LITALICOが目指す「障がいをなくし、多様な人が幸せになれる『人』が中心の社会」とは

 日本に788万人いると言われている障がい者。労働可能人口は324万人で、そのうち一般企業で働けている人の割合はわずか14パーセントだ。

 平成28年4月に施行された改正障害者雇用促進法では、障がい者への差別を禁止し、障がい者が職場で働くにあたっての支障を改善するための措置を定めるとともに、これまで義務付けのなかった精神障がい者を新たに法定雇用率の算定基礎に加える方針を固めた。しかし、多くの企業では依然として障がい者雇用の取り組みに積極的とは言えない状況が続いている。厚生労働省の発表によると、2.0パーセントの法定雇用率を達成した企業の割合は、47.2パーセント(2015年)と、いまだ5割を下回っている。

 難航する日本の障がい者雇用。その分野において31歳のリーダーを中心に、成長し続けている企業がある。「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、社会課題の解決に向けた事業を展開するLITALICO(りたりこ)だ。

 2008年に立ち上げた同社の就労支援サービス「WINGLE」を利用して就職した障がい者数は約4,000名にのぼり、その定着率は84.8パーセント(2015年度)を誇る。加えて、自閉症、ダウン症、LD、ADHDなどの発達障がいの子どもを対象とした幼児教室・学習塾「Leaf」や、子どもたちが最先端のものづくりを体感しながら創造性を養える教室「Qremo」など、子どもたち一人一人の特性に合わせた教育事業も展開している。

障がいは人ではなく、社会の側にある。社会にある障がいをなくしていくことを通じて、多様な人が幸せになれる『人』が中心の社会をつくる

 働くことや学ぶことをあきらめていた多くの人々に勇気を与え続けている同社社長、長谷川敦弥氏に話を聞いた。

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長谷川敦弥氏

1985年岐阜県出身。名古屋大学理学部卒業。 大学卒業後の2008年5月、株式会社LITALICOに入社。 2009年8月、弱冠24歳で従業員100名の同社代表取締役社長就任。「障害のない社会をつくる」というビジョンを掲げ、障害のある方に向けた就労支援サービスや発達障がいのある子どもを中心とした教育サービスを全国で展開するほか、小中学生にプログラミングを教えるIT×ものづくり教室や、子育て中の親に向けたインターネットメディアも展開。幼少期の教育から社会での活躍までワンストップでサポートする独自の仕組みを築いている。従業員数約1,300人、年間約3万人の応募を集める就職人気企業に成長。2016年3月、東証マザーズに上場。

「社会」のための人ではなく、「人」が中心の社会を実現することの意義

 社会は元来、人を幸せにするためにかたちづくられているものです。人は一人では生きられないため、違う役割を担いあい、支えあって生きていくことができるように構築されました。

 ところが、いつのまにか、「人」が中心の社会ではなく、社会を維持するための「人」になってしまっていて、すでにかたちづくられた社会から漏れてしまうような人が「障がい者」と呼ばれている。今ある社会が前提とされ、そこに適応できない人が悪い、という考え方がシステム化されているとしたら、「人」が中心の社会という元来の理想像からはかけ離れているのですから、改める必要があるでしょう。

 社会には、もともと多様な人たちがいて、その一人ひとりがきちんと幸せになれる社会をつくる。そんな発想から、LITALICOは生まれました。

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 日本のHRにも、教育にも言えることですが、多様性を生かすためには、互いに向き合い続けていく努力が必要です。LGBTしかり、障がい者しかり、マイノリティー問題全般に共通するのは、「仕方なく多様性を受け入れる」という空気が漂っていること。それではどうしたって変われない。

 そもそも多様性を「受け入れる」というのと、多様性を「生かして活力にする」というのは似て非なるもの。マイノリティーは仕方なく受け入れるという考え方ではなく、メインストリーム自体が「みんな同じであればいい」という考え方から、お互いの多様な個性を生かし合おうという考え方に変われば、それまで社会から疎外されていた人たちが輝いていくし、一見すると適応できているようで実は不幸せだった人たちの才能も生かせるようになるでしょう。そんな風に多様性を力に変えられるような学校や会社を創造していくことこそ皆の幸福度を高めていくのではないかなと感じます。自分の長所や強みを生かせるって、そもそも楽しいじゃないですか。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

人の役に立つ喜びをすべての人に届ける力をつける就労支援

 2008年にLITALICOが立ち上げた事業が、障がいのある人に就職するための訓練や就職活動サポート、職場への定着支援を受けられる福祉サービスを提供する「WINGLE」だ。18歳~65歳未満の障がいのある方が対象で、利用者は前年の収入により自己負担が発生する場合を除き無料で利用することができる。ビジネスマナーやPC訓練、作業訓練などのスキルを学んだあと、自分の得意不得意や健康状態に合わせた企業体験や就活サポートを受けることができる。

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 誰かに必要とされる機会を与えられることは、人生を変えていきますよね。WINGLEにいらっしゃる方は、たとえば学生時代に就職活動に失敗して、10年間ひきこもったあとにうつ病と診断されたというような方など、自己肯定感が低い方が少なくありません。そういった方が内定をもらい、職場の人から受け入れてもらえていると実感したり、仕事に対して「ありがとう」と言ってもらえるようになると心が自然と元気になり、本当の意味での再スタートをきれるようになる。自分が必要とされている人間であると気づくことで、より付加価値のある仕事をやってみたいとか、久々に同窓会へ行ってみようとか、彼女ができたからプレゼントを買うために正社員になって給料をあげたいとか、心に火がつきます。

 私たちは、主体的に人生を選ぶことや就職のプロセスで自信をつけてもらうことを大切にしています

 私が関わった中で最も印象深い方は、脳性まひで車いすに乗られている女性でした。雪深い地域でトイレの介助も必要なのに、オフィスワークにこだわられていたのですが、その条件ではなかなか就職先が見つかりませんでした。そこで「自分でも動いてみたら」と提案したところ、SNSを使って就職活動をはじめ、面接した1社目で決まったのです。私にその報告をしてくれた時、とても自信に満ち溢れた表情で「私、WINGLE必要ありませんでした!」とおっしゃられて、「ちょっとは貢献したと思うんだけどなぁ」と思いましたけど(笑)、いまだその時の彼女の自信に満ちた表情を忘れられません。人間が自信を取り戻す時ってものすごいパワーを発するんですよね。

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 私たちのサービスを利用して下さる方は、これまで社会の多くの場面で拒絶され、断られてきた方たちが多いので、一度受け入れられると無条件で選んでしまう傾向があります。「選んでもらったのに断るのはわがまま」と考える人も多いのですが、「就職先なんて100社候補があったところで、あなたにぴったりなのはきっと1社だけですよ」と私は言います。「あなたは、あなた自身の選択をしていい」と伝えます。

 自分らしく生きるということをわがままだと思っている方も多いのですが、決してそんなことはありません。「自分らしく生きることはあなたの幸せにつながり、あなたが幸せであることは、職場の人の幸せにもつながるし、あなたの周りの人の幸せにもつながる」。そんな伝え方をしますね。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

視覚、聴覚、言葉…子どもの認知特性に適合させた学習塾

 10人いれば10通り、子どもの数だけ学び方がある。苦手意識は、たまたま学び方が合わないだけかもしれない。「Leaf」では、学習面・行動面・コミュニケーション面など、一人ひとりに合わせて教材を開発。苦手を減らし、得意を伸ばす指導を行う幼児教室と学習塾としてスタートし、現在約8000人の生徒がいる。

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 お子様ひとりひとり、視覚が強い子、聴覚が強い子、言葉による説明に強い子と違いますから、Leafではそれに合わせて教材を開発しています。たとえばADHD傾向にある子たちは、視覚優位の子も多いので、視覚でわかる教材を準備します。認知の特性が合致すれば、学校の勉強がまったくできなかった子でも、少しずつできるようになります。「全員をありのままに受け止めよう」という温かな心と、ひとりひとりの特性を分析し、客観視する冷静さの両方が教育には必要です。

 発達障がいのお子さんを持つご両親というのは、周囲に遠慮しながら子育てをしている傾向が強いのですが、「Leafにくれば安心できる」とよく言われます。自閉症のお子さんがパニックを起こしてしまっているとき、学校へは連れていくことができないけれど、Leafにはそのままの状態で連れてくることができる。専門の先生がいて、周りにも同じような子たちがいるため安心なんです。教室の外にはモニターが付いていて、親御さんたちは授業中の様子を観察することができます。そのモニターを見ながら、先生たちがどんな風に褒めているか、叱っているかを熱心にメモしている方が大勢います。親御さんにとっても、学びの場になっているんですね。

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自分や自分の子どもが精神疾患や発達障がいだからといって自尊心を傷つける必要はまったくないでしょう。たとえば、今日は仕事をしたくない、気持ちが弱っている、といった気分の浮き沈みは誰にでもある。誰もが精神疾患や発達障がいの要素を持っているけれど、その度合いが違うだけで、要はグラデーションのようなものだと考えればいいだけです。

「答えのない」プログラミングやロボット制作で、創造性を養う

学校と家の間、塾と習い事の間、学びと遊びの間、そこに子どもたちにとっての“サードプレイス”を作りたいという発想のもと生まれた「Qremo(クレモ)」。21世紀のモノづくりにふさわしい様々なITツールを用いて、ソフト・ハード・デザインを横断的に学べる環境を用意。技術力で世界最高峰でもあるMITなど海外で開発された教育ツールを取り入れることで、世界水準のプログラミング、アプリ開発、ロボットの制作、デジタルファブリケーションなどを学ぶことができる。小学生から高校生が主な対象。

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 Qremoのロボットやプログラミングの授業は、遊びの延長線上でありながら、きちんと教育の場として学べるのが特徴です。創造性を伸ばすことや自分の意思を表現していくこと、共同作業をすることや主体性を持つことが、プロセスのなかに組み込まれています。

 今多くの子ども向けロボット教材は、マニュアル通りに作らないと完成しません。けれど、私たちの教材には、決まりきったマニュアルはなく、完成品も皆バラバラ。

「なぜ答えのない教育をやるのか」とよく質問されるのですが、私からすると「答えがひとつしかない教育」をやり続けることのほうがむしろ疑問です。答えがひとつしかないものはコンピューターやロボットで自動化できるし、これからの時代に必要なのはむしろ創造力です。大人が用意した答えに沿うことよりも、オリジナルのものを自らが考え、作り出していく力を養うほうがこれからの時代には役立つでしょう。

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 子どもたちの成長過程において、学校とは違う評価軸があるというのは大事です。ロボット好き、ゲーム好き、プログラミング好きのお子さんはマニアックなので、学校ではちょっと変な目で見られることもあるかもしれませんが、Qremoではヒーロー。勉強ができる、スポーツができる、コミュニケーションスキルが高いといった子だけが人気者になる学校の評価軸とは明らかに違う。学校の勉強はイライラして1分も集中できないのに、Qremoでは3時間集中してプログラミングを書き上げてしまう子もいます。

多様性に目を向ければ才能が花開く

 Qremoの生徒さんに、あるロボットコンテストで入賞した女の子がいるのですが、その子の入塾のきっかけは、「家に帰ると、パソコンを分解しているんです」というお母さまからの相談でした。女の子でパソコンを分解していたら、普通は変わった子という目で見られて、怒られたりするじゃないですか。でも、私たちは多種多彩な子を見てきているので、こう答えます。「なるほど。それ、なかなかいい才能じゃないですか!」

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 実際、社会に出たら、ゲームが作れたり、パソコンを組み立てられたりするほうが勉強ができるより褒められますからね。社会では勉強ができる子より、そういう子のほうが求められています。それなのに学校にその土壌がないというのは、不思議です。社会と学校の評価軸が明らかにずれてしまっています。

 私たちは生徒会長になれたり、勉強ができたりする人が社会でも評価されるとずっと教えられてきましたが、実際社会に出てみたら違っていました。経営者も、政治家も、大学の先生も、活躍している人ほど変わった人が多いじゃないですか。

 学校で与えられる正解が必ずしも社会の正解ではありません。それよりも、自分独自の答えを見出せる能力が大切だと思っています。

取材・文 山葵夕子 写真 前田賢吾

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