たった一本の映画が人生を変えてしまうことがあります。そんな「運命の映画」には、必ず「刺さるセリフ」があるものです。
映像、音楽、衣装など、総合芸術と呼ばれる映画にはたくさんの見どころがあります。中でも私たちの胸を強く打つのが、登場人物たちが語るセリフ。悩んだとき、落ち込んだとき、人生に足踏みしてるとき。たった一本の映画の、たった一言が、その後の自分を大きく揺さぶることがあるのです。そんな「運命的な映画のセリフ」を、筆者の独断と偏見でお届けするこのコーナー。
今回ご紹介するセリフは、宝の地図を手にした少年たちが海賊の財宝を探しに出かける冒険活劇『グーニーズ』(1985年)から。地図を片手に仲間たちと宝探しに出かけるストーリーにワクワクした子供のころの自分は、幼心にグーニーズもどきの絵本を自作してしまったほどの大ファン。大人になってからも解体寸前の廃墟と化した屋内プールを借りて、グーニーズの上映会を開いたほど。そして今も心に残るのは、落ちこぼれ軍団の中でリーダー的役割を果たすマイキーの「チームを動かす言葉」です。
きっかけは自宅の差し押さえ
舞台はアメリカ、オレゴン州にある架空の田舎町グーン・ドッグ。喘息をわずらう気弱な主人公マイキーは、スペイン語もできる生意気なマウス、役に立たない発明ばかりしている中国人のデータ、食べものに目がない嘘つきのチャンクといつも仲良し。自らをグーン(まぬけ)な「グーニーズ」と命名し、他愛のない日常を過ごしていました。
そんなある日、自宅の屋根裏部屋で古びた地図を発見します。それは伝説の冒険家チェスター・コパーポッドも追い求めた「片目の海賊ウィリー」の財宝にまつわる手がかり。銀行に自宅を差し押さえられ、土地をならしてゴルフ場にされるかもしれないと知ったマイキーは、きっと家族を救えるはずの金銀財宝めざして、グーニーズの面々と宝探しに出かけます。
Copyright(C)1985 Warner Bros.Inc.All Rights Reserved.
諦めかけたチームを動かした言葉
グーニーズの冒険は、向かうところ敵ばかり。暗闇の洞窟を進みながら、海賊ウィリーが仕掛けたワナをかわしつつ、背後からは恐ろしいマフィア「フラッテリー一家」が命を狙って迫りくる。やがて地上につながる井戸の底にたどりつくと、恐怖に耐え切れなくなったメンバーたちは冒険をとりやめ、地上に戻り始めます。しかし彼らを思いとどまらせたのは、マイキーの言葉でした。
このままでは立ち退きの目に遭って、僕たちは離れ離れになってしまう。パパやママもそうならないよう、地上で懸命に戦っているけれど、今は自分たちのことで手いっぱい。だから地下にいる僕たちも、ここで頑張ろう。
気が弱く、体も弱いマイキーですが、その言葉には力強いものがありました。グーニーズは命の危険を犯してでも、ふたたび前に歩を進めるのでした。
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チームを鼓舞するモチベーター
「頑張ろう」と唱えるだけなら、誰でもできます。しかし真のリーダーは、メンバーが頑張るためのモチベーションを上手く言葉に変換します。マイキーの場合、このまま冒険をあきらめてしまったら僕たちは二度と会えなくなるという現実をチームに突きつけました。すなわちグーニーズの解散危機。と同時に、ここで踏ん張ることができれば、明日も明後日もまた今日までと同じように楽しく笑いあえるはず。そんな「あってほしい未来」を、メンバー個々の頭のなかで具体的に想像させました。
チームにおけるリーダーにも様々なタイプがありますが、マイキーの場合は「モチベーター」と言えるでしょう。力も知恵も技術もないけれど、人の心を動かす言葉が彼にはありました。彼の言葉がチームの歩むべき道を指し示す、サーチライトとなったのです。
さて、マイキーたちは晴れて財宝にありつけたのでしょうか。自宅から立ち退かずに済んだのでしょうか。宝の地図が彼らをどこに導いたのか、結末はぜひその目で観てください。片目じゃなくて、両目でね。
『グーニーズ』
ブルーレイ 2,381 円+税
DVD 1,429 円+税
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
※2016年3月16日の情報です。
※今回、取り上げたセリフは当該シーンの字幕を元にしています。原文の解釈や表現できる文字数の違いから、吹き替え版とは若干異なります。
文:松岡厚志
1978年生まれ、ライター。デザイン会社ハイモジモジ代表。ヨットハーバーや廃墟になったプールなど、場所にこだわった映画の野外上映会を主催していた経験あり。日がな一日映画を観られた生活に戻りたい、育児中の父。
イラスト:Mazzo Kattusi