子どもが売られない世界を作る!児童買春問題に本気で取り組む若手社会起業家が描く「絶対に実現したい未来」

東南アジアを中心に根深い問題となっている「児童買春」。貧しい家の子どもが「都会に行けばいい出稼ぎ先がある」とだまされ、売春宿に売られるというケースが多いという。そんな現状を変えたいと立ち上がったのが、認定NPO法人かものはしプロジェクトを率いる村田早耶香さん。彼女がこの問題を知ったのは、今から15年近く前の大学2年生の時だ。

非常に酷烈、しかし遠い異国で起こっている社会問題。それに対して、村田さんが「自らが動かなければならない」という強い使命感を覚えたのはなぜだろうか?

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認定NPO法人かものはしプロジェクト 共同代表 
村田早耶香さん
フェリス女学院大学2年生の時に授業で、「東南アジアで子どもが無理やり体を売らされている」問題があると知り、衝撃を受ける。その後タイとカンボジアを訪れ、問題の根深さを目の当たりにし、問題解決のための活動を開始。2002年、世界の「売られる子どもの問題」をなくすために、本木恵介さん、青木健太さんとともにかものはしプロジェクトを設立。現在、主にカンボジアとインドで活動している。

12歳の子どもがわずか1万円で売られ、HIVで死ぬという現実に愕然

 村田さんが「子どもが売られる」問題を知ったのは2001年6月、大学2年生の時。国際問題に関する授業の中で取り上げられた新聞記事がきっかけだった。

 東南アジアのある女の子が、貧しさゆえに12歳でベビーシッターとして出稼ぎに出ることになったが、だまされて強制的に売春宿で働かされ、わずか20歳でHIVによって亡くなったという内容。彼女が生前語った「“学校”というところに行って勉強してみたかった」という夢も紹介されていた。

「当時、私は19歳。ほぼ同じ年齢、同じ時代に生きているのに、生まれた国が違うだけでこんなにも人生が異なることに衝撃を受けました。彼女が出稼ぎに出た時、家族に支払われたのは1万円。ちょうど、その時私が着ていたワンピースと同じ金額でした。ワンピースと同額で売られ、勉強したいと願いながらも若くして亡くなってしまう…あまりにひどい!と憤りに近い感情を覚えました」

 授業をきっかけにこの問題を調べ始め、年間180万人もの子どもが新たに被害者となっていることを知る。しかも、本人の意に反しているにもかかわらず、売春宿にいた子どもに対する世間の目は厳しく、せっかく保護されても学校に通わせてもらえなかったり村を追い出されたりするケースが頻発している。被害者なのに「悪い仕事に関わっていた」と犯罪者のように扱われるため、将来を悲観して自殺する人も少なくない。あまりに理不尽だと感じた。

 矢も盾もたまらず、2カ月後に東南アジアに足を運んだ。特にひどいと感じたのは、カンボジア。

「被害者を保護している施設を訪問したところ、わずか5、6歳程度の子どもが何人もいるんです。ここは売春宿からの保護施設なのに、一体どういうことなのか…?となかなか理解できませんでした。こんなに小さいのに売春宿に売られ、客に買われ、嫌だと泣けばひどい虐待を受ける。だから、みんな『表情』がないんです。自由に笑ったり泣いたりすることさえ許されない環境下で、どんなにつらい思いをしてきたか…予想よりもはるかにひどい状況に絶句しました」

「自分たちが立ち上がらなければ、この一瞬にも被害者が増えている」

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 帰国後、村田さんは本を読んだり文献を調べたりとさらに勉強を進め、自らこの問題に関する勉強会を開催するなど精力的に動いた。その働きが関係者の目に留まり、同年12月に横浜で開催された「児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」に日本の若者代表として参加することになったという。

「せっかくの機会を活かしたくて、問題解決のための要望をまとめました。子どもが売られる問題に関する現地法律を厳しくする必要性や、先進国から途上国政府への『子どもを守る活動』に対する金銭的な支援などを盛り込み、参加者である世界各国の政府や国連、NGOの代表などに伝えることができました。しかし、世界中で最もこの問題について活動している人が集まった会議で問題提起したにもかかわらず、会議で取り組みが大きく前進したように感じることができず、『このままでは被害は増える一方。やはり自分たちが先頭に立つ気持ちで活動しなくてはならない』と覚悟を決めました

 当時、東京大学で社会起業家を輩出するための活動をしていた青木健太さん、本木恵介さんとの出会いもあり、「世の中をもっとよくしたい」という互いの思いに賛同。3人が共同代表になるという形で2002年にかものはしプロジェクトを発足した。

「一番の加害国」として批判され、日本人だからこそ取り組まなければならない問題だと痛感

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 東南アジアで子どもが売られている問題は、想像を絶するほどの酷烈な問題だ。ただ一方で、多くの日本人にとっては当事者意識を持ちにくいテーマにも思える。しかし村田さんは、「日本人だからこそ、自ら動かなければならないと強く思った」という。

「世界会議の場で、『日本はアジアで一番の加害国である』と何度も指摘されました。児童ポルノの一番の生産国であり、しかも対策のための法整備は遅れていた。自分自身が日本人であるがゆえに、非難される対象にもなってしまい、恥ずかしさを覚えました。また、タイ、カンボジアで『被害者にもかかわらず犯罪者のように扱われ、人生そのものを奪われてしまう』子どもたちを多数見てきました。こうしている間にも、被害者は増え続けている。まずは行動することで、一人でも被害者を減らしたいと思ったんです」

 活動を開始してほどなく、早く成果を上げるためには駐在事務所を置くなどして「仕事」として本腰を入れなければならないと気付く。そのために就職はせず、大学卒業後も活動に取り組むことを決意した。ただ、決断までには迷いはあった。失敗したら後はない、片道切符のようなもの。そこまでリスクを取っていいのか?いったんどこかの企業に就職すべきではないか?とも考えたという。迷いを振り切り突き進めたのは、現場に出向いたからこそ肌で感じた深刻度の深さ。「見なかったふりなど決してできない」という思いだった。

だまされやすい状況にある子どもを売られる前に保護。職業訓練を受けさせ、自立を支援する

 団体が発足してから13年、現在は「子どもを売らせない」「子どもを買わせない」という大きな2つの柱を掲げて活動しているが、ここまで来るには紆余曲折があった。

 まず、当時急激に被害者が増えていたカンボジアにおいて、「子どもが売られる問題」の構造を分析したところ、一番のネックは「加害者が処罰されない」こと。売春宿が摘発されない、子どもを買っても捕まらないから、どんどん被害者が増えている現状を変えるには、「警察がきちんと加害者を捕まえる」ことが大切だとわかった。しかし、まだ学生の身で一国の法執行に関わるのは難しい。今できるのは、「だまされて売られる子どもを減らすこと=だまされやすい状況にある子どもを売られる前に保護すること」と考え、まずはカンボジア・プノンペンにIT職業訓練学校を立ち上げた。

 現地で就職するにはパソコンスキルが必須。貧しい家庭の子どもや孤児院の子どもを対象に教育カリキュラムを作り、Word、Excelを指導。これらを習得した子どもは、さらにWEBデザインを教えた。日本においては既にIT事業部を立ち上げており、IT業務を請け負い将来的にカンボジアに発注するというサイクルを作ろうと考えた。

被害が都心部から農村部へ移っていったことで、事業内容を大きく見直し

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 立ち上げて3年後、日本のIT事業部はビジネスとして回るようになり、カンボジアでは実際にスキルを活かして就職できた子も出た。しかし、大きな問題が生じる。3年の間に、被害者が農村部に集中し始めたのだ。

 それまでは、比較的都心に近い貧困層や、ストリートチルドレンも対象にしていたが、ユニセフ等による「子どもを売らせない」啓蒙活動が浸透し始めたためか、より情報が行き届いていない地方の農村部に犯罪者の矛先が向かった格好だ。

 そこで、農村部の貧困家庭に対して仕事を創出することで、家庭に収入をもたらし、「子どもを出稼ぎに出さなくて済む(=だまされて売られないで済む)」環境を作ることに事業内容を大幅にシフトする必要が出てきた。

「農村部は電気も通っていない場所が多く、そこでITの職業訓練を行うのは無理があります。また、IT教育は少なくとも小学4年生程度の学力がないと身につきにくい、とも言われています。就学もままならない農村部においては子どもにITを教えるよりも、貧困家庭に仕事を供給することで、子どもが売られるリスクを減らすほうが問題解決につながると考えました」

 具体的には、カンボジアの“い草”を使った生活雑貨を作る工房(コミュニティーファクトリー)を立ち上げ、現地の女性に作り方を指導し、できた商品をお土産ものとして販売するというビジネスモデルを考案。現在はコースターなど約20種類を作成し、アンコールワットなど観光地の土産物店や観光客向けホテルなどで販売している。

 ただ、3年も続けてきたITビジネスを畳んで新しい事業を始めると決断するまでは、団体内で揉めに揉めたという。この事業を行うという名目で支援を募ってきただけに、支援者にどう説明するのか、約束を破ることにならないかという意見が出たほか、現地の職業訓練学校やIT事業部で雇用したメンバーをどうするかという問題もあった。

 しかし、被害の現場が大きく変化した以上、現状のままでは被害者を減らすことはできない。村田さんは幾度も思い悩んだが「被害者を減らすというミッションを取るか、事業を取るかで言えば、前者を尊重しないと意味がない。救済の対象者を『売られる子ども』だけでなく『貧困家庭』にまで広げればいいという意見もあったが、事業を集中させないと『売られる子どもをなくす』というゴールは遠くなる」と考え、最終決断した。

「決断までに皆で根気よく、何度も何度も話し合いを重ねたので、全員が改めてわれわれのミッションを再確認できました。初めは、ミッションを取るために自分一人で独立することも考えましたが、『みんな一緒の方がより大きなことができるはず』と説得もされ、よりメンバーの結束力も強まりましたね。なお、現地の職業訓練学校は、学んでいる子どもへの指導が終了するまで継続し、その後はPCや教材は現地の孤児院などに寄付、自習教材として活用いただきました」

 い草製品のコミュニティーファクトリーを立ち上げたのは2008年。現在では、約70人の女性が働いており、卒業生も含めると200人が収入を得ることができている。熟練度の向上に伴い売り上げも伸び、現在の年間売上高は2500万円以上となっている。

 2009年からは、カンボジアの内務省、警察、そして国際機関等と協力して、警察支援にも着手している。現地警察に研修にかかる資金支援を行いながら、売春宿摘発のための研修をともに作成。現行犯逮捕の実習など、実践を踏まえた訓練を行うことで、摘発精度の向上と現地警察官のモチベーション向上を図り、摘発数増加につなげている。実際、摘発数は着実に増えており、「子どもがいると摘発の対象になるから」と子どもを雇う売春宿も激減しているという。

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▲コミュニティーファクトリーで作られた「い草製品」は観光客に人気だ。photo by Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE

次の目標はインドでの被害縮小。困難続出も「歩みを決して止めない」覚悟

 10年超をかけてカンボジアで一定の成果を上げたいま、村田さんが新たに見据えているのは「インド」。足元での被害状況が最もひどい国だという。

 インドで性産業に従事する(させられている)女性・子どもの数は100万人~300万人にも上ると言われ、そのうち人身売買の被害者は数十万人規模とされている。

 貧困が原因で子どもが売られるのはカンボジアと同じだが、インドでは子どもをだまして売った人、買った人が裁判で有罪判決を受けないケースが多いのが特徴。加害者が有罪判決を受けるのはわずか数%と言われている。被害者からの証言が出てこないことが大きな理由だ。

「被害者に対する社会的迫害はカンボジア以上にひどく、彼女たちのカウンセリングや精神的なケア、そして自立を支援して、裁判での証言を可能にする環境を整える必要があります。そして、法による抑止力を高めることが何よりも急務。いきなり州政府を動かすのは難しいので、現地のNGO団体と連携を取りながら地道に働きかけています。一歩一歩ではありますが、諦めることなく着実に歩を進めることで、問題解決に近づきたいと思っています」

 インドの国土はあまりに広大だ。被害状況を全て把握し、全てを網羅して活動するのは不可能に近い。まずは最も被害者が多いとされる「西ベンガル州からマハラシュトラ州」への人身売買ルートに照準を絞り、「その後は一つひとつエリアを潰していく」計画だ。

 なかなか先の見えない取り組み。時に足が止まりそうになることもあるが、村田さんは「この問題が過去のものとして語られる未来」を夢見て、気持ちを奮い立たせている。

「例えば、ビル&メリンダ・ゲイツ財団がポリオ(急性灰白髄炎)撲滅支援に取り組んでいますが、患者数の多さから根絶は難しいと言われたポリオが、現在では根絶寸前まで来ています。また、戦乱のあった地域には1億個以上もの地雷が埋められていると言われていますが、世界を挙げての地雷除去活動が功を奏しつつあります。これらの事実には、とても勇気づけられますね。『子どもが売られる問題』が世界からなくなる日も、いつか必ず来るはず。その日のために、決して歩みを止めない覚悟はできています」

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▲村田さんのインドでの活動の1コマ。photo by Siddhartha Hajra

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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