近ごろ男性ビジネスパーソンの間で「メンズ美容」への関心が高まっています。スキンケアやニオイケア、ひいては身だしなみをきちんとしたいと考える大人の男性たちが増えているのです。
そんな彼らに日々アドバイスを求められているのが、メンズ美容家・山川アンクさん。
前回は実践編として「ヘアケア」のお話をうかがいましたが、今回は「口臭ケア」と「香水の使い方」について聞きました。どちらもニオイに関するお話です。
アンクさんの教えに忠実に「身だしなみ改造計画」を試みている、ライターの松岡がお送りします。
L8020菌入りのマウスウォッシュを始めてみた
――最近、歯磨きをした後にマウスウォッシュを使い始めたんです。「L8020菌」が入ったものを使い始めました。
山川 虫歯のない健康的な子供の口腔内から取り出した乳酸菌ですよね。虫歯菌や歯周病菌の繁殖を防ぐ効果があるとされています。使ってみて、どうですか?
――使った直後に歯の表面をコーティングされている感じがあって、舌で触れると歯がつるつるします。もちろん虫歯になりにくいかどうかは歯の磨き方にもよるでしょうし、使い始めたばかりですからまだ何とも言えませんが、少なくとも「気持ちがいい」のはたしかです。
山川 ですよね。私もずっと愛用しています。
――ただ、口に含んだときはちょっと舌がぴりぴりするんですよね。パッケージには「ノンアルコール」で「低刺激タイプ」と書かれていましたが、それでもぴりぴりは気になりました。
山川 私もぴりぴりしてますよ。でも、あの気持ちよさを味わうと、なかなかやめられませんね。朝と寝る前、毎日2回は使い続けてみてください。
――口臭もちゃんと抑えてくれそうですもんね。口臭は最たるものだと思いますが、やはりケア不足によるニオイで周囲に迷惑をかけたくないですから。
山川 口臭をはじめとするニオイ問題は特にデリケートですから、誰も指摘できない空気があって難しいですよね。できればご自身で気づいて、正しいケアをしていただきたいと思います。
行かなくなった美容院と歯医者さん
――ふと思い出したことがあるのですが、とある美容院に初めて足を運んだときのことです。ランクの異なる美容師さんを選べるところで、せっかくならと最上級クラスをお願いしてみたら、そちらの店長さんが担当してくださったんですね。
山川 ええ。
――男性でしたが、おそらく40代だったでしょうか。テンガロンハットをかぶっていて、格好がとても若々しかったです。腕前も申し分なくて、おしゃべりも軽妙だったのですが、残念なことにお口のニオイが少々(笑)。
山川 ああ(察し)。
――店長さんですし、きっと部下のみなさんは知っていたとしても指摘できないと思うんですよね。「店長、お口が臭いますよ」って。本人が気づかず、周りも、客ももちろん指摘できるはずもなく。それって客足が遠のくきっかけになってしまうのではないかと。
山川 私も以前、とある歯医者さんに足を運んだんですね。そうしたら、担当の先生がマスクをつけない方だったんです。
――え、マスクをしない歯医者さんがいるんですか?
山川 ねえ。普通、マスクくらいしますでしょう? そのうち、だんだん足が遠のきました(笑)。
――口臭も強かったんですか?
山川 顔の距離が近いですから、ねえ。とにかく松岡さんが利用した美容院も、私が通った歯医者さんも、実際にこうしてお客をふたり逃しているわけじゃないですか。それってビジネスチャンスをひとつ逃しているわけで。
――たしかに。その美容院にもう一度行くかといえば、ちょっと腰が重いのが正直なところです(笑)。
山川 私は何も脅しているわけじゃないんです。男性には誰しも身だしなみを心がけていただきたいですし、メンズ美容の普及活動までしているわけですが、「やらなきゃ恐ろしいことになりますよ」と脅して迫りたいわけではありません。
ただ、ビジネスの場面で顧客をつかむにあたって、口臭などの余計なところで自分を正当に評価されないのはもったいないと思うんですね。せっかくまとまる商談も、せっかくつかんだお客の心も、たかが口臭で台無しになるのは惜しいです。
香水でごまかすのはアリか
――口臭に限らず、ニオイは香水でごまかすという手がありますよね。
山川 それはダメ。ナシです。松岡さんの周りの空気がニオイと匂いが混ざってカオス状態になりますよ。基本的に香水をニオイをごまかすために使わないでください。香水はあくまで魅力の演出アイテムですから。古来の日本にもそういった考え方で香りを楽しむ文化はあったのですよ。
――そうなんですか。
山川 ええ。香木の白檀(ビャクダン)を好んだり、椿油で髪に香りづけをしたりしていました。「移し香」という言葉がありますが、貴族や一部の裕福な人は香を焚き染めて、吊るした着物に匂いをつけていたりしました。
山川 昔は夜って暗かったわけじゃないですか。だから男性が暗がりの中で女性の部屋に入るとき、たとえ姿は見えなくても体から発する香りで「あ、あの人が来た」って分かるくらい、香りがその人のパーソナリティーだったんですね。「残り香」という余韻に浸る言葉は色々想像できて素敵ですよね…。
――へええ。
山川 戦国時代の武将も香りを意識していました。お風呂に入って体を清めるのはもちろん、兜に香りをつける人もいたそうです。戦国一の美男子と呼ばれた豊臣方の木村重成という人は、徳川方に首を切られて家康に差し出されたとき、生首からいい香りがしたと言われています。
――どういうことですか?
山川 つまり、首をとられる覚悟があったということです。討ち首になったのは5月の初夏で、季節的にも腐敗が進みますから、武将のもとに届けられるころには生首が臭ってくるんですね。だから首を取られたときも恥ずかしくないように、彼なりの美学を香りで示したというわけです。本人に直接聞いたわけでないので真相は分かりませんが(笑)。
――香りで自分というものを主張していたんですね。それって、現代でも通用しますよね。それこそ職場でも。
山川 いえ、そうとも言えません。現代の職場というのは色んな人が集まる場じゃないですか。たとえ身にまとった香りが自分好みのものだとしても、みんながみんな好むわけではないですし。香りの好みにはかなり個人差があると思った方がいいですね。
――いい匂いでも強すぎると鼻につきますもんね。
山川 ええ。ですから香水をつけるのはいいのですが、トゥーマッチなのはNGです。人とすれ違ったときに、ふわっと香るくらいがちょうどいいでしょう。「あ、いい香りがしたかも」と思われるくらいで十分です。
香水はつけるのではなく、まとう
――改めて、香水のつけ方を教えてください。
山川 まず、お腹の前あたりに香水の瓶を手にもって、1~2プッシュして前方に吹き出してください。そこに生まれたスプレーの霧の中をすっと通って、また戻る。香水をつけるというより、香水の霧をまとうイメージです。
――それは服を着たままですか?
山川 いえ、必ず裸になってください。肌に直接つけることで、体温で揮発速度が変わって、香りの微妙な変化に個人差が生まれます。そうして、その人らしい香りになります。何より服の上から吹きかけると染みの元にもなりますから、肌につけるものと覚えておいてください。
――手首につけたものを耳の後ろにこすりつけるのが正解だと思ってました。
山川 香水は紫外線に弱いですから、太陽の光を浴びると化学変化を起こして劣化を早めてしまいます。陽が落ちた夜であれば良いのですが、基本的には「服の下から醸し出す」意識で、嫌みなく、ほのかに香るくらいが上品ですよ。
山川アンク著『収入2700万円の差がつく身だしなみ』(発売中)
YouTubeチャンネル登録者数5060人、有名企業にも多数招かれ、セミナーなどをこなす日本初の女性メンズ美容家が教える、ビジネスにおける「男性の身だしなみ」の基本。身だしなみがビジネススキルとなりつつある昨今。体型コンプレックスをなくすスーツの選び方や、気になる体臭のケア方法、薄毛対策やヒゲ剃りなど、知っているようで知らない「ビジネススキル」の決定版
山川アンク公式サイト
https://www.ankh-yamakawa.com/
文:松岡厚志
1978年生まれ、ライター。デザイン会社「ハイモジモジ」代表。最近、白髪が目立ってきたが、薄毛にはならない根拠なき自信がある、ぎりぎり30代。サイトはこちら。
イラスト:Mazzo Kattusi
撮影・編集:鈴木健介