容。約1000人のエンジニアが参加した。
「LINEのサービスはラインナップも増え、ビジネス規模も急拡大しています。それを支えるのは社内外のエンジニアのみなさん。とりわけ社外のデベロッパーのみなさんと直接お会いし、議論することができて、個人的にはとても楽しいカンファレンスでした。
デベロッパーのみなさんにとっても、それぞれの技術を活かしてLINEとどんな協業ができるのか、そういうヒントをもたらすイベントではなかったかと思います」
と、カンファレンスの意義を総括するのは、LINE上級執行役員CTO朴イビン氏だ。
最も注目されたのは、やはりクラウドAIプラットフォーム「Clova(クローバ)」とその展開だろう。Clovaは、LINEとNAVERの共同開発プロジェクト。
LINEが持つコミュニケーション技術とNAVERが持つ自然言語処理や音声認識・合成技術、ニューラルネットワーク翻訳技術などの開発技術、さらに両社が持つ豊富なコンテンツやサービスを合体させることで、よりスマートなクラウドAIプラットフォームを実現するものとされている。
生活の中に浸透するAIが、新たなプラットフォームとなる
すでにClovaを搭載した製品としてアプリ「Clova App」とLINE初のハードウェアデバイスとなるスマートスピーカー「Clova WAVE」が登場している。
室内に設置したWAVEに呼びかければ、LINEの新着トークや、LINEニュースと連動した最新ニュースの読み上げ、スケジュールなどの情報を音声で伝えてくれる。
LINE MUSICと連携してユーザーの好みの曲を再生してくれるジュークボックス機能も備える。WAVEスピーカーはカンファレンスの直後、10月5日から正式版の発売が開始された。
「AIはけっして新しい技術ではありませんが、人々の生活を変えるものとして今やなくてはならないものになりつつあります。AI技術とその利用においてパラダイムシフトが起きているのです。AIが生活に密着した技術となるためには、そのインターフェイスも変わる必要があります。
従来のようにスマホのボタンをタッチするなど手による操作が必要なく、“Clova”と呼びかけるだけで応答してくれるのもインターフェイス革新の一つの方向です。
さらに今は呼びかければ情報を提供してくれるが、これからはユーザーの行動や好みをAIが自動的に習得し、例えば朝起きたときに雨が降っていれば、“傘の用意をお忘れなく”と、Clovaの側が自動的に知らせてくれるようになります。AIがユーザーの生活にあわせて進化していく。その第一歩が始まったのです」
Clovaは、Clovaとデバイスやアプリケーションをつなぐための「Clova Interface Connect」、Clovaとコンテンツ・サービスをつなぎ、頭脳にあたる「Clova Brain」の機能を拡張していくための「Clova Extension Kit」などからなる技術体系。
今後はこのつなぎこみを容易にするためのClova開発環境を来年にもオープン化していく予定だ。
それによって、ClovaはLINE、NAVERだけでなく、他のテクノロジー企業やコンテンツ企業との連携を通して発展していくプラットフォームになりうる。すでに、ソニーモバイルコミュニケーションズ、タカラトミー、ウィンクルなどの企業とのパートーナーシップが進んでいる。
カンファレンスにおける橋本泰一氏(同社Data Labs/Clova Center統括)の発言によれば、同時にLINEサイドでも、固有名詞の理解、ユーザー独自の言い回しへの対応、音声からの話者認識、発話以外の行動の理解、ユーザーの行動履歴の解析など解析技術をさらに高めていく。
わずか1年でプラットフォーム構築。そのスピードはどう実現されたか
それにしてもClovaの構想が世界に初めて発表されたのは、2017年2月にバルセロナで開かれた「GSMA Mobile World Congress」の席上。昨年の「LINE DEVELOPER DAY 2016」では噂こそあれ、その影も形もなかった。
今回のカンファレンスでも、橋本氏が「Clovaの開発が本格的にスタートしたのは2016年9月」と明言している。わずか1年でのプラットフォーム構築とデバイス発売。そのスピードには目をみはるものがある。
「LINE自体がまだ6年目の会社ですが、グループ企業内での音声認識や自然言語理解などのAI技術蓄積はすでに10年以上のものがあります。それがいま一気に開花したということです。
もちろん、ClovaではこうしたAI技術をLINEの個々のサービスに適用していく必要がありましたが、バラバラにやっていたのではスピード感が出ない。そこで専任のClovaチームを結成し、サービス部隊と一緒に走るという体制を構築しました」と、朴氏は開発の裏側を語る。
LINE DEVELOPER DAY 2017のプレゼンテーションでもClovaチームとして30人ほどのメンバーの集合写真が紹介されたが、これはほんの一部。
「チームは世界にまたがり、例えばWAVEに必要なSDKやAPIをラッピングして技術標準として社内エンジニア向けに公開したり、音声認識、映像認識、機械学習などのコア技術をアプリに適用する人などさまざまな技術者が協力しました。
複数のマイクロプロジェクトを一つのサービスにまとめあげるため、チーム一丸となって仕事をしてくれました」と、朴氏は満足そうだ。
Clova、WAVE開発のスピード感の背景には、「Amazon Echo」や「Google Home」など競合企業によるスマートスピーカー市場の開拓が意識されているに違いない。
「競合があるのは嬉しいことです。みんな同じ時代を歩いている。お互いに競争、協力しながら、一緒に時代を乗り越えていきたいと思います。ClovaもまたLINEだけに止めて置くべき技術ではない。開発環境を開放することで、あらゆるパートナーが参入する一種のエコシステムを実現したいと考えています。
他社のスマートスピーカーも現状では、一つだけ抜きんでた技術優位性というのは感じない。ただ、そこから一歩抜け出すためにはひたすらチューニングを重ねることが必要です。LINEが培ったコミュニケーション技術がそこでは活かせると思います」
2018年には京都ブランチ開設。グローバル・エンジニアリングのいま
LINEは日本国内では東京と福岡に、アジアではソウル,大連、台北、さらにバンコク、ハノイに開発拠点を持つグローバル開発体制を強化している。
「世界各地の開発拠点をつなぎ、どこにいても一つのプロジェクトに参画することができるようになっています。各拠点が自発的にプロジェクトを立ち上げ、それに興味を持つ他拠点のエンジニアがローカルで参画するという体制もできています。
アメリカ企業に多いケースですが、コア技術の開発は西海岸で行い、それ以外の拠点ではローカルサービスだけに特化するというのではなく、LINEではどのブランチも開発プロジェクトのリーダーになれるのです。もちろん、国・地域ごとにローカライズされたサービスもあるので、地域ブランチではその開発に専念するエンジニアもいます」
LINE DEVELOPER DAY 2017ではこれらの開発拠点に加え、2018年春に京都に新しい開発ブランチを開設することも発表された。
「東京は仕事をするにはいいけれど、通勤とか大変ですね。東京以外に住みながら仕事をしたいというエンジニアのためには、国内の拠点を増やす必要があります。とりわけ京都に多くのITベンチャーや大学・大学院があり、それらの人々とのコラボレーションにも期待しています。
また日本好きの海外エンジニアの中には、京都という街に魅力を感じる人もいる。そういう人たちにも働き方の新しいオプションが増えるということです」
地域に軸足をおきながら、他地域・他国のエンジニアと共に一つのチームを組んで、グローバルに開発する、文字通りのグローバル・エンジニアリング。
まずは意識の上で国境や技術領域の壁を超えることが、LINEエンジニアに求められる要件の一つなのだ。
「LINEの母体であるNAVERはもともと検索エンジン開発からスタートした会社。名だたる競合企業があるなかで、そこに活路を開くためには、一人ひとりが積極的にプロジェクトをリードしなければなりませんでした。
自分はここまでしかやらないと、自分の技術に壁を作る人ばかりではここまでLINEは成長しなかったと思います」と、朴氏は振り返る。
単一のコミュニケーションアプリから、マルチなサービス展開へ、さらにAIプラットフォームを活用した、ライフスタイル全般のイノベーションへ。LINEのロードマップの先にはこれまでにはない未来の予感がする。
こうした未来を先取りするため、開発者がサービス企画にも参加し、他のプロジェクトにも口を出す。自分のコードに執着するのではなく、コードレビューを通してその技術を全員で共有し、組織に貢献する。
自分の中の苦手意識や縄張り意識を自らが打ち破る──そうした壁を越える人がこれからのLINEにはますます必要になっている。
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※本記事は「CodeIQ MAGAZINE」掲載の記事を転載しております。