映像、音楽、衣装など、総合芸術と呼ばれる映画にはたくさんの見どころがあります。作品次第で異なる役どころを見せてくれる俳優たちを、作品をまたいで見ていくのも楽しみ方のひとつ。
今回スポットライトを当てるのは、日本にも多くのファンを持つアクション俳優ブルース・ウィリス。シリーズ第6作の公開が予定されている『ダイ・ハード』でブレイクし、ド派手なアクションからシリアスな役どころまで幅広く演じられる、ハリウッドきっての人気俳優です。彼が出演しているという理由で作品を鑑賞する人も少なくないのではないでしょうか。
そんな彼の出演作を見てみると、「こういう人と一緒に働きたい」と思える、頼りがいのある役を数多く演じていることが分かります。まずは出世作『ダイ・ハード』から見ていきましょう。
目次
使えるものは何でも使う不死身のNY市警(ダイ・ハードより)
ときは1980年代。カリフォルニア州ロサンゼルスにそびえ立つ日本の商社ナカトミ・コーポレーションで働く妻のもとを訪れたのは、単身ニューヨークで市警として働いている冴えない中年刑事ジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)。
ところがナカトミ・ビルに用があったのは彼だけではありません。ほどなくして現れたのは過激派ハンス・グルーバーを筆頭とする不穏な武装グループ。彼らはビルのエレベーターと電話回線をあっという間に遮断し、高層階でパーティーを開いていたナカトミ社の社員一同を人質にとります。しかも爆弾、ミサイルまで保有する始末。さあ、どうするジョン。
ジョンがたくましいのは、機転を利かせて使える道具は何でも使うところ。外部との連絡手段に電話が使えないなら火災報知器を鳴らす、ロープで下に降りるためにマシンガンをつっかえ棒に使う、まっ暗なダクトを進むためにライターをつけて灯りをともす、イスにくくりつけたパソコンを下に投げ落として爆弾を誘発する、消防ホースを体に巻きつけて命綱にするなど、その場にあるものを本来の用途とは違うかたちで有効活用します。
刑事であれ、どんな職業であれ、わたしたちが働く場面で「準備万端だった」と胸を張れるケースはあまりありません。どれだけ準備を怠らずとも、気まぐれな上司やクライアントの変化球が現場を混乱させることはよくあります。そうした難局をいかにあり合わせの知識やとっさのアイデアで切り抜けられるかが成否を分けるポイントではないでしょうか。
このピンチをどう脱するか、何か使えるものはないか。自分に対して「考えろ、考えろ」と唱えるジョンの頭の中はとことん柔軟。わたしたち自身が機転を利かせられたら最高ですが、もしもジョンのような相棒がいてくれたら、どんなピンチも一緒に乗り越えられそうですよね。
ところ変われば役に立つタクシー運転手(フィフス・エレメントより)
クルマが空を飛ぶ西暦2214年のニューヨーク。言葉も運転も荒っぽいタクシー運転手コーベン・ダラス(もちろんブルース・ウィリス)は今にも免停寸前。かつては戦闘機を手荒に操縦していた軍の特殊部隊員で、タクシー運転手としては模範的とは言いがたい様子。
そんなある日、惑星フロストンでオペラ歌手が持つ「世界を救う4つの石」を手に入れるよう元上官から依頼されるなど、彼を取り巻く状況は一変。かくして政府の使いとしてフロストンに出かけるのですが、4つの石を狙う輩は他にもおり、荘厳なオペラハウスは激しい銃弾にまみれるのでした。
宇宙の殺し屋マンガロア一族に人質として捕らえられた神父を救うべく、自ら交渉役を買って出たコーベン。殺し屋たちを銃で一掃し、見事に「交渉」を成立させます。元エリート特殊部隊員の腕はなまっておらず、鮮やかにピンチを切り抜けるところはお手の物。まっとうなタクシー運転手は務まりませんが、どうやらこちらの方が天職のようです。
チームで仕事に取り組むときに大切なのは「適材適所」の考え方。コーベンの転職(というより復帰)に象徴されるように、ある場面では役に立たない人間も、別の場面では水を得た魚のように活躍することがあります。もしもわたしたちの同僚が今いる場所で力を発揮できていないのだとしたら、それは無能なのではなく、与えられた役割がその人の特性に合っていないだけかもしれません。
こういう場面で、こういう役目で力を発揮する。そういう仲間を、わたしたちも日頃から見出しておきたいものです。
最後まで絶対にあきらめない石油掘削員(アルマゲドンより)
ときは20世紀末、テキサス州の大きさに匹敵する小惑星が地球めがけて飛来していることが判明。このまま直撃すれば人類が死滅するとNASAは警告します。衝突を回避できる唯一の手段があるとすれば、小惑星に穴を掘り、内部で核爆弾を爆発させるしかありません。
その穴掘り指導のために呼び出されたのが、世界最高の石油掘削員として名高いハリー・スタンパー(そうです、やっぱりブルース・ウィリス)でした。彼は宇宙飛行士に掘削させるのではなく、掘削できる仲間とともに宇宙飛行士として飛び立つことを決断。地球の運命は彼らに託されたのでした。
新型スペースシャトルに搭乗し、なんとか小惑星に降り立つことのできたハリーとそのメンバー。しかし現場ではトラブル続きで、掘削が思うように進みません。業を煮やした地球側はアメリカ大統領令に従い、核爆弾をリモートで起動させることを決断。この「掘削が失敗したときの捨て身の第2案」を事前に知っていたのは、ハリーに同行していたシャープ空軍大佐。そしてカウントダウンを始めてしまった起爆装置を解除できるのもまた彼でした。
ハリーは大佐に強く訴えかけます。
「16万キロ彼方の命令をこのまま受け入れるのか?」「人類の運命が俺たちにかかってるんだぞ」「俺は30年間掘ってきた。今度も絶対掘ってみせる」
チームの目標達成が遠のいたとき、悲観する人が表れるのが普通です。メンバーの不安はチーム内に伝染し、結束力が弱まって、ますます達成が困難になります。しかしハリーのようにしぶとくあきらめない姿がチームの息を吹き返すことがあります。彼のような熱血漢は、どんなチームにもひとりはいてほしいもの。それは地球を救うミッションでも、わたしたちの日常的なビジネスにおいても、きっと同じことですよね。
いつでも頼りになるブルース・ウィリス
刑事、タクシー運転手、石油掘削員と、いずれも異なる職業を演じ分けてきたブルース・ウィリス。他にもCIA諜報員や陸軍将軍、小児精神科医などにも果敢にトライしています。「働くブルース・ウィリス」という視点で改めて鑑賞してみると、わたしたちの働き方にも参考になる部分が見えてくるかもしれません。
あなたにとって「一緒に働きたいブルース・ウィリス」は、どの作品の彼ですか?
文:松岡厚志
1978年生まれ、ライター。デザイン会社ハイモジモジ代表。ヨットハーバーや廃墟になったプールなど、場所にこだわった映画の野外上映会を主催していた経験あり。日がな一日映画を観られた生活に戻りたい、育児中の父。
イラスト:Mazzo Kattusi